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なんとか午前中の授業を乗り切った私は食堂に行って、料理、きつねうどんと柿の葉寿司を受け取る。
学園の食堂は完全オーダー制で、料理の種類は五百以上。
前もって注文しておいたものを受け取るだけ。
それでもしっかりと食堂内で調理してくれているので非常にありがたい。
「桃華ちゃん眠そうやね。夕べは遅うまで起きてたん?」
餃子と炒飯が乗ったトレーを置いてゆかりんが言った。
「ううん、昨日から新聞配達のアルバイトを始めてね」
「新聞配達? 桃華ちゃんって原チャの免許持ってるん?」
「ううん、自転車だよ。このあたり一方通行の道も多いから自転車の方が都合がいいんだって」
「そうなんや。うちも今度の日曜日から農協で働くことになってるんやけど――桃華ちゃんはなんでそんなに働くん?」
「農協……朝市」
私はかつて、吉野の農協の朝市で働いた時を思い出す。
近所の農家のおじいちゃんおばあちゃんがいっぱい来て可愛がってくれて、帰りに内緒で余った野菜を分けてくれて、とっても暖かかったな。特に春はイチゴが大量に並んでいて。
パールホワイト、淡雪、珠姫、奈乃華、章姫、ならあかり。いろいろあるけれど、私はやっぱり古都華が一番好きかな。
奈良のイチゴっていえば、あすかルビーばっかり売ってたけど、最近は古都華の方が目立つようになってきた気がする。
「山本さん、涎が出て、ご飯を前に『待て』と言われている犬みたいなことになってますよ」
「スミレちゃ……あっ! イチゴ!」
スミレちゃんのトレーにはオムライスの乗った大皿の横の小皿にイチゴが四個入っていた。
「食堂のメニューにあったので」
「それ、どこのイチゴ?」
「種類はわかりませんが、食材にこだわっているので、あまおうとかじゃないでしょうか?」
「えー、そこは奈良のイチゴにしようよ。奈良のイチゴ美味しいよ?」
「ここは大阪ですから」
「ゆかりんも奈良のイチゴがいいよね?」
「うちはどこでもいいけど、選べるんやったら熊本のイチゴがええな。くまもんの絵が描いてあってかわええやん」
「ゆかりんの裏切者」
「はいはい、じゃあうちは桃華ちゃんを裏切ったから柿の葉寿司一個貰いまぁす」
「あ、私の柿の葉寿司!」
「うーん、美味しい!」
「じゃあ、私はその餃子を一個貰い! あ、ピリ辛っ!」
ゆかりんの餃子は中にもラー油が入っていてちょっと辛かった。
でも美味しい。
「楽しそうね。少しは目が覚めたのかしら?」
「あ、鏡さんも柿の葉寿司食べる?」
「結構よ。炭水化物ばかり食べると眠くなるもの」
と鏡さんは隣の席でほうれん草のお浸しを食べ始める。
炭水化物を食べると眠くなる……うどんと柿の葉寿司って、どっちも炭水化物だ。
そうだ、餃子みたいに交換を――
スミレちゃんの料理を見る。
オムライス――卵はあるけどほとんど炭水化物。
えっと――あっ!
「花蓮ちゃん!」
私は花蓮ちゃんを見つけ、からあげと柿の葉寿司を交換して戻ってきた。
よし、これで炭水化物の割合が少し減るよ。
「からあげと餃子を食べるのなら、うどんではなくラーメンにした方がよかったんじゃない?」
器用に魚の骨を避けて食べながら、鏡さんが的確なことを言った。
午後の最初の授業はお待ちかねのダンジョンの授業だ。
二時間連続で行われる。
「では授業を行います。今日の授業は武器の使い方と持ち方です」
紅先生がいろんな武器を並べていく。
「さて、問題です。武器は何種類あると思いますか? 明智さん」
「ええと、二十種類くらいやと思います」
「なるほど。では東さんはどうです?」
「三十種類くらいでしょうか?」
え? この流れって次は私かな?
