第16話 ルッカとシエラ【挿絵入り】
—— オハイ湖 魔神教アジト 実験場 数分前 (クエスト20日目)——
先ほどから耳の奥からキーン・・・と不思議な音が聞こえる。
視野が凄く狭まって、裏切者のこと以外目に入らない。
でも、裏切者はこちらを振り返らない。
悔しい・・・・・・・・・
ルッカの目から涙が零れ落ちる。
こんなに辛いのに・・・
こんなに傷ついているのに・・・
許せない・・・
許せない許せない許せない・・・
許せない許せない許せない許せない許せない許せない・・・
先ほどのユージンの話が本当なら、彼女はジルベルトも殺している。
お姉ちゃんの後輩を・・・。
きっとジルベルトは口封じのために殺されたんだ。
お姉ちゃんと魔神教の関わり彼女が調べていたからだ。
・・・どうしてそんな酷いことができるの?
なぜ仲間を裏切ることができるの?
『・・・決まってるでしょ?』
耳鳴りがする中、その声だけがやけにクリアに聞こえた。
ルッカの心の中に、まるで水溜まりの中に一滴の水滴が落ちたように・・・波紋のように声が響き渡る。
自分の声だが、凄く落ち着いた声だ。
その声は余裕があって、どこか冷たい。
でも混乱したルッカの耳にスッと自然に入ってくる心地の良い声・・・。
先ほどから自分の心の中で投げかけた言葉を鏡のように投げ返してくる言葉が、徐々に「自分の言葉」を持ち始める。
まるで心の中にもう一人の自分がいるかのように・・・。
ルッカが意識し始めると、それは徐々に白黒反転したようなルッカの姿をして、心の中に浮き出してくる。
それは白い肌に、漆黒の髪、ピンク色の瞳。
黒いステルスローブを羽織っている。
爪には真っ黒なマニキュア。
表情は幼い顔立ちなのにゾッとするような色香があった。
『・・・グラシアナとお姉ちゃんは繋がっているのよ』
突然心の中に現れた黒いルッカは、ルッカを背中から優しく抱きしめる。
「・・・なんで?」
ルッカは振り返らず、そのままもう一人の自分に問う。
『魔神教だから』
もう一人の自分はルッカの耳元で囁いた。
「・・・!?・・・そんなの・・・そんなのわかってるよ!!!」
『違うわよ。そうじゃない。・・・私は貴女なんだから、わかってるでしょ?』
もう一人の自分はクスリと笑って、ルッカの言葉を否定する。
単純に魔神教だからグラシアナとヘレナが繋がっているだけではない。
もう一人の自分は「ヘレナがグラシアナを送り込んだ」と言いたいらしい。
「・・・なんのために?」
ルッカがもう一人の自分に警戒しながら尋ねる。
彼女は「わかってるくせに・・・」と艶めかしく笑う。
自分と同じ顔がそんな表情をするのはとても違和感がある。
『貴女のことが嫌いだからよ』
「!? ・・・そんなこと、ない!!!」
ルッカは叫び、全力でもう一人の自分の言葉を否定する。
それだけはあり得ない。
お姉ちゃんが私のことを嫌いだなんて・・・。そんなこと・・・。
『ない・・・、かしら?本当に?』
黒いルッカはクスクスと笑う。
『ねぇ・・・ジルベルトから最後に教えてもらったこと、覚えてるでしょ?』
黒いルッカはルッカを抱きしめながら囁く。
『・・・君のお姉さん———ヘレナは「魔神教」に関与している疑いがある』
黒いルッカはジルベルトの声色を真似る。
イメージの中なので、完全にジルベルトの声で再現される。
・・・忘れるわけがない。忘れられるはずもない。
『そこで、貴女は気付いたよね。・・・里を襲撃したのは魔神教の奴らだけど、お姉ちゃんがそれに加担していたこと・・・』
「!?」
ルッカは目を見開く。
『・・・なんでそれ、それ以上考えるの、やめちゃったの?』
心の中のもう一人の自分は的確にルッカの無意識に抑圧していた部分に触れる。
『お姉ちゃんがルッカを残して里を滅ぼす理由は・・・なに?その後なぜ貴女の前に姿を現さないの?』
「や、やめて・・・」
ルッカは首を振る。
考えたくない。
これ以上・・・考えたくない。
耐えられなくなる・・・。
里を失い、姉を失い、仲間を失い、そしてグラシアナにまで裏切られ・・・
