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女神のサイコロ  作者: チョッキリ
第10章 オハイ湖
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第2話 昨晩はお楽しみでしたね

———— オハイ湖 午後 (クエスト7日目)————



「あー・・・あったまいってぇ・・・」


 オルロはニコロからもらった二日酔いに効くという酔い消しのハーブを噛みながら呟く。


 朝、ニコロ邸で風呂を借りたにもかかわらず、全身からまだアルコールの匂いがする。


 昨晩は結局ヴァルナに捕まり、ノリで飲み比べ対決に参加してしまった。


 それもこれも、ヴァルナが「儂に飲み比べで勝ったら、1日でえとしてやろう」と宣言したせいだ。男なら参加しないわけにはいくまい。


 最終的にヴァルナは樽ごと酒を飲む恐ろしい酒豪っぷりを発揮し、挑戦者全てを蹴散らしてワインパーティーを終了させた。


「・・・これは種族の違いか?いや、アイツが異常な気がする。一緒に飲んでたヤツにドワーフも何人かいたし」


 横目でチラリとヴァルナを見ると、当の本人はご機嫌でオハイ湖を散策している。


 恐らくオルロの何倍ものワインを飲んだはずなのに、二日酔いの影響は全くなさそうだ。


 オルロもそれなりに酒は強いと自負していたが、ワインボトル3本くらいを空けたところでギブアップした。


「それにしても特徴からして、さっきの話の魔物はソシア・ナイトだよね。・・・思ったよりもかなり大物だね」


 ユージンが先ほどニコロに聞いた話を話題にする。


 ソシアにはいくつも上位種が存在する。ハイ・ソシア、ソシア・リーダー、ソシア・エルダー・・・。基本的にはソシアの上位種は厳しい条件下での生存を繰り返すことで誕生する。


「角つき」や「羽つき」などの変異種の発生条件はサンプル数が全くないため、明らかにはなっていないが、恐らく彼らも生死に関わる体験から誕生するのだろう。


 ソシア・ナイトはこれまでも世界で何体も発見されているが、ソシア・リーダーやソシア・エルダーよりも高位の存在だ。


 創世期時代の冒険者オルロたちが魔物と戦っていた時代には、多くのソシア・ナイトはいたらしいが、今はそこまで進化する前に討伐されるため、滅多(めった)なことでは現れない。


 ・・・いや、上位種であればあるほど知能の高い傾向があるため、ひょっとするとある程度の数が存在しているのかもしれないが、人間に見つからないように力を蓄えて潜んでいるのかもしれない。


 ソシア・ナイトの討伐依頼(クエスト)推奨はレベル4。指定ランクはA以上だ。ギルドの認定ランクはAの上はSとSSのみ。


 一般人が遭遇すれば、100%生き延びることは出来ないだろう。


 そんなハイクラスの魔物がこのオハイ湖に潜んでいるという話なのだ。


 積極的に暴れ回らないのは冒険者にあまり目をつけられないためにだろう。


 それでも目撃されてもこのオハイ湖に留まり続けるということはなにか目的があるのかもしれない。


 ユージンの提案で、ニコロにこの辺の地図を出してもらい、被害が出た場所や目撃情報があった場所をマークしてもらったところ、オハイ湖のまさに湖付近に被害集中していることがわかった。


 そのため、パーティはオハイ湖の周囲を探索しているのだ。


「・・・ところで、ルッカ、なんで朝から俺とそんなに距離を取ってるの?」


 ユージンは自分からたっぷり2mは距離を保ち続けるルッカに疑問を投げかける。


「!?・・・ふんっ!」


 ルッカはぷい、とユージンにそっぽを向く。


 すかさずイチゴウが肩からユージンの頬に向かってパンチを繰り出す。


「あいてっ!?・・・チッ、なんだよ!!」


 ユージンがイチゴウを睨むと、イチゴウも腕を組んでぷい、とそっぽを向いた。


「・・・え?なになに?俺、なんかしたか?」


「・・・アンタ、覚えてないの?」


 グラシアナが呆れたような声を上げ、やれやれ、と首を振った。


「なに?グラシアナ、俺、ルッカになにしたの!?」


「・・・やらかしたわよ」


 グラシアナは苦笑いする。


 ユージンは全身に滝のような汗が流れ始めるのを感じる。


 い、一体・・・俺はなにをしたんだ・・・。


 オルロの顔を見ると、オルロは「俺は知らん」と首を振る。


「昨日、お前が酔い潰れた後、ルッカが介抱してたのは見てたけど・・・」


「その後よ、その後・・・ホントに覚えてないの?」


 グラシアナが目を細める。


「え?・・・ヴァルナ、知ってる?」


「・・・ああ。見ておったぞ。ルッカの膝にゲロを吐いておったのう」


 ヴァルナが「あれはいかん」とケラケラ笑う。


「!!!?」


 まさかのドレスアップした女の子の膝の上でリバース・・・。


 紳士にあるまじき大失態ではないか。


 サーッ、と自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。



 全く記憶にない。


 いや、そうか。だからそれほど酔いが残っていないわけか・・・。


 ギブラではアルコールを飲むという風習がない。自分の認知機能をわざわざ低下させるなどという非合理的な発想がないからだ。


 生涯アルコールを飲み続ければ脳が10~20%萎縮するなどという研究もあるくらいだ。


 アルコールを飲むなんて野蛮人のすること!そう、アルコールなんて飲んじゃダメ!


 ・・・こちらに来たばかりの時はそう思ってたのだが、パーティが飲兵衛ばかりなので、興味本位で飲んでしまった結果が・・・これだ。


 今までも冒険の打ち上げの際に酒は飲んでいたが、これからはもう少し控えることにしよう。



「申し訳ございませんでしたッ!!!」


 ユージンはルッカに頭を下げる。


「ぷんっ!」


 ルッカは両目を(つむ)り、口を膨らませて腕を組んでそっぽを向き続ける。


「せっかく綺麗な恰好してたのに台無しにしてしまってホントにごめん」


「・・・綺麗だった?」


 ルッカが長いエルフの耳をピクッ、と動かし、片目を開けてユージンを見る。


「です!綺麗だったではなく、ルッカさんはいつもお綺麗です!!」


 ユージンは全力でルッカを褒めちぎる。


「・・・なんかうそっぽーい。・・・まあ、酔っ払いを介抱してて吐かれちゃうのはしょうがないからいいんだけど・・・」


「けど・・・?」


 ユージンが首を傾げる。


 俺は、他にもなにかしたのだろうか?


 イチゴウがさらにパンチをワン・ツーと繰り出す。


「痛ッ、痛ッ・・・もうっ、なんだよ、イチゴウ」


 会話カードを持っていたらきっとイチゴウは「し」「ね」「!」と表現していただろう。


「なんでもない!もういいよっ!!許す」


 ルッカは耳を赤くしてスタスタと前を歩いていく。


 昨晩、酔っぱらったユージンを介抱している時に、彼がルッカに抱き着いたのだ。


 しばらく、ルッカはユージンに抱き着かれたまま固まってしまった。


 ユージンがやっとルッカに回した手を解いたと思ったら・・・「オエー・・・」と彼が紳士的ではないシャワーをルッカの膝に浴びせかけた、というわけだ。


 グラシアナとヴァルナは抱き着かれ、固まっている瞬間もバッチリ目撃していたが、それを自分たちの口から言うのは野暮というもの。


 2人はルッカとユージンに見えない位置でニヤニヤと笑った。


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