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女神のサイコロ  作者: チョッキリ
第8章 金持ち息子アーニー
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第2話 「赤髪」オルロと4人の美女エルフ

———————— 大都市ネゴル 診療所 ————————



「・・・ッ!!オルロさん」


 診療所に面会にきた道具屋の娘、アンが花束を落として、声にならない悲鳴をあげる。


「・・・あー・・・なんだ、その・・・すまん?」


 ベッドに横になっているオルロは気まずそうに頬を掻く。


「すまんじゃないですよッ!!」


「オルロ君、頼まれていた弓の件で・・・うん?」


 間の悪いことに、ジルベルトがオルロの部屋に顔を出す。


「あー・・・なんだ?タイミング悪いなら出直そうか?」


 ジルベルトはただならぬ雰囲気を察して引き返そうとする。しかし、オルロはベッドから上体を起こし、全力で引き留める。


「いや、ジルベルトさん、頼む、ここにいてくれ」


「!?」


 アンがジルベルトとオルロを交互に見つめる。


 オルロはいつの間にこんな綺麗なエルフの女性と出会ったのだろうか。診療所に尋ねてくるところからもそれなりに親しい仲に違いない・・・。


 と、アンがジルベルトとオルロの仲を盛大に勘違いする。実際にはジルベルトとオルロは前回の依頼(クエスト)の帰り道で少し話したくらいの仲だ。


 エルフの上級冒険者ということもあり、弓の相談をしていただけで、他の仲間と違って一緒に死線をくぐったわけでもなく、親しいといえる程お互いのことは知らない。


「ひ、久しぶりに会ったのに・・・ようやく会ったのに・・・」


 アンが目を(うる)ませる。


「全然道具屋には会いに来てくれないし・・・足は無くなってるし・・・き、綺麗な女の人まで病室に連れ込んで・・・」


「ア・・・アン・・・?いや、えっと・・・」


 オルロが困ったような顔をして、ジルベルトに「助けてくれ」と視線を送る。


 ジルベルトは「僕にはこういうのは無理だ」と首を振り、援助の要請を断る。


 そこに「オルロさーん」と明るい声で、受付嬢のオリガが診療所に入ってくる。


「お見舞いに来ましたよ!診療所のご飯、味気がないと思うので、お弁当作ってきま・・・ッ!?」


「Oh・・・」


 オルロが頭を抱える。病室には3人のエルフの美女・・・そして身動きの取れないオルロ。


「あれ?・・・お二人はどうしてこちらに?」


 ピリッとした空気が病室に広がる。オリガは笑顔だが、なぜか背中からAランク冒険者でも怖気づくような強いプレッシャーを放っている。


「僕は次の依頼(クエスト)についての話をしに来ただけだ。・・・けど、そろそろお邪魔だから退散しようかな、退散したいな・・・退散していいかな?」


 ジルベルトは完全に場違いな状況にいることを察し逃げようとする。


「いや、ジルベルトさん、頼むからここにいてくれ」


「・・・嫌だ」


「・・・オルロさぁぁぁん」


 アンは涙目でオルロを見つめる。


「ん・・・んん・・・?」


 オルロのレベル3でさらに研ぎ澄まされた危険察知能力が先ほどから警告(アラート)を鳴らしまくっている。


 よくわからないが、この雰囲気はマズい・・・。


 まるでフル装備のハイ・ソシア数体に囲まれたような・・・いや、ひょっとするとこれはソシア・リーダー数体に囲まれたくらいの危機なのか?・・・即死?


 オルロの身体から冷や汗が流れる。


「オルロー!お花摘んできたよ!」


 そこにさらに間の悪いことにルッカが笑顔で花をもって登場する。


「ちょ・・・」


「よ・・・幼女まで・・・」


 アンが声を上げる。


「よ、幼女じゃないもんっ!!・・・まあ3人よりは年下かもしれないけどさ」


 ルッカが抗議する。ただし、この場にいるオルロを除いた全員が長寿のエルフのため、ルッカの「幼女じゃない」理論は通じにくい。


「んーと・・・うーんと・・・」


 オルロは必死で状況を整理する。


 アンが見舞いに尋ねてきて、ジルベルトがそこに弓の話で入ってきて、オリガさんはお弁当を持ってきてくれて、ルッカは花を持ってきてくれている。


 自分はなにもやましいことはしていない。


 しかし、なぜだろう。なぜこれほど空気が冷たいのだろうか・・・?


