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「ゴブリンは二階層の中に稀に出てくる魔物です。歩き茸よりも強く、そして狂暴です」

「なんで稀に出てくる魔物が三匹もおるんよ」

「で、でも、三対三だからいい勝負になる……んじゃないかな。ここは玉砕覚悟で――」


 私は槍を構える。

 左前半身構え……あれ? 相手が剣を持っているときはどうだったっけ?


「万が一死んでしまったら、退学、そしてダンジョンへの入場禁止になりますよ」


 退学!?

 ダンジョン入場禁止!?


「そうなのっ!?」

「はい、始業式の時に学園長が言ってました」

「学園長が本気で話しているなってのは伝わってきていたけど、内容は全然伝わってなかった!」


 でも、スミレちゃんはボウガンを構える。


「とはいえ、ここで奥に逃げて挟み撃ちになったら危険度が増すばかりです。レベルは低いですが、それでもステータスだけならこちらの方が格上です」

「そやね。桃華ちゃんもやる気になってるみたいやし、ここはいっちょ踏ん張らんとな」


 待って、私のやる気なくなったよ!

 逃げられるのなら逃げたいよ!?


 ああ、もう。


「私がボウガンで攻撃します。先頭は由香里。山本さんは斜め後ろから援護を。なんなら一匹はこっちに通しても構いません。サブ武器として短剣を持っているので」

「わかったわ。一番きついポジションやけどやってやるわ」

「うん、頑張るよ」


 気合いを入れる。

 ボウガンから放たれた矢がゴブリンの右胸に命中した。

 それでもゴブリンは倒れない。

 三対三の戦いが幕を開ける。


 一番先頭のゴブリンが棍棒を振り上げてゆかりんに殴りかかってきた。

 ゆかりんが棍棒を剣で受け止める。

 私はその横から矢が刺さっているのとは反対の胸に――違う、狙うのは胸じゃなくて首!

 胸なら刺さって抜けなくなったら歩き茸の時みたいなことになる。

 さっきは歩き茸が一匹しかいなかったからよかったけど、いまはゴブリンが他に二体いる。

 ここで武器を失うわけにはいかない。

 私は息を大きく吐き、ゴブリンが腕を振り上げた瞬間の隙をついて、首に槍を突き刺した。

 ゴブリンが消える。

 やった、うまくいった。


「桃華ちゃん!」


 ゆかりんが私の身体を押し倒す。

 私がさっきまでいた場所に、別のゴブリンの棍棒が振り下ろされた。

 ゆかりんが庇ってくれなかったら、頭に直接あたっていた。

 私は咄嗟に槍を前に突き出す。

 ゴブリンのお腹に刺さった。

 でも、ゴブリンはお腹に槍が刺さったまま後退していく。

 手に力が入らず、私の槍はゴブリンに奪われてしまった。

 さらにもう一匹、無傷のゴブリンがこっちに向かってくる。

 スミレちゃんが放った矢がゴブリンの右頬をかすめたけれど、ダメージはほとんどない。


「ゆかりん、立てるっ! 後ろに逃げて――」

「ごめん、桃華ちゃん。足をぐねってもうた。桃華ちゃんだけでも逃げて」

「そんなのできないよ!」


 ゴブリンは倒れる私たちの前に迫ってきた。

 そして、棍棒を振り下ろしてくる。

 私は咄嗟に特殊警棒を伸ばして両手で持ち、その棍棒を受け止めたが、体勢的に私が不利だ。

 でも――


「ゆかりん!」


 ゆかりんが倒れたままゴブリンの胸に剣を突き刺した。

 返り血が彼女の顔にかかって消えていく。

 残ったゴブリンは一匹。

 その一匹に、スミレちゃんの矢が命中し、息絶えた。


「か、勝ったぁぁぁぁっ! 勝ったよ、ゆかりん!」

「あぁ、桃華ちゃん、わかったから身体ゆらさんといて。足痛いねん」

「あ、ごめん。はい、回復薬!」


 昨日スライムが落としてくれた回復薬をゆかりんに渡す。


「ありがと。あぁ、苦いわ。でも、痛みが引いてく」


 そう言ってゆかりんは立ち上がる。

 足も元に戻ったらしい。


「お疲れ様でした。山本さんの槍です」

「ありがとう、スミレちゃん。いやぁ、なんだかんだいっても、ちゃんと勝てたね」

「そやね。でも、やっぱり一階層に戻ってレベル鍛え直さんとあかんわ」

「レベル5になったらリベンジですね」


 強くなってまたここに戻ってこよう。

 私たちはそう誓い――前に向かって歩こうとすると、ゴブリンが五匹、こっちに向かって歩いてくるのが見えた。


「ゴブリンは稀って話やなかったの?」

「それは通常のダンジョンの場合です。もしかしたらこのダンジョンは出現率が違うのかもしれません」

「ねぇ、これって勝てるの? 三匹でもあんなに苦戦したのに?」


 危ない。

 このままでは――そう思ったときだった。


「あなたたち、何やってるの?」


 そう言って来たのは鏡さんだった。

 鏡さんは私たちを一瞥し、


「目を閉じていなさい」


 そう言うと、ゴブリンの群れに向かった。

 そんな、いくら鏡さんでも武器も持たずに一人で五匹のゴブリンを相手にするなんて――


「解放:閃光(フラッシュ)


 鏡さんが言った瞬間、光が爆発した。

 視界が白く染まった。

 次の瞬間、耳を劈くような断末魔の雄叫びがダンジョンの通路に響き渡った。

 何があったのかわからない。


「まったく、目を閉じてなさいって言ったのに」


 鏡さんの呆れたような声が聞こえて来た。

 そして、徐々に視界が戻ってきたその時には、ゴブリンは一匹も残っていなかった。

 光っている間に倒したんだ。

 