これ以上・・・もう・・・
黒いルッカは微笑んで、しかし、容赦なく続きを口にする。
『貴女が憎いからよ。ルッカ・・・』
「!?」
ルッカは口を押えて後ろを振り向く。
黒いルッカは微笑み、『わかってるでしょう?』と囁く。
「そんなわけ・・・ない・・・・・・・・・そんなわけ・・・」
『あるわよ。・・・じゃあなぜ貴女だけを生かしたの?』
「それは・・・」
『生かして貴女を苦しめるために、でしょう?』
ガクガク、と震えるルッカの肩に黒いルッカは優しく触れた。
「・・・ッ!?ちがッ・・・それは・・・それはお姉ちゃんのことだからなにか事情が・・・」
ルッカはそれを振り払いながら叫ぶ。
『・・・「事情」?』
黒いルッカは首を傾げる。
『「事情」ってなにかしら?』
「う・・・」
『一体どんな事情があるとお姉ちゃんは私たちの里を滅ぼすわけ?』
「ま、魔神教に・・・お、脅されてる、とか」
黒いルッカは『ハッ』と吐き捨てるように声を上げ、『それ本気で言ってる?』と笑う。
『貴女がもしお姉ちゃんだったら、脅されてお父さんもお母さんもシイナも皆・・・殺す?』
「・・・・・・・・・ッ!!!」
『おめでたいわね。貴女は。・・・本当におめでたい。だからお姉ちゃんにもグラシアナにも騙されるんだ!!!』
黒いルッカは吐き捨てるように言い放った。
『・・・いつまでそうやって真実を見て見ぬフリするつもり?』
黒いルッカは冷たい目でこちらを睨みつける。
「う・・・うううううぅぅぅぅぅぅ・・・」
ルッカは涙を流す。
「それでも・・・信じたい・・・信じたいんだよぅ・・・」
声を上げて泣き崩れる。
限界だ・・・。もう限界。
やめて・・・これ以上は・・・辛い・・・。辛いよぅ・・・。
『・・・可哀そうな子』
黒いルッカはそう呟くとルッカを優しく抱きしめる。
嫌なことしか言わない筈の彼女だが、なぜか身を委ねたくなるような魅力がある。
ルッカは黒いルッカの抱擁に抗えず、されるがままになる。
『ねぇ・・・ルッカ。私は絶対に貴女を裏切らないわよ。置いてもいかない。貴女を寂しくさせないわ』
その言葉は・・・
その言葉は今のルッカにはとても魅力的だった。
自分を置いていかない。寂しくさせない存在。
里を出てから彼女は心の拠り所を求め続けていた。
それを満たしてくれたグラシアナが裏切った。
もう彼女が頼れる存在はどこにもいない・・・。
だから嘘でもいいからその言葉にすがりたくなった。
「・・・・・・・・・本当?」
ルッカは肯定するとわかりきっているのに、その質問を投げかける。
黒いルッカはクスクスと笑う。
『ええ、ええ・・・だって私は貴女だから。自分を裏切ることなんて、できないでしょう?』
「・・・ッ!!」
そうだ。彼女は裏切らない。
絶対に裏切らない筈だ。
自分は自分を裏切ることなんてしない。
なぜなら黒いルッカもまたルッカなのだから・・・。
ルッカは黒いルッカの背中に自ら手を回し、抱き返す。
「・・・本当に?」
それでもまた聞いてしまう。
「本当だ」という言葉が欲しくて・・・。
自分を肯定してくれる言葉を囁いてくれる存在が欲しくて・・・。
『本当よ・・・貴女を孤独になんてもうさせない』
「約束できる?」
彼女は欲しい言葉をくれる。
当然だ。
自分自身なのだから・・・。
『約束しましょう。・・・ねぇ、その代わりお願いがあるの』
黒いルッカは頷き、そしてルッカに優しい声音で囁く。
「?」
ルッカは黒いルッカの身体から顔を離し、顔を見つめる。
「・・・なに?」
『私にも名前を頂戴。お互い、ルッカじゃ、お話しにくいでしょ?』
黒いルッカはルッカの指に自分の指を絡めて微笑む。
『お願い』
ルッカは「いいよ」と快諾し、黒い彼女に相応しい名前を考え始める。
名を与えるとは、その者の存在を認め、世界に居場所を与える儀式だ。
人は名前をもらって初めて存在を認知される。
言わば名前は自分の分身。
通り名やあだ名は結局「自分そのもの」を示す記号に過ぎないが、自分の本当の名前が2つある場合にはそれは別の意味合いを持ってくる。
即ち、自分自身の否定。
