第6話 出動!お城探検隊【マップイメージ入り】
———————————— 数日前 ??? ————————————
「ふざけないで!!」
銀髪の美しいエルフの女性が仮面をかぶった男の胸倉をつかむ。
「約束と違うでしょ!?どうして冒険者になって・・・そんなことに巻き込まれているわけ?」
「約束はこちら側がお前の妹に積極的には手を出さないという話だけだ。自分から首を突っ込んだ場合については、こちらは関知しない」
エルフの女性はギリッ、と歯を食いしばる。そして、仮面の男を乱暴に突き飛ばした。
「・・・どこに?」
「決まってるでしょ。・・・アイツに伝えといて。もし妹が死んだら私はお前たちの計画を滅茶苦茶にしてやる」
エルフの女性はそう吐き捨てると長い銀髪を揺らして、その場を飛び出していった。
—————— ユシス村 12日目午後(ルッカ「黒目化」まで残り6日) ——————
モーリッツたちとの戦闘終了後、ユシス村にユージン、ヴァルナ、グラシアナ、オルロ、そして、ヒューマンの男性神官ボリス、ドワーフの男戦士ヨドークが集まった。
ボリスとヨドークは前回共に戦ったCランク冒険者だ。前回の戦いでも活躍しており、ユージンが一時的にパーティへの参加を依頼した。
今回の依頼の目的である「黒目化」の感染源である「親」の捕獲には、ある程度の実力がなければ、敵に取り込まれ、仲間に危険を及ぼす可能性がある。
そのため、ユージンは徹底的に個の力が高い者を選抜した。結果、今のギルドで動ける実力者がこの6人しかいなかった。
こんな状況でなければ、ギルドも新人のヴァルナたちに金を積んでも力を借りることはなかっただろう。
ユシス村は壊滅状態だった。
———恐らく、モーリッツたちにやられたのだろう。食い散らかされた村人の死体がそこら中に散乱しており、形を保っている家もほとんどない。
広場には、派遣された冒険者たちと争った形跡があり、腐敗した足や腕、臓物などに虫がたかっている。
「酷い光景だな」
ボリスが眉をひそめて、女神アマイアに祈りを捧げる。
「・・・せめて彼らの魂が穏やかに次の世界へ旅立ちますように」
ヨドークも戦士だが、アマイア教なのか、同じパーティのリーダーであるボリスに倣って黙祷を捧げる。
「・・・モーリッツはこの先にある城が敵の本拠地だと言っておったの」
ヴァルナは前方にうっすらと見える古城に目を向ける。ボリスに回復魔法をかけてもらったおかげで身体の傷はすでに回復している。
「敵の言うことを真に受けていいものか・・・」
オルロが考え込む。
「まあ「らしい」っちゃ、「らしい」がな。いかにも悪者がいそうな城だ」
ヨドークが笑う。
「どのみち、「問題児」は行くつもりだろ?」
ヴァルナはヨドークに頷く。
「儂らにはあまり時間がないからの。城が怪しいならば儂一人でも行く」
「・・・だ、そうだ。どうするよ、大将?」
「まあ、確かにヴァルナの言う通りだな。・・・ユージンとボリス、グラシアナはどう思う?」
オルロが残り3人に意見を求める。
「俺とヨドークは君たちについていくよ。今回は君たちのパーティが主導だからね。回復役と盾役は任せくれ」
ボリスは、あくまでもこちらはサポートだ、と首を振る。
「・・・あの死に際の彼の様子はアタシも見ていたけど、ヴァルナを罠にはめようって感じの雰囲気ではなかったわね。どのみち罠でも行くしかないでしょ。アタシたちには時間がない」
『気を・・・つけろ。「奴」の仲間はまだ・・・いる。「奴」に噛まれた連中は・・・完全に侵食されればもう・・・人間の意識を持つ・・・ま、魔物だ。・・・元には戻れない』
グラシアナの脳裏にモーリッツの最期の言葉が浮かぶ。
「どんなに遅くともあと2日で決着をつけないと」
「いや、仮にリミットが本当に10日なら捕獲した「親」を調べる時間も必要だ。今日明日で決着をつける必要があるだろう」
ユージンはグラシアナに訂正を入れる。
「・・・行こう」
—————— ヤルス城 12日目午後(ルッカ「黒目化」まで残り6日) ——————
ユシス村からしばらく歩いたところにその古城はあった。
天気は快晴の筈なのに、なぜかその古城の周りだけは霧がかかっており、中は薄暗い。
城門は遥か昔に崩れ落ちたようで、瓦礫をかき分けて先へ進んだ。
「・・・魔物の気配がするね」
危険察知能力がパーティの中で最も高いユージンが、魔物の気配に気づき、足を止めて耳を澄ます。そして、義眼で周囲を探る。
しかし、いかに高機能義眼とは言えど、霧の中では視界が確保できないようだった。
