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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
外伝 捻じれた歴史の裏側で

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あれは夢じゃない、本当にあった出来事なんだ

同姓同名の人物が多数おりますが、あくまで別のルートのパラレル逆行転生です。今流行りの逆行転生を一度やってみたかったので(;^ω^)


ぱらぱらと、破片が砕け散る。

人は死を迎える時、今までのことを走馬灯のように駆け巡るという。

冷たくなっていく自身の身体がまるで借り物のように感じて、意識が遠のいていく。

叫んでも、きっと届かない。自分の時間はこれで止まったのだろうか?


ー― 後悔は、ない?


ないと言えばうそになる。でも、今の自分にはこれしかできないと感じたから、その道を選んだんだから、迷いはない。


ー― それが捻じられた時空の中の歪みであったとしても?


捻じられた時間だというなら、どうというのか?正解はない。それは運命というものだろう?


―― あなたはそう感じても、それこそ、正解なんてものはないでしょう。貴方にはやり直す権利がある、その手で未来を、光を掴んで。


それは夢のようで、幻のようで…そして、曖昧で朧げなものだった。けれど確かに全力で駆け抜けた、一つの結末だった。


彼の名前はアストレイ・エサルエス。ある王国の次期王位を継承する王太子殿下で、とある出来事をきっかけに非業の死を遂げた者である――。


**


「…?」


猛烈な疲労感と、けだるさの中うっすらと目を開いた。

薄く開いた窓から爽やかな風が流れた。湿り気を含んだ風を心地よく感じがら、重い体を起こした。

(…なんだか、長い夢を見ていたような)

何気なく手を伸ばすと、何かひやりとしたものがその手に触れた。


「?!」


驚いて飛び上がると、それは、ばらばらに砕け散った翡翠の鉱石のようだった。


「これは…?」


何か思いだしそうな、不可思議な感覚にとらわれるが、その実態が掴めない。取り合えず欠片を遺さず集めておいた。


「アストレイ様、お目覚めですか?」

「…?フレッド…か?」


控えめなノックの後顔を出してきたのは、従者のフレッド。エサルエスでは珍しい青みがかかった黒髪の青年で、白い肌はどこか冷たい印象を与える青年だった。


「もう、いくらノックしても気が付かないんですから、びっくりしましたよ!さあ、朝食が準備されています、もしけだるそうだったらこちらにはこ…えええ?!」

「?!どうした」


外見とは裏腹に彼の本性がどちらかというと面倒見がよく、喜怒哀楽がはっきりした性格だ。そんな彼が最大限目を見開き、アストレイの胸元の一点を凝視している。


「あ、あああ、アストレイ様?!こ、この傷どうされたんですか?!」

「傷?って…」


見れば、胸元に古い銃弾のような跡が残っていた。

(いつの間に?!‥けがをした覚えはないが)

ざっとここ一週間ほどの予定を思い返してみる。銃器に係るような出来事には遭遇していないはずだが、何か記憶が混乱しているようで、よく思い出せない。

開いた窓から柔らかい風は流れ込んでくるのだが、妙な違和感を感じた。


「今は…季節は、冬‥じゃないのか」

「え?本当にどうされたんですか?もしかして、寝ぼけていらっしゃいます?」

「…いや、この傷のことは…まあ忘れてくれるか?誰にも言わないよう頼むよ。やはり朝食はこちらに運んでほしい。」

「わ、わかりました」

なおも何かを言いたそうに退室していく後姿を見送ると、そのまま傷跡を確認する。


(‥一体何がどうなってるんだ?妙な夢のせいだろうか?)


胸元に痛みはなく、どちらかというとこの傷跡は完治してから随分時間がたっているように見えた。朝から起きた変化は‥この傷と


「翡翠の石‥」


机の上にまとめておいてあった破片を一つずつ見分するが、これといって特徴はなく、組み合わせてみると平べったい円形の形をしているようだった。

太陽に透かして見ると、日の光は石を透して薄い緑色の光に変わる。


「綺麗だな、まるで…」


(まるで?)何か言い掛けてやめた、喉元まで出かかっているがそれ以上は分からなかった。

ほどなくして、フレッドが朝食を運んできた。


「あの‥アストレイ様、本日はレイアトールの令嬢とのお約束がありますが、服装はどうされますか?」

「え?レイアトール?‥オフェーリア・レイアトール?」

「はい、もうすぐ舞踏会がありますし、その打ち合わせもありますでしょう?」


とある事情から、成人にもかかわらずいまだ特定の妻を持たないアストレイと第三王子の二人の為に開かれる舞踏会が数日後に控えていた。


「舞踏会‥、オフェーリアか」


オフェーリアの名前を聞くと、何かしら苦いものが込み上げてきた。そう、彼女は数ある候補者の中でも恐らく一番王妃に相応しい教養と振る舞いで、最有力の王妃候補に挙がっているわけだが…。

何故か言葉では言い表せないような不快感をぬぐい切れない。


「あまり気が進まないな…どうせディアトルに」

「え?ディアトル様‥ですか?で、ですが婚約者が既にいらっしゃいます。」

フレッドの言葉にアストレイは耳を疑った。

「婚約者?…既に結婚していなかったか?あの二人」

「は…あ、いえ、ディアトル様もあの性格ですから。どちらかというと研究に熱心な方ですし」

「研究?ディアトルが?」


アストレイの知っている弟のディアトルは、華やかな外見で女性との浮名が絶えない‥そんな印象のはずだった。その彼が研究をしているという。…一体何の?


