婚約
私はサバドール家に生まれたセシレーヌ。
階級は中流より少し上の貴族の家に生まれた。
私の運命の人との出会いの日はまだ三歳になったばかりの頃だった。
その時初めて会った相手の名前はアルバート。
彼の家は私家に比べて上位の貴族だった。
アルバートは、両家の皆が決めた婚約者だとお母さまから毎日聞かされていました。
会うまでは「どんな人かな」、「素敵な人だと良いな」と思い続けた居たのを思い出す。
三歳の頃私の世界の中で最も好きだったお父様に匹敵する気品や優しさがあれば良いなと思っていた。
でもその日会ったアルバートは私より二歳年上なのに、言い方は割委が子供に見えた。
いや、いや、あの頃はアルバートも五歳ですからね子供で当たり前ですよね。
でもね、その時、彼はなんか照れながら「アルバートだ、アルと呼んでくれ」と言った。
その時の顔や優しさの籠った仕草が可愛くて胸がキュンとなった。
もちろん私も負けずにお母さまと何度も練習したフレーズで挨拶しました。
「セチレーヌでちゅ、セシルと呼んでほしいでちゅ」
三歳児らしい挨拶をちゃんとしました。
その時のアルバートは子供だけど、よく見ると精悍な顔で言葉もはっきりしていた。
長く彼と居るほど私にとって彼は十分ドストライクだった。
アルバートは美味しいお菓子を先に私に勧めてくれる。
美味しい飲み物も淹れてくれる。
どんな時でもアルバートは|私を優しく優先的に扱ってくれる。
アルバートも私が練習したように婚約者とはそういう行動をするものだと教育されているのだろう。
私はその日アルバートの優しい気持ちに包まれて幸せな気持ちだった。
最初に合ったその日、別れ際にアル君は私にペンダントをくれた。。
「親愛なるセシルへ、愛をこめてアルよりプレゼントだよ」
「ありがとう」
私が今まで・・・わずか三歳までの少ない経験の中で、それまでのどんな友達にもいなかったタイプであることは違いなかった。。
アルバートとはその後も会い、彼は私と一緒に過ごしてくれた。
最初は言われるまま、意味も分からないまま。
周りの皆から婚約者だと言われていた。
その言葉をそのまま信じていた。
やがて私たち二人は結婚するという運命を信じていた。
二人は成長していくに従いお互いが気になって行く。
そして今、私は十二歳。
婚約者だということにも何も不満や疑問はなかった。
だって二人共、それが当たり前だと思っていた。
二人の仲・・・私はアル君と会うに度に、私のアル君への好意という感情は心臓のトキメキと共に高まって行く。
それは友達とも違う、親友とも違う。
もっと親密な関係に思える。
もしかすると親や兄弟とも違う感覚なのかな?
キットこれが愛かもしれない。
愛なんだ。
でも本で読む愛という感覚には、なんか違っている気もした。
本で読む結婚とは
「愛しているから結婚する」という感じだ?
でも今の私たちは二人は結婚することを既に決められている。
親同士、家同士、親戚同士、どこまでの話でそうなったのか分からないが
今の段階で婚約者という関係であり結婚することが決まっている。
最近アル君と目を合わせて話すことに気恥しく思う。
理由は簡単だ、それはアル君がとってもイケメンになったからだ。
最近周りの女友達がアル君と話しているとなんか苛立ちを覚える。
これは本で読んだ嫉妬という感情に違いない。
だとすればやはりこの感情は恋なのではないだろうか?
そして私は勝ち組、そうだ既に婚約者という関係を勝ち取っているのだから。
そのためだろう、多くの女子たちの妬みの視線を感じることもある。
「相変わらず凄いわね、なんか睨まれているわよ」
友達の貴族令嬢のイリアが声を掛けて来た。
彼女も親の決めた婚約者がいる。
ただし彼女は相手が気に入っていないようだった。
「睨まれるている?」
「感じない?妬みの視線、あなた達二人が仲良くしていると見ている女の子の視線が突き刺さっているわよ」
「そうなの?感じないわ」
本当は感じているが知らぬ顔をする。
「今は独り占めだもんね」
「今は?」
「そう今はまだ独り占めできるのよ」
「なんで今だけ?」
「親が決めた結婚なんて義務婚よ、本当の所、好きで一緒になったので無いからね、やがてほころびが出来るのよ」
「そんなものかな?」
「あなたはめぐまれているのよ・・・彼はイケメンだし」
「私なんて十五歳も離れた相手と結婚させられるのよ、考えられないわ、いや~~~考えただけでもゾッとするわ」
「でもお相手の方は良い人なんでしょ」
「採点すると30点ね」
「それは辛い採点ね」
「そうでしょ、酷い採点結果。家同士で決めたの結婚だけど・・・別れられないから大変よ」
「教会で結婚する以上別れることは出来ませんからね」
「だから、側室制度があるのよ」
「そうなの?」
「人が誰を好きになるかは神のみぞ知ること、後でもっと好きになる人が出来るかもしれない。
そんなときの抜け道なのよ」
「でも男の人だけの制度、ずるいわね」
「大丈夫、女はパトロン制度を利用するのよ」
「パトロン制度?」
「そうよ、既に夫になる人とは契約済なの、芸人団とパトロン契約をしても良いってね」
「そうなんだ・・・私たちはそんな契約していなわよ」
「そうね、貴方達は今のところ相思相愛なんだと思うわ」
「また今のところね」
「当たり前よ、ある人を『一番好き』なんてありえないと思わない?
もし言葉にするなら現時点で一番好きという言葉になるのよ。
もっと好きな人が現れないなんて言いきれないわ。
私なんて今でも一番好きではない人と結婚するんだからパトロン契約くらい安いものよ」
「ははは・・・」
笑うしかなかった、現時点で一番好きでも今は一番好きなことには変わりはない。
だけど、もし将来彼にもっと好きになる人が現れたら・・・
そう考えると震えてくる。
彼にとって、自分がいつまでも一番だという自信はなかった。
私は小さな人間なのだろう、ある日彼が側室候補だと女の人を連れて来たら、私は嫉妬に狂うだろう。