「・・・ダメだ。先が見えない」
「俺が「ハイド」を使って先行しよう」
オルロが小声でパーティに声をかける。そして直後、オルロの存在が希薄になって、霧に消える。
「・・・左に一体いるな」
霧だけでなく、瓦礫が散乱しているのでより一層視界が悪い。しかし、オルロは「ハイド」で魔物に近づいていく。
どうやらただのソシアのようだ。オルロはソシアの後ろに回り込むと、鋼の剣でソシアの喉笛を斬り裂いた。
ソシアは声をあげることなくその場に崩れ落ちる。
「・・・「黒目化」してるな」
オルロはしゃがみこんでソシアの死体の目を確認する。ソシアにもこの病は有効らしい。
ユージンによれば、「黒目化」した「子」の情報は「親」と共有されている可能性が高いという。
確かにそれならば、ネゴルにいた「黒目化」した人々が見聞きした情報が「親」に伝わり、襲撃に備えることができる。モーリッツたちが最初にオルロたちを待ち伏せすることができたのも説明がつくのだ。
「ってことは、モーリッツがこの場所を教えたことも、俺が今、敵を処理したこともバレてるよな」
オルロは周りを警戒する。
「子」からの情報は「親」へ即座に発信される可能性がある。しかし、「親」はどの程度、「子」に情報を発信できるのか、これはわからない。
「いや・・・、「親」が逐一情報を発信できるならモーリッツにあんなことは許す筈ないよな」
オルロはヴァルナの胸に光る深緑の宝石を思い出し、首を振った。少なくとも、あれには呪いや罠の類の仕掛けはなかった。・・・パーティが感知できるレベルでは、だが。
瓦礫に隠れて前方を伺い、もう1体ソシアを見つける。
鋼の矢を番え、弓を引き絞る。
「2体目」
鋼の矢が「黒目化」したソシアの首を引きちぎり、霧を赤く染め上げる。
城門内の左側にはもう見張りのソシアはいないようだ。反対側には気配はあるものの、今は無用な戦闘は避けるべきと判断し、オルロは仲間を呼ぶ。
パーティは崩れた城壁から城内へと侵入した。
———— ヤルス城1F 12日目午後(ルッカ「黒目化」まで残り6日) ————
侵入した瞬間に、城壁の内部にいたソシアと目が合う。
「やっば・・・」
オルロが声を漏らす。城門内を片づけて安心しきってしまい、中の確認が不十分だった。
ソシアが叫ぼうと口を開く。そこに鋼の剣が突き刺さった。
「・・・せぇふ・・・じゃ」
ヴァルナが背中から鋼の剣をまるでダーツのように投擲していた。
「黒目化」したソシアは鋼の剣を加えこみ、脳みそを床にまき散らして絶命する。レベル2のヴァルナの怪力で投げつけられた剣は、まるで発泡スチロールにカッターを突き刺すようにほぼ無音で地面にソシアを縫い付けていた。
「悪いな。助かったぜ、ヴァルナ」
オルロがヴァルナに礼を言う。
「問題ない。ちょっと先に行くぞ」
身軽なヴァルナは猫のように瓦礫を蹴ると、無音で地面に着地する。そして、霧の中を走り去った。
全員がその間に城内に侵入する。
すると、すぐにヴァルナが偵察から戻ってきた。
「おい、勝手に行くな」
ユージンがヴァルナをたしなめる。
「別にいいじゃろ、オルロだってやっとるんじゃし」
「お前の場合は強い敵とかち合うと悪目立ちするからな。お前は囮には向いてるけど、隠密行動には向かない」
この衝動性の強い生き物は首に縄をつけておいても足りない、とユージンは目を三角にして怒る。
「あ~~~!それ、お主がいうか?隠れるの下手なくせに」
「だ、誰が下手だ!」
ユージンとヴァルナが口論を始めるので、グラシアナがシッと唇に手をあてて注意する。
「・・・ちょっと、ここ、敵地のど真ん中よ。わかってる?ルッカの命がかかってるのよ」
「・・・すまん」
「ごめん」
グラシアナに注意され、ヴァルナとユージンは素直に謝る。
「・・・それで、偵察はどうだったんだ?」
そのやり取りを苦笑してみていた助っ人の男神官ボリスがヴァルナに尋ねる。
「瓦礫が酷い。上に通じる道は潰れておるな。部屋もほとんど入れる場所はない。右側の廊下に1体ソシアがいたがポクッとやってきたわ」
ヴァルナが研ぎの足りない黒剣で殴りつけるジェスチャーをする。
「・・・ははは、ソシアをポクッとね。そんな表現するのは「問題児」くらいだな」
ドワーフの助っ人ヨドークが苦笑いする。冒険者になりたてと聞いていて、前回は装備不足の印象だったが、装備が整うと、Bランクの通り名つきにも匹敵する彼女をみていると冒険者として積み上げてきた自信が崩壊する。
「言いたいことはわかるよ、ヨドーク」
ボリスがヨドークの肩をポン、と叩いて頷いた。