「ちょ・・・ちょっと、アレだ。順番に話を・・・聞かせてください」


「いや、僕は出直すから・・・ぷっ・・・」


「待って、ジルベルトさん。今、笑ったよな?ちょっと待った。なんで今笑った?」


「いや、笑ってない。僕は・・・ぷくくく・・・いや、また後で来るよ」


 ジルベルトが診療所を退散しようする。


「ダメだ。今、お前を帰したら取返しのつかないことになる気がする」


「さっきからあの人ばかり引き留めて・・・どういうことですかぁ」


 アンがオルロの服を引っ張る。


「流石「赤髪」のオルロ。モテるんですね」


 受付嬢のオリガは弁当箱を持ちながらニコニコとオルロに笑いかける。


 ・・・目が笑っていない。


「ねー、オルロ、さっきさ、お花摘んでいる時にさぁ、猫がさぁ」


 ルッカはマイペースに猫の話を始める。今は猫の話は本当にどうでもいい。


「おい、弟子ぃ~、師匠が見舞いに来てやったぞ・・・ってなんじゃこの状況は!?おい、てめぇこら!」


「げ、リョー!?」


 客観的な絵面としては、病室にエルフの美女4人がオルロを囲んでいる状態。


 そこに現れた道具屋の主人でアンの父親、そしてオルロの師匠でもあるリョー。


 愛娘のエルフはオルロの袖を掴んで涙を浮かべている。


 娘を愛しすぎている元冒険者のエルフは眉間に青い筋をたてながら「どういうことだ?」とオルロに詰め寄る。


「・・・えっと、あー・・・いや、違うんだ。いや、なにも違わないが、なにもしてない。うん、俺はなにもしてない」


 オルロは命の危険を感じながら、リョーに「なにもしていない」ことをとにかく強調する。


 なぜこのタイミングでこんなに来客があるのだろうか。


 オルロは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、自分の両足がないことに気付き絶望する。


 そこに、「ちょっと、なによ、この状況・・・」と入ってくるのはグラシアナ。


「ぐ、グラシアナ~~~~~」


 オルロがグラシアナに助けを求める。


 グラシアナは一目見てこの状況を察する。


「はぁ・・・」とため息をついて、低い声で一言。


「・・・ちょっと話してごらんなさい」






 まずグラシアナはルッカから花を受け取り、花瓶にさして「これから大事な話があるみたいよ。だから後で聞いてもらいましょ」とルッカを病室から追い出す。


 そしてオリガには「アンタは仕事中でしょ!」と指摘し、彼女から弁当を受け取り、同じくひょいとつまみ出す。


 そして、オルロに向き直る。


「アンタ、次の依頼(クエスト)は外れてもらうわよ」


「え!?」


「足、なんとかしないと冒険できないでしょ?なに?ヴァルナに担いでもらうわけ?」


 グラシアナはビシッと言い放つ。


「・・・そうだよな」


 オルロは俯いて頷いた。今の自分にできることなんて何一つない。


 冒険にいっても足を引っ張るだけだ。


「・・・そんな顔しなくて大丈夫よ。今回のことでよくわかったわ。アタシたちのパーティにアンタがいないと結構困るのよ。アンタって結構うちのパーティの潤滑油(じゅんかつゆ)的な存在なのよね」


