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女神のサイコロ  作者: チョッキリ
第4章 「遡行者」ユージン
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第21話 青フードの男②



「よう、お前ら」


壇上(だんじょう)に立った青フードの男は信者たちを見回す。


その隣には赤い髪の同じく司祭の仮面を被った女性―――ルシアが腕を組んで立っていた。


「一部のヤツは気付いてるてぇだが、今日、この場に集めたのはイレーネ派(うち)の中でもそこそこ使えると俺らが思っている奴らだけだ。俺はお前らにだけ(・・)、秘密の話をしたい」


仮面の集団はシン、と静まり返って青フードの男を見つめる。


「だが…」と青フードの男は言葉を止め、懐からナイフを取り出す。そして、軽く目の前の信者に向かって投擲(とうてき)した。


サカッ…!!!


恐ろしい速度でナイフが飛び、仮面の額の部分に突き刺さる。


ナイフをくらった信者の頭がまるでスイカが爆発したかのように弾け飛び、辺一面に脳漿(のうしょう)をぶちまける。


「不合格」と青フードの男は不機嫌そうな声を上げる。


「おいおい、お前ら、俺かルシアか、司祭どもから推薦もらってこの場に来てるはずだろぉ~?これくらいかわせよ、どうなってんだ。おい、これ推薦したヤツ誰だ?」


青フードの男がぐるり、と信者たちを睨みつける。


そのあまりの迫力(はくりょく)に「ヒッ!?」と信者たちの中から小さい声が上がった。


「お前か」


声を上げた人間を特定した青フードの男は壇上からそこへ跳躍する。


人垣(ひとがき)が一瞬で開き、青フードの着地する場所を作る。青フードの目の前に立っていたのは小柄で筋肉質な身体つきの男だった。恐らく彼はドワーフだろう。


仮面の目の縁の色から司祭だということがわかる。


「か、かかかかかか…勘弁、勘弁してくださいぃぃぃぃ」


「ダメだ」


青フードの男は首を振る。その声は笑っていた。


「お願いします。なんでもします。なんでもしますから…命だけは」


ドワーフの男は両手をついて頭を地面に(こす)り付ける。


「ダ・メ・だ。―――いや、待て…なんでも(・・・・)…?…今、なんでもって言ったか?」


青フードの男はずいっ、とドワーフに顔を近づける。


「…は、はい!!」


ドワーフは顔を上げて、何度も頷く。仮面の下から涙が流れ、首元がびしょびしょに濡れている。


「…ふむ。ふむふむふむふむ。ふむふむふむむー。まあ俺も?一応、もう司教なワケだし?反省してるなら慈悲(じひ)ってヤツを見せないとなんねぇか」


青フードの男はドワーフの髪を(つか)んで、少し動けばキスができそうなくらい顔を近づけ、仮面の下で目を歪めて笑う。


「…ところでお前、名前はなんだっけ?」


「ペガロニフです」


ドワーフは自分の名前を震えながら告白する。


「ペガロニ?…ペガちゃん。ペガちゃんはさぁ~、反省してる?自分が無能である結果、俺が軽く投げたナイフすらかわせないようなポンコツを連れてきちゃったこと」


ペガロニフと名乗ったドワーフは首を何度も縦に振る。


「そうだよなぁ。反省してるよなぁ。じゃあそれをこの場の皆に示さないとなぁ。悪いことをしたらケジメをつける。ガキだって知ってる。―――そうだろ?」


「………ッ」


ペガロニフはごくり、と息を飲む。


「まずはさ、仮面(それ)、外せよ。皆にも反省している顔は見せないと」


「し、しかし…」


ペガロニフは(おび)えながら周りを見回す。


魔神教では基本的には信者同士の素顔を見せないのがルールだ。素顔を知っていると日常生活で偶然出くわした時などに不自然な反応をしてしまうことがあるからだ。


また誰が信者であるかわからないことで、情報漏えいを防ぐ意味合いもある。


