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 校庭の隅にある更衣室で制服から体操服に着替えた私たち四人は地下に続く階段――ダンジョンの前に再集合した。


「はい、ではこれからダンジョンに入ります。皆さん、ついてきてください」


 そう言って、紅先生は特に緊張する様子もなくダンジョンの中に入っていく。

 どんな恐ろしい場所かと思ったけれど、まるで地下鉄の入り口のような雰囲気だ。

 地下一階に到着すると何もない広い空間に出た。

 レジカウンターのようなものがあるけれど、カウンターの向こうには誰も立っていない。


「ここがダンジョンのロビーになります。通常のダンジョンだと、この場所で武器のレンタルや取り出し、ドロップアイテムやDコインの換金などが行えます。ただし、ダンジョン学園のダンジョンで魔物を倒してもDコインはドロップしません。代わりに魔石を落とすことがありますが、ダンジョン学園内では換金はできません。代わりにDポイントというポイントが付与されます。Dポイントは、購買部で買い物ができる他、学園の卒業時、もしくは退学時に換金することになります。何か質問はありますか?」

「はい!」

「はい、東さんどうぞ」

「ドロップアイテムを持ち出して、他の販売所や換金所で換金することはできますか?」

「できません。校則で禁止されています。尚、換金所や販売所以外での個人での売買は校則ではなく法律で禁止されているのでそちらも注意してください。どちらもバレたら退学の可能性があることをお忘れないように」


 え!? ダンジョンってお金を稼ぐことができるって思っていたから、お母さんに仕送りはいらないよって言っちゃった。

 一応、この学校ってかなり特殊らしく、寮で生活する場合は食事も無料で食べることができる。

 でも、学校の外で買い物をするにはお金がいる。

 アルバイトを探すしかないかな。


「では、説明を続けますね。皆さん、ステータスオープンと心の中で念じてください。口に出してもいいですよ」 


 私は言われるがまま、そう念じる。

 ステータスオープン。


――――――――――――――――――

山本桃華:レベル1


所持P:0

体力:13/13

魔力:0/0

攻撃:3

防御:4

技術:3

俊敏:4

幸運:3

スキル:状態異常耐性(弱)

――――――――――――――――――


 出た! これが私のステータスなんだ。


「はい、皆さん、ステータスが出ましたか? 出た人は手を挙げてください」


 全員手を挙げた。

 全員出ているらしい。


「では、ステータスの説明をします。といっても、皆さんは知っているかもしれませんね」


 と言って紅先生は説明をしてくれた。


 レベル:強さの指標の数値。魔物を倒すと経験値が貯まり、一定値になると上がる。レベルが上がるとステータスが増えたりスキルを覚えたりする。


 体力:左側が現在値、右側が最大値。体力は敵から攻撃を受けると減り、時間経過や回復薬、回復魔法の使用で増えるが最大値以上には増えない。体力が0になると瀕死状態になり、回復薬や回復魔法も一切効かなくなる。ただし、英雄の霊薬という一本何十億円もする薬を使えば瀕死状態でも治療することはできる。


 魔力:体力と同じで左側が現在値、右側が最大値。他のステータスと違い、レベルが増えても増減しない。増やすには魔法を覚えること。魔法を覚えれば魔力の最大値が増える。もっとも、魔法を使える人はほとんどいないみたい。


 攻撃:これが高いと敵に攻撃したときにダメージが通りやすくなる。


 防御:これが高いと敵から攻撃を受けても体力が減りにくくなる。


 技術:これが高いと思った通りの攻撃ができるようになったり、生産スキルの使用時に作業時間が減ったり出来のいいアイテムが作れるようになる。


 俊敏:すばやく動けたり、動体視力が上がる。


 幸運:確率で発動するスキルを発動させやすくしたり、逆に受けにくくしたりできる。また、魔物のドロップの確率にも影響がある。


 スキル:様々な奇跡を起こす。ダンジョンの外で使えないものがほとんど。



「レベル1の時のステータスは、体力が15、魔力は0、そのほかは3から5が普通です」


 うわぁ、私、ほとんど普通だな。体力が少なくて、防御と俊敏がちょっと高いだけみたい。

 鏡さんが手を挙げる。


「先生、私、レベルが8で最初からステータスも高いです。あと、魔力もあります」

「神楽坂さんは覚醒者なので、少し例外ですね。覚醒者は最初からレベルが高いですし、魔法スキルも使えますから魔力があります」


 一万人に一人、レベルアップ無しに魔力に目覚める人がいる。

 覚醒すると髪の色が変わって、他の人よりレベルが高く、そして、鍛冶師の覚醒者という例外もいるが、ほとんどの人は最初から魔法が使える。

 覚醒者以外はレベル1からスキルを使える者はほとんどいない。

 銀色の髪は光魔法の覚醒者で、やっぱり鏡さんは凄いな。


「普通の人は魔力もスキルもありませんね」

「先生! 私、状態異常耐性(弱)ってスキルがあります!」


 私が手を挙げて言った。


「そうなのですか? 覚醒者ではなくても最初からスキルを持っている人はいます。普段の生活習慣だったり、生まれ持った才能に影響されているみたいですね」


 生活習慣――食べ過ぎたときとか胃が痛いときに陀羅尼助を飲んでいたお陰かな?