「・・・」


「ちょっとアンタの義足代稼いでくるからそれまで大人しくしてなさいって言ってんのよ」


 そしてグラシアナはリョーとアンの方を向く。


「アンタがオルロの弓の師匠ね?そしてアンタがその娘のアンね」


「お、おう」「は、はい」と2人はグラシアナの勢いに押されて頷く。


「そういうことだから今回コイツは置いていくわ。・・・あとは任せてもいい?」


「え・・・は、はい」


「じゃあよろしく!・・・頑張んなさいな」


 グラシアナはアンにウィンクをして病室を出ていく。




「・・・一瞬で片づけていきやがった」


 リョーが唖然(あぜん)としてグラシアナの背中を見送る。そして、アンとオルロ、リョーの3人になった病室で、自分が邪魔者であることに気付く。


「あー・・・なんだ。・・・俺は家に戻るわ。次の依頼(クエスト)、不参加ならその間、うちに来い。仮の義足はそろそろできるんだろ?1~2週間くらいなら飯くらいは食わせてやる」


「リョー・・・」


 リョーは頭を掻き、オルロを指差す。


「いいか?言いたいことは山ほどあるが、それはお前自身がよくわかってるはずだから言わねぇ。だが、お前、うちの娘を悲しませるようなことはすんなよ?」


「ああ・・・ありがとう」


「うるせー。弓の腕も上達したか見てやる。・・・もっとも歌を聴く限りじゃ、今や俺より上手そうだがな」


 リョーはそういうと病室を去っていった。



「・・・」


「・・・」


 にぎやかだった病室が一気に静まり返り、長い沈黙が訪れる。


「・・・最近、よくお父さんと歌を聴きに行くんです」


「歌?」


「はい」とアンが頷く。


「吟遊詩人の歌です。「偽の英雄赤髪オルロ」の冒険の歌・・・」


「なんだそれ、まさか俺の歌か?」


 オルロが驚いた声を上げる。


「最近、オルロさんのパーティの歌が結構流行ってるんですよ。寝室(ルーム)で人質を助けている仲間に襲い掛かるソシアを一撃で射止めるシーンとか、「角つき」にやられた「問題児」(トラブルメーカー)を命がけで「毒矢」を使って守るシーンとか凄く人気があるんです」


 歌の中身を聴くと実際の戦闘が大分誇張されていて背中がむずがゆくなる。


 それを伝えるとアンがベッドに乗り出し、「実際はどんな感じだったんですか?」と興味津々といった感じで聞いてくる。


「・・・いつもギリギリだったよ」


 オルロは自分が活躍したと思ったことはほとんどない。オルロはヴァルナのような突破力もなければ、グラシアナのような速さもない。自分にできるのは仲間が戦い易いようにサポートすることだけだ。


 だから活躍、と言われても正直あまりピンとこない。


「活躍できないから盾を持ったり、スキルで潜伏して仲間を助けるくらいしかできないんだ」


「・・・聞かせてください。まだ歌になっていない本当の「赤髪オルロ」の冒険を」


「ほとんどヴァルナの活躍の話になるぞ?」


 オルロは苦笑いする。先日の戦いではオルロは良いとこなしだ。最後の「羽つき」との戦いなど見ることもかなわなかった。


「・・・いいんです。私は私の英雄様の話が聞きたいんです。あなたがなにを見て、なにを考えてきたのかを」


 アンは(けが)れの無い透き通った目でオルロを見つめる。


 オルロは「参ったな」と心の中で呟く。


 このエルフの女性には自分が魔神教の幹部の可能性があることは絶対に知られたくない。


 彼女の前ではなんとか恰好つけて冒険者「赤髪オルロ」でいたくなる。


 今の自分(オルロ)がいつまで今の自分(オルロ)でいられるかはわからない。


 だが、1日でも長く、今の自分(オルロ)でいたいと思った。





 診療所の中の声が外から聞こえてくる。


 まるでおとぎ話の英雄とお姫様のような会話だ。負傷した赤髪のイケメンヒューマンと可憐なエルフの娘・・・悔しいが絵になる。


「・・・私はあきらめませんよ」


 診療所の外で弁当箱を回収しにきたオリガが口を膨らませて呟いた。


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