第3話 突撃!有名人(後編)
—————— 平原 3日目午後(依頼期限まで残り7日) ——————
クラリスはヴァルナが報復する前に「ハイド」で姿をくらます。
「どこじゃ!出てこい卑怯者!!」
ヴァルナは怒鳴るが、すでにクラリスの姿はない。
「くそっ」
パーティ同士の戦いは展開が早すぎる。救われたと思ったら救った仲間が死に、攻撃を当てたと思ったら次の瞬間には自分が狩られている。
もどかしい・・・もどかしいもどかしいもどかしいもどかしい。
目の前で命の恩人を殺してしまった。くそ、儂はなんて無力なのじゃ・・・。
ヴァルナは自分の力不足に腹を立てる。なんだ、今日の戦いっぷりは。まるで役に立たない。なにが王か。無能もいいところだ。
「はいはい、そのままそのまま・・・」
アンドレイがクラリスを探して叫び回っているヴァルナに再度魔法の照準を合わせる。
「させるかっ!エネルギーショット!」
ユージンが魔法弾をアンドレイに直撃させる。
・・・しかし、魔法障壁がそれを阻む。
「・・・君も魔法使いならなにが起きているかわかるだろう?」
「知恵者」アンドレイはユージンに笑いかける。
「・・・わかるさ。お前よりずっとな」
ユージンは歯ぎしりする。くそ、本来の力が使えれば魔法障壁くらいどうにでもしてやるのに・・・。
魔法障壁は魔法使いにとっては、必須といってもいいスキルだ。自分が本来受けるはずだったダメージを魔力で支払う。
つまり、アンドレイにダメージを入れたければ、彼の魔力を空にするしかない。
「ヴァルナ!気持ちはわかるが、まずは後ろから片づけてくれ。このままだと被害がどんどん広がる」
ユージンがヴァルナに叫ぶ。
「あぁ、もう・・・くそっ!!」
ショックを受けている場合ではない。
今こうしている間にも仲間はどんどん追い込まれていく。落ち込んでいる場合か、しょげている場合か、腹を立てている場合か!
全部・・・全部・・・
「お前らが喧嘩なんぞ、吹っ掛けるからぁぁぁあああ!!」
会心の一撃!!!
アンドレイの魔法障壁をヴァルナがごっそりと削っていく。
「おいおい、嘘だろ?」
アンドレイは呟く。このままではマズい。
「悪いけど・・・このまま畳みかけさせてもらうわよ」
グラシアナがアンドレイとの距離を詰める。
獣神の加護を発動し、身体中に封印されている野生の力が解放されていく。
「正拳突き!!!」
3m近い巨大な姿となったグラシアナの最大最強の一撃がレベル2の力を乗せてアンドレイの魔法障壁をぶち破る。
魔力が底をついたアンドレイは馬車に吹き飛ぶ。
「・・・いたたたた・・・。あーあ、こりゃダメだ。・・・クラリス」
「・・・」
追撃しようとしたグラシアナの前に突然煙幕が広がり・・・
「悪いね。魔力が切れたのでまた今度!じゃあ、皆さんお先に」
そう言い残すと、アンドレイの姿が消える。
「おい、ねえちゃん、俺とも遊ぼうぜっ!!」
モーリッツが気づくと距離を詰め、ヴァルナに戦斧で斬りかかってくる。
「!?」
ヴァルナは身体を捻って攻撃をかわそうとするが、避けたつもりの刃がヴァルナの身体に傷をつける。
「ヒール!!」
すぐさま別のパーティの神官から回復魔法が飛び、ヴァルナの身体を治癒する。
「ちっ・・・邪魔が多いな」
戦斧のドワーフは即座に体力を回復するヴァルナの姿を見て、舌打ちする。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
後方から悲鳴が上がり、ヴァルナが視線を向けると、声の主は「鉄壁」の異名をもつトントゥの女性、カタリナだった。
キーロンのパーティの魔法使いのエネルギーショットを受け、ボリスのパーティのエースと思われる二刀流のドワーフの男戦士がスキル「全力斬り」を発動させ、会心の一撃でとどめを刺していた。
アンドレイの撤退に続き、回復役のカタリナが死亡。
戦局が一気に傾く。
そのダメ押しをしたのは・・・。
会心の一撃の輝きをまとった矢がワニの獣人、ゲーンリフの心臓を貫く。
「・・・っし!」
ヴァルナたちのパーティのもう一人のエース、オルロだった。
「ならば儂も出し惜しみしている場合ではないか」
ヴァルナも奥の手を発動する。
鉄の双剣を火神の加護を受けた炎が覆った。
「「戦車」じゃったか?儂の攻撃力とお主の防御力、もう一度比べてみようぞ」
炎の双剣にさらに会心の一撃の輝きが加わる。
「おお、いいな!かかってこい」
モーリッツは嬉しそうに戦斧を構える。
ヴァルナは加護の炎をまとった剣を構え、地面を爆発させるように蹴り上げて戦斧のドワーフへ突き進む。
そしてモーリッツを立て続けに斬り裂いた。
「角つき」と戦った時以上の現状ヴァルナが出せる最大火力だ。
しかし、それをモーリッツは耐え切る。
「なん・・・じゃと・・・」
最強の火力だぞ?なぜ生きている・・・?