剣、槍、弓、棒、あ、剣でも短剣と長剣は分けたほうがいいの?
短剣と長剣の間ってなんていうの? 中剣?
「神楽坂さんはどうです?」
「種類に限りはありません。私たちが使っている警棒もそうですが、使おうと思えば落ちている木の枝や石も武器になります」
「はい、そうですね。明確に何種類なんて言えません。武器と思えばそれは武器になります」
私の番が回って来る前に鏡さんが正解を出した。
「ですが、明確にはダンジョン内の武器で現在確認されている種類は十三種類とされています。剣、短剣、大剣、槍、棒、籠手、弓、槌、斧、鞭、鈍器、盾、特殊武器ですね。それぞれに対応するスキルが存在し、そのスキルを使うにはその武器を使う必要があります。例えば槍を持って剣のように構えても剣のスキルは使えません」
「先生、盾も武器なんですか?」
「盾も武器の一種です。敵を押し潰したり、殴りつけたりできます――このように攻撃しやすい盾もありますよ」
先生が前面にスパイクのついた大盾を見せてくれた。
あんなもので押しつぶされたらお腹に大穴が開いてしまう。
確かにあれは防具ではなく武器だ。
「先生、質問があります」
「はい、東さん」
「特殊武器とはなんでしょうか? 先生が持ってきた武器の中にはないように思いますが」
「特殊武器は分類が難しい武器ですね。たとえば魔法の楽器や本などですね」
「それは鈍器ではないのですか?」
「楽器は音楽で、本は言葉で戦うと言われています。使う人はほとんどいませんし、特殊武器を使う配信者もほとんどいませんからあまり知られていません。これについてはそういうものがあるとだけ覚えてください」
特殊な武器なんだ。
「先生、私も質問があります」
「神楽坂さん、なんですか?」
「ダンジョン探索の動画で、銃を使っている人を見ました。彼女はスキルのようなものを使っていたのですが、銃も特殊武器でしょうか? それとも弓でしょうか?」
「チーム救世主のデルタさんですね。私もあの動画は見ていますよ。彼女たちは魔法により爆発を起こし、それで銃弾を放っていますが、確かにスキルのようなものが発動しています。恐らく、ユニークスキルの一種だと思うんですが情報があまりありませんので何とも言えませんね」
先生でも知らないことがあるんだ。
「世間一般に言われていることですが、武器のスキルは普段使っている武器の種類で覚えるスキルが決まると言われています。皆さんがずっと特殊警棒を使い続けたら基礎棒術スキルを覚えることになるでしょうね。棒は扱いやすく、使い方によっては守りにも適していますが、的確に敵の急所を打ち付ける技術と知識が必要になるので少しマニアックですね。魔術師が魔力を高めるための杖を使うときに覚える方が多いです。神楽坂さんのような覚醒者ならそれもいいでしょうが、早めに自分に合った武器を見つけましょう。前衛職希望の人は剣や籠手、斧、槌など後衛職希望の人は距離を取って戦える武器を選びましょう。神楽坂さんは魔法も使えるので棒でも構いませんよ」
そういう授業なのか。
先生に言われて、まずは武器を持ってみる。
剣を構える――重い。
槌、斧、大剣はもっと重い。
それなら短剣の方がいいかな? これは軽い……けどリーチが短いので魔物に接近しないといけなくなる。危なそうだ。
弓――ボウガンはお金がかかるというし、ならば鞭?
うーん、振ってみたけど扱いが難しそう。
「やっぱりこれかなぁ」
私が選んだのは槍だった。
これなら扱いやすいし、ある程度敵と距離を取って戦える。
ゆかりんは剣、スミレちゃんは弓矢を選んだ。
そして――え?
「神楽坂さん、本当にそれでいいのですか?」
「はい。私が選ぶのは籠手です」
魔法を使って戦うことができるはずの鏡さんは、何故か籠手を選んだのだった。