極限に追い詰められた精神状態の中で、自分を保つために生み出した新しい人格に名前を付ける。
それは自分の中にもう一つの人格を生み出すことを認めるという非常に危険な行為だ。
しかし、ルッカはその危険さを知らなかった。想像すらできなかった。
人格を生み出すのは簡単でも、生まれた人格が一度自我を持ち始めたら、それを消すことは容易でないということを・・・。
「・・・「シエラ」はどう・・・かな?エルフ語で「夜」って意味なんだけど」
ルッカはしばらく考えた後、名前のアイディアを口にする。
黒いルッカは『シエラ・・・シエラか・・・』と口の中で何度か自分の名前を復唱する。
『・・・うん。気に入った。私はシエラ!ねぇ、ルッカ。私の名前を呼んでみて』
「・・・シエラ」
ルッカは恐る恐る黒いルッカの名前を呼ぶ。
シエラは『よろしくね、ルッカ』とニッコリ微笑んだ。
その時、「ルッカ!」と現実でオルロから声がかかり、意識が引き戻される。
「?」
「・・・は・・・ちょっと無理そうだな」
オルロはこちらを見て首を振り、そしてヴァルナの方を心配そうにのぞき込む。
意識がはっきりしない。遠くで起きている出来事のような感覚だ。
起きているのに夢を見ているような現実感の無さ。
「大丈夫じゃ。こんな時にこそ薬草はある」
ヴァルナが薬草を取り出し、それを口に含む。
声が遠い。透明の壁が1枚、間にあるかのようだ。
「ユージン、大丈夫か?」
オルロがユージンにも声をかけている。
ユージンは地面に手をついてえづいており、かなり苦しそうだ。
「ルッカ・・・」
透明の壁の向こう側から、再度オルロがルッカの顔を覗き込んだ。
『ルッカ、オルロが心配してるよ?』
シエラがルッカに返事をするように促す。
「・・・大丈夫だよ。オルロ」
ルッカはオルロに笑顔で返事をする。
シエラが共にいる。
そう考えただけで先ほどまであった孤独と不安が嘘みたいに落ち着いていく。
「・・・姐さんのことは、これを片づけてからにする」
そう・・・少なくともロザリーとかいう魔神教の幹部は殺さなきゃ。
姐さんのことはその後だ。
どういう仕組みかわからないけど、今の姐さんはパーティの誰よりも強い。
この力を利用しない手はない。
魔神教は全員殺さなきゃ。
そのためには使えるものはなんでも使う。
『大丈夫?辛くない?』
シエラがルッカの傍で心配そうに声をかける。
「・・・うん、大丈夫」
ルッカは声に出してシエラに返事をする。
『オルロやヴァルナ、ユージンだってどこまで信じられるか。・・・また裏切られるかも』
シエラはパーティを見て疑ってかかる。
シエラの心配ももっともだ。・・・でも、大丈夫。彼らはきっと大丈夫。
「・・・ううん、私、信じてるもの」
ルッカはシエラに返事をした。
オルロがこちらを見て、変な顔をしたような気がしたが、気のせいだろう。
・・・もしなにかがあってもシエラがいる。私にはシエラが。
お姉ちゃんやグラシアナが裏切っても、私には絶対に私を裏切らないシエラがいる。
ルッカはそう考えると気持ちが安らぐのを感じた。
戦闘が始まり、ヴァルナとグラシアナとオルロが魔神教の幹部たちと戦いを開始する。
グラシアナは今まで隠していた力を使って、戦っている。
強い・・・。とても強い。
あのヴァルナやオルロでさえ霞んでしまう程に強い力だ。
ルッカはそれを離れたところから見て、唇を噛む。
心の底から怒りがこみ上げてくる。
・・・あんな力が・・・
あんな力があったなら・・・
なんで今まで隠していたんだ!!!
これまでの様々な戦いが走馬灯のように思い起こされる。
あんな圧倒的な力があったら救えた命が沢山あった筈だ。
キーロン、フルール、モーリッツ戦で死んでいった名前も知らない人たち・・・ジルベルトの仲間たちも・・・。
私だって「黒目化」して死にかけることはなかった筈だ。
そうしたら私を助けるために戦って命を落としたというボリスさんもヨドークさんも死ぬことはなかった。
オルロだって両足を失わなかったかもしれない。
誰のせいだ?誰のせいだ?誰のせいだ?
誰のせいだ!!!!
