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結局私は何もしないまま、石切神社の参道を歩いていた。
この先どうなるのだろう?
誰かに聞いてみたい。
前を見て歩くと、手相占いの店がいっぱい並んでいた。
そういえば、石切神社の参道って手相占いの店が集まっていることでも有名だったっけ。
相談してみようかと思って、財布の中をじっと見て、私は近くのつけもの茶屋に入ってソフトクリームを注文していた。
お年寄りが多い参道だけど、店内には地元の高校生らしい男女のカップルがスマホを弄りながらクリームあんみつを食べていた。
私もつられるようにスマホを取り出して、通知が届いていたことに気付いた。
「あ、チーム救世主の質問箱が開いてる」
ぽつりと呟いてしまった。
後ろの席でガタっと音がした。
振り返ると、さっきのカップルがいるだけ。
私が憧れている探索者パーティ、チーム救世主。
音速のくノ一アルファ、神に愛された剣士ベータ、風雷神の魔術師ガンマ、唯一無二ガンナーデルタ。
一人一人が一騎当千の高レベル探索者である。
チーム救世主のSNSでは、質問箱が設置されているが、質問を受け付けている期間は短い。
ダンジョン配信中以外で開かれるのは三週間ぶりじゃないだろうか?
スマホをテーブルの上に置いて質問を入力する。
えっと、回答してほしい人は『誰でも』。
『ダンジョンに潜って魔物と戦うことにしたんですが、殺されるんじゃないかと思うと怖くなってしまいました。どうすれば怖がらずに戦えますか?』
そこまで入力して送信ボタンをタップしようとし、手が止まった。
こんな質問していいのだろうか?
チーム救世主は日本を救った英雄だ。
私が求める答えが見つかるとは思えない。
やめよう。
そう思ったときだった。
スマホの画面に白いものがポトリと落ちた。
「あっ!?」
左手に持っていたソフトクリームが溶けていた。ベトベトだよ。
急いで食べながら、ティッシュがないかと鞄の中を探す。
ない、ない、ティッシュがない。
忘れてきたのかな?
鞄の中に入れたままにしていたD缶をテーブルの上に置いて、奥まで探すけれどやっぱり見つからない。
「これをどうぞ」
後ろにいた男子高生が見かねたのかウェットティッシュをくれた。
「ありがとうございます」
私はお礼を言って、ソフトクリームを食べながら手をスマホの画面を拭き――
「あ――」
間違えてさっきの質問を送信しちゃった。
どうしよ、これって取り消せないの?
あ、でも大丈夫か。
チーム救世主への質問は何百通も送られるけど、返事が来るのはほんの一部らしいし。
きっと返事はないだろう。
それより急いでソフトクリームを食べよう。
ソフトクリームを食べ終わってスマホの画面を見ると、私の質問が採用されていた。
うそ、本当に?
返事をくれたのはベータさんだった。
『死ぬのが怖いという気持ちがあるのはむしろいいことです。その気持ちを忘れたら、本当に危ない目にあったときに動けなくなってしまうから。ただ、死ぬ危険がある敵と戦うということは、俺が倒れたら仲間が危険な目に遭うんだって思ってる。そう考えると、怖くても不思議と身体は動くから』
怖いのは普通。
私が倒れたら仲間が危ない目に遭う。
脳裏にクラスメートのみんなの顔が浮かんだ。
あ、そうか……私が怖いって思ってたのって。
私は自分が殺されるのが怖いんだって思ってた。
でも、違った。
前回の探索では、私のミスでスミレちゃんが怪我をした。
私はきっと心の奥底で、自分のミスで誰かが死んだら……そんな風に考えていたんだ。
でも、ベータさんは逆だった。
仲間が危ない目に遭わないように考えると身体が動くって。
あはは、やっぱり私と全然違うよ。
ベータさんには全然敵わない。
でも、そういう風に考えられたら、きっと私は戦える。
「頑張れ! 私!」
私はそう言って立ち上がった。
そして、他のお客さんがいることを思い出して恥ずかしくなった。
あぁ、もう、なにやってるんだろう。
早く寮に帰って、ダンジョンでレベル上げをしよう。
そう思ったら――
「占いによると、そのD缶、水の張った洗面器の中に入れて五分くらいかき混ぜたら開くかもだって」
「え?」
さっきウェットティッシュをくれた男の人の声が聞こえて振り返っても、そこにはその男性も恋人の女の人もいなかった。
※ ※ ※
『よかったの? あんなこと言っちゃって』
『本当はよくないんだけど、俺の拙いアドバイスであんなにやる気になってくれたからつい。一応、占いの結果ってことで誤魔化したから大丈夫だろ? ここって占いの店多いし』
『それで誤魔化せるかな?』




