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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
外伝 捻じれた歴史の裏側で

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数字と帳簿と

前回で完結でもよかったかなと思いましたが、消化不良感が否めないので急に思いたち、数話投稿させていただきます。


その日、エサルエス王国にて大規模な取り締まりが行われた。


財務直轄のアストレイ第一王子の主導の元。、32ある各領地の領主に言い渡されたのは、過去3年から5年の金銭授受の帳簿の原本の提出だった。


基本的に3年間の帳簿の保管は国の法律制定されている。また、このたびはアストレイの持つ翼の印章の押された書類での命令であり‥つまりは拒否権はエサルエス広しと言えど、まずいない。


「あ、あ、ああまりにも横暴が過ぎますぞ!!アストレイ殿下!!」

「‥横暴?その理由をぜひ教えてもらえるか?」

「そ、それは、急にこんな」


この勅命が一斉に王国全体の隅々まで届き渡ると、後ろめたいものを持つ者たちは一斉に狼狽し、それぞれわかりやすい反応を示した。

その筆頭が、ニーデルファン男爵家。…ディアトルが示した、建物の修繕費が明らかにおかしい数字をたたき出した一角である。


「金銭授受の帳簿は最低三年間の保管が国の法律で定めらている。何をためらう必要がある?」

「突然このような時期に…まだ収穫前で民衆からの税金も収まりきってはおりません!時期尚早では…」


エサルエスの納税は四つの身分によって収めるものも額も違う。


商業を生業とした者たちは年間を通してあまり波がない為、農民とまた納税手段は区別されている。


特に商家の多いこの国では、商業を営む者は物品ではなく現金での納税が義務で、その額は半期ごとの収入の約5%~8%となっている。


農業の民は現金ではなく農作物、主に小麦や大麦など穀物類の提出が義務づけられているが、農作物は季節や気候によって収穫率が変動することもあり、彼らは毎年秋の終わりに収める。


そして、その民から徴収したものは領主が預かり、また爵位をもつ領主はその位に応じて国に納める、という流れである。


「あなたの領地は農作物が主。まあ、男爵の言うことにも一理あるが」

「ならば!最近は浮民も多く‥」


浮民というのは、身分や生業を持たない者たちの総称である。

他国からの旅行者はもちろん、数は随分と減ってはいるが、小さな小競り合いなどにより住む場所を追われた者たちは一定数存在している。

家を持たない彼らはその証明手段として、木で彫られた証明印を持ち歩くのだ。


他国や大陸外から訪れる人間は皆、必ず入国の際には審査を通り、区別をするために木札を持ち歩いている。旅行者はその証明として赤い印をもらい、そうじゃないものは赤い印とともに番号が記されているのだ。


生業を持たない代わりに、一定期間の身元が国によって保障され、その間に職を見つけたり生きていく術を身に着ける。また、旅行者でも長期滞在の場合は一定期間の滞在費用を支払わなければならないため、その管理は徹底している。


国境にほど近いニーデルファン領は税金も安く、浮民が特に多い。


勿論、そう言った事情を考慮するのは当然ことではあるが、今のアストレイにとって重要なのはそれではない。


「‥そこまでしてなぜ怯える?もし、書類自体が紛失、または喪失状態にあるというのならば、話は別だが」

「そ、そのようなことは!」

「まあ、その場合は理由を問わず徹底して調査するまでの事。愛国者と謳う其方たちならば、国の定める法律には従順であるべきだろう?」

「そ、それは勿論、この国を想う心は我々が一番と自負をしておりますとも!し、しかしですな。急に言われても」


やや面長のニーデルファン男爵は、何度もハンカチで汗を拭きながら、明らかに目が泳いでいる。


(…腹芸のできない男だ。ニーデルファンは()()()()()()か)

「とにかく、明後日までにすべて提出するように。…貴殿の謳う愛国心と良心に期待をするとしよう。話しは以上だ」


無常に扉が閉じられ、男爵はその場に立ち尽くした。



応接室を出ると、窓辺にディアトルが立ち、ひらひらと手を振る。


「なんとも、拍子抜けする位わかりやすく動揺していたぞ」

「そうでなくちゃ」


にっこりと微笑むと、眼鏡の淵をあげる。

ディアトルの見解では、一連の水増しや不正な金の流れの原流の元となるものがあり、それを真似するものがいて、そのノウハウは伝染するように各地で派生されていっている‥ということだった。