『決まってるじゃない。あの女のせいよ』
シエラがルッカの心の内にわき上がる激情に対し、返事をする。
『持っている力を隠して使わない。・・・それだけでも罪よ。でも、考えてみて?彼女の罪はそれだけかしら?』
オルロが「透明の剣」でロザリーの顔に斬りかかるのを見ながら、シエラの言葉に耳を傾ける。
ロザリーの仮面が割れ、30代半ばから後半くらいの女性の顔が現れる。その顔に刻まれた傷は異常な再生力をもってすぐに塞がっていく。
彼女が魔神教の幹部か・・・と思いながら、気になる発言をしたシエラに問う。
「・・・どういうこと?」
『グラシアナが魔神教であるってわかった上で・・・今までのことを振り返ってみましょうよ』
シエラはルッカに前に立って手を広げる。
『・・・これまで戦った「角つき」や「羽つき」、それを作った魔神教の幹部と戦っている現状は果たして偶然なのかしら?』
「・・・偶然じゃないの?」
ルッカは眉を顰める。
『・・・そうかしら?ユージンはどう考えてたっけ?』
「!?」
「角つき」を撃退した後、ユージンは魔神教の仮面をギルドに提出して、反応を見ていた。もう1枚ある仮面を隠した上で・・・。
そして彼はこうも言っていた。
———『グラシアナ、変だと思わないか?』
———『これだけ派手に動いている連中が今まで一度も明確な証拠を掴まれていない。それはなぜだろう?』
———『ギルドがもみ消しているからだ。・・・俺はかなりの確率でその可能性があると思っている』
そうだ・・・。
そして実際、ゲブリエールは魔神教についての情報についてこのように言っていた。
———『薄々勘付いているかもしれないが、これは世界があえて隠している情報だ』
「ギルドは魔神教の情報を秘匿していた・・・。で、でも。それって冒険者が魔神教に狙われないためって話だったんじゃないの?」
ルッカはシエラに今までそう信じていたものをそのまま伝える。
『本当に、おめでたいわね。・・・グラシアナが魔神教だってわかった以上、前提がまるで違うのよ。これまで私たちがギルドの強制依頼で戦うことになった「角つき」も「羽つき」も指定されたランク通りだった?・・・貴女、どこまで素直なの?』
シエラは呆れたようにため息をついて首を振る。
「!?」
『ギルドが指定ランクを誤ったケース、今までどれくらいあった?毎日ギルドに通い詰めた私たちならわかるでしょう?命がけで依頼をこなす冒険者にとって、依頼の指定ランクが異なるってことは・・・ギルドと冒険者の間で信頼関係が崩壊するレベルの大問題よ?』
そうだ・・・少なくともルッカが知る限りでは自分たちのケースを除いてそんなことはほとんどなかった。
それに、魔神教の内部情報を知るグラシアナがパーティにいるのだ。
だとすれば、彼女は受けた依頼のランクが指定されたランクより遥かに高いものであることを知り得た筈だ。
・・・つまり、ランクが高いと知った上で、知らぬフリをしていたということ?
『これでも、私たちの出会いから今までの全てのことは全て偶然だってまだ信じられる?』
「全部・・・姐さんが仕組んでいたってこと・・・?」
ルッカは掠れる声でシエラに問う。
シエラは『それ以外に考えられないでしょ』と頷く。
「・・・で、でもなんで?」
『「なんで?」・・・違うわ。貴女はもうわかるはずよ』
ルッカは今までの情報を頭の中で整理する。
お姉ちゃんとグラシアナは私のことが憎い・・・。
私を苦しめたい。
グラシアナは力を隠していた。
仲間たちが目の前で死んでも、持っている力を使わずに隠し通していた。
私が危ない時は彼女が身を挺して守ってくれた。
なぜ・・・?
『貴女を生かすために』
シエラがルッカの思考を読んで応える。
なんのために・・・?
『「少しでも貴女を苦しませるために」に決まっているでしょ?』
でも・・・でも・・・。
『指定ランクよりも高い依頼へギルドと結託してパーティを参加させれば、当然犠牲が出る。それを貴女には味わって欲しかったのよ。里を滅ぼしても貴女だけ生き残らせたことと同じ』
うううう・・・・。
つまり・・・つまり・・・。
「このパーティは私を絶望させるために、それだけのために悲惨な目にあっている・・・?」
その時、ドパァァァァァァアアアアア!!!!!