「おー、あちーな。・・・だが、まだ俺を倒すには足りないな」
モーリッツは燃える断面を叩いて消化し、ニヤリと笑う。
その時、何者かの気配を感じ、ヴァルナは咄嗟に剣で首を守る。
ガキィィィィイイン!!!
ヴァルナの勘が的中し、何者かの攻撃を弾いた。
意識して行ったのではない。ほとんど反射に近い動きだった。実際、ヴァルナはショックを受けている最中だったのだから。
「ほう・・・あれを避けるか。お前は本当にいい女だな」
モーリッツは満足そうに頷いた。
「よし、今日はもう時間らしい。ただ、カタリナの仇はとっとかなきゃな。同胞とはいえ、おいたが過ぎる」
モーリッツはそういうと地面を蹴って、ボリスのパーティの二刀流のドワーフにあっという間に接近し、その首をはねる。
ドワーフの血しぶきを浴びながら、モーリッツはヴァルナにニカッと笑う。
「・・・また遊ぼうぜ、おねえちゃん」
そう言い放ったタイミングで、煙幕が弾け、戦斧のドワーフの姿が消える。
同時に戦場を暗躍していた女エルフの狩人の気配も消える。
「・・・なんだったのじゃ、最後のあの攻撃」
あれは女エルフの狩人の気配ではなかった。もっと野性的な・・・まるで「角つき」を相手しているような・・・。
ヴァルナははっとして、「皆、無事か!?」と戦場で大声を上げる。
「俺たちは無事だが・・・」
オルロがヴァルナに言葉を濁して答える。
最後の不吉な一撃はどうやらこの戦場の各所で発生したらしい。そしてその攻撃を避けられなかったのは2人だ。
キーロンのパーティの魔法使いのヒューマンの女性、そして・・・
「うぅ・・・」
ルッカが腕を抑えて呻く。彼女の右腕には噛み痕があった。
「フルール、フルール、大丈夫か?」
キーロンのパーティの武闘家のヒューマンの女性が、倒れている魔法使いの女性の身体を揺さぶる。彼女はルッカよりも辛そうな様子で、全身から脂汗を浮かべている。
「毒か?」
オルロの問いに2人の介抱をするボリスが首を振る。
「いや、「キュア」を使っても治らない。これはただの毒や呪いじゃない」
ヒューマンの男性神官はフルールとルッカの眼球を確認して頷く。
「やはり・・・」
「なにかわかったの?」
グラシアナが尋ねると、「ああ」とボリスは頷いた。
「白目がわずかにだが、黒く変色している。・・・さっきのやつらと同じ症状だ。ただ、フルールの方は進行が速い。・・・多分進行に個人差があるんだろう」
「ユージン・・・」
オルロがユージンに意見を求める。
「さっき戦場には姿を隠していたやつが「罠の達人」の他にもう一人いた。多分、そいつが黒幕だろう。呪いかなにかで他人を操る能力があるらしい。それも意識を保っているということは強制ではなく、自発的にそいつに従う力かなにか・・・もしくは「黒目化」を治すために従っているのかな・・・」
ユージンは頭の中で情報を整理しながら分析する。
「ヴァルナをあしらうような化け物どもが従うなら黒幕は相当な力の持ち主・・・あるいは自発的に黒幕を守るような思考にさせられる力を持っているってことだ。・・・ってことは少なくとも黒幕を捕まえないと「黒目化」は解決しない・・・?いや、そう考えるのは早計か。まずはギルドで情報を集めて・・・いや、完全に黒目化したら元に戻らない可能性も・・・」
ユージンはぶつぶつと呟き、頭を抱える。
「ねえ、2人はどれくらいで完全に黒目化するだろうか?」
ユージンがボリスに尋ねる。
「わからない。初めてみた症状だからな・・・」
「まあわかってたけど・・・くそ、どうする・・・」
このまま追撃するか?
しかし、あのモーリッツというドワーフは別格だ。ヴァルナの全力にも耐える。オルロですらダメージが与えられるか怪しい。
少なくともこのパーティの現状ではあいつに対抗するのは不可能だ。
それにモーリッツの攻撃だけではない。アンドレイとクラリスもいる。それに加えてこの原因不明の症状を引き起こす見えない黒幕・・・。
この状況で一体なにができるというのか。
「・・・ユージン」
焦って右往左往するユージンに、ルッカが目を開けて声をかける。
「一回、街に戻ろ?亡くなった人もいるし。このまま追撃は無理だよ」
「でも・・・」
ルッカがユージンの手に自分の手を重ねる。頭ではわかっている。しかし・・・。
「・・・ね?」
「ぐ・・・ッ!・・・わかった」
ルッカに諭されてユージンは渋々頷く。
死者3名、「黒目化」を発症した2名の被害を出したユシス村近辺の戦いの後、3つのパーティは大都市ネゴルへの帰還を決意するのであった。




