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ダンがく~dungeon high school~  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中


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 ダンジョン学園のダンジョンの四階層に私たちはいた。

 一番前ではゆかりんが、その斜め後ろに私、少し離れた後方にスミレちゃんがいる。

 戦っている相手はコボルトエースという二本足で立っている犬みたいな魔物。

 でも、本当の犬より怖くてかわいい感じは全くない。

 ゆかりんが剣で肉薄した距離にいたコボルトエースを斬ったところで、その陰から別のコボルトが飛び掛かってきたけれど、私がそのコボルトを槍で突く。


「桃華ちゃん、助かったわ」

「ゆかりん、まだもう一匹います」


 と私が言ったとき、私たちの横を矢が通り過ぎていって、矢がコボルトに当たった。

 スミレちゃんの射た矢だった。


「スミレの矢もだいぶ上達したなぁ」

「はい。最初の頃は迷惑を掛けました」


 スミレちゃんはコボルトが消滅して残った矢と魔石を回収する。

 最初の頃は矢の命中率も高くなくて、何度か私たちに当たりかけた。

 もちろん、そんなときに殺傷力の高い矢は使えなくて、(やじり)のついていない矢でしか攻撃ができず、当然そんな矢には殺傷力もないので戦力にもならない。

 でも、いまは矢の軌道も安定し、私たちが危険を感じるような攻撃もない。

 そのため、一週間程前から鏃のついた矢に変え、ようやくパーティとして安定してきた。


「そろそろ五階層に行けそうですね」


 スミレちゃんの矢が安定しているか確認するまで五階層に行くのは控えていた。

 五階層の魔物であるリザードマンは切れ味の鋭い剣を持っている。

 レベル20の最初の難関と言われている。

 レベル19の私たちにとってはちょうどいい相手かもしれない。

 ただ、一つ私には心配事があった。


「どうしたん、桃華ちゃん。なんか不安そうやけど?」

「えっとね、私、カエルとかヘビとか爬虫類があんまり得意じゃないんだよ」

「うちも得意やないなぁ」

「私も得意ではないですが、得意な魔物の方が少ないですね。それとカエルは両生類ですよ」

「……!? う、うん、知ってるよ。ちょっと間違えただけ。テストに出たら絶対にカエルは両生類って書いてるから」


 恥の多い人生を送ってきたと自負する私でも、その間違いはちょっと恥ずかしかった。

 私でも知ってることだから恥ずかしかった。


「そうやな。桃華ちゃんは本番に強い子やから、テストに出たときは絶対に間違えへんと思うわ」


 ゆかりん優しい母性に溢れた顔で言う。

 これだったら思いっきり笑われたほうがよかったかもしれない。


「カエルが何類かって問題は高校のテストには出ませんよ」

「わかってるよ! それより五階層に行こう!」


 私は恥ずかしさを振り切るように、五階層に続く階段を下りた。

 五階層に入って最初に宝箱を見つけた。

 ダンジョンの中に時々現れる謎の箱。

 中にはいろんなアイテムが入っていて、基本は深い階層の方が良い物が入っている。

 でも、たまには価値のある箱もある。


「わぁい、宝箱だ。今日は私の番だよね?」


 宝箱はみんなで交代して開けて、中身は開けた人の物と決めている。

 私はドキドキしながら宝箱を開けた。

 何が入っているのかな?

 浅い階層だと碌な物が入っていない。

 でも、美味しい食べ物が入っていることがある。

 例えばダンジョンの中で見つかるオレンジジュースは、一本千円くらいするオレンジジュースより美味しいらしい。

 