「魔術と呪術についてなんて‥もう古代に失われたものでしょうに、すごい方ですね」

「魔術と呪術ぅ?!」

ガタン、と食事中にもかかわらず立ち上がってしまうほど驚いた。

「あ、アストレイ様、本当にどうかされたんですか?今日はどこかおかしいです」


仕える主人に面と向かって「おかしい」といえるのはフレッド位だろうと思う。いや、それよりも今は、どうやら自分が情報として知っている事柄よりも何か大幅なずれが生じているような気がする。


(なぜだ?どういうことなんだ?)

「‥フレッド、君は昨日私がどんな風に過ごしていたかわかるか?」

「はい?!いえ…普段通りに起きて食事をとられて…昨日は一日中執務に追われておいででした」

「いや、そう言うことじゃないんだが‥」


フレッドの言う日常は、本当にありふれた日常で、真新しいものが一切ない。

「‥とりあえず、オフェーリアには、会ってみようか…?」



昼下がり、庭にたくさん咲いている色とりどりの花を見ながら、オフェーリアはため息をついた。


「ええっと、お茶は用意できたし…お菓子もあるわ。後は‥」

「もう。お嬢様ったら、少し落ち着いてくださいませ!」


くすくすと笑いながら、侍女のラナは少し乱れた髪をさっと直してくれた。


「もう、ラナったら‥落ち着いていられないわ、だって今日はあのアストレイ様がいらっしゃるのよ?」

うっとりと呟くと、ほんのりと頬に赤みが差す。

「大丈夫ですよ、お嬢様ととてもお似合いですもの!きっとアストレイ殿下もお嬢様をお選びするに決まっています!」

「ふふ、ありがとう」


すると、玄関の方からなにやら騒がしい音が聞こえてきた。

「あ!いらっしゃったみたい!」


いそいそと玄関へと向かい、アストレイを迎えた。

今日の服装は藍色のスーツにジャケット、臙脂色のタイは彼の瞳に合っていてその場に立っているだけで絵になるようだった。


「やあ、リーア。これを貴女に」

そっと差し出したのは白薔薇の花束だった。

「まあ、素敵…ありがとうございます!‥‥あの?」

「あ?ああ、いいや。なんでもない」


見ると、心なしかアストレイの顔色が優れず、どこかしら落ち着かない様子だった。


「‥ごほん、なんだか随分久しぶりに会う気がするよ」

「……?一昨日もお会いしましたけれど…」

「そ、そうだったかな?!」


どこか気まずそうに視線を泳がせるアストレイに、オフェーリアは首を傾げた。

(もしかしたら本当に体調が悪いのかもしれない…)


「ア、アストレイ様。どこか体調が悪くていらっしゃいますか?本日はもうお休みになった方が」

オフェーリアが遠慮がちにそう告げると、アストレイはどこかしらほっとしたような面持ちで頷いた。

「…そうだな。すまない今日はこれで失礼するよ」


そう言って去る後姿をじっと見ながら、オフェーリアは笑顔で見送るとしょんぼりうなだれた。

「…何か、お気に障ることをしてしまったのかしら…」


どことなく後ろ髪をひかれる思いでオフェーリアの熱視線を背後に受けながら、アストレイは止めてあった馬車に乗るなり、大きく息を吐きだした。


(なんというか、心臓が持たない…)


恐らく今日の様子からしても、この段階ではきっとオフェーリアの心は確実に自分に向いているだろうということが予想できた。

だが、どうしても大きな違和感のようなものがぬぐい切れず、彼女に対しては冷めた感情しか沸き上がってこないことに自分でも驚いた。


(…記憶の中の君はいとも簡単に私を裏切っていた)


朝から始まり、およそ半日過ぎた辺りで、アストレイは色々なことに気が付いた。

まず一つ目は、オフェーリアにしろ、フレッドにしろ、根本的な性格に変化は見られないものの、自分が知っている彼らとは何かしら違うということ。これはオフェーリアに逢って確信した。

二つ目は、自分の思っている時間軸とは大きなずれがあり、季節が遡っているということ‥つまり、時間が戻っているのではないか?という疑惑だった。

そして三つ目。それは、どうやら自分はこれから起きる事柄を全て知っている‥ということだった。それを踏まえて考えても、苦い記憶、あれは夢じゃない。本当に起きた出来事なんだろうと思う。


「でも今は夢じゃないかもしれない。‥私はもう一度やり直せるのか?」


本来ならある筈のない出来事だ。けれど、もし可能ならば、『自分らしく』いられることができれば、と心から思った。


62部からの分岐ストーリーです

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