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第7話『交差する過去』

太平洋上に確認された敵反応──

再侵攻の予兆が、基地全体に緊張を走らせていた。


だが、その一方で、希望の芽が静かに動き出していた。


「……初便、到着しました!」


補給用ドローンが基地に着陸し、格納庫に小さな荷が運び込まれる。


段ボールには、英語やドイツ語で書かれたマークがあり、いくつかは封に「FOR YOUR SKY」と手書きされていた。


澪はそのひとつを開封し、息を呑んだ。


「……F-14用の油圧ユニット……まだこんなにきれいな状態のが……!」


最前線を退いたはずの旧式機パーツ。だが、確かにそれは“今”に向けて届けられたものだった。


「これだけでも、ひとつ動かせるかも……」


手のひらに乗る部品を、澪はそっと胸元で抱きしめた。


それは、大きな希望の最初のかけらだった。



司令部ブリーフィングルーム。


鳴瀬は、再び“観測者”として呼ばれていた。

部屋の中央モニターには、ノイズ交じりの音声ファイルが映し出されている。


「これは……ファング編隊の記録ですか?」


真壁が頷き、再生ボタンを押す。


『こちらファング1。敵機を──接触多数。座標……ジャミングが……!』


ザザッ、とノイズが混ざり、音声が急に不明瞭になる。


『距離が近い、回避──全方位から──!』


そこまでで、記録は断ち切られていた。


しばらく沈黙が続いたあと、真壁が言った。


「……最後の音声。送信機識別コードが残っていた。神谷尚弥の機体だ」


鳴瀬は小さく息を呑む。

音声では名乗ってなどいなかった。だが、耳に残る声──その鋭さ、迷いのなさ。

彼は思い出していた。あの空で、時折通信越しに聞いた、戦場を率いる者の声を。


「……澪の、兄貴……」


「神谷は、隊の中でも最も対応力に優れていた。だが──それでも、あの時は間に合わなかった」


真壁は端末の画面を切り替える。

そこには、敵艦と思しき巨大構造物のぼやけた衛星画像と、異常波形の記録が並んでいた。


「正確には、“通信が途絶した”だ。敵母艦からの干渉波で記録が破損している。回収は困難だろう」


「……機体も、遺体も?」


「発見されていない。が、今はそれ以上の情報はない」


鳴瀬は何も言わなかった。ただ、その目が強く揺れていた。



その夜。

第21保管庫。


澪は、昼に届いた部品をひとつずつ丁寧に清掃し、リストと照合していた。


そこに、鳴瀬が入ってくる。


「……届いたんだってな。海外からの支援」


「うん。まだ全部じゃないけど、“必要な国に使ってくれ”って」


パーツに触れる澪の手が、ほんの少し震えているように見えた。


「神谷……さんのこと、聞いた」


澪は工具を置き、小さく頷いた。


「兄のこと、誇りに思ってる。でも……あの空で、何があったのかは誰にもわからない」


「……お前、昔から空が好きだったのか?」


「ううん。私は、兄が卒業していく姿を見て、整備の道に進んだ」


「……じゃあ、お前は“空に行く人”じゃなく、“空を支える人”なんだな」


少しの沈黙のあと、澪が微笑んだ。


「でも今は、支えるだけじゃ足りない気がする。“空が壊れた”なら、私も動かないといけないから」


その言葉に、鳴瀬は真っ直ぐ目を向けた。


「じゃあ俺も、ただ見てるだけじゃなくていいよな」


「……うん。そう思う」


ふたりの間に交わされた小さな誓いは、静かな夜の格納庫にしっかりと刻まれた。

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