不正がありそうな領地の数字を並べて比較した時、質のいい嘘の数字と、質の悪い嘘の数字があるらしい。


「ニーデルファン男爵。あいつは小心者で有名だ。他に扇動者がいて、それに呼応した形だろう。‥つまりは切り捨てやすいただの木偶ということだ。‥その内助けを求めてどこぞに駆け込むぞ」


「‥しかし、そんな木偶に扇動者自ら接触するとは思えないが‥」


「甘いよ、兄上。組織っていうのは、どうしようもない莫迦な末端がいて、初めて成り立つものだ。技を知らないずぶの素人が失敗例と問題ごとを起こして‥その対処法を上が学び、生かす。

そして、ある程度の情報が集まったら容赦なく切り捨てる。…あいつは不正ものだ!と高らかに叫びながら、正義の使者の仮面をかぶり、後ろ指を指すものだ」


コイツは本当に、敵に回すと骨が折れそうだ、と改めてアストレイは感心する。


「…扇動者がディアトル程の腹黒さを持ち合わせていないことを祈るよ」

「俺にしてみれば、それ位の悪役ぶりを発揮してくれた方がいじめがいがあるけどな」


物騒なことを素知らぬ顔で言う弟を見ながらアストレイは、数字について考えた。


「‥現実問題、二―デルファンの管轄地区は、北の方で山に近く災害や水害が少なくはない。…建物の修繕費用と民衆の棲む家のつり合いが取れればいいのだけどな」


そう呟くアストレイに、ディアトルはため息をついた。


「兄上、迷うなよ。…そんなだから恋人とだってすんなり先に進めないんだろう」

「…お前に言われたくない。」


なんとなく笑いあいながらふたり、肩を並べて歩く。

以前では考えられない状況に、こちらの時間軸に渡れたことをを心から感謝した。



**


「陛下!アストレイ様の行動が最近に目に余りますぞ!!今回の帳簿提出だって‥王家に忠誠を誓った我々を疑うかのようなご振る舞い!!」


ここはレオンハルトの執務室。

バァン!と派手な音が響くと、ツェルヴェン伯爵はただでさえ膨らみがちな頬を真っ赤にしながら叫んだ。その様子をややうんざりとレオンハルトは見つめた。


「忠誠を誓ったというなら、王家の申し出に応じるのが務めであろう?」

「ですが!!今回ばかりはアストレイ様の身勝手な行動に一同は頭を抱えて…」


ツェルヴェンにため息をつくと、レオンハルトは手を停めてじっと見つめた。


「‥アストレイが命じたのは、ここ3年の金銭帳簿の提出だろう?それの何が身勝手な行動だ?最近はおざなりになっているかもしれないが、帳簿の提出と保管は古くからのしきたりの一つであろう?」

「しかし!!これでは我々があまりに信用されていないと‥」

「それがお前たちの仕事だと思っていたのだが‥儂の勘違いだったか?」


ぎくりと顔をこわばらせると、ツェルヴェンは張り付いたような機械的な笑みを浮かべた。


「め、滅相もございません‥。ただ、アストレイ殿下がこのようなことをなさるとは」

「…あいつは誰が何と言えども、この国の第一王子だ。その責任感と使命感は儂も頭が下がるほどだ」


むしろ、今まで随分と大人しくしていたな、という方が正しいのかもしれない。


「アストレイは自制力が強すぎるきらいがあるな。そのタガを外したとなると…もし後ろめたいことがあるのなら、覚悟をした方がよいかもしれんぞ?‥さあ、喚くだけなら早くこの場から立ち去るといい」

「…!」


ツェルヴェンは、執務室を退室すると、ぎっと唇を噛んだ。


(おのれ…!長年忠義を尽くした我々を何だと思っている‥!王国の礎は我々亡くしては成り立たぬというのに‥!!)


