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第5話 二の舞の少女

 会長の肌の感触を脳内に強く記憶しつつ僕は、教室に入った。


それで、いつもの自分の席に座る。


いつも通り空席が目立つことに安心しつつ、


「ユウ君、ユウ君」


隣の席の二宮さんは、吐息混じりの声で僕を呼ぶ。


はい、もう普通じゃないこと起きてるぅー。


「ど、どうしたのかな、に、に、二宮さん」


「わた、わたし……うぅ」


赤面とどこか目線が定まらず、僕を見ながら足をモジモジさせる。


二宮さんは、小柄で線が細く身体で抱きしめたら壊れてしまいそうなカタチをしてる。人見知りというかちょっとシャイな所も別に変化はないけど、少し苦しそうに


僕の名前を呼ぶのがわかる。


「ほ、保健室いく?」


二宮さんは、首を振って両手で頬に触れた。


そして、僕を潤んだ瞳で見ている。


正直、やりづらい。


「ユウ君のこと……もっと……教えて」


上目遣いで見てくる二宮さんは控えめな性格なのと相まって、僕はどきっとした。


「う、うん」


という情けない返事にも二宮さんは顔をまた赤らませてはにかみながら笑った。その姿が優しくて可愛いかった。


これが魔法なら歓迎歓迎大歓迎だ。


「私、な、なんかおかしいの。ユウ君のこと……考えると……下のほうが……」


「ちょっええ?」


二宮さんが突然僕の膝に身体を預けてくる。


石鹸の匂いだろうか、柑橘系の匂いがふわっと香る。


「さわってほしいし、さわられたいの」


二宮さんの息遣い、心臓の音をダイレクトに感じる。うなじが妙にセクシーで


堪らない気持ちになる。


だから、うなじを人差し指でなぞってみる。


「あんっ」


二宮さんは感電したかのようにびくっと背中をのけぞらせる。


その姿がたまらず、つーっと繰り返してみると、


「あん、ああ」


と僕の膝の上でうなじがスイッチかの様に小刻みに二宮さんはゆれた。


その間、二宮さんは下半身を僕の膝にこすりつけたり、僕の背中をぎゅっと抱きしめてくる。お互いの肌と肌がぶつかりあって、互いの汗を感じていた。


ああ、なんて素晴らしいんだ。これがリア充なのか!(いや世界はファンタジーだけども)


突然僕の首が熱を持ち赤い鎖が浮かび上がる。


「成功のようだな、早く帰ってこい」


会長、乾燥した言葉で放つ。


「こんなんでいいんですか、僕はまだやれますよ」


「いいから! 早くかえってこい!」


会長、語気を強める。


「あ、はい」


会長は怒り気味なのでしぶしぶ、二宮さんを膝からどけた。


「あ」


二宮さんは残念そうな顔をして、何とも言えない空気が残った。


怒ってるかな、会長……と思いつつ生徒会室に戻ると


「あ、ユウ書記お疲れ様」


と意外にもすました顔だったので僕はほっと一息した。


「しかし、こんなんでよかったんですか」


「ああ、昨日私が使ったのは古からある魔法だ。そして、二宮にも試したが


やはり成功らしい」


「おぉ、なんかあっけないですが、これで人類滅亡は回避できましたか」


「いや、まさか。まだこんなの入口にすぎない。だが、慎重に行う必要がある。


魔法をかけた後に、副作用でどうなるかが未知数なんだ、私にはあれから異常がおきてなくとも、二宮には何か起きてしまうかもしれない。だがこの方法でしか、私はわからなかった。君には迷惑をかける、すまない」


「そんな、会長のお役に立てるなら書記冥利に尽きるってもんですよ」


こんな幸せな体験ができるなら歓迎歓迎大歓迎!


「そう言ってくれると助かるよ。今回のでこの魔法は、人の性格によって引き起こす行動が違うってことだ。思い出してみてほしい」


会長とのあの出来事を思い出す、なんとも下半身が落ち着かなくなってくる。


「二宮には効果がありすぎた。あそこまで人が変わったかのようにユウ書記を求めるとは……種の生存に関わる魔法だからリスクを背負っているとは思っていたが、これは人格にすら影響を与えてしまうかもしれない。まだ、一般生徒には使用しないほうがいいな」


