No.13 梅と鶯
タイトルの「梅と鶯」は仲の良い間柄という意味があります。
キャラクターの名前を意識して名付けました。
校舎を出て東側の庭園に行くと、入り口として色鮮やかなバラが植えられたアーチを通る事なる。
(す、凄いおとぎ話みたい)
そのアーチを潜ると別の世界に来たような光景が目に映る。
教会や風車、その下にはチューリップが植えられるなど、まるで世界旅行をしているような気分になる庭園に来た。
「えっと、ニホン庭園は北東部にあるのかな?」
庭園の地図をタブレットで確認しながら、ニホン庭園の方に向かう。
そこまで辿り着くと、一つのニホン家屋に辿り着いた。
側には桜の木が植えられている。
「これ、誰かが住んでいてもおかしくないよね」
と私の話をよそに、八咫烏さんがチャイムを押そうとしている。
『おら、早く出てこいよ!!俺様を待たせるんじゃねぇ!!』
と「ピンポン、ピンポン」と何度も押している。
「ちょっと、やめてよ!!中に人がいたらどうするの!!」
と1人と1羽で喧嘩していると、扉がガラガラと開けられる。
「何かようでも?」
と今は燕尾服を着ていないが、以前生徒総会で見たヒデキチさんその人だった。
その姿に私は固まってしまう。
「ご、ごめんなさい。八咫烏さんが勝手にチャイムを押してしまって」
『はぁ!!テメェ、用があるから押したんだろうか!!俺様のせいにするんじゃねぇ』
そのやり取りにヒデキチさんはクスクスと笑っている。
「高名な八咫烏殿と、お会い出来る日が来るなんて思わなかった。用があるのであろう、中に入れ茶を出そう」
と私達を歓迎してくれているのか、中に案内してもらった。
中に入ると畳の間が数室あり、庭の見える部屋に一緒に入室する。
ヒデキチさんは先に入り、私用の座布団を用意してくれた。
「足は崩してくれて構わない。今、茶を出そう」
そのあと、緑茶を出してもらい話を始める。
「それで、用というのは?」
「えっと、本を見せて貰いたいんです。ヒデキチさんがニホン神話の本をお借りしているとお聞きしまして。八咫烏さんについて調べたいんです。宿題としても出されているので協力していただければなと」
「成る程、本なら鞄の中にある直ぐにとってこよう。それと、そちの名前を聞いていなかったな。名前を聞いても?」
「はい、自己紹介が遅れて申し訳ありません。1年のヤシロ・カンナと言います。よろしくお願いします」
その言葉にヒデキチさんが目を見開いている。
「ヤシロ・カンナ?ニホン人で間違いないか?」
「はい、ヒデキチさんと同じニホン出身です」
というと、ヒデキチさんは何か考え混んでいるが話を始める。
「ここで待っていてくれ。本を持ってくる」
そのあと彼は、別室に行き一冊の本を持ってくるとあるページを見せてくれる。
「八咫烏殿については、このページが1番載っているであろうな」
と本を指差しながら、教えてくれる。
私はその本の書いてある通り読んでみる。
「えっと、八咫烏はタカムスビによって神武天皇の元へ遣わされ、クマノからカシハラまでの道案内をした」
(…えっ、天皇!?)
天皇という存在はニホン人であれば誰でも知っている存在だ。
そんな方と八咫烏さんに繋がりがあるなんて初めて知った。
「あの、ヒデキチさんこれって本当の事ですか?八咫烏さんは天皇と関わりがあるんですか!?」
「八咫烏殿はカンナ殿に説明していなかったのか?」
『俺様は何度言ったぞ、大王の道案内をしたって』
「八咫烏殿、大王は昔の呼び名。今は天皇や皇族と呼ばれているのですよ」
『何だ、それなら早く言えよ。俺様が間違ってるみたいじゃねぇか』
どうやら、八咫烏さんの話は本当らしい。
ヒデキチさんも知っているみたいだし、知らない自分が恥ずかしくなってしまった。
「あの、もしよろしければ詳しい話をお聞きしてもよろしいですか?」
「勿論、家柄からニホン神話については幼少の頃から学んでいる。そちの力になれるであろう。八咫烏というのは古事記ではタカムスビ、ニホン書記ではアマテラスオオミカミによって遣わされたと言われている。導きの神、太陽の化身とも言われいるな。神武天皇との関係については今のミヤザキ県からニホンを治める為の土地を探している途中に今のワカヤマ県にあるクマノにて八咫烏殿と出会い、今のナラ県にあるカシハラにて都をひらき自身も神武天皇として即位した。大まかな流れというのはこのような形だ」
その話を聞きながら私はメモを取った。
八咫烏さんの話がスラスラ出てくるということは、ニホン神話についてとても詳しいのだろう。
私も、もっと学ばないといけないなと思った。
「ヒデキチさん、ありがとうございました。とてもお詳しいんですね。家柄と関係があるって言ってましたけど、ヒデキチさんの家は何か特別な家柄なんでしょうか?」
「特別などと大それた事は言えないが、ウグイスガワ家は代々神宮に仕える家系なのだ。その中でも私達は神鹿のお世話係をさせていただいている」
「神鹿ですか?」
「あぁそうだ、せっかくだし本物を呼んだ方がいいだろう。小梅さんいらっしゃい」
と庭園の方にヒデキチさんが声をかけると、1匹の白い鹿がこちらに近づいてくる。
そのあと私にお辞儀をしてくれた。
とても礼儀正しく、よくみると角がないので雌鹿だろうか?