**


闇夜の帳が下りた刻日。

エサルエスの首都アウロスからやや離れた場所の森にて。

複数の護衛を伴った一人の男が森奥深くにある廃屋へと足を運ぶ。


「‥このような場所にお呼び立てして申し訳ありませ‥」


彼らにしか分からない合図でドアを開くと、そこにいたのは思っていた人物と違った。


「‥あの。なぜ‥あの方は」

「私は代理です。…お聞きしたいことがあるならこちらへ」


ランプに火を灯そうとするが、それは制された。


「灯りがあらずとも、言葉があれば通じますでしょう。‥何をお伺いしたいので?ニーデルファン男爵殿」


目の前にいるフードを被った怪しげな男に男爵は警戒した。


(顔も見えず、灯りもつけるな、とな。…こいつは本当にあの方の使いなのか?)


「い、いや 私はあの方以外の人間にお話しすることはない。日を改めて…」

「そういうわけには参りません」


そう言うと、目の前に人物はすらりと腰に帯びた剣を抜いた。

白刃が闇に煌めくと次の瞬間、熱いものが腹部を貫いた。


「あ‥がっ…」

「足を引っ張る輩は退場しろ、との仰せでございます。」


フードの男はにやりと笑う。しかし、男爵は最後の力を振り絞って叫び声をあげた。


「ぬぐぉぉおおお!!!貴様ぁああ!!!」

「!」


すると、小屋の外が眩い光で明るく照らし出された。


そして、けたたましくドアをけ破ると、さらりとした薄青の髪がなびく。


「全員こいつをとらえろ!!!」

「くっ‥!シスリー王子…!!つけられていたか‥!どこまでも役に立たない男よ!!」


フードの男は剣に着いた血糊を払うと、傍にあった樽を足蹴にする。

瞬間、ごぉっとの炎が上がり。あっという間に燃えがった


「なっ?!」

「シス様!!だーから勝手に一人で突っ込まないでくださいって言ったでしょ!!」


続いてやって来たジャネットによって家から引っ張り出されてしまう。その隙にフードの男は後ろの窓から飛び出した。


「うう‥」

「まだ息がある!…おい男爵!しっかり…!」


火の勢いが増す中、シスリーは男爵の肩を無理やり担ぎ、燃え盛る廃屋を脱出した。


「今は乾期でこれ以上燃えれば森全体に火の手が上がる!!全員消火作業にかかれ!!この場にいる者はあのフード男を終え!!」

「はぁ、はぁ、シス…リー…様っ」

「しっかりしろ男爵!!」

「い、いいえ。私はもう持ちません‥なので、あなた方にこれだけは伝えなければ‥。」


男爵の目はうつろで、顔は真っ青だ。…もう待たないのは明白だった。


「‥わかった!‥一体何が」

「菱の…狼にお気を付けを…!き奴らはここに寄生し、あなた方の首を狙って… …っ」

「分かったからもうしゃべるな…」

「妻と子に‥どうか寛大なご処置を‥たった一度、ただ一度私は‥!!すまない と つた‥ …」



ガタァン!!

突如上がった音に、シスリーは顔をあげた。

廃屋は完全に燃え尽き、焼け落ちてしまったらしい。そして火の粉は舞い上がり、徐々に他の木々に写っていく。


「シス様!ここは危ないので…」

「全て、最初からこうなることを予測済みだったか‥」


苦悶の表情を浮かべて横たわる男爵を着ていたマントで覆いくるむと、そのまま馬に乗せた。


「彼は家族の元へ還してやろう。…爵位と騎士の位を戴いたものには相応の礼儀をしなければ」

「なんか、これ。色々と根が深そうな‥やばそうな事件ですね」

「ああ。‥こういう時、頼りになる()()()()もいるということは良いことだ。まずは消火作業が先決だな!付近の民に避難と救援を!!ジャネットは何人か連れて城に戻り、手の空いている騎士達を全員出動させて来い!」


その日、赤い雲が空を覆った。

消火作業は明け方になっても終わらず、拡大していくのだった。


あと3話くらい?で解決する予定です。

投稿するには連載中にしないとならないみたいなので、悪しからずです。読んでいただければ幸いです。

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