「鏡さん……ありがとう」

「いいから、早く一階層に戻りなさい。あなたたち、まだレベル5になってないんでしょ?」

「……うん。ゴブリン3匹ならなんとか倒せたんだけど」

「ゲームじゃないのよ? ギリギリの戦いなんて続けていたらいつか身を滅ぼすわ」

「ごめんね、鏡ちゃん。うちが二人を誘ったんよ。でも、次からはレベルを上げて安全マージンを確保して戦うわ」

「そうしたほうがいいわね。ここのダンジョン、たぶんだけど普通のダンジョンよりちょっと意地悪な設計になってるから。一階層の階段までついていくわ」


 私たちは鏡さんに案内され、一階層に戻った。

 その後はそれぞれスライムを倒してレベル上げをして、結局その日はレベル4までしか上がらなかった。


「……はぁ。鏡さんはもっと強くなってるんだろうなぁ」


 晩御飯を食べた後、今日は宿題がないのでベッドで横になった。

 こうしてスマホを弄るのも久しぶりな気がする。

 そうだ、今日はデルタさんの配信があったんだった。

 デルタさんはチーム救世主の銃使いのお姉さんだ。

 料理が上手で、よくダンジョンの中でも料理を作っている。

 プチ不幸が自慢(?)で一部視聴者からは『奇跡のデルタ』と呼ばれている。

 つい最近、素顔がリークされて私も見たけれど、加工されていないはずなのに、どこかのアイドルグループの一人じゃないかってくらいかわいかった。

 毎週欠かさずに見ているけれど、今日はダンジョンに潜っていたので、アーカイブで視聴する。

 ダンジョンで料理を作っているみたいだ。

 料理をしているところで、後ろからレッドキャップ――赤いバンダナを頭と首に巻いたゴブリンで私が倒した普通のゴブリンより遥かに強い――が迫って来る。

 リスナーたちが「危ない」って注意をしたその時、デルタさんは魔法を唱えて銃弾を放った。

 魔法の名前は加工されて聞こえなくなったけど、レッドキャップ三匹が一発の銃弾で倒れていた。

 なんで一発の銃弾で倒せたのだろうかと思った。

 コメントによると、跳弾を利用しているらしい。

 銃弾が跳ね返る位置を予想して、一撃で倒しているの?

 リアルだとそんな芸当ができるわけないだろうから、何かスキルを使っているのは間違いないらしい。

 そういえば、鏡さんが、デルタさんは銃のスキルを持っているって言っていたけど、そういうことか。


「やっぱりデルタさんは強いなぁ」


 ただ、銃を抜こうと立ち上がったときに、鍋をひっくり返して、三秒ルールといって、鍋から落ちた茹でトウモロコシを素手で掴もうとして火傷していなかったらもっとカッコよかったけど。

 改めてトウモロコシを茹で始めたデルタさんは質問コーナーに移った。


『今日は公式SNSに来ていた質問を読むね。リアルタイムで見れないリスナーの人もいるから』


 私も昨日の夜、質問箱に質問したけど、読んでくれるかな?

 少しワクワクしながら待つ。


『えっと、シーカーネーム仕事ツライムさんから。「仕事で失敗続きで辛いので、デルタさんの一番の不幸を教えてください」私の不幸で自分の不幸を紛らわしたいんだね。まぁ、うん、いいよ。でも、一番かぁ……やっぱり一番は高校受験の時に風邪を引いて受験できなかったことかな?」


 思ったより普通の、でも、確かにかなり不幸な話だ。


『高熱を出しても無理矢理タクシーで行こうとしたのに、タクシー会社に電話しても空いてるタクシーがなくて、ようやく個人経営のタクシー会社に空車があったから手配してもらったら、そのタクシーの運転手が無免許運転で捕まって、別のタクシー会社の運転手は住所の入力を間違えて隣の市に行っちゃって――あれは大変だったなぁ』


 リスナーがコメントで引いていた。

 普通なら盛ってるって思うけれど、彼女の奇跡を見ていた私たちはそれが真実だと思う。


『はい、次の質問。シーカーネーム……えっと、これなんて読むの? へぇ、そう読むんだ。『ダラニスケ大好きさん』から!』


 あ! 私の質問だ!


『「昨日ダンジョンデビューしました」おめでとう!「全然レベルが上がりません。友だちは私よりもレベルが上がっています。どうやったらデルタさんみたいにレベルをあげられるんですか?」という質問。うん、わかるよ。私もチーム救世主の中だと一番最後にダンジョンに入ったから、仲間に追いつきたくて必死だったもん』


 デルタさんが大きく頷いた。

 デルタさんにもそういう時期があったのか。


『でもね、レベルを上げる方法なんて、結局はどれだけダンジョンに潜って魔物を倒しているかだと思うよ? ダラニスケ大好きさんの友達がダラニスケ大好きさんよりいっぱいレベルを上げているんだとしたら、きっと、その友達の方がダンジョンにいっぱい潜ってるんじゃないかな?』


 デルタさんが当たり前のことを言う。

 そんなの私だってわかってる。

 でも、放課後は授業が終わって直ぐにダンジョンに潜って、その後は先生に怒られるギリギリ手前まで戦ってる。

 それでも追いつけないなんて――どうすれば――


『だから、友達に追いつきたいなら、友達が潜っていない時間にダンジョンに行けばいいんじゃないかな?』


 とデルタさんは最後にそう言った。

 鏡さんがダンジョンに潜っていない時間……そうか!

 私は動画を一度止め、スミレちゃんとゆかりんにメッセージを送った。

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