No.21 不思議な客人
もう直ぐ期末試験を迎えるある日の事、テスト勉強をしようと思った私は8階の自習室に赴いていた。
「う〜ん、ここってどう説明文を入れたら良いんだろう?」
今、化学の勉強をしているのだが、暗記や計算は大丈夫なのだがこういう文を考えなくてはいけない問題には躓いてしまう。
『教科書を見直して、要点をまとめればいいだろ。こういうのは大体正解が決まってんだろ』
「そうなんだけどね、答えが曖昧なのはどこまで書いて正解なのか分からなくてなっちゃうんだよ」
と頭を抱えながら問題集を解いていると、見知った顔を見つけた。
「ライアンさんもテスト勉強ですか?」
「あぁ、にしてもこの時期になると普段は疎らなのに、こういう時だけ人が一杯になるよな。隣使うぞ」
と私の隣に座りタブレットとノートを開いている。
そのあとも勉強を続けていたが、苦手な問題と得意な問題の差が酷くて愕然とする。
説明文は配点が高いのでここは落としたくないのに、正解率が悪いのだ。
苦い顔をしていると、ライアンさんが声をかけてくる。
「どうした、そんな顔して?カンナは勉強出来る方じゃないのか?」
「私は理数系は良いんですけど、文系はダメなタイプなんです。化学でも説明文があると、どうしても躓いちゃって」
「俺と同じだな、コテコテの理数系だと苦労するよな。そういう時は本を読んだ方がいいぞ。せっかく図書館に来てるんだから」
「ライアンさんも理数系なんですね。なんか意外です。どっちかって言うと、体育会系だと思っていましたから」
「医者の息子なんだから理数系は出来ないとダメだろ?医者は体力も大事だしな。スポーツも体力作りには欠かせないだろ?親父も昔苦労したみたいで、体力をつけた方がいいぞって煩いからな」
そのライアンさんの話に親近感を感じる。
私も父親が外科医だったので、境遇が似ているのかもしれないと思った。
「ライアンさんのお父さんも医者なんですね。私の父も医者で仕事が忙しいのか、中々家に帰ってきてくれなくて。あまり家にいる記憶がないんです」
「うちは医者でもあるし、家族で病院を経営してるから尚更だったな。家よりも、病院に行った方が、家族が揃うんじゃないかと思ったぐらいだ。とはいえ、俺は家政婦もいたし、姉や妹もいるからそこまで寂しい思いをした事はないけどな」
「私は一人っ子なので兄弟がいるのは羨ましいです。でも一度だけ、お父さんが私の4歳の誕生日の時にはやく帰ってきてくれて。ケーキまで作ってくれたのを凄い覚えてます」
その話をライアンさんは黙って聞いてくれた。
「うちの父は家電とか全然使い方がわからない人なんです。家にいないから、逆に私が使い方を教えないといけなくて一緒にケーキを作ってお腹一杯になってしまったのか、いつのまにかベットに運んでもらって寝るまで絵本を読んでもらいました」
「…そうか」
「その時だけなんです。まともに家族3人で一緒にいられたのは。母は霊体でしたけど、私の側にいてくれて。月とお姫様の出てくるお話だったので。月にはうさぎと…もう1ついるって教えてもらったんですけど忘れちゃいました。可愛くない動物だったと思うんですよね。ごめんなさい、勉強中に昔話をしてしまって」
「いや、いいんだ。新しい一面が知れて嬉しかった。あまり喋らないだろ?こういう事。話が聞けてよかった」
そのライアンさんの言葉に安心する。
そのあと、勉強に戻りバスの時間もあるのでそれに合わせて退室する事にした。
「じゃあ、ライアンさん。お先に失礼します」
「もうこんな時間なのか、俺もバスがあるからな。もう少ししたら退室するか」
そのあと、エレベーターを使い1階に降りた時だった。
「マイヤーズ先生、あの化け物は一体なんなんですか!?」
と女性の怒鳴り声が聞こえた。
その声にとっさに近くにあった柱へ身を隠してしまった。
「奥様、どうか落ち着いてください。先生の話をお聞きしましょう」
と落ち着かせようとしているのか初老の男性が女性に対して声をかけている。
よく見ると、他のエレベーターの前に3人の男女がおり、1人は奥様と呼ばれた女性、もう1人はマイヤーズ先生と呼ばれた男性、その間にスーツ姿の初老の男性がいた。
「ゴードンは黙ってて頂戴!!あんな物を見てよく正気でいられるものだわ。研究の成果が出たとイギリスからわざわざ足を運んだのにあんな物を見せられて。これじゃあ、いつまでたっても…」
「私達から言わせれば、あんな物だと思いますよ。逆に動いている事が奇跡のようだ。医学に乏しい貴方から見れば理想とかけ離れた物でしょうけど、我々から見れば立派な進歩だと思いますよ」
なんだろうか?奥様と呼ばれた女性やマイヤーズ先生に身近な人の面影を感じる。
(というかマイヤーズって…)
そう考えていると、私が使っていたエレベーターの扉が開く。
それにはライアンさんが乗っていた。
そういえば、ライアンさんの苗字もマイヤーズだし、先生と呼ばれた人とよく似ている。
先程話していたお父さんだろうか?
だとすればもう片方は?
よく見ればピンクの髪に青い瞳をしている。
(ミランダさんのお母さん?)
「どうした、カンナ?」
とライアンさんに声をかけられるとあちらの方に目を向けた。
「その、何か揉めているみたいで、凄い気まずくて動けないんです」
「そういえば今日、親父が来るって言ってたな。あれはケリー・ローザ夫人か。元々、心の病を抱えているからヒステリック状態になったのかもしれないな。俺が声をかけてくる。カンナはその隙に行っていいぞ」
「ありがとうございます」
そのあと、ライアンさんは3人の元へ近づき話かけている。
その隙に私はお言葉に甘えて、校舎をでる事にした。
どうしてライアンさんのお父さんやミランダさんのお母さんがシャトランスに来ていたのだろうか?
それに「化け物」って一体?
でもライアンさんのお父さんは冷静だった。
人によって見方が違うのだろうか?
そんな疑問を抱えながら、寮へ戻る事になった。
No.21を読んでいただきありがとうございます。
マイヤーズは古いフランス語で「医者」の意味があります。
メディカルといった医療を表す言葉もあるのでその類語ですね。
これにてFile2は終了し次は冬休みを書いていきます。
実は冬休みは結構ハードスケジュールでやってます。
お宅訪問もあるのでお楽しみ。大きいお家でお泊り会をやりますからね。
次はNo.22「冬休みの計画」をお送りします