「何が出るかな?」


 開ける。

 中に入っていたのは、缶だった


「D缶だ! 初めて見た!」


 前にチーム救世主(メシア)さんの配信で見たことがある。

 中に何が入っているかわからないし、どうやったら開くかもわからない。

 昔は一本数千円くらいで販売されたけれど、最近は買い取り価格も上がって、1万円くらいになっている。

 でも、ダンジョン学園のダンジョンで出たものは販売することが許されていないので、売る事はできない。

 売れたとしても、初めてのD缶だし、記念に持っておこうかな。


 そう思って持ってきていたカバンに入れたところで――何か音が聞こえた。

 嫌な予感がする。

 そう思って音がした方を見たら、リザードマンがいた。

 しかも五匹もいる。

 やっぱり意地悪だよ、このダンジョン。

 普通、初めて見る敵は一匹ずつ出て来るものでしょ。


「みんな、リザードマンが五匹も!」


 一度逃げようかと提案しようと思ったが、


「戦いましょう。今の私たちなら勝てない相手ではありません」

「逃げた先で挟み撃ちになったら危ないしね」


 ゆかりんもスミレちゃんもやる気のようだ。

 こうなったら私も腹をくくって戦おう。


   ※ ※ ※


「山本さん、元気だしてください」

「そうやで、桃華ちゃん。勝負はうちらの勝ちやったやん」

「でも、私の攻撃が外れたせいで、スミレちゃん怪我して――」


 リザードマンとの戦いで、私の矢をリザードマンが避けて、一番後ろにいるスミレちゃんを狙って攻撃をした。

 結果、スミレちゃんは腕に大きな怪我をした。

 そのため、今日は早めにダンジョンを出た。

 本当は土曜日一日使ってダンジョンでレベル上げをするつもりだったのに、予定よりかなり早い。


「気にすることはありません。薬で治療して痕も残ってません。破れたジャージもポイントを使って元通りになりましたし」

「でも、その後、私、凄く取り乱しちゃって」


 スミレちゃんの血を見た私はパニックになって、リザードマンに攻撃することができず、その間、ゆかりんが残りのリザードマンの相手をすることになった。

 結局、スミレちゃんが持っていたナイフで応戦して襲って来たリザードマンを倒したんだけど、もしもあの時スミレちゃんが殺されていたらと思うと。

 ダンジョン学園だったら例え死んだとしても、身代わりの腕輪の力で生き返ることはできる。

 でも、他のダンジョンだったら。

 二階層でゴブリンに殺されそうになったときは単純に準備が足りていないだけだった。

 でも、今回は準備をしても怪我をした。

 ダンジョンは何があるかわからない。

 

「今日の戦いでみんなレベル20になれたことやし、明日の日曜日、約束してた通りてんしばダンジョンに行かへん?」

「そうですね。私ももう少し訓練室で矢の練習をします」

「桃華ちゃんもそれでええ?」

「う、うん」

「じゃあ、これからどうする? もしよかったら――」

「ごめん、ゆかりん。私、ちょっと用事があるから」


 私はそう言って謝った。

 本当は用事なんて何もない。

 ただ、用事があると言ってしまったせいで、寮でじっとしているのもよくない気がした私は駅に向かった。

 目的はないけど、どこに行こうかな?

 難波? 梅田? 天王寺……は明日行くから今日は行かないとして。

 と路線図を見て、「石切」という文字が目に入った。

 

「……そう言えば行ったことがないかも」


 石切といったら、私の憧れのチーム救世主が調査をした石切ダンジョンがある。

 行ってみようかな?

 私は交通系ICの残高を確認し、自動改札を抜けた。


 急行に乗って石切駅に、そこから歩いて石切ダンジョンの前に行った。

 石切ダンジョンの周りは元々建物とかほとんどなかったみたいだけど、その分いろんな屋台が並んで大盛況になっていた。まるでお祭りみたいだ。

 そして、そこに来ている人の半数以上はダンジョンの中へと向かっていく。


 みんな、よくダンジョンに行けるな。

 もしもあそこの中で死んだら、本当に死んじゃうのに。

 ここに来たら、チーム救世主みたいになれるかなんてバカなことを思ったが、結局何もない。

 私は弱い。

 私が弱くて私が怪我をするだけなら別に構わないし、その覚悟はできていた。

 でも、私のミスで友だちが怪我をするのはやっぱり怖い。

 カエルがどれだけ頑張っても爬虫類になれないように、私はチーム救世主のように強くなれない。

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