21
GDCグループ、正式名称はGeneral Dungeon Company。
アメリカに本社を持つダンジョン関連の企業。
ダンジョンショップで売られている通常の道具の六割、魔道具の七割はGDCグループ製だと言われている。
その代表であるキング・キャンベルは世界一位の探索者であることでも有名らしい。
そして、GDCグループは各地のダンジョン内で様々な研究を行っている。
だから、企業としてダンジョンを独占、保有する権利を認められている。
「へぇ、そんなに凄い企業なんだ」
「本当に知らなかったのね。ちなみに、私たちが使っていた特殊警棒もGDCグループ製よ?」
思わぬところにGDCグループの力の影響があるんだ。
ちなみに、押野グループはGDCグループの傘下であっても、押野グループの社長の娘の押野姫が理事長をしているEPO法人天下無双はあくまで関連企業であり、様々な事業提携はしていても傘下企業ではないらしい。
「GDCグループの品は安くていい物が多いですからね。安いといってもダンジョンで使える道具としては――ですが」
と話していたら、壺を背負ったタコが出て来た。
蝸牛みたいだ。
「ツボタコですね」
「うわぁ、ああして動かれると、なんか気持ち悪いな」
「ゆかりん、スライムは好きなのにタコは嫌いなの?」
どっちも同じ軟体生物な気がすると思って言ったら、ゆかりんは私の両肩を持って言う。
「桃華ちゃん、スライムとタコは全然違うやろ? スライムの方がすべすべしてるし、あのフォルムがかわいいやん。もしかして、どっちも軟体生物やからとか思ってる? それって、ゴ【自主規制】とヘラクレスオオカブトはどっちも昆虫やから同じやって言ってるようなもんやで」
「ご、ごめんなさい」
「わかってくれたらそれでええねん。まぁ、うちも関西人やからタコを食べる分には好きやで? たこ焼きのホットプレートも持ってるし」
「遊んでないで戦うわよ。こんなのでも一応魔物よ」
と鏡さんが言うと、こんなの扱いされたことで激怒したのか、ツボタコが足の伸縮を利用して大きく跳躍し、鏡さんに体当たりしてきた。
結構早い。
足の吸盤に吸い付かれたら厄介かなって思ったけれど、あの壺の部分も普通に鈍器で危ない。
でも、鏡さんは特に驚くことなく、飛んできたツボタコを冷静に拳で殴り返す。
壺が割れた。
「気を付けてください! ツボタコはツボが割れたら墨を吐いてきます」
スミレちゃんの言う通り、ツボタコが墨を吐こうとしている。
ダメだ、タコの墨なんて浴びてしまったら、洗濯が大変だ!
「解放:水蛇強化」
私は咄嗟に魔法を唱えた。
私の槍に渦を巻いた水がまとわりつく。
と同時に、ツボタコ――というか、もはやただのタコ――が墨を吐いて来た。
私はその墨に向かって槍を突く。
すると、槍を渦巻く水流がタコの墨を呑み込み、黒い水の流れとなったまま渦巻いた。
そして、私の槍はそのままツボタコを突く。
ツボタコの頭が抉れ、役目を終えたと黒い水も地面に落ちた。
「凄いやん! それが桃華ちゃんの魔法なんや!」
「はい。山本さんの持っている槍との相性もとてもよさそうです」
「いやぁ」
私は後頭部に手を置いた。
こうして褒められるのってなんだか恥ずかしいね。
「ところで、神楽坂さん。今日は五階層まで行くのですよね? 目的はキューブ狩りですか?」
「「キューブ?」」
私とゆかりんは首を傾げて尋ねる。
魔物の名前かな?
「ええ、そうよ。さすがスミレさん、よく調べているわね。キューブはてんしばダンジョンの五階層に出る魔物で、世界一安全な魔物だって言われているわ」
「安全? ダンジョン学園のダンジョンの魔物より?」
「そうよ。キューブは一切攻撃してこないの。ただ探索者と出会ったら逃げるだけ。ただ、とても逃げ足が速いから、倒すには通路の袋小路に追い詰めるか、遠距離攻撃で倒すしかない。ただ、普通の魔物よりちょっとだけ経験値が高いの」
へぇ、魔物って危ない敵だけだって思っていたけれど、そういう魔物もいるんだ。
「それと、キューブを倒すと十パーセントくらいの確率でトレジャーボックスという宝箱のようなものを落とすみたいです」
宝箱か。
それは楽しそうだな。
よし、キューブ狩り、頑張るぞ!
あ、でも私の遠距離攻撃の魔法は一発しか使えないから、キューブを追いかけるために走り回ることになりそうだな。