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第8話:旧時代の鼓動

薄曇りの空の下、基地の滑走路には、静かすぎる風が吹いていた。

先日の戦闘で半壊した格納庫には、まだ片づけきれていない破損部品と、焼け焦げた機体の残骸が転がっている。


「……想像以上だな。こっちまで火の粉が飛ぶとは思ってなかった。」


真壁颯士まかべ そうしは、格納庫の隅で煙草をくわえながら、冷えた整備用スーツの襟を正した。

隣には、ヘルメットを抱えた整備士──**神谷澪かみや みお**の姿がある。


「東部の第三基地、昨夜の奇襲で完全に沈黙。第二空軍も壊滅に近いって……」


「どんどん追い詰められてるな。」


ふたりの視線の先では、損傷した旧型輸送機がレールに乗せられ、ゆっくりと倉庫の奥へ運ばれていく。


「──でも、少しずつ……集まってきてます。部品も、資料も、各国から。」


澪はかすかに笑った。

焦げ跡の残るシャツの袖をぎゅっと握りしめながら、それでも目を逸らさずに言う。


「整備士として……できることをしたいんです。どんなに古くても、動くなら、それは武器になります。」


真壁は少しだけ目を細めた。

彼女の兄──神谷尚弥かみや なおやを誰よりもよく知っている彼は、その静かな決意にかつての影を見た。


「……なら、見せてもらおうか。お前の“腕”を。」


「はい。」


澪は深くうなずいた。

その手には、すでに旧式の油圧可変翼の設計図が握られていた。


 



──暗い会議室。政府中枢、特別防衛対策室。

モニターには、赤く光る「通信遮断」の文字が浮かんでいる。


「“全機喪失”。“通信不能”。“判断不能”。──そんな報告ばかりが届いてくる。もう“最新鋭”に意味はあるのか?」


**内閣官房長官・東郷誠一郎とうごう せいいちろう**は、深いため息を吐いた。


「現代の電子制御では対応できないことは、すでに戦果が示している。しかし……」


「……皮肉なものだ。高度な技術ほど、想定外に脆い。」


窓際に立つ男──**内閣総理大臣・吉岡圭吾よしおか けいご**が静かに言った。


「状況に対応できる兵器が、“旧式”しかないなら、それが最善になる。」


東郷は黙ってうなずき、モニターのスイッチを切った。


「各国から旧型兵装や補給部品が届き始めています。数は少ないが、活かせるはずです。」


「希望は、消えていない。私たちがそれを“使いこなせる限り”はな。」


 



一方、鳴瀬隼也なるせ じゅんやは、格納庫の裏手で廃材を踏みしめながら、錆びついた機体の前に立っていた。


「……古びてんな。こいつ。」


フレームには、かろうじて読み取れる英字が刻まれていた。


F-14D TOMCAT


「……なんで、こんなのがここにあんだよ。」


ひとり言のように呟くと、隣から声が返った。


「国際経由で搬入されてきたそうです。“極秘ルート”で。」


整備士スーツ姿の澪が、工具箱を抱えて立っていた。


「私は……この子、動かしてみたいんです。」


鳴瀬は一瞬だけ驚いたような顔をして、次の瞬間にはフッと笑った。


「ま、好きにしなよ。どうせ俺が乗るわけじゃ──」


言いかけた言葉を、喉で飲み込んだ。


(……いや。もしかしたら。)


言葉にできない予感が、胸の奥に灯る。


 


“旧時代の鼓動”は、まだ息をしていた。


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