表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
終章・「結」 翡翠の姫と岩乗王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/101

交渉

「…人道支援や後方支援は私の管轄です。いくら国王陛下と言えど、妹姫の仕事を奪う権利はないはずですわ。今回の遠征の目的は表面的には『人道支援』でしょう?私ほど適任はいないでしょう」


そう、申し出たのは私なりの『意地』だった。

意地といっても、それは二人の兄の死を目の当たりにして、勝手に一人で全てを背負う決意をされた兄に対して感じた小さな『怒り』がほとんどだった。私だって王族の一員のはずなのに自分が知らないところで物事が動いているのが嫌だった。


案の定、シス兄様は苦い顔をしたけれど、結局遠征に同行することを許してくれた。…もっとも、それは後から私の母であるディアドラ妃が同行の申し出を懇願したからだと知ったのだけど。


(これじゃあいつまでたっても、子ども扱いのままだわ…しっかりなさい、ミュリエル!)


今回私が果たすべき目標はただ一つ。

唯一の継承権を持つライ皇子と共に、正式な特使として上陸の許可をいただくということ。それは、ひいては南部地方がエサルエスを受け入れたことになると同時に、南部地方の権力者が菱の現皇帝に反旗を翻すということになる。


(私だって‥私だって王族の一員よ・・みんなの力になりたいもの!だから・・・)


「あの、ミュリエル王女殿下?」

「?!は、はい!」


(…心臓が飛び上がるかと思った)

私はゆっくり呼吸を整えて、今いる自分の状況を再確認した。

すっかり考え込んでしまっていたのだが、ここはすでにロウアンの港に向かう小型船の船上。まだ正式な上陸は出来ない為、港にあるラジエル総督の迎賓館に向かう途中だった。


「だいぶ緊張されているようですが、大丈夫ですか?」


そう言って気づかわし気に声をかけてくれたのは、ヴァルカンクのミカエラ殿下だった。

今回、迎賓館に向かうのは遠征でも王侯貴族以上の身分を持つ者たち、ライ皇子にミカエラ殿下と護衛複数名だった。


「‥シスリー様の名代ですから、緊張されるのは無理もありません。何があってもできる限りフォローしますから」

「ありがとうございます。…私は私のできることをするだけですわ。…それにしても、ミカエラ殿下はファッションについてもお詳しいのですね。貴公のアドバイスのお陰でとても良いものを選ぶことができました」

「‥‥あはは、それはよかった」

「あの、私、何か失礼なことを…?」


一瞬、戸惑うような複雑な表情のミカエラ王子を見て少なからず不安に感じた。


今回の公式訪問で一番頭を悩ませたのは服装だった。女性の王族の公式訪問など、エサルエスとしても本当に久しぶりなことだった。その為、正直相談する相手もおらず途方に暮れていたのだが‥ゲイヴリル王女に相談したところミカエラ王子を紹介された。


それはもう、男性にも関わらず女性のファッションについては本当に詳しくて、私自身が女性として自信を無くしてしまうほどだった。


「いいえ。昔の悪癖がお役に立てて何よりです」

「ええと、あくへ…??と、とにかく、ミカエラ殿下がいらしてくれて、心強いです」



それは、昨日の夜のこと。


「じゃあ、上陸するのはライとミュリエルのふたり?」

「ああ、いきなり他国の国王陛下がアポなしに上陸するなんて、宣戦布告とみなされても仕方がないだろう?ラジエル総督には、納得してもらったうえでこちらに引き入れたいんだ」


ライ皇子がそう言うと、兄は納得がいかない様子だった。


「だが、しかし」


「‥というか、俺は言ってしまえば、反乱の誘いをしにいくんだから、シスリーがそんなにひょいひょい前に出たら俺が売国奴に見られてしまう。いやまあ確かに今の皇帝に戦争を仕掛けるわけだから、間違っちゃいないんだけど」

「そうですわ。陛下は私情だの云々おっしゃいますが、ご自身が国を率いる立場だということを忘れていらっしゃいます。貴方の