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女神のサイコロ  作者: チョッキリ
第10章 オハイ湖
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第4話 スライム☆パニック【イラスト入り】

———— オハイ湖 午前 (クエスト14日目)————



「見つからないっ!!!」


 とうとうユージンがもう限界、と音を上げる。


 高機能義眼で様々なところを注意深く分析するが、なにも見つからない。


「いや~・・・探しまくったけどホントに痕跡すら見つからないな。本当にゲブラさんの情報、正しいのか?」


 オルロが水筒に入れた水をあおりながら、それに同意する。


「うーん・・・でもわざわざ私たちを待たせて調査した結果、ここにあるって言ってるんでしょう?ということはどこかにあるんだと思うんだけど・・・」


 ルッカが周りを探りながら呟く。


「・・・ヴァルナ、どう?」


 グラシアナが木の上を見上げて声をかける。


「ふうむ・・・それらしきものは今のところは見つからんな。しかし、一周してしまったからのう」


 木の上によじ登り、高所から辺りを見回すヴァルナも首を振る。


 そう簡単には魔神教の痕跡は見つからない。覚悟はしていたが、想像以上だった。


「・・・まあこんだけ周りにブドウ畑があって、人間もそれなりに住んでいてようやく情報が少し出てくるレベルなんだから、かなり念入りに隠されているんだろうね。・・・いや、ひょっとして民家に偽装しているのか?」


 ユージンは眼鏡の上から義眼をおさえながら呟く。


 ゲブリエールは魔神教のアジトについて、何と言っていたか。






『調査した結果、大司教イレーネの部下がオハイ湖で何度か目撃されている。・・・そこに拠点があると考えて間違いないだろうね』


『イレーネ?』


『魔神教の大幹部さ。君たちに少なからず縁があるかもしれないよ。・・・なぜなら彼女はソシアの変異種の研究をしているという話だからね』






 ゲブリエールの話が全て事実だと仮定すると、「大司教イレーネ」とやらの部下ということは、ソシアの実験に関わっている可能性がある。


 そして、ソシアの上位種であり、滅多に姿を現さない筈のソシア・ナイトがこの近辺で何度も目撃されているということ。


 これらは本当に偶然だろうか?


 ・・・いや、関係があると考えた方が自然だろう。


 とすれば・・・。


「ソシアの研究はここでされている・・・?少なくとも実験場の一つがここにある可能性があるのか」


 ユージンはオハイ湖にソシアの実験場がある可能性に気付く。


「・・・なら、民家じゃスペースが足りない。・・・作るなら地下か。オハイ湖の周りには怪しげなところはない。湖の中も木の上から見てもらった限りは特に問題ない。そもそも水の中にアジトなんか作れるわけが・・・」


 ユージンがブツブツと呟いていると・・・


「うわっ!!!」


 木の上から突然なにかがが降ってくる。


 それは不意にユージンの真横にドスン、と大きな音を立てて落下してきた。




 ・・・鉄の鎧だ。




 続けざまに鋼のブーツと手甲(てっこう)などが降ってくる。


 ギョッとしてユージンが木の上を見上げると下着姿のヴァルナが空を跳んでいた。


「は・・・?」


 意味が・・・意味がわからない。


 ヴァルナは華麗な弧を描いて、呆気(あっけ)に取られるパーティを置いてオハイ湖に着水する。


「・・・なるほどな」


 オルロだけヴァルナの意図を理解したのか、自分も鎧を脱ぎ捨て、下着姿で後に続く。


「オルロ!?」


「・・・『常識にとらわれないのもまた冒険者に必要な資質だ』。大先輩のアドバイスだ」


 オルロは数日前に出会った「半熟卵の英雄」(ボイル)の言葉を引用し、笑顔でオハイ湖に飛び込んだ。




 ・・・しばらくして、オハイ湖から飛び出してくる。

挿絵(By みてみん)

(イラスト:画伯)


