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カフェshion物語

カフェshion物語 ☆ (詩織の居場所編)

作者: 涼織
掲載日:2020/07/31

詩織の生い立ちが明らかになります。

 詩織は気ままな旅を満喫していた。それもその筈、小説家になって初めて執筆を休み、思い切って旅に出てきたのだ。初めの頃はオリジナル作品を認めて貰えず、暫くの間ゴーストライターとして活動していた。そして数年後に「世界で一番の珈琲」というエッセイが新聞に掲載された事がきっかけで、やっと《小説家詩織》として世間に認められたのであった。そしてそれからというもの、50作以上のオリジナル作品を出してきた。締め切りに追われ徹夜が続く時もあり、それなりの苦労もあった。けれど、自分の作品を沢山の読者に読んでもらえる喜びに比べたら、それは詩織にとって大した事では無かった。それから7年間、殆ど休み無く書き続けてきたが、この辺で少しそこから離れ、心身ともにリラックスしようと思った。そして、少し大げさな言い方であるが、新しい自分に生まれ変わりたいと考えたのである。


最初に温泉で有名な熱海を訪れた。そしてそこから蓼科、京都、出雲、香川と、思い付くままに足を運んだ。そうして気付けば、ひと月以上が過ぎて行ったのである。訪れた先々で沢山の出会いがあり、学びがあり、そしてその度に自分が少しずつ変わっていく実感があった。そう、詩織にとってこの旅は、人生の大きな節目となったのである。こうして詩織の心の旅は終りを告げたのであった。


家に戻ると直ぐに、いつもの忙しい日常が戻って来た。とりわけ次作「書下ろし小説」の準備に終日追われた。初めての私小説になるので、自分史を纏めなくてはいけないのだ。アルバムを出して子供の頃の自分と向い合う。日記を読み返し、改めて自分と向い合う。色々な思い出が甦り切なさに胸が締め付けられる事もある。でも詩織はこの作品をこの7年間の集大成にするつもりであった。と言うのも、今でこそ安定し幸せに暮らしているけれど、これまでの詩織の人生は決して簡単な物では無かったからである。


詩織は幼い時に両親を相次いで亡くした。5歳の時に母親が病死し、そして7歳の誕生日に父親を事故で亡くしたのである。その後親戚に引き取られたが、中学生になった時、引き取ってくれた叔父の会社が倒産し、経済的な事情で施設へ入る事になった。そこでの生活は楽とは言えないが、同じ境遇の子供達が沢山いたので、詩織も頑張れた。高校生になると、少しでも経済的助けになればと、出版社でアルバイトを始めた。そしてその頃から小説を書き始めたのである。

卒業後その出版社に就職し、施設を出て独立した。それからは我武者羅に(がむしゃらに)働き、ひとりで生きてきた。辛く悲しい日も多かった。けれどそんな時には必ず、小説を書く事で自分が救われるのを感じたのである。物語を作るとその中で、もう一つの現実が生まれるのだ。そうして詩織は沢山の小説を書きためていった。

そんなある日、急病で短編をキャンセルしてきた作家の代わりに、詩織の作品が取り上げられたのである。それがキッカケとなり、編集の仕事と作家の、二足の草鞋を履く事になった。そしてそれは2年程続いた。その後、編集長の後押しもあり、出版社を辞めて作家として独り立ちをしたのであった。そしてそれからの詩織は、書く事がそのまま生きる事でもあった。一日の殆どを家で過ごし、人と触れ合う時間は全く無かった。


そんな時に、散歩の途中でふと立ち寄った〖カフェshion〗 最初に訪れた時から何か不思議な空気を感じたのを今でも覚えている。そしてそれに引き寄せられる様に、其処〖カフェshion〗に毎日珈琲を飲みに行く様になったのだ。そしてそれはいつの間にか習慣になり、今では当たり前に執筆をする様になったのである。そして『そこ』は、詩織にとって執筆を除いても、無くてはならない場所になっている。

明日はいつもの様に、いつもの席で、また書き始めようと思う。ドアを開けて中に入れば、そこには心の拠り所がある。そして間違いなく詩織の〖居場所〗であるから。




                     了



これからも詩織は書き続けていきます。

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