私は正座に戻し、お辞儀を返した。
『ヒデキチさん、どうか致しましたか?カードキーでしたら3番目の引き出しの奥に…』
「いや、そうではなくて。小梅さんをカンナ殿にご紹介しようと思って呼んだのだ」
『まぁ、そうでしたか。初めまして、小梅と申します。いつもヒデキチさんがお世話になっております』
「い、いえ。こちらこそ!?」
(なんだろう、長年連れ添った夫婦の会話を聞いている気分だ…)
「小梅さんはシャトランスで召喚したのではなく、ウグイスガワ家で代々召喚されている守護霊なんだ。だから幼い頃から一緒にいる」
そう言いながら、ヒデキチさんは小梅さんと目を合わせている。
両者ともに穏やかな顔をしているので仲が良いのだろう。
そのあと、私はある事に気づいた。
ペルケレ先生の授業でニホンのサークルを使い守護霊を召喚していると言っていた。だとすれば…
「あの、もしかして今シャトランスで使っているサークルはヒデキチさんの家のものなんでしょうか?」
「よくわかったな、確かにうちの物を使っている。元々、動物の守護霊というのは人間ではなく神様に仕えるというのが一般的な考えなのだ。八咫烏殿も神の使いをしていた。小梅さんも本来私ではなく、タケミカズチ様にお仕えする神鹿なのだ」
その話を聞いていた小梅さんも会話に入ってくる。
『私達、動物の守護霊が武器などなれるのは、本来人間ではなく神様が護身用として私達に武器になる力を与え、それを自ら使用していた事に由来しています。タケミカズチ様は剣の神や軍神としての一面を持ち合わせていましたので、私の下の兄竹造には剣を、上の兄松尾には槍となる力を与えていました。私も最近になって弓としての力を授かる事ができたんですよ』
「神様の武器ですか」
“特別な守護霊”と聞いていたが、まさか神様の武器を扱っているなんて思っても見なかった。
「でもどうして、それを人間が使用出来るようになったんですか?」
「それは私達の神宮で祀られているタケミカズチ様が分霊として様々な神社で祀られているからなのだ。本来であれば、私達の神宮に守護霊がいなければいけないのに、タケミノカズチ様が全国にいる事もあって場所を指定する事ができない。その神宮に神鹿を置きたいのであれば、そこに留めておく鎖のようなものが必要なのだ。ウグイスガワ家は代々その鎖となって神宮に神鹿が留まれるようにしている。あのサークルはウグイスガワ家の人間のみが使用してきたものだが、訳あってシャトランスに持ち込まれるようになったのだ」
「じゃあ、ヒデキチさんの家は守護霊を神宮に留めておく為の家なんですね。でも、何故シャトランスに持ち込まれるようになったんですか?シャトランスって最近出来たスクールですよね?」
その私の発言を聞いたあと、ヒデキチさんは少し考えている様子だった。
元々、言葉を濁していたのだから言いにくい事だったのかもしれない。
「ごめんなさい、お家の事情にズケズケと質問してしまって」
「いや、良いのだ。そうだな、嫌な言い方になるが一言で言うとお金の問題だな」
「お金の問題ですか?」
どうしてサークルとお金が関係しているのだろうか?
