第4話 クエストと商売上手な受付嬢
「はい、じゃあ、皆さんにとっては初めての依頼をご説明しますね」
受付嬢はギルドの受付の机の上に依頼書を出し、5人に見えるよう置いた。
「今回はギルドからの依頼となります。依頼は、通常、ギルドに依頼主が前もって依頼料の全額を支払い、ギルドが冒険者を斡旋します」
「あそこに張り出してるものがそうじゃな?」
ヴァルナがギルドの掲示板に張り出されている沢山の依頼書を見やる。
受付嬢は「その通りです」と頷き、続ける。
「ギルドで発注した仕事を冒険者が受注し、依頼がスタートします。受注できる依頼書には最低ランクが表記されており、それより下のランクの方は受けることができません。これは依頼の達成率を下げないという目的もありますが、1番は受注した冒険者が死ぬというリスクから守るために設定されています」
受付嬢は「死ぬ」という言葉を躊躇なく口にした。
それだけ冒険者という仕事は危険であり、そして死が日常的にありふれる業種であるのだろう。
「ほうほう」
「…だからこの間のヴァルナさんのハイ・ソシア討伐は本当はとても危険な行為なんですよ。ハイ・ソシア討伐だったらDランクですからね」
受付嬢は「うむ」と真面目な振りをして頷くヴァルナを睨みつける。そして咳払いをする。
「…皆さんは冒険者になり立てですのでEランクです。だから基本的にはEランクしか受けられません」
「…ということは、今回は『基本的』ではない、と考えていいのかな?」
ユージンが依頼書の右上に刻印されている文字を指さす。そこには「Dランク」とはっきり書かれていた。
受付嬢はユージンに真顔でゆっくりと頷く。
「今回は特例になります。実は現在、ユシス村で大規模な討伐依頼が出ており、Dランク以上の冒険者はそちらに回されているのです。しかし、こちらの依頼書の地域でも被害が出ているため、ギルド上層部で話し合い、ギルドが依頼を発注するという形で、貴方たちにお願いすることになりました」
受付嬢は依頼書を5人に見せながら説明する。
「今回の依頼は、ザカー平原のソシアの調査です。皆さんご存じかと思いますが、そちらのヴァルナさんが先日、ハイ・ソシアを討伐されました。しかし、通常、ザカー平原でハイ・ソシアが生まれることはありません」
「あ、こら…」
ユージンの肩から受付のカウンターにトカゲが飛び乗り、首を傾げる。受付嬢は目の前に突然飛び出してきたトカゲに驚き、びくり、と肩を震わせた。
「こっちこっち」
それを見ていたルッカは小声でトカゲに声をかけ、手を差し出す。するとトカゲは素直によじよじ、とルッカの腕を登っていった。
「こほん…えー…なぜかと言いますと、通常なら都市に近いところは冒険者の通り道になりますので、大体が倒されてしまうからです。しかし、ソシアの目撃情報がここ最近あまりにも多い。実際にギルドの冒険者にも被害が出ています」
受付嬢は咳払いをした後、話を続ける。
「…」
ヴァルナの脳裏にはボロボロになったジュストと、マリッサが浮かんでいた。
そして、彼女が助けられなかったハイ・ソシアにやられたヒューマンの「戦士」とトントゥの「魔法使い」の亡骸も同時に思い出し、拳をぎゅっ、と握った。
「なので、今回、皆さんにはソシアの増殖の原因を突き止めてもらいたいと思っています」
「増殖の原因っていうと、ちょっと達成条件が漠然としてるな。ソシアの巣を発見する、と置き換えても?」
首を傾げた後、ユージンが受付嬢に確認する。
「はい。それで構いません。ソシアの増殖を止めるのが最終的な目的ですが、退治となるとかなりの難易度となります。そのため、巣を発見していただくだけで充分です」
「報酬は5000Gと書いてあるが、これはパーティ全体で、かしら?」
グラシアナがユージンに続いて質問する。
「はい。巣の発見までなら5000Gです。もし、巣の駆除まで行えば15000Gが報酬となります。ただし、巣がある場合にはハイ・ソシアなどもいる可能性が高いので、くれぐれも無理はされないようにお願いします」
ヴァルナの行為を先程は咎めたにも関わらず、ハイ・ソシアと遭遇した場合、逃げろ、とは言われなかった。
これは彼女の、というよりもギルドの受付嬢としての依頼の説明だからかもしれない。
ギルドの上層部はあわよくばハイ・ソシアの討伐も期待しているということだろう。
「これは成功報酬なのか?」
オルロも疑問を口にする。
「基本的には依頼は成功報酬が前提となります。巣が見つけられなかった場合には報酬は前金1000Gのみとなります」
オルロは頭の中で1人200Gの報酬、と計算する。
つまり今回、巣を見つけられなければ2日分の生活しか保障されないことになる。冒険の準備にも金はかかるし、魔物と対峙すれば命の危険もあるというのに…なかなか辛い仕事だ。
しかし、オルロの中でふと疑問が浮かぶ。
「…もし、前金をもらって、適当に『見つからなかった』って言えば苦労せずに1000Gもらえてしまうんだが、これでギルドは大丈夫なのか?」
「心配には及びません。冒険者は信用第一のお仕事です。そのため、依頼の達成率はギルドで把握しています。達成率が低くなれば、ギルド等級も下がりますし、評判が悪くなれば依頼自体が受けられなくなっていきます」
「「「「…(ここに1人問題児がいるんでけど)」」」」
4人はヴァルナをじっと見る。
「な、なんじゃ。…大丈夫じゃ。儂に任せておけ」
ヴァルナは根拠なく、胸を張る。
「もう魔物の死体とか引きずり回しちゃダメよ?ギルドの扉蹴破ったりとか」
グラシアナがじとっとした目でヴァルナを見る。
「う、うむ」
その圧に負けたヴァルナが視線を泳がせながら頷いた。
それを見た受付嬢がくすり、と笑った。
「依頼の調査期限は一週間になります。ここからザカー平原へは大体歩いて半日程度です。早朝から出発すれば昼過ぎには着くでしょう。…ここまででなにか質問はありますか?」
「まあ、ギルドからの強制依頼だから受けるしかないけど…いいよね?」
ユージンの問いかけに4人とトカゲ1匹はこくり、と頷く。
「それでは、前金600Gをお渡ししますね。ちなみに、皆さん、今回の依頼に必須の薬草、携帯食、冒険者セットは持っていますか?こちら、ギルドでも販売しておりま~す♡お値段なんと全員分で600Gです♡」
商売上手の受付嬢がにっこりと笑う。
結果、見事に初心者冒険者たちはギルドから前金を全て持っていかれることになったのであった。




