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転生侍女シリーズ

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

作者: ちゃんゆ

「本日よりお嬢様の侍女になりました。ムリス男爵家三女のモイスチュアでございます。よろしくお願いいたします」



そうご挨拶し、顔を上げて目の前のお嬢様を見る。

さっきから悪寒が…。あれ?ちょっとこの部屋温度低くない?


目の前には、前世のとあるホラー映画で観客を恐怖の底に叩き落としたレジェンド、貞◯がいた。いや、貞◯じゃないんだけど。いや、これは貞◯だわ。うん、貞◯って事にしとこう。


悲鳴を上げなかった私を褒めてもらいたい。前世でホラー映画は大の苦手だったんだから…。子供騙しなお化け屋敷ですら、膝がガクブルになるくらい苦手なのよ。なのに目の前にはリアル貞◯って…エステティシャンとして、侍女としての矜持で堪えきった。



「…………よ…ろし…く……」



ポソポソと蚊の鳴くような声で、辛うじて聞き取れる程の挨拶だった。



「侯爵さまよりお嬢様のお手入れの依頼をいただきました。本日より全ての生活の見直しと、イメチェン含めお嬢様には頑張って頂きます。宜しいですね」



「あ…あの……わたくしは…どうせ…何をしても…一緒ですもの…」



「どうせ、わたくしなんて…など今後一切、ご自身を卑下する言葉は発さない!!そう誓って頂きます!!」



「え…で…でも…わたくしなんて…何をしても変わらない…醜いと………。こ…婚約者にも…蔑まれ……その姿を…出すなと…言われて……」



「醜いのは容姿ではありません。そうやって卑屈になり自身を卑下するその心です。気持ちが醜くなっているのです。ですが自信がなければいけないのも事実です。ですから私が来ました。お嬢様の体と心を変える、それがエステティシャンとしての私の矜持です」



「こんな…わたくしでも…変われるのでしょうか…」



「変われます。変えてみせます!ですから、私の言うことを必ず守って頂きます!宜しいですか?」



「わ…わかりました…」



自信なさげにおどおどと頷いたお嬢様を見て、その婚約者の放った言葉に私は怒りを感じていた。いくら婚約者とはいえ、女性に投げかける言葉じゃない。酷すぎる。

こうなったら、劇的ビフォーアフターで婚約者をお嬢様にメロメロの骨抜きにしてやるわ!!私の手にかかれば、公爵家のボンボン如き!!完膚なきまでにお嬢様の虜にして跪かせてやるわー!!!みーてーろーよー!!!女の執念、その身に刻み込ませてやるー!!



ふははははははは!!と魔王のような笑い声をあげていたらしく。ぷるぷると震える仔ウサギのような完全に怯えきった貞◯…いや、お嬢様の視線でハッと我に返った。



イケナイ。私ハ侍女。魔王チガウ。









――――――――――――――――――――――――





前世の私はエステティシャンだった。それも凄腕でこのサロンにはゴッドハンドがいると、口コミでどんどん顧客が増えるほど。


ボディもフェイシャルも施術に入るのは大好きだった。

ボディの施術は1回で目に見える結果が出るのが楽しすぎた。解剖学を勉強し、骨格や筋肉、血管にリンパを指先で感じながらその人それぞれに合わせてお手入れをした。だから結果の出る早さも段違いだった。

フェイシャルの施術も1回で目に見える結果を出すのが私のポリシーだった。首回りから頭皮の凝りや張りをほぐし、その後に顔の筋肉、リンパ、骨格を触っていく。ただの気持ちいいだけのフェイシャルではなく、確実に変化が分かり3~4回の施術で周りから痩せた?と言われるほどでエステ以上整形未満だと言われていた。



この世界に転生したとき、化粧品類が全くといっていいほどない事に愕然とした。クレンジングもない、化粧水もない、クリームもない、乳液もパックもないないない!!!それでいいのか!!世の女性たちよ!!いや、いいわけないだろ!!!