 2人の身体には数匹、水色ががった透明の丸い生き物がくっついている。


 丸い生き物の中にはうっすらと魔物の核と思われる球体が見える。


「アンタたち、なにくっつけてんの?」


 グラシアナがずぶ濡れで下着姿の2人に(あき)れた顔で尋ねる。


「・・・なんか身体が重いと思った」とオルロ。


「むう・・・」


 ヴァルナは身体にくっついている生き物を見て、引きはがそうとする。


「キュッ?」


 すると、グラシアナの声に反応して丸い生き物がつぶらな瞳をグラシアナに向けた。


「やだ・・・なに、これ可愛いじゃない」


 グラシアナが目を輝かせて手を伸ばす。水色のそれは可愛らしい2つの目でグラシアナを見つめていた。


「キュッキュッキュ!」


 ヴァルナにくっついていた丸い生き物はヴァルナの身体をもにょもにょと(はい)いずって、ぴょーん、とグラシアナに嬉しそうに飛びつく。


「やあん・・・可愛い・・・」


 グラシアナが大喜びする。


「え~!私も~!!」


 ルッカも喜んでオルロから一匹もらう。


 グラシアナとルッカが大喜びでふにょふにょ動く生き物を愛でる。その生き物はとても人懐っこく、()でられると嬉しそうに「キュッ!キュッ!」と喜びの声を上げる。


「・・・ははは、そろそろ離れてくれ」


 オルロが笑いながら義足にくっついている生き物を掴み、引きはがそうとした。


 その時だった。




「おめぇら、なにしてるだ。危ねぇぞ!!!」


 ブドウ畑から顔を真っ青にした農夫が飛び出す。


「それはスライムといって・・・」


 農夫が言い終わらないうちにオルロが生き物を足から引きはがした。


 その瞬間、可愛らしい顔をしていた生き物の身体がガバッ、と開き、中の核と思われた部分が口のように大きく広がる。


 その口には鋭い牙が無数に並んでおり、バクンッ、とオルロの足に噛みついた。


「うわっ・・・!!!」


 オルロは驚きの声を上げる。


「エネルギーショット!!」


 ユージンが魔法弾を放ち、スライムの口の上あごを吹き飛ばす。生き物は「ギュウン・・・」と声を上げ、どろどろに溶ける。


「あぶねぇ・・・」


 義足でなければオルロの片足は無くなっていたかもしれない。


 可愛い姿とあまりに大きなギャップにゾゾッ、と鳥肌が立つ。


 そして、自分の腰辺りにもう一匹、うにょうにょと無邪気な顔で()っているスライムを見て、悲鳴を上げそうになる。


「アンタ、死にてぇのか!?無理に離したらダメだべ!そいつらはスライム。可愛い顔さしてるが、オハイ湖で最も犠牲者を出してる魔物だべ」


 農夫は慌てて先ほど言いかけた忠告を続ける。


「え・・・ちょ・・・じゃあどうすれば・・・」


 半泣きのオルロ。


 ルッカも腕にしっかりとスライムをくっつけてしまっているし、グラシアナは胸にくっついている。


 ヴァルナも腰と背中をスライムがもにょもにょと()いまわっていた。


「え、取って取って取って取って!!!!」


 ルッカが悲鳴を上げて叫ぶ。


「こ、これ、どうしたら・・・」


 グラシアナも珍しく動揺した声をあげる。


「なにか、スライムを取り除く方法は知らない?!」


 ユージンが慌てて農夫に問う。


「と、取り除こうとさしなけれりゃ、食われたりはしねぇ・・・はずだぁ」


 農夫は不安の残るアドバイスをする。


「・・・」


 ヴァルナは少し黙ると、ルッカに向き直る。


「もしなにかあれば回復を頼む」


「え?」


 ヴァルナはそれだけ言い放つと、地面から先ほど泳ぐ際に放り投げた黒角の剣を拾い、抜き放つ。


 そして、胡坐(あぐら)をかき、目を(つむ)って、ひと呼吸・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっ!!!」


