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入場前の受付を済ませ、てんしばダンジョンの更衣室でジャージに着替えてダンジョンの中に入った。
せっかく天王寺なんだから、オシャレな装備で挑みたいところなんだけど、学校指定の体操服のジャージでダンジョンの中に入る。
ダンジョン学園のダンジョンは入ってすぐの部屋は無人だけど、本物のダンジョンでは受付に若い男性がいた。
換金所も兼ねていて、ダンジョンで手に入れたものは買い取ってくれるらしい。
「ようこそ、てんしばダンジョンへ。ダンジョン学園の皆様ですね」
「「「「はいっ!」」」」
「では、学生証の提出をお願いします」
「「「はい」」」
「あ、ロッカーに入れちゃった! 急いで取ってきます!」
三人が学生証のカードを出す中、私は財布と一緒にロッカーに入れちゃったことを思い出し、急いで更衣室に戻った。
そして、学生証を持って受付に戻った。
「お願いします」
「はい、確認しました。カードはお預かりし、帰る時にお返しいたします。では、皆様はダンジョン学園以外のダンジョンの探索は初めてのようですので、簡単にこのダンジョンでの注意事項を説明させていただきますね」
歯医者の診察券みたいだなって思った。
「まず、このダンジョンの一階層では現在、初心者講習用のスライムを集める作業が行われていますので、二階層より下で戦ってください」
「スライムを集めて何するん?」
「初心者の探索者の皆様に殺してもらいます」
受付のお兄さんが笑顔で言った。
わんこそばみたいに次々にスライムを倒してもらって、楽々レベル上げをするみたい。
それだと確かにスライムを探し回る必要はないから楽にレベルが上がるだろう。
なんかズルいって思ったけれど、でも学校のダンジョンを独占してレベル上げできるほうがズルいかもしれない。
「それと、皆様はダンジョン学園の生徒ですので、手に入れたアイテムの換金は禁止されていますが、ポイントへの加算は可能です。また、ダンジョン学園のダンジョンで使用している身代わりの腕輪は使用できません。小さな怪我でしたら、回復薬がありますのでご自由にお使いください」
「え? 無料で飲んでいいんですか?」
「はい。EPO法人天下無双より提供されていますのでお金は必要ありませんよ」
うわぁ、さすがチーム救世主の所属している企業だ。
怪我をしたときは遠慮なく飲ませてもらおう。
それで、学園を卒業し、一人前の探索者になれたその時に恩返しできたらいいな。
そう言えば――
「あの! チーム救世主の皆さんってこのダンジョンをよく利用しているんですよね!? 今日もいるんですか? 私、大ファンなんです!」
「すみません、探索者の情報はお教えできません」
やっぱりダメか。
隣で鏡さんから「当たり前でしょ」と窘められた。
「それやったら、今度チーム救世主の人たちが来たときにお礼を伝えてもらうことはできますか? 天下無双には学園に寄付もしてもらってるみたいやし、それに、大阪と奈良を救ってもらったわけやから」
ゆかりんが尋ねた。
そうか、それだったら――
「はい。今度いらっしゃったときにお伝えしますね」
受付のお兄さんがそう言ってくれた。
感謝の気持ちが伝わるだけでもうれしいよ。
私たちはお兄さんにお礼を言って、ダンジョンに預けていた武器を引き出し、ダンジョンの中に入った。
私は槍、ゆかりんは剣、鏡さんは籠手、そしてスミレは弓なんだけど。
「あれ? 鏡さんの籠手、変わってる?」
「ええ、青銅の籠手よ。ポイントを貯めて買ったの」
「わぁ、いいな。私も交換すればよかった」
「でも神楽坂さんが前に使っていた籠手は鉄の籠手でしたよね? 青銅より鉄の方が丈夫ではないんですか?」
スミレちゃんが尋ねた。
そうだ! 世界史の授業で学んだ。
古代では青銅よりも鉄器の方が遥かに貴重で頑丈だったから、鉄の武器を作ることに成功した民族が他の部族を支配していった――とかそんな話だったはず。
青銅より鉄の方が強い気がする。
「普通はそうね。でも、この青銅に使われているのは普通の銅ではなくて、魔銅と錫の合金なの。それに、プロの鍛冶師が作ったものだから、鉄の籠手よりも頑丈よ」
つまり、鏡さんがパワーアップしているってことか。
私のはまだ訓練用の槍のままだ。
ゆかりんもリザードマンの剣になっているし、アヤメの弓は最初から高級品だ。
装備が一人劣っている気がする。
でも、いいよ、別に。
私には魔法があるんだから。
「さて、二階層に行きましょう」
「はい。あ、でも歩きながらでいいので、さっき言っていたGDCグループについて教えてください」
私はそう言って、鏡さんにGDCグループについて教えてもらいながらダンジョンの奥に向かった。