子供の私が野山を駆け回り集めた薬草や実、穀物や野菜類などで、化粧水やクリームなどを作り上げた。最初の実験台は当然お母様や我が家の使用人たちだった。特に使用人たちは日に焼けて乾燥気味だったので効果は覿面(てきめん)だった。


ある時家に出入りする商人から、魚も住まない死の池があると聞いた。ま…まさか…。ここにもあるの?()()が!?その場所を聞いて、馬で単身爆走した。1週間かかってたどり着いたそこに、前世では有名すぎる美容では欠かせない、()()を見つけた。


私は()()をそれを持ち帰り、お母様のお手入れの時に全身に使ってみた。お母様の感動たるや、それはもう凄かった。その日の夜会で、とぅるんとぅるんの全身艶やかなハリと肌理(きめ)で会場中のご婦人方の目を釘付けにした。それはもう、その秘密を探ろうと血走った目で詰め寄られたと言っていた。やっぱりどこの世界でも、女性の美にかける気持ちは変わらないんだなー。


それから私は、商会を立ち上げ美容に特化した商品を取り扱った。当然子供の私ではダメなのでお父様に協力してもらったけども。

商会ではクレンジング、ウォッシング、化粧水、美容液、乳液、クリーム、薬草パックなどを取り扱い、飛ぶように売れた。

そして()()…そう、死海(デッドシー)の泥を使ったマッドパック。これは取り扱いが難しいので私が直接施術する人にしか使用しないスペシャルケアとして、知る人ぞ知るお手入れとなっている。

よく肌の状態や体調などを見ながら使用しないと、痒みや赤みが出るため見極めが難しいから。



そうして、エステティシャンに必須の化粧品類を手に入れた私は自重することなくその腕を振るうことができるようになったのである。








――――――――――――――――――――――――






「さぁ、お嬢様。まずはその髪をなんとかしましょう。顔を髪で覆うと、肌を刺激して余計肌が荒れます。また荒れた肌が、髪についた雑菌で炎症を起こす場合があります。施術期間中は肌に髪がかかることがないよう、お顔をしっかり出して頂きます」



「えっ……でも…。わたくし…もう何年も顔を出してこなかったので…こ…こわい…それに…肌も汚いし…醜いもの…」



「まずは信じてください。そして毎日口に出して言いましょう。私は綺麗になる!と」



「わ…わたくしは…綺麗に…なる…」



「そうです。そうやって自分に言い聞かせていきましょう。そしてリラックスして施術を受けてください」










「ヒッ!!い…痛いですわ!!い…いたただだだだ!!!」



「そうですねー、痛いですねー、はい、次のココも痛いですよー」



「いたたたたたた!!ひぃー!!」



「なんで痛いかわかりますか?体の中のゴミを集めてくれる道が詰まっちゃってるんです。それがリンパというんですけど、ここの鎖骨のところに全部集まるんです。そこが詰まってると体全てのリンパが滞って老廃物が溜まるのでここは痛くても我慢なんですよ。だんだん痛いが痛気持ちいいになって、気持ちいいに変わってきますので、それまで我慢ですよー」



「り…リラックスなんて!!無理ですわ!!気持ちいいなんて!!ならないですわ!!いっ!いたたたたた!!!」



「我慢ですよー、今は忍耐の時期ですよー」












「わたくし…コレは苦手ですわ。どうしても食べなくてはダメですか?」



「そうですね。お嬢様の偏食が主な原因でお通じが良くないんですよ。しっかりと腸内環境を整えれば、お肌も自然と綺麗になっていくんです。腸内の菌の殆どが日和見菌(ひよりみきん)なんです。その時沢山いる菌に味方しちゃうんです。善玉菌をたくさんにして日和見菌(ひよりみきん)を善玉菌の味方にしましょう。食生活は大事ですよ」



「そうなんですね。わかりました。頑張って食べますわ」









「それは…なんですか?わたくしには泥に見えるのですが…。それを全身に塗りますの?」



「そうですよ。この泥はその辺のただの泥とはわけが違うのです。ミネラルが豊富に含まれており、このトロリとしたきめ細やかな泥が毛穴の奥の汚れまで吸着してくれます。また殺菌効果が強いですのでニキビ菌の殺菌、そして肌へのミネラル浸透。この泥を落とすとおそらく感動のあまりずーっとお肌を触っていたくなりますよ。楽しみにしててください」



