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泉の精

作者: あいなめ

雲なく晴れし  夏の日の

未だすずしき  朝の風

若草踏みし   我が馬の

蹄の音も    軽やかに

朝露我は    頬に受く


かつてなきほど 歩を進め

未だ見ぬ森   分け入れば

茂る木々の葉  通り来る

もやに映えたる 日の光

かすかに揺らぐ 白い帯


そに照らされて 輝ける

泉のほとり   我は来し

湧き来る水の  冷たさは

若き乙女の   純潔な

心の内に    それ似たり


我はそこにて  歩を留め

我が乗りし馬  草を()

我は岸辺に   腰おろし

泉の水を    手に汲めば

渇きし喉も   癒されぬ


孤高に立てる  水仙の

強き(かおり)に    誘われて

我は手折りし  かの花を

花弁に残る   水玉は

朝の光に    七色に


さらと聞こゆる 葉ずれの()

ふり返りたる  我の目に

映えし青き目  金の髪

蜘蛛織りし布  纏いたる

泉守りし    水の精


かの精霊は   我がもとに

歩み来りて   その(かいな)

我の手折りし  水仙を

いだきてそれを 愛おしみ

目には涙を   浮かべたる


かの妖精は   我に言う

なれの手折りし 白き花

我を慕いし   若者の

我の恋せし   若者の

変わり果てたる 姿なり


呪いかかりし  我が身なり

呪いかかりし  我が泉

たたえし水を  飲みし者

泉の内の    我が姿

想いてその身  投げ果てる


かの若者は   我に言う

(すで)に見し   誰よりも

身目うるわしき 精霊よ

なれがもとへと 我行かん

なれ泉より   出でざれば


かの美しき   若者は

我の心も    捉えたり

慕われるまま  我慕い

請われるままに 泉出で

彼に唇     許したる


我知らざりし  我が呪い

我の泉を    呪いたる

悪しき心は   若者も

その身投げざる 若者も

逃しはせなんだ 魔の手より


口づけをせし  若者は

その場に命   失いぬ

常に涙を    抱きつつ

その身は白き  野の花に

変わり果てたる その岸辺


愛の泉の    水飲めば

呪いかかりし  我の身も

手折られし花  妖精の

白き指より   我は取り

乙女の肩を   我抱く


我は歌いし   精霊に

我も恋せし   精霊よ

ただ破滅のみ  我待てど

我今なれに   口づけし

ここにて花と  あいならん


乙女は我の   手を逃れ

離れて立ちて  言いけるは

我に恋せし   若者も

我の愛せし   若者も

みな我ゆえに  死に行きぬ


かくも多くの  ものの生

我は奪えば   いかにして

生きてゆかんと 精霊は

腰に下げたる  短剣を

胸を鞘よと   つき立てぬ


瀕死の乙女   手にいだき

我精霊に    言いけるは

我らはなれに  恋すれば

なれゆえ死せど 悔いなしと

我は乙女に   口づけす


別れの口づけ  済みし後

乙女息絶え   姿消ゆ

泉の水より   生まれた身

死したる後は  また水に

なって泉に   帰りたる


不意に我気を  失いて

どうと地面に  倒れたる

されど命は   奪われず

姿は花に    変わらざる

再び我は    目を開けぬ


されどその時  見しものは

我が愛馬のみ  かの森も

泉もそこに   在らざりし

さては夢かと  思いつつ

わが手は握る  白き花


已に昇れる   夏の日に

我は愛馬に   またがりて

死して我が身を 守りたる

乙女の想い   胸に秘め

かえりの道を  進みけり




内容はありがちでしょうが、形式的にはなんとか割と整っていると思います。

ちょっと漁っていて出てきた番外編です。


胸を鞘よ、はロミジュリでしょう。オリビア・ハッセーのが好きかな。あれ(!)で15歳ですもんねえ。

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