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授業が終わってから、ダンジョンに潜る間、ころりんは紅先生が預かってくれた。
流石にダンジョンの中に連れて入れないのはゆかりんもわかっているみたいだ。
私たちと違って、ころりんは身代わりの腕輪を装備できない。
ダンジョンの中で万が一のことがあったら死んでしまう。
ただでさえ、ころりんは普通のスライムよりも小さいのだから。
とりあえず、今日も五階層でレベル上げを行う。
やっぱり、同じ五階層でもてんしばダンジョンより魔物が強い。
ううん、単純に力や速さはてんしばのダンジョンの魔物と変わらない。
たぶん、賢い。
フェイント、囮、連携等、私たちが行うことを魔物もしてくる。
だから、油断したら痛い目に遭う――痛い目に。
「由香里っ!」
「…………え?」
スミレがゆかりんの服の裾を引っ張った。
途端、リザードマンの持っていた剣が彼女の顔をかすめた。
私は異変に気付き助っ人に行き、槍でリザードマンを横から突く。
「由香里、戦闘に集中しなさい」
「ごめん、鏡ちゃん。油断したわ」
てへへ――とゆかりんは照れるように笑った。
でも、油断なんてレベルじゃない。
目の前に魔物がいて、攻撃しようとしているのに剣を構えたまま全く動かなかった。
もしもスミレが気付かなかったら、顔に命中していた。
今の私たちのレベルだったら一撃で体力が0になることはないにしても、やっぱりひどい。
「ころりんのことを考えていたのね」
「…………うん。あの子、まだ生まれたばかりやから、うちがいないと寂しいんとちゃうかなって」
「授業中も離れ離れだったでしょ」
「授業は五十分やん? ダンジョンやったら、いつも三時間くらい潜ることもあるし」
「……はぁ。由香里、あなたはもう今日は帰りなさい」
「え? でも――」
「さすがにころりんも生まれたばかりだしね。その代わり、明日はちゃんとするのよ」
「うん! ありがとうな、鏡ちゃん!」
ゆかりんはそう言って一人猛ダッシュで帰っていく。
「あまり走ると転ぶわよ――あ、遅かったわね」
ゆかりんが盛大に転ぶ音が聞こえた。
私が心配して振り返ると、ゆかりんは転んだことなんてお構いなしに立ち上がって走り去っていく。
「あはは……」
私は苦笑してゆかりんを見送った。
※ ※ ※
三人で夜までダンジョンに潜ってから帰った。
「スミレちゃん、一人で大丈夫?」
いつも、スミレちゃんはゆかりんと二人で帰ってるけど、今日は一人だ。
もう秋も半ばが過ぎ、日が沈むのも早い。
「大丈夫です。お父さんが駅まで迎えに来てくれるので」
「でも、駅まで結構距離があるし。だったら、私が駅まで送るよ」
「そうしたら、山本さんが一人で学園まで帰ることになりますよ」
あ、そうだった。
うーん、私なら新聞配達で鍛えた脚力があるから、走れば――って言っても説得力がないね。
「桃華の言う通り女の子一人で帰るのは危険よ。下手に事件に巻き込まれて、放課後のダンジョン探索に時間制限を掛けられたら困るわ。だから、三人で駅まで行きましょ? その後、私と桃華の二人で学校に帰れば問題ないわ」
「鏡さんっ! そう、それだよ! じゃあ、早速駅まで行こう!」
「はしゃがない。ダンジョンでの今日の反省についても話し合えば時間の無駄にもならないわ。いいでしょ?」
「ありがとうございます」
三人で駅まで歩く。
その間、ダンジョンでの立ち回りについて話した。
というか、ほとんど私への説教だった。
槍の戦い方についても色々と言われた。
「桃華は槍を突いてばかりいるけど、それ以外の戦い方も考えた方がいいわ」
「え? 槍って突くものでしょ?」
「そうでもないわよ? 戦国の武将たちが槍を使うときはむしろ剣みたいに上から叩き下ろす戦い方の方が多かったわけだし、槍装備に含まれる薙刀は文字通り薙ぎ払う戦い方に秀でてるでしょ?」
「そう言われてみれば――」
槍は突くものだって固定観念が私にあったらしい。
「なんで教えてくれなかったんですか!?」
「桃華は二つのことを同時に考えられる頭はないでしょ? 突きをまともに扱えるまでは突きに専念させようと思ったのよ」
「あ、そっか。さすが鏡さん! 私のことわかってる! それに、私の突きが一人前になったって褒めてくれて嬉しいです」
やっぱり鏡さんは優しいな。
「……山本さんがいいならそれでいいです」
スミレちゃんが私を優しい眼差しで見ていた。