加えて、顔がわからないことで情も湧きにくく、いざというときに(すみ)やかに始末ができたり、入れ替わりをさせたりすることができるなど様々なメリットが存在する。


ルシアやユージン、シュネルは施設で生活するので例外だが、ダックたち研究員や施設に研修を受けに来た信者は皆、仮面を着用しており、素顔は見たことがない。


この場にいる仮面を被った信者たちも、ひょっとするとどこかで会ったことのある人間である可能性も十分にあるのだ。


だからペガロニフの反応は当然のものだった。


「い・い・か・ら・は・ず・せ」


「………はい」



青フードの男の命令に従って、ペガロニフは仮面を取り払う。予想通り、髭面の中年のドワーフの男だった。白髪交じりで、一見どこにでもいそうな素朴な顔立ちをしている。


司祭に任命されるということはそれなりの実力者の筈だが、少なくともユージンがギルドで見かけたことはない。普段は冒険業以外をしているのかもしれない。


「よし、これでお前の顔がよく見えるなぁ、ペガニロフ(・・・・・)君。じゃあ、これからお前にはちょっとした試練をやる。…なに、本当に反省しているならこれくらいの試練、お前なら耐えられるはずさ」


「…?」


青フードの男はフードの肩についている留め具を外し、手で広げて内側を見せる。そこにはオーソドックスなハンティングナイフからマチェット、スローイングナイフ、ダガー、ククリ…様々な種類のナイフがずらりと並んでいた。


「俺の自慢のコレクションだ。…安心しろ。俺も鬼じゃない。…お前のお願い通り、命までは取らねぇよ」


「な…なにを…」


ずらりと並ぶナイフコレクションを見たペガロニフの表情がみるみるうちに青ざめていく。


「………どーれーにーしーよっかなぁ~♪」と言いながら、青フードの男は服の内側にあるナイフを選び取り指と指の間に挟んでいく。


「5、6、7………8っと。よし。こんなもんか。…8本。たった8本だよ、ペガちゃん」


ペガロニフに見えるように指に挟んだナイフを見せる。


「これをこれから1本ずつお前の身体に刺す。8本全部刺しても一度も声が上がらなかったらお前の根性に免じて許してやる」


ペガロニフはごくり、と息を飲んでナイフを見つめる。


「は、8本………あの…きゅ、急所は外してくださるんですよね?」


ペガロニフは恐る恐る尋ねる。


「おうよ。魔神ウロス様(・・・・・・)に誓って」


青フードの男は信仰神の名前を出して大仰(おおぎょう)に頷く。神に誓うという言葉は魔神教徒においても、それなりの強制力が働くのかどうかはユージンにはわからないが…。


「8本か…な、なら…」


それを聞いたペガロニフはほっとした様子で頷く。殺されない、急所は外してもらえる、というのであれば8本ならば耐えられないこともない、と考えたようだ。


「ちなみに終わった後、治療は…?」


青フードの男は「はぁ~…」とわざとらしく大きなため息をつく。そしてギロリ、とペガロニフを睨みつける。


「あのね、ペガちゃん、ちゃんと反省する気ある?お前、終わった後の自分のことばかり考えて、やだねぇ…」


「ひっ…す、すませっ」


ペガロニフは青フードの男の反応に怯え、再び額を地面に擦り付ける。


「いいぜ。…終わったら誰か治療してやれ!…これでいいか?」


「はい。ありがとうございます。ありがとうございます…」


「ほら、立てよ」


青フードの男はペガロニフに手を貸してぐいっ、と立たせると、1本目のナイフを見せる。


幅は4~5cm程、刃渡りは12~13cm程で、青白い光を放つナイフだ。普通のナイフでないのは刃がギザギザとノコギリの様に細かく尖った形をしているところだ。さらにナイフの背の部分にもギザギザはついており、片方の刃はカーブを描いているのに背の部分でも切ることができそうな不思議な形状をしている。


