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「え!? 三人とも身代わりの腕輪のこと知ってたの!?」
私以外の三人は死んでも生き返れることを知っていたらしい。
「そりゃ学校案内に書いてあったし。桃華ちゃんは見てへんの?」
見てなかった。
「知っていましたが、死ぬのはやっぱりイヤですね」
「抵抗したけど勝てなかった。実戦だったら本当に死んでいた」
スミレさんはため息をつき、鏡さんは己を悔いる発言をする。
結局、逃げることしかできず、それでも殺された私としては、戦うと選択した鏡さんはただただ凄いと思う。
再度身代わりの腕輪を着けた後、紅先生と一緒にダンジョンの一階層に入る。
ちなみに、今回の身代わりの腕輪はさっきのと違って、痛みは半減され、ストレス等の心的外傷は生命に影響が出ないくらいはそのまま通るらしい。
ということでダンジョン一階層に移動。
普通のダンジョンは人でいっぱいだって聞いていたけど、ダンジョン学園は私たちしかいないから、ダンジョン内も私たちしかいない。
「はい、では皆さん、特殊警棒を取り出してください」
「あの、せんせー。もう不意打ちで殺したりせぇへんよね?」
「しませんから、安心してください」
ゆかりんの問いに紅先生が苦笑して答える。
と言われても油断できないんだよね。
「はい、皆さん、特殊警棒を出してください。ダンジョンの中では持ち込める武器に制限があります。ダンジョン産のものだったり、鍛冶スキルによって作られた武器は全て持ち込めますが、近代武器や火薬を使った武器、さらに市販のボウガンなんかにも制限があります。ダンジョン用のボウガンはあるにはあるのですが、とても高いですね。購買部でも販売していますので、一度見てみてください。尚、この特殊警棒は金属は一切使っていない、石と木だけを素材に特殊加工を施している特殊警棒で、ダンジョンに持ち込むことができます」
と言って、特殊警棒を伸ばす。
普通の特殊警棒の三倍くらい、剣道の竹刀くらいに長くなった。
こんなに長くなるものなんだとちょっと感心する。
と思っていたら、部屋の奥から何かが出てきた。
子犬くらいの大きさの半透明のぷるぷるした生物が何匹も出てきた。
「スライムや! せんせー、あれ、スライムやね? 触ってもええかな?」
「スライムですね。明智さん、近付いてはいけませんよ。スライムとはいえ魔物です。通常では魔物は人間に懐いたりしません」
「えぇ……でも、せんせーミノタウロス飼ってたのはなんでなんですか? うちもあんな風にスライム持ち出したいです」
「あれは捕獲玉という貴重な魔道具を使ってテイムしました。テイムした魔物はダンジョンの外に持ち出せません。それと、テイムしていない魔物の場合もダンジョンの外に持ち出すには国の許可が必要で、研究等の理由がない限り認められません」
「うぅ、スライム……」
ゆかりんはスライムが大好きのようだ。
ゲームとかのスライムだとかわいいけど、この世界のスライムってかわいいかな?
