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渦潮魔法を覚えた結果、髪の毛が水色になってしまった。
そのことを報告に行った。
今日は学校は休みだけど、宿直室には必ず先生がいる。
「失礼します! え、宿直室ってこたつあるの!? まだ秋なのに!?」
宿直室にはこたつがあって、二組の担任の三ノ瀬先生がジャージ姿で、みかんを食べながらスマホを弄っていた。
快適そうだ。
「おう、山本か。ってどうした、その髪の毛は?」
「実は――」
私は事情を説明した。
三ノ瀬先生はみかんを剥いて黄色くなった指でペンを持ち、話を聞く。
「その占い師っていうのは気になるな。どこの店だ?」
「わかりません。飲食店でたまたま後ろの席にいた人が教えてくれたので、お店の人じゃないのかもしれません」
「そうか――あんがい人間に化けた精霊だったのかもしれないな」
三ノ瀬先生は冗談で言ったかもしれないけれど、D缶の開け方を知っているなんて本当に普通の人間ではないのかもしれない。
「それで、先生。これってどうなんですか?」
「まず覚醒者と見て間違いないだろう」
「やっぱりそうなんですか? でも、覚醒者ってダンジョンに入る前に既に覚醒しているものですよね? 鏡さんみたいに」
「いや、覚醒するのはだいたい第二次成長期が終わって数年後。だいたい15歳から17歳と言われている。女性の方が男性より少し時期が早い。鏡もそうだろ?」
「はい。私が覚醒したのは中学三年生の卒業式の後です」
光属性の覚醒者の鏡さんが言う。
「でも、先生。国によっては十五歳からダンジョンに入ることができる国もありますが、ダンジョンに入った後に覚醒した人はいないって聞いたことがあります」
「ああ、それが正しい。たとえばレベルアップによる魔法スキルの取得の最年少はM国の16歳の少年で、レベル50になったときに風魔法を覚えている。しかし、彼が覚醒者になったという話は聞かない」
「つまり、どういうことですか?」
私の頭ではこれ以上理解できないのかもしれない。
「わからん。スキル玉の研究はまだまだ進んでいない。たとえばスキル玉による魔法の取得は漏れなく覚醒者になるのかもしれないぞ。ちなみに、レベルは上がっていないのだな?」
「はい、スキルを覚えただけです」
「そうか……一度あいつに来てもらう必要がありそうだな」
三ノ瀬先生はめんどくさそうに言った。
あいつっていうのは誰かわからないけれど、たぶんスキルについて詳しい人だろう。
「それで、渦潮魔法ってなんっすか? もしかして、ユニークスキルっすか?」
花蓮ちゃんが尋ねた。
ユニークスキルっていうのは他に持っている人がいない、未発見のスキルのことだ。
「いや、数は少ないが報告例はある。上位属性魔法の一種だ」
「上位属性魔法?」
「魔法の授業はまだだったな。簡単に予習といこう」
うっ、予習とか復習って聞くと頭が痛くなる。
でも、自分のことだから頑張って覚えよう。
「まず、魔法は大きく分けて、属性魔法と非属性魔法の二種類に分けられる」
「火属性魔法?」
「火属性ではなく、非・属性。水や火、光といった属性を持たない魔法だ。ちなみに、確認されている魔法の九割はこの属性魔法に当てはまる」
「じゃあ、非属性魔法ってどんな魔法ですか?」
「空間魔法、時間魔法、治癒魔法、重力魔法などだな」
「先生、補助魔法はどうっすか?」
「補助魔法は属性魔法が大半だが、そうでないものもある。筋力強化は火魔法、俊敏強化は風魔法だが、治療魔法の中にも防御値を高める魔法があるからな」
へぇ、なるほど。
「そして、属性魔法にも種類がある。鏡の持っている光魔法は光の基礎属性魔法。さっき言ったみたいに、渦潮魔法は水の上位属性魔法。属性魔法は他に、複数の属性を持つ複合属性魔法と特殊属性魔法がある」
「つまり、私の光魔法より桃華の渦潮魔法の方が優れているってことですか?」
「いいや、そんなことはない。鏡、いま何種類の魔法を使える?」
「六種類ですね」
「そう。属性魔法は使いこめば使える魔法の種類が増える。そして、魔法の種類が増えたら魔力も上がる。それこそ強力な魔法も使えるようになる。上位属性魔法は最初から強力な魔法が使えるが、しかし魔法が派生しにくい。そして魔法が派生しにくい分魔力も上がりにくいという欠点もある」
それぞれ利点と欠点があるんだ。
「よし、じゃあ早速ダンジョンに行って魔法を使ってみるか」
三ノ瀬先生が私に提案した。
初めての魔法――大丈夫かな? ちゃんと使えるかな?




