第9話 ソシア・リーダー【マップイメージ入り】
—— ヤルス城2F 12日目午後(ルッカ「黒目化」まで残り6日) ——
「グラシアナ、右は任せるぞ」
ヴァルナはそう叫ぶと左にいたソシアに斬りかかる。ヴァルナの肩にいたイチゴウは振り落とされないように必死でしがみついている。
「わかったわ」
グラシアナは右にいたソシアの首に噛みついた。
今、場にいるのは、元々いたソシア2体、ソシア・リーダーとそれに付き従うソシア4体、ハイ・ソシアが3体の計10体だ。
上階からソシア・リーダーに連れられてきた魔物たちは皆、装備が整えられている。
「「角つき」の時を思い出すが、今回はあの時以上に装備がいいな」
オルロは矢を放ち、後衛に近いソシアから片づけていく。
「『エネルギーショット』!」
ユージンも魔法耐性が低いハイ・ソシアを魔法弾で吹き飛ばし、怯んだところを1体仕留めたグラシアナが片づける。
後衛の存在に気付いたソシアたちが瓦礫の裏に隠れているユージンたちに向かってこようとするが・・・
「こっちだ、バケモンども」
そこにヨドークが『挑発』のスキルを発動させ、注意を引き付ける。
ヨドークは鋼の盾を構え、複数のソシアとハイ・ソシアの攻撃を一手に受ける。
ベテランのドワーフ戦士ヨドークは自分の能力だけに頼らず、盾の使い方、立ち回りが上手い。
ハイ・ソシアの重い攻撃は正面から受けず、斜めに構えて力を逃がし、ソシアの槍は強気に弾いて体勢を崩す。弓で狙われても、後衛に矢がいかないように角度を計算して立ち、他のソシアの身体も射線に入れることで同士討ちを狙う。
「うちは攻撃役ばかりで、防御役って今までいなかったが、いると違うな」
ユージンがヨドークの動きに関心しながら2発目の魔法弾を放つために詠唱を開始する。
「うちは前衛中心の構成だからな。ヨドークに攻撃を集めて、周りがそれを処理する。自慢じゃないが、うちのヨドークはCランク冒険者の中じゃ、1番の盾使いだと思うぜ。・・・ヒール!!」
ボリスが攻撃の集中を受けるヨドークをヒールでカバーする。
「・・・『ガギ』!!!」
しかし、快進撃はそこまでだった。
ソシア・リーダーのファントムクオーツロッドに光が凝縮し、巨大な魔法弾が放たれる。
「!!」
破壊的な威力を秘めた魔法弾がグラシアナに向かって飛んでいく。
グラシアナは反応できず、水色の光の大玉を、立ちすくみ、目を見開く。
水色の光がグラシアナの身体を飲み込もうとした時、
「どけッ」
ボリスがグラシアナを突き飛ばし、自分の身体と魔法弾の間に鋼の盾を差し込む。
「ぐうぅぅぅぅ!!!」
鋼の盾では防ぎ切れない威力と質量。
ヨドークの身体を強力な衝撃波が削っていく。
「ぐぁあぁぁぁあああああ!!!」
「『エネルギーショット』!!!」
ユージンが詠唱を終え、ソシア・リーダーの放った魔法弾に自分の魔法弾をぶつける。
真横から別の魔法弾を受けたことで、ソシア・リーダーの魔法弾の軌道が逸れ、近くにいたハイ・ソシアとソシア1体ずつの身体を削り取っていった。
ヨドークはその場に崩れ落ちる。
「ヨドーク!!!」
ボリスは後衛から飛び出し、ヨドークを後衛へと引きずっていく。
ヴァルナと対峙していたソシアがそちらに気付き、飛びかかろうとする。
「・・・ほう、儂から目を離すとは、なめられたものじゃな」
が、ヴァルナがその一瞬の隙を逃さず、ソシアの胴を真っ二つに斬り裂いた。
「出し惜しみしてる場合じゃないな」
オルロがスキル『毒攻撃』を発動し、毒矢をソシア・リーダーに放つ。
「ガギギ・・・ガァギッ!!」
ソシア・リーダーが叫び、盾を持ったソシアが先ほどのヨドークのように間に入る。
オルロの鋼の矢がソシアの盾を突き破り、喉に突き刺さる。
「ガブブブ・・・」
首に毒矢が突き刺さったソシアが口から血の泡を吹いて崩れ落ちる。
残りはハイ・ソシア1体とソシア・リーダーのみ。しかし、ソシア・リーダーに動じる気配はない。