 ありがとう、陀羅尼助。

 これからも飲み続けよう。

 

「最後にこの腕輪を装着してもらいますね」


 紅先生が全員に、綺麗な赤い宝石がついている腕輪をつけていく。

 なんだろう? 強くなるための魔道具かな?


「さて、いまから一番大切な説明を始めます」


 大切な説明と言われ、耳を傾けてしっかりと聞こうとしたその時、先生が口に出した言葉は意外なものだった。


麻痺(パラライズ)


 その言葉を聞いたとたん、身体が痺れた。


「先生、なにを」

「う、動けない」


 スミレちゃんとゆかりんが倒れて苦しんでいる。

 なんとか立っている鏡さんも自由に動けないみたい。

 そんな私たちを無視して、紅先生はカウンターの裏から大きな葛籠を取り出した。

 葛籠の蓋を開けると、中から出てきたのは身の丈四メートルはある巨大な牛の魔物――ミノタウロスだった。

 手には黒い金属の棍棒が握られている。

 いったい、何をするのか。


「皆さんには一度死んでもらいます」


 ……え?

 私はその言葉の意味がわからなかった。

 え? だって、ダンジョン学園のダンジョンは、安全なダンジョンだって教えてもらって……え? なんで?


「はい、それではミノタウロスちゃん。生徒を一人ずつ叩き潰してください」

「「「「――――っ!?」」」」


 次の瞬間、ミノタウロスがゆかりんを――さっきまで楽しく話していたクラスメートを叩き潰した。


「由香里っ!」


 スミレちゃんが叫んだと同時に、またミノタウロスの棍棒に潰された。

 なにこれ? 嘘、嘘だよね?


光の弾丸(ライトバレット)

 

 混乱する私の隣で、鏡さんが光魔法を紅先生に向かって放った。

 だけど、紅先生は特殊警棒を取り出して、一瞬でそれを弾き飛ばす。


「はい、先生はレベル70の探索者なのでそのような魔法は効果はありませんよ。でも、麻痺状態でそれだけ魔法が使えるのは凄いですね――って聞こえていませんか」


 紅先生が褒めていたときには、私の隣で鏡さんが棍棒に潰されていた。

 ダメだ、逃げないと――


 私は身体を動かす。

 いつもより身体の動きは鈍いが動ける。


「あれ? 山本さんは動けるんですか? あ、状態異常耐性の効果ですね。でも、逃げきれませんよ」


 振り返る。

 その時、既にミノタウロスの棍棒は私の眼前に迫っていて――






 私、山本桃華は志半ばに死んだ。

 ……まさに、痛恨の極み。





「ってあれっ!? 生きてる!?」


 死んだはずなのに、気付いたらさっきいた場所にいた。

 私だけじゃない。

 さっき、確かに潰されたはずのゆかりんもスミレちゃんも鏡さんも全員無事だ。

 どうなっているの?


「はい、お疲れ様でした。皆さんに渡した腕輪も砕けていますね? 皆さんに渡した腕輪は身代わりの腕輪といって、死を一度だけ無効化して、さらに死んだあとロビーに転移してくれるありがたい腕輪です。ただし、この腕輪が砕けたときはレベルも初期レベルに戻ってしまうので気を付けてくださいね。今回お渡ししたのは恐怖は感じても、痛みなどの苦痛、ストレスなどを全て無効化してくれるものなので、心的外傷は残っていないはずですが、問題ありませんか? 問題あったら直ぐにカウンセリングルームに行かないといけませんが」


 そう言われてみれば、友だちが死ぬところを見たり、体験したのに全然苦しいと思わない。

 今思い出しても平気っていうことは、身代わりの腕輪を装着している時の記憶は心的外傷にならないってことなのか。


「本当に死んだと思った」

「先生、いくらなんでもひどいんじゃないですか?」


 スミレちゃんとゆかりんが言う。

 ミノタウロスは申し訳なさそうに頭を搔いている。


「私も本当は反対だったんですけどね。プレオープンの時に参加した高校生が無謀に深い階層に行って死んでしまって、あ、でも実際は皆さんのように生き返ったんですが、それでも全然懲りていない様子でして。学園長先生がそれを見て、ダンジョンというのは本来生と死の狭間で戦うものなのに死への恐怖が足りないのはよくないってことで、最初に思いっきり驚かそうってことになったんですよ。ドッキリ大成功です」


 ドッキリ過ぎるよ。

 でも、身代わりの腕輪が凄いってことはわかった。

 確かに全然痛くなかったし、破れたり血で汚れたはずの体操服も元通りになっていた。


「…………」


 鏡さんがじっと自分の手を見ている。


「鏡さん、大丈夫? 辛いならカウンセリングルームに行く? それとも陀羅尼助飲む?」

「いえ、大丈夫よ。私はまだまだ弱い――そう思っただけ。もっと強くならないと」


 初期レベルだから仕方ないよ――って言おうと思ったけれど、でも鏡さんはきっとその言葉を望んでいないだろうって思った。

 だから、私はこう言った。


「うん、一緒に強くなろう」

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― 新着の感想 ―
幸運の初期値が異常に高かった高校生が、缶詰ガチャで手に入れたスキルを使って現代ダンジョンで最強になる物語のスピンオフですが、こういう形でまとめてもらえたほうが富みやすいのでうれしく思います。
勇者よ 死んでしまうとはなさけない
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