凄まじい風圧とともにルッカの前方で凄まじい風圧が巻き起こり、オルロがゴロゴロと転がる。
「オルロ!!!」
ルッカはハッ、と我に返り赤髪の彼の名前を叫ぶ。
「・・・わかってる。姐さんは後回し・・・。これ以上失うのは嫌」
ルッカは自分に言い聞かせるように呟く。
そして、オルロに回復魔法を唱えようとする。
しかし・・・
「いや・・・待てよ」
ルッカは回復魔法を途中で中断する。
頭の中で先ほどの結論を再び振り返る。
「このパーティは私を絶望させるために、それだけのために悲惨な目にあっている」・・・もし、それが本当だとしたら・・・。
「嘘つき」はグラシアナだけとは限らない。
「・・・オルロももし裏切ってたら?・・・いや、そんなことはない筈」
ふと思いついたことを口にして、ゾワッ、と鳥肌が立つ。
怖い・・・。でもあり得ないことではない。
大好きなグラシアナは最初からルッカを陥れるつもりで近づいてきたわけなのだから。
「・・・待って」
ルッカは自分の中で広がっていく妄想を止めようとする。
しかし、やけに真実味を帯びた妄想は疑えば疑う程、それが妄想ではなく本当のことであるような気がしてくる。
あれ?・・・そういえば、グラシアナと出会ったバー『Honey Bee』ってギルドの男性職員に勧められたんだっけ?
ってことは・・・あれももしかして仕込み?
私とグラシアナを出会わせるために・・・?
このパーティに加入するきっかけってなんだっけ?
———『今日お呼びしたのはパーティメンバーの顔合わせです』
受付嬢のオリガのセリフが思い起こされる。
・・・ギルドが勧めたんだ!!!
ギルドがこのパーティを・・・。
ヴァルナ・・・
黒髪のドワーフの美女がイメージの中でルッカに笑いかける。
・・・彼女も魔神教?
ユージン・・・
栗色の髪のトントゥが本を開きながら迷惑そうに顔を上げるイメージが浮かぶ。
・・・もしかして彼も・・・?
そして目の前で倒れているオルロに目を向ける。
・・・彼も魔神教?
途端にパーティ全員の顔に魔神教の仮面が重なる。
頭の中で彼らの笑い声が響き渡る。
・・・誰を信じていいのかわからない。
誰も信じられない。
皆・・・皆皆皆皆皆皆・・・魔神教?
『ほら・・・もう誰も信じられない』
シエラがクスリ、と笑った。
『ようやくわかった?・・・貴女が信じられるのは私だけ』
「嫌・・・嫌・・・嫌・・・いやぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
その瞬間、
ルッカの心の中で最後までなんとか保っていた大事ななにかが砕け散るような感覚があった。
そこからほとんど覚えていない。
カランカランカラン・・・!!!
という大きな音で、ハッとする。
気付いたら目の前にヴァルナの鋼の剣が転がっていた。
ルッカはそれを拾い上げる。
昔ならば全く持てなかった重さの片手剣だが、レベル3になった今、なんなく持ち上げることができた。
ルッカはフラフラと鋼の剣を持って、戦場を歩く。
皆、異形の姿をしたロザリーに注目し、ロザリーもまたヴァルナたちから目を離さない。
誰も彼女を見ていなかった。
「終わりにしましょう・・・これで本当に!!!」
グラシアナが叫ぶ。
そして彼女が禍々しい黒いオーラを放つ腕をロザリーに突き出す。
強力な黒い波動が部屋中を包み込み、目の前が真っ暗になる。
その間もルッカは構わず、グラシアナの方へ歩いていく。
そして、グラシアナの近くで立ち止まった。
ステルスローブが発動し、ルッカの姿が周囲の色と同化して隠れる。
『・・・どうしたの?刺さないの?』
シエラがルッカに問う。
黒い波動が収束していき、元の薄暗い錆色の金属質の部屋が見えてくる。
『まだ迷ってるの?』
違うよ。
ルッカは心の中で返事をする。
タイミングを見誤ってはいけない。
自分がこの場から生還するためにはロザリーは排除してもらう必要がある。
ロザリーが仮に今、復活したら、グラシアナの力なしでは敵わないから。
そしてしばらく経ってもロザリーの『魔神の加護』が発動しないことを確認したグラシアナが辺りをキョロキョロと見回した。
「ルッカ・・・?」
!? 私を探している。
・・・この期に及んで!!!
まだ私を苦しめるつもりなのかッ!!!!!!
ルッカは唇を噛み、そして鋼の剣をグラシアナの心臓に向けて全力で突き出した。
・・・・・・トスッ
間の抜けた音がして、グラシアナのボロボロになった装備をヴァルナの手入れの行き届いた鋼の剣が貫く。
ルッカはグラシアナの背中まで貫通するようにしっかりと突き刺した。
「!?」
グラシアナが驚いて目を見開く。
突き出した反動でステルスローブの「透明化」の効果が切れる。
ルッカはフードをパサリ、と外してニヤリと笑った。
「さようなら・・・・・・・・・姐さん」
(イラスト:Bu-bu)