「アラバ・・・ガギャ、『ガギ』!!」
ソシア・リーダーはニヤリ、と目の形を歪め、後衛へ、先ほどの巨大魔法弾を放った。
巨大な水色の光が瓦礫の奥目がけて飛んでいき、爆ぜる。
「・・・貴様ァァァァァアアアアア!!!!」
ヴァルナが叫び、黒剣と鋼の剣を構えて走る。
その行く手にハイ・ソシアが立ちふさがる。
「邪魔じゃぁぁぁぁあああ!!!」
左手に持つ、鋼の剣でハイ・ソシアの構える盾を叩き壊し、右手の黒角の剣でハイ・ソシアの首を刎ねる。
斬り飛ばされたハイ・ソシアの首を無視し、首の無い胴体を蹴り飛ばす。そして奥にいるソシア・リーダーを斬りつけた。
イイイイィィィィイイイイン・・・
ヴァルナの剣がソシア・リーダーの身体の手前で弾かれる。
魔法壁だ。
「ソシア風情が高度なものを使いおって」
ヴァルナは狂ったように2本の剣をソシア・リーダーの魔法壁に叩きつける。
「ヴァルナ、どいて!!」
後ろから声がかかり、ヴァルナは咄嗟に左へ避ける。
上空から回転し、威力をつけた強化ブーツの踵落としが魔法壁にぶつかる。
インパクトの瞬間、強化ブーツに取り付けられた加速装置が火を噴き、攻撃にアシストを加える。
魔法壁の上で爆発が引き起こされる。
しかし、ソシア・リーダーには傷ひとつない。
ソシア・リーダーは杖をヴァルナに向けていた。
勝ち誇った笑みを浮かべ、詠唱を完了させる。
「『ガ』・・・」
「・・・そこまでだ」
男の声が後方から響き、眩い光が魔法壁をソシア・リーダーの全魔力ごと消滅させ、さらにはソシア・リーダーの身体に大穴を開けた。
「!?」
ヴァルナとグラシアナが後方を振り向く。
ソシア・リーダーの魔法弾によって弾け飛んだ瓦礫の山。
その奥には原型をほぼとどめていない鋼の盾が転がっており、その近くに傷だらけのオルロが立っていた。
オルロからは眩い光が立ち上っており、ソシア・リーダーを仕留めたのが彼だということを示していた。
ヒューマンの種族が命の危機に瀕した時のみ発動できる『女神の加護』だ。
オルロの後ろにはヨドークとボリス、そしてユージンの無事が確認できる。
「オルロ!!・・・お主ら、無事じゃったか」
ヴァルナが嬉しそうに声を上げる。グラシアナもほっと息をついた。
オルロの光が徐々に消失し、オルロは弓をおろして、その場に倒れ込む。
「待ってて、今ポーションを使ってあげる」
グラシアナがオルロに駆け寄る。
「!?」
近くに寄ってみて、オルロの身体の傷が予想以上に深刻だったことを知る。
すぐにグラシアナは冒険バッグから試験管に入った液体を取り出し、それをオルロの口へと運ぶ。
「ユージン、ヨドークにも」
「あ、ああ」
ユージンはグラシアナからもう1本試験管を受け取ると、それをヨドークに飲ませた。
2人ともかなりの重傷だった。しかし、幸いにして命には別条はない。
「まるで・・・本当の冒険者オルロみたいね」
グラシアナはオルロを見て微笑む。
彼の素性は相変わらずわからない。「彼」に手紙でオルロのことやユージンの処遇について尋ねても「全員を観察し、仲間として全力で守るように」とだけ。
「彼」は一体なにを考えているのだろうか。ルッカの監視以外にアタシにこのパーティでなにをさせたいのだろうか。
直接会って聞ければどんなに楽か。この関係がもどかしい。
でも「彼」は少なくとも今は全員を守って欲しいという。ならばアタシは黙ってそれに従うだけ。
今の状況も出発する前に伝えてあるが、「彼」はどんな風に考えるだろうか。
「彼」が大司教になってから随分遠い存在になってしまったと感じる。
「彼」の描く未来にアタシはいるのだろうか。・・・いれば嬉しい。
グラシアナは目を閉じる。
アタシを必要としてくれる限りは、この命に代えても「彼」の願いを叶え続ける。
だから今はなにも考えず、アタシにできることをしよう。
