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日曜日――私たちは予定通りJR天王寺駅にやってきた。
朝の九時に待ち合わせしたんだけど、全員時間通りに集合した。
「天王寺に来るのも久しぶりやわ」
「私たちの家からだと梅田や難波の方が行きやすいですからね」
「桃華は天王寺にはよくくるの?」
「よくってほどじゃないけど、吉野に住んでいる人にとって、天王寺って大阪の玄関口みたいなところだから。遠足で天王寺動物園に来たこともあるよ」
「あぁ、うちらも遠足で奈良公園に行ったことあるわ」
「生駒山のハイキングの方が多いですけどね」
私も吉野山に遠足に行くことの方が多かったな。
歩いていける距離に山がある小学生って遠足の行先ランキング一位が山になる法則――みたいなのってあるのかな?
「いつもはビクローおじさんのチーズケーキ買って帰るんだけど」
「今日はこれからダンジョンだから、帰りにしなさい」
「うん、わかってるよ。帰る直前に買ったほうが焼きたてチーズケーキを楽しめるもんね」
さすが鏡さん、わかってる。
ビクローおじさんのチーズケーキの店には二つの列がある。
一つは焼きたてのチーズケーキを買うための列。
そして、もう一つは作り置きのチーズケーキとその他の商品を買うための列。
混んでいるのは焼きたてのチーズケーキを買うための行列だ。
何故なら、ビクローおじさんのチーズケーキは、この焼きたてのチーズケーキが美味しいから。
まぁ、作り置きといってもその日焼いたものだし、電子レンジで温めたらやっぱり美味しいんだけど、でも、焼きたてのチーズケーキはなんか一味違うんだよね。
そして、どうせ焼きたてのチーズケーキを買うなら、家に帰る直前に買うべきだ。
その方が帰ってからもぬくぬくのチーズケーキを食べることができる。
「そういう意味じゃ……ううん、そうね」
鏡さんが諦めたように頷いた。
あれ? 変な事言ったかな?
「でも、せっかく天王寺に来たのに制服じゃないといけないの?」
「今回のダンジョン攻略は学校活動の一環とみなされるわ。学校によっては部活動で試合に行くとき、学校制服じゃないといけないのと同じ感じよ。一応ジャージでもいいみたいだけど」
「それはないです!」
私は即断言した。
ジャージで天王寺に来るなんて、天王寺に失礼だ!
「意外やね。桃華ちゃんはそういうの気にしないって思ってたんやけど」
「気にしますよ。吉野に住んでる女の子は、まず奈良県内のイ〇ンに車で連れていってもらって大阪に行くための服を買って、そして初めて天王寺に行くことができるの。そして、天王寺で服を買いそろえることで、梅田や難波に行くことができるんです!」
これが私のルールだ。
「みんなは違うんですか?」
「お姉ちゃんのお古しか着ないので、自分で服を買ったことがありません」
「うちは伯母がアパレル経営しているから試作品を貰ってるんよ。今着てる服も全部貰ったもんや」
「私は通販サイトで買ってるわ。それで充分でしょ」
みんな全然違うんだ。
でも、スミレちゃんはお古しか着てないのか。
私は一人っ子だからお姉ちゃん、羨ましいなって思ったんだけどそういうところは大変だな。
「(桃華ちゃん。スミレは軽度のシスコンやから、姉の服を着るのはむしろご褒美なんよ)」
「(え? そうなの?)」
「(そうなんよ。まぁ、スミレは自覚薄やし、当の姉本人は気付いてへんやろうけど)」
そういえば、スミレちゃんがダンジョン学園に転入してきたのも、お姉さんのことでダンプルに文句を言うためなんだっけ?
そこまでの熱意を持っているから本物なのだろう。
私たちは駅前の横断歩道を渡って、てんしばに来た。
芝生エリアには多くの家族連れやカップルで賑わっていた。
「そういえばてんしばダンジョンはあのチーム救世主の拠点ダンジョンなんだよ! もしかしたらいるかもしれないよね。私、サイン色紙持ってきたんだ」
「チーム救世主さんは普段、アバターを使ってるから見回してもわからんやろ」
「うぅ、そうだよね。でも、アルファさん――押野姫さんならわかりますよ! 顔写真が公開されてますから」
チーム救世主のアルファさんが押野グループの社長の娘、押野姫であることは有名だ。
彼女たちが所属しているホームページにも名前が公開されている。
他のメンバーの姿も一度ネットに晒されたらしいけれど、何故かその動画全てが削除され、いまは見ることができなくなっている。デジタルタトゥーと言ってネットに拡散されたデータは消えないって言われているのに。
一体、どんな方法を使ったのか。
でも、その動画を見た人、もしくは直接見た人によると、ガンマさんもデルタさんもどちらも美少女。
ベータさんもそこそこの美男子らしい。
会えたらいいな。
そう思いながら、ダンジョンの入り口に向かった。
ダンジョンの入り口って結構な行列ができているって話だけど、てんしばダンジョンの入り口は誰も並んでいない。
押野グループが保有しているダンジョンだからだろう。
「押野グループの保有しているダンジョンっていっぱいあるけど、なんで認められてるの? 他にそんなことしている企業はないよね?」
「押野グループがGDCグループの傘下企業だからよ」
「GDCグループ?」
「そうね。詳しくはダンジョン内を移動しながら話しましょ」
鏡さんに言われてダンジョンの中に入った。
初めてのダンジョン学園以外のダンジョンだ。