「顔だけでなく全身に塗りますの?」



「私の(前世の)心の師、とあるファビュラスな姉妹がおりまして。そのマーベラスなお姉さまが仰いました。『わたくしは、全身がお顔です』と。全身が!!お顔なのです!!!お顔と同じように、区別することなく!全身くまなくお手入れすること!!これが本当の美!!わかりますか?」



「な…なるほど…?わ…わかりましたわ…?」





ファビュラスでマーベラスな姉妹の話をした私の余りの熱の篭りように、お嬢様がドン引きしていたなんて私は全く気付いてなかった。









――――――――――――――――――――――――







爽やかな晴天の中。艶やかなサラサラの黒髪に紫水晶のような瞳、透明感のあるシミひとつないお肌、うるうるぷるぷるな桜色の唇に、ほんのりとピンクに色づく頬。何よりもその美しさを際立たせる内側から溢れ出す自信。


わずか4ヶ月前に出会った頃の貞◯と大違いである。


私の施術を受け続けた結果、劇的ビフォーアフターを遂げたお嬢様。その施術中に痛い痛いを連発し、大きな声を出し続けた弊害なのか、とてもしっかりと腹から声が出るようになった。蚊の鳴くようなポソポソと話をしていたお嬢様はもうどこにもいない。


顔を隠すこともない、背筋もピンと伸びて全身から滲み出る気品と自信により、周りの男性陣がソワソワしている。


そして私たちの目の前には、頬を朱に染めた公爵家のボンボン、もといお嬢様の婚約者の姿。人が恋に落ちた瞬間をこんな間近で見れるなんて思わなかったわ。



「美しい御令嬢。ぜひ私にあなたの名を教えていただけませんか?」



完全に色ボケした公爵家のボンボンの横には、推定ヒロインが顎が外れそうなほどポカーンと口を開けてこっちを見ている。


あれ?推定ヒロイン、次は公爵家のボンボン狙いだったのね。ってことは、ウチのお嬢様ってば根暗な悪役令嬢役だったってこと??陰気なオーラを出しつつ生霊となってヒロインを呪おうとするリアル呪怨、あのホラーな悪役令嬢???あらー全然気づかなかったわー。



「いやですわ。わたくし、あなたの婚約者ですよ?」



そう答えた瞬間、隣の推定ヒロインと同じくらい顎が外れそうなほどパカーンと口を開けて固まった。

仮にも公爵家の人間がそんな間抜け面していいの?



ウチのお嬢様の可憐さと清楚さと美しさに平伏すがいいわ!!暴言吐いたその口でどんなことを言うのか楽しみよのーう。


ふふふふふ…と、低い地の底を這うような笑い声が出てたようで。

イケナイイケナイ。私ハ侍女。魔王チガウ。



「は?え?う…嘘だろう?何でアレがこのような美しい女性になるんだ!?」



「まぁ、わたくしのことを美しいと仰っていただけますの?」



「と…当然だろう!誰が見ても美しいと言うだろう!!本当に…どうやって…?」



「それは、わたくしの侍女のおかげですわ。お陰で自信がつきましたの。わたくし、あなたの隣を歩くことは許されますか?」



「も…もちろんだ!!そなたの努力を尊敬する。こんな短期間で変わるほど、とてつもない努力をしたのだとわかる。その頑張りは尊敬に値するよ。かつての愚かな私をどうか許してほしい」



「謝罪を受けとりますわ。あなたのために、少しでも美しくなれるよう頑張って本当によかったですわ」



ふふっと笑った笑顔に、完全ノックアウトのボンボン。顔が真っ赤で鼻血出てますよー。

隣でイチャイチャし始めた婚約者の二人を呆然と見つめる推定ヒロイン。何だかかわいそうになっちゃったけど…人のものを盗る、ヨクナイ!






そして私は…

侯爵家での依頼を完了し、次なるお屋敷へ…


さぁ、次はどんな方かしら?

楽しみだわ…






ー完ー











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― 新着の感想 ―
[一言] 続きがあった…だと。 推定ヒロインちゃん強く生きろw またまた面白かったです。
[一言] ビフォーアフターはぜひぜひ絵が欲しいです絵が! だから、アニメ化が…五分アニメでいいからあうう
[一言] 面白かった〜 是非ワンクール分連載してアニメ化して欲しい 指をコキコキ鳴らしながら決め台詞とか魔王の高笑いとか妄想が止まらない
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