 黒角の剣を自分の腹と並行の角度でスライムの核に突き立てる。


「ギャッ!!!!」


 スライムは口をカバッ、と開き、ヴァルナの腹の一部に噛みつくも、剣に核を斬り払われてドロドロに溶ける。


「・・・ぬッ!!!」


 ヴァルナの腹部一部が噛み千切られ、腹から血がドバドバと流れる。


「ひ、『ヒール』!!!」


 ヴァルナに言われていたので回復魔法の準備していたルッカが半泣きでヴァルナの腹に回復魔法をかける。


「・・・フーッ!!!」


 ヴァルナは深く息を吐き、痛みが治まるのをじっと耐える。


「よしっ、次っ!!」


「「次っ!!」・・・じゃない。この馬鹿ッ!!」


 ユージンがヴァルナの頭を叩く。


「あん!?」


 ヴァルナがユージンを振り返って睨み上げる。


「ちょっと、お前、もう少し自分の身体を大事にしろよ」


五月蠅(うるさ)い!じゃあ他に方法があるのか?ええ?」


 ヴァルナはユージンに向かって怒鳴る。濡れた下着姿で普段以上に(あらわ)になった大きな胸が弾む。


「う・・・」


 ヴァルナの迫力以上に胸への目のやり場がなく、視線を()らす。


「無いな?・・・じゃあ背中も・・・」


「いや、待て。・・・かなり難しいが他に方法がないこともない・・・かもしれない」


 オルロが、自分の背中に張り付くスライムをろくに見えない状態で斬り伏せようと試みるヴァルナを制止する。


「?」


「ユージン、悪いが実験に付き合ってくれ。流石に女の子たちに頼むわけにはいかない」


「・・・?」






 オルロの説明を聞いたユージンは「えー・・・」と言いながら渋々頷く。


「ルッカ、回復魔法の準備を頼む」


「う、うん。もちろん」


 ルッカに指示を出したオルロは弓を拾い、矢を(つが)える。


「じゃあ・・・まずはヴァルナのからだ・・・ヴァルナ」


「ふむ」


 ヴァルナがユージンに近づき、布面積のほとんどないむき出しの背中と尻を向ける。


「う・・・」


 ユージンは顔を赤らめながら、ヴァルナの背中に張り付く水色の魔物に両手を広げる。


「ほ、ほら、こっちにこい!!」


 ユージンが声をかけるとスライムは「キュ?キュッキュ~」と嬉しそうにヴァルナの背中からぴょーんとユージンの腕に飛び込む。


「今!!」


 その瞬間を逃さず、オルロの矢が放たれる。


 そして空中でスライムの核の中心に見事に矢が突き刺さった。


 突き刺さった瞬間、スライムの核が展開し、大きな口がユージンの腕を噛みつこうとするが、ユージンの指先に触れる直前にドロドロになって地面に崩れ落ちる。


「・・・あっぶね」


 ユージンがその場にしゃがみこんで息を吐く。緊張しすぎて手足が冷たい。


 オルロは「フー・・・ッ」と息を吐き、額の汗をぬぐう。




 オルロは自分に張り付いているスライムをヴァルナに移し、同様に処理する。そして、コツを掴んだオルロは、グラシアナとルッカに張り付いたスライムも片づける。


「・・・やべぇ。マジで緊張した」


 オルロは弓を下ろし、地面に座る。


「・・・お疲れ」


 ユージンがオルロに声をかける。


 ユージンもスライムに襲われる役を立て続けに引き受けたため、大分疲れた顔をしていた。




 オルロとヴァルナは焚火(たきび)で身体を温め、下着を乾かす。


 その際、流石に目のやり場に困るため、ユージンがヴァルナには毛布を渡す。




「・・・で、どうだった?」


 ユージンは一息ついたところで2人に湖の中の感想を聞く。


「・・・どう、って」


「のう・・・」


 オルロとヴァルナは顔を見合わせて頷き合う。


「とりあえず、外から見た通りだ。・・・けど、深く潜ろうとしたら、身動きが取り辛くなって、(おぼ)れかけたから慌てて上がってきたって感じだな」


「スライムとやらがまとわりついておるとは思わなかったがのう」


「ふうん・・・」


 グラシアナはその話を聞いて眉を動かす。


「・・・あのスライムは昔からこの湖に?」


 グラシアナは、自宅から持ってきたワインを鍋に入れ、焚火(たきび)で温めてくれている農夫に声をかける。


 農夫は自家製ホットワインをパーティに配りながら「うんにゃ」と首を振る。


「昔はオラたち、ここの湖でよく泳いだもんだべさ。そんときゃ、スライムなんて魔物はおらんかったなぁ。精々(せいぜい)、犬とか鳥とか蜘蛛(くも)の魔獣が出るくらいだったかんなぁ」


「スライムが出るようになったのはいつくらいから?」


 グラシアナが確認すると「さてなぁ」と農夫は首を(ひね)る。


「ここ数年くらいだと思うなぁ・・・湖でスライムさ出るんで、だーれも泳がなくなっちまってなぁ・・・」


 農夫は寂しそうに話す。


「・・・数年前からスライムが出現。最近はソシア・ナイト、ね。・・・ねぇ、ユージン、どう思う?」


「・・・いや、確定だろ。スライムは人為的に放たれた。・・・奴ら(魔神教)は文字通りオハイ湖の水の中のどこかにいる。」


 ユージンはズキズキ、と痛みだした左目の義眼を押さえながら呟く。




 頭の中にまたあの青フードの男の笑い声が聞こえた気がした。


 こんばんは!おはようございます!こんにちはチョッキリです。いつも作品を読んでくださりありがとうございます。

 さて、今回はRPGの王道、スライムさんの登場です。本作のスライムはどちらかというとクリオネ系のイメージですね。可愛いけど、怖い。しかも性質的には蛭みたいという大分悪趣味なデザインです。これを作った神様は大分性格歪んでますね。普通の冒険者は「わーっ!可愛い」と愛でた後にバクンッ、とやられてしまうわけです。

 次回は本作初の水中探索編となります。つまり水着回!スライムのせいで台無しですけど・・・乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
[一言] スライムって改めて考えると怖いモンスターですよね。 有名RPGの影響で、最弱のイメージが強いですけど。
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