目も口もないし、のっぺらぼうみたいだと思うけど。
「はい、では皆さん。スライムを倒しましょう! 警棒で叩きつけたら簡単に倒せます」
「えぇ、倒すのっ!? せんせー、それはあまりにも殺生や」
「スライムを倒さないと強くなりませんよ。ほら、神楽坂さんを見習ってください」
と先生が言うように、鏡さんは特殊警棒を使ってスライムを次々に倒している。
「私も戦います」
スミレちゃんも行った。
私も負けていられない。
「ゆかりんも頑張ろ!」
「うぅっ、頑張れるかなぁ……」
暫く戦っていたら、隣の部屋から女の子の悲鳴が聞こえた。
最初はびっくりしたけど、その音の原因が直ぐに思い至る。
きっと、生産科の子たちが殺されたんだろう。
あ、倒したスライムが黒い石を落とした。
「はい。山本さん、それが魔石ですよ。黒い魔石は現在400円で買い取られています。学園内の換金所に持っていくと、ポイントがもらえて、購買部で400円分の買い物ができますから、しっかり拾っておいてくださいね」
400円か。
これが私の初のドロップアイテム。
「スライムは本来スライム酒というアイテムを落としますが、学園ダンジョンには出ません。代わりに回復薬が出ます」
先生が説明する。
ゆかりんは最初はかなり戸惑っていたけれど、何とか一匹倒すことができた。
そして、レベルが2に上がる前に、扉が開いて四十歳くらいの女の先生と女の子が二人来た。
生産科の子だと思うけど、一人が金髪縦ロールっていう、吉野では絶対に見ない女の子だった。
お嬢様って本当にあんな髪型してるんだ。
もう一人は短い髪の普通の女の子だ。
「はい、皆さん集合してください」
と紅先生から集合の挨拶が掛かる。
「私は紅茉留。一組の担任です」
「三ノ瀬美沙だ。二組を受け持つ」
「はい、では、探索科の生徒から自己紹介を始めてください」
紅先生に言われて、
「山本桃華です。一年生です。好きなものは葛餅と陀羅尼助で、嫌いな物は鹿せんべいです」
「桃華ちゃん、みんな一年やで。うちは明智由香里や。ゆかりんって呼んで」
「東スミレです。よろしくお願いします」
「神楽坂鏡よ。よろしく」
私たち四人は自己紹介をした。
そして、生産科の生徒がそれぞれ名乗る。
「わたくしは本城絆ですわ。トヨハツ探索理事長の一人娘ですわ!」
「質問。トヨハツ探索ってどこの会社ですか?」
と私は尋ねた。
ゆかりんもそんな名前を言っていたけれど、私は聞いたことがなかった。
「まぁ、知りませんの? トヨハツ探索というのは、日本の自動車メーカーが共同して立ち上げたダンジョン資源探索のためのEPO法人で、その貢献値は日本でもトップクラスなのですわよっ!?」
「いーぴーおーほーじん?」
「そこまで。EPO法人については今度授業でしっかり教えますからね。では、次、胡桃里さん、お願いします」
「胡桃里花蓮っす! 本城さんと違って普通のどこにでもいる庶民っすけど、仲良くしてほしいっす」
本城さんに花蓮ちゃんか。
たった六人しかいない同級生だし、仲良くできたらいいな。
スライム退治を終えて、私たちは更衣室で着替えて学校の講堂に向かった。
講堂の中は冷房が効いていて涼しい。
たった六人の生徒のために贅沢だと思う。
「まるで貸し切りの映画館みたいだね。ポップコーンが食べたくなるよ」
「うちはキャラメル味がいいなぁ。スミレもキャラメル味やね?」
「うん。鏡さんはどっちですか?」
「私は塩味かな?」
「うちも塩味っす。本城さんはどっちっすか?」
「わたくし、映画館には行ったことがありませんし、ポップコーンなどという庶民の菓子も食べたことありませんの」
「えぇ、そうなんだ。じゃあ今度六人で一緒に映画見に行こうよ! 大阪だから映画館いっぱいあるでしょ?」
「し、仕方ありませんわね。予定を空けて差し上げますわ!」
本城さんは顔を背けて、でも一緒に行く約束をしてくれた。
みんなで映画に行く話をしていたけれど、鏡さんだけはあまり乗り気じゃなかったみたい。
そして――
「あれ?」
気付けば、檀上に誰かいた。
誰かって言うか、スライムみたいな形と大きさの……黒い塊?
私の視線に気づき、みんなもその大きな黒い塊を見る。
すると、その黒い塊が動いた。
もしかして――
「はい、みんなが静かになるまで三分かかりました。もういいかな?」
私たちは無言でうなずいた。
そして、その黒い塊はこう言った。
「では、諸君、入学おめでとう。僕がこの学園の学園長、異世界からやってきて皆に試練と教育を与える謎生命体のダンプルだ。以後よろしくね」
……え? 自分で謎生命体とか言っちゃうんだ、この人(?)。