「まずは1本目だ。ちゃんと我慢しろよ?…行くぜ」


返事も待たずに「よっ」と気軽な声を上げて目にも留まらぬ早さでナイフを振るう。


その瞬間、ペガロニフの右手の中指が切断され、ぼとり、と地面に落ちた。




「~~~~~~~~!!!!!!!!!」


ペガロニフは右手を抑えて悲鳴を懸命に抑えながら(うずくま)る。


青フードの男は宣言通り確かにナイフを突き刺していた。


中指の根本にナイフが生えている。


ナイフを挟む形になっている人差し指と薬指は、差し込まれたナイフのギザギザの刃によって、肉がめちゃくちゃに削り取られ、見当違いの方向を向いていた。辛うじて指がついているのが不思議なくらいだ。


「~~~~~~~~!!!…………ッ!!!」


ペガロニフは顔を真っ赤にし、涙をボロボロと流し、口からは(よだれ)を垂れ流しながらもなんとか痛みに耐える。


フーッフーッ、と震えながら荒い息を吐き、二度と使えなくなった右手を見つめる。


「お、やるなぁ。じゃ、次行こうか。ここも痛いぞ」


その様子を見た青フードの男は嬉しそうに2本目のナイフを取り出す。


今度は先端がフォークのように3本に分かれ、刃が立体的に波打った形状をしているナイフだ。幅は3cmくらい、長さは10cm程度。見た目はナイフというよりもマイナスドライバーに近い。


「ほらほら、立って立って」


「フーッ…フーッ…フーッ」


「はい、行くぜぇ。そいっ」


青フードはナイフを逆手で持ち、勢いよくペガロニフの右の鎖骨のあたりに上から突き立てる。


ナイフは鎖骨の骨の形状にピッタリと沿って、胸の少し上の部分を突き破って勢いよく飛び出してきた。


「~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」


「あっはっはっはっはっは!!!!ほらな!ほらほらほらほらほら!!!!ほらほらほらほらほら!!!ほーら、いてぇだろ?いてぇよな?いてぇんだよ、これ」


ペガロニフは歯が割れる程、強く食いしばりながら恐る恐る目を動かして自分の肩に何が起こったかを見る。


ナイフの柄が鎖骨から生えており、その先端のフォークのような三叉の刃が丁度、右の首の近くから飛び出している。


うかつに首を動かすと自ら頸動脈(けいどうみゃく)を割いてしまいそうだ。


「なかなか見込みあんじゃねえか。この分ならあと6本くらい余裕だな」


青フードの男はなにがおかしいのか、くくくく、と笑う。


「じゃあ3本目だ。次はシンプルにいこう」


これまでの2本と異なり、なんの変哲(へんてつ)もないシースナイフを取り出す。


「ほら、これなら大体痛みは想像できるだろ?これを今からお前の左目に突き刺す」


青フードの男は幅2.5cm、長さ11cm程のナイフをペガロニフに突きつけた。


「…………」


ペガロニフは歯を食いしばりながらナイフを見つめる。


「え?これまで右ばっか責めてたのに…なんで左目かって?知りたい?」


その様子を壇上(だんじょう)から見ていたルシアは目を細め、「悪趣味」と呟く。


どうやら彼女は青フードの男の意図がわかったようだ。しかし、なぜか彼を止めようとはしない。


「それはな、右目潰しちゃうとせっかく刺した俺のナイフが見えないからだ」


ズブリッ…


言い終えるのとほぼ同時にナイフをゆっくりゆっくりとペガロニフの目に突き刺していく。


「~~~~~~~~~!!!!!!!!!」


ペガロニフは血の涙を流しながら、頭を振る。その瞬間、鎖骨の下を貫通したナイフがペガロニフの首を傷つけ、首から血が流れ落ちる。




彼の床にはおびただしい量の血が水溜りを作っていた。


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