「とりあえず、近くの空き部屋に運んでしっかり休ませましょ。今日はこれ以上は無理よ」
グラシアナがボリスとユージンに声をかける。
「・・・あ、ああ、そうだな」
「ボリス、しっかりしなさい。大丈夫よ」
グラシアナはヒューマンの男神官に声をかける。
ボリスは頷いた。
「ユージンも」
「・・・ああ」
ユージンも動揺を隠せないようだった。
このパーティはユージンがまとめているようで、実際のリーダーはオルロだろう。
ヴァルナの活躍の影に隠れがちだが、オルロは今までどんな困難でも状況を打開する鍵となっていた。
冷静な判断力とヴァルナに匹敵する武力、そして周りを鼓舞する指揮能力。
今やパーティの精神的な支柱といえる。
ルッカを助けるためにも彼の力が必要だ。
その時、上階から声が聞こえた。
「君たち、こっちだ。早く」
女性の声だ。上階から鎧を着こんだ冒険者が降りてくる。
「あなたは?」
グラシアナが警戒しながら女性に声をかける。
「僕か?僕はジルベルト。テベロの冒険者だ。安全に休めるところが必要だろ。こっちに」
ジルベルトと名乗るエルフの女冒険者は手招きする。
「・・・」
グラシアナがユージンとボリスの方を向く。
「「黒目化」していない。大丈夫だろう」
ボリスが頷く。ユージンも頷いた。
—— ヤルス城3F 12日目午後(ルッカ「黒目化」まで残り6日) ——
3Fを登ってすぐのところに隠し部屋があり、そこにジルベルトはパーティを招く。
隠し部屋は外からは完全に隠れており、そのおかげで魔物に襲われずに済んでいるという。
中には「黒目化」しかけているトントゥの男性武闘家とドワーフの女性神官が横になって苦しそうにしていた。
ジルベルトはパーティにこれまでの経緯を話す。
大都市ネゴルのギルドから救援要請を受けたジルベルトたちだったが、ヴァルナたちと同様、奇襲を受け、多くの仲間を失った。
しかし、生き残った冒険者たちはそのまま撤退せずに、敵を尾行し、ヤルス城を特定。
ジルベルトはパーティとともに3Fまでなんとか潜入に成功したが、そこで何者かに襲われ、この3人が生き残った。
しかし、ジルベルトを除く2人は「黒目化」が発症してしまい、偶然見つけたこの隠し部屋に2日間立て籠もっている状態。
外にはソシア・リーダーが誕生してしまい、仲間を守りながら1人で戦うわけもいかず、隠し部屋で脱出の機会をうかがっていたところにヴァルナたちが現れたということだった。
「そうか・・・あんたたちがテベロの冒険者か」
ボリスが呟き、頭を下げた。
「すまなかった。俺たちも奇襲を受け、一旦撤退した。アンタたちが救援に来ることは知っていたが・・・」
「その判断をしたのは彼だけじゃない。俺の責任でもある。・・・申し訳なかった」
ユージンも頭を下げる。
ジルベルトは首を振った。
「いや、君たちのせいじゃない。僕らもそうするべきだったんだ。敵の戦力がこちらを上回っていると気づいた時点で深追いしたのは僕らだ」
「だが・・・」とジルベルトは続ける。
「君たちと合流できていればもう少し状況は違ったかもしれない。だから、君たちにはお願いがある」
ジルベルトは仲間2人を見る。
「ベアトとゼルマを助けて欲しい」
トントゥの武闘家ベアトとドワーフの神官ゼルマは彼女と同じパーティのBランク冒険者だという。
「もちろん、僕も一緒に戦う。お願いできないだろうか」
「断る理由がなかろう」
今まで黙っていたヴァルナが口を開く。
「儂らも仲間が「黒目化」しかけておる。お主の仲間よりも時間がない。元よりこちらももう逃げ帰る選択肢はないのじゃ」
ユージンとグラシアナ、ボリスも頷いた。
「今日はもう遅い。日が明けたら戦えるメンバーで行く。明日中に決着をつけるぞ」
ユージンが仲間たちにパーティの方針を伝える。
レベル3のBランク冒険者「妖精剣士」ジルベルトがパーティに加入した。
オルロ、ヨドークがパーティから一時離脱した。