「神社というのはな、どうしてもお金がかかるのだ。私の神宮も歴史はあるがその分古くもある。木造建築という事もあって崩れやすく脆いのだ。建て直しにもお金がかかる。神宮を存続させるにはお金が必要なのも確かなのだ。だからウグイスガワ家はサークル、守護霊を召喚する為の方法をシャトランスに売った。本来なら秘められるはずのものを公に流したのだ。…罪悪感がないと言えば嘘になるがな」
とヒデキチさんは顔を俯きながら話してくれる。
自分の中で守護霊というのはやはり、現実離れした物のように感じていたけどヒデキチさんの話を聞くとそれを守るというのは難しい事だし、現実的な問題にもぶち当たる。
苦渋の決断だったという事もヒデキチさんの話からも伝わってくる。
私は少し考えたあと、こう話した。
「私は守護霊についてまだ知らない事ばかりですし、ヒデキチさんのお家の悩みに対して何かアドバイスできるような立派な人間ではありませんけど、ヒデキチさんの家のサークルを使って、こうして八咫烏さんと会えましたし、シャトランスに入学して沢山の人達に出会えた事は凄く感謝しています。ニホンの高校にそのまま通っていたら、こんなに充実した学園生活を送る事は出来なかったと思いますから」
「…そうか、確かに私もこうして小梅さんと共にいられる事に感謝している。自らが実行する事に対して悪い事ばかり起こると思っていた。そちの話を聞いて少し心が軽くなったような気がする。ありがとう」
「いえ、でも悪い事ばかり考えてしまうのはニホン人の特徴ですよね。私も皆と一緒にいる時は出来るだけ明るく、ポジティブに振る舞うように心がけてます。そうしないと、このスクールではついていけませんからね」
「確かに、ここの生徒はみな明るい人ばかりだ。それが鬱陶しいと思う事も有れば逆に嬉しいと思う時もある」
とヒデキチさんはそう言いながらクスクスと笑ってくれた。
このまま暗い話をするより、話題を変えたほうが良いと思った私は別の話題を振る。
「そういえば、話を戻すんですけど動物の守護霊は神様の武器だったと話をしていましたよね。私の八咫烏さんも鏡になる事が出来るんですが関係性みたいなのってあるんでしょうか?」
「八咫烏殿が鏡に…。だとしたらこれが1番関係があるであろうな」
と言いながら別のページを開いて見せてくれる。
「神武天皇や神々とも関係のある品だ」
と言いながらそこを指差している。
「三種の神器ですか?」
「そう、歴代天皇が皇位を継承する際に皇位と共に贈られるのがこの三種の神器なのだ。八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉この3つの事だ。この3つは皇位を継承する際、とても大切になるものなのだ」
「じゃあ、八咫烏さんは八咫鏡になっていたという事ですね。それに、武器の鏡はとても古いものなんです。ずっと昔からあるから古かったんですね」
八咫烏さんは神武天皇が持っていた三種の神器の1つである鏡の力を授かったのだろう。
私は退屈だったのか、庭園で小梅さんと一緒にいた八咫烏さんをじっと見つめる。
「周りからは凄い守護霊なんじゃないかって言われていましたけど、私は全然自覚が持てなくて。カラスというと悪者というか、嫌われ者のイメージしかなかったのでヒデキチさんの話を聞いて、八咫烏さんが信頼されているというか、大切にされているのが分かって嬉しかったです。やっぱり、人間も動物もですけど見かけだけじゃないんですね」
「それならよかった。八咫烏殿は知的で気高い存在だ。カンナ殿の力になってくれるだろう。守護霊を扱う家柄として共に信頼を築いて欲しいというのが、我々ウグイスガワ家の望みだ」
その言葉に私は頷く。話も終わったので八咫烏さんを呼ぶ。
「八咫烏さん、話が終わったから帰ろう」
『おせーぞ、話が長いんだよ』
相変わらず、むかつくなと思いながらも笑顔で彼がくるのを待った。
「小梅さん、私達もそろそろ寮に戻ろう」
『はい、今日はお客様が来て下さって賑やかでしたね。カンナ様も八咫烏様も気をつけてお帰りください』
そのあと、ヒデキチさんや小梅さんと別れ寮に戻った。
今日聞いた話を用紙にまとめていく。
やっぱり、ペルケレ先生の言っていた通りパートナーを理解するというのは大切だなと思った。
そして1週間後、授業で発表した。発表の後、ペルケレ先生からコメントを貰う。
「とてもよく調べられていますね。武器との関連性についてもカンナさんの考察が書かれていて我々の理解も深まりました。動物に対するイメージがまた変わりますね。皆さん、カンナさんと八咫烏さんに拍手を」
そして無事に発表を終える事が出来たのでした。
No.13を読んでいただきありがとうございました。
これで大体八咫烏さんについては説明できたかなと思います。
八咫烏さんが俺様系なのも、皇室と関係があり気高い存在だからですね。
リードしてやるとか導いてやるという発言も、導きの神と言われていますので意識して入れていました。
小梅さんについてですが、元々神様を乗せていたのは雄鹿ですが直接だすのはなと、思ったのでその妹みたいな位置づけで書いています。兄がいるのもその為ですね。松竹梅で合わせています。
武器についても槍、剣、弓と純性で基本的なもので知名度のある物を選びました。
とはいえ、元ネタでは名前なんてありませんので作者の創作です。
タケミカヅチは実際に鹿島神宮や春日大社、全国の鹿島、春日神社で祀られています。
神社というのは実際に運営するのにはお金がかかります。作者はリアリストすぎて結構怖い感じになってしまいました。シャトランスのお金の動きとしてシュンの家は融資する側、逆にヒデキチの家はお金を貰う側となっています。他にもそれぞれの目的に応じて融資をしている家もあります。本当にローファンタジーでよかったです。完全に夢をぶち壊しにかかっていますからね。
次はNo.14「食卓の包囲網」をお送りします。タイトルを見てもわかるとおり後半茶番を入れてしまって、約3名のせいでストーリーが進みませんでした。ヴァニラやミランダが登場しますのでお楽しみに。