「あの二宮さんは、一体どうしたんでしょうか」


「そのことだが」


と会長が何かを言おうとしてる間に、生徒会室がノックされた。


生徒会役員はまずノックしないからだ。


トントン、軽いノック。そして直様トントントンとノックされ、


トントントントントントンと激しくノックがされる。


どんな人がノックしてるのかわからず、空気はひりつく中


鳴り止まないノックの嵐がふりかかる。


「ユウ書記、君の来客だ。でたまえ」


「いや、出ろっていいましてもね、こんな怖いお友達、僕にいた記憶がないんですけど」


「いいや、君の客だよ、早くでたまえ」


「う、うぅ……わかりましたよ」


しぶしぶ僕は、狂気のノックが降り注ぐ扉の前に立ち、開けた。


「あ」


その狂気の主と目があった。そして直様、その主に僕は押し倒された。


「ユウくんだ……ユウくんユウくんユウくん、私のユウくん」


「えええ、ちょ、どうしたの。二宮さん」


「今はアーシアって呼んで」


「アーシア……ちょっとどいてくれるかい」


「ダメ……はなさない」


がっしり僕をアーシアはホールドしてしまっている。


女性の力とは思えないほどで全く動けない。


「か、会長。これはどういうことなんですか」


「ふむ、やはりそういうことなんだよ」


「いやそんな自己完結しないでくださいよ!そういうことって


どういうこと!」


「先ほどの魔法の副作用だよ。人の感情というのは一つで構成されてるわけではない。喜怒哀楽は密接な繋がりがある、羞恥もまたそうだ」


「それで、つまりアーシアはどういうことなんだってばよ!」


「簡単にいえば、二宮アーシアは君にほれていたということだ」


「そんな、き、危険な魔法ならもっとテストしてくださいよ」


しがみつくアーシアをなんとかはがそうともがく。


「だから、極めておとなしくリスクが少ない相手を選んだのだろう」


「そんなクラスメイト、しかも隣の席ですよ」


「それが一番手早いのだよ、効果もわかるし」


「惚れる魔法ってことですよね、これ」


「いや、それは違う。二宮アーシアは元から君にほれていた。


ところが今回の魔法で増幅されて、ここまで行動的になった」


「人格までも変えてしまうなんて、危険じゃないですか」


「別に変えてなどいないさ。ただ刺激を与えただけだ。羞恥の複雑さが一つわかったな。」


「そんなさらっと答えないでくださいよ、どうしたらいいんですか」


「まあ、慌てるな。魔法をかけよう」


「これ以上ひどくならないですよね」


「静かにしろ、集中がそがれてミスしたらどうするんだ」


「答えてくださいよおおおおお」


そんな僕の叫びも虚しく、アーシアに魔法がかかる。


すると、僕にしがみついていたアーシアの力は弱まった。


「ユウ君。二人で話せるかな」


「うん、わかった。会長、ちょっと席外しますね」


「それはいいが、大丈夫か?」


「……多分、大丈夫です。会長の魔法を信じます」


「そうか、無理はするなよ」


「はい」




僕はそのまま、屋上にアーシアを連れ出した。


ここは、教室からも離れていて尚且つ、生徒会室の上に位置しているので


なにかと都合が良い。


といっても、上空を箒で飛ぶ人たちは見えるけど、あえて屋上に着地してくる人もいない。


僕がこの学校に入学してきたときに、一人になれる場所を探していた結果ここにたどり着いたんだけど。


「こんな場所あったんだ、景色がきれいだね」


「僕のお気に入りの場所だよ」


「へえ、私も今度から使おうかな」


「うん、いいと思う」


途端に静かになる。風が流れ、それを感じ取り、どこからか運ばれた緑の匂いを香って、僕らはリラックスする。どれくらいの時間が流れただろうか。


アーシアから口を開いた。


「まずはごめんなさい。私、とても恥ずかしいこと、しちゃってたよね?」


アーシアは上目遣いで僕を確認する。


「ううん、それって、会長の魔法のせいなんだよ」


「え、どうして、会長さんがそんなことを?」


「なぜ、アーシアにしたか僕にはわからない、だけどごめんね」


「あ、名前で呼んでくれるんだ」


「アーシアがそういってたし」


「う、うん。嬉しいから。それとさっきユウ君に言ったこととか、抱きついたこととか忘れてくれる」


「勿論、あんなのひどいよね」


「そこまでは思ってないよ、ただ魔法でそうなるのはなあって」


「え」


「じゃ私そろそろ帰るね」


「う、うん。さようなら、あ、これからも隣の席同士よろしく」


「うん、またね」


アーシアの後姿を見届けて、僕は屋上の風景を眺める。


良い方向に変わったってことでいいんだよな?


しかし、僕は相変わらず女性がよくわからない。


なんでアーシアは吹っ切れたのか、普通なら会長に怒るとこなんじゃないかとか


思ってたけど、もしかして会長はこうなる計算をしてたのかな。


それは、考えすぎか。


羞恥の魔法でこんなことに。ならないよなー?


元のユウだったら明白に解決したのかな。


そんなこと考えても仕方ないか、今は俺がユウ=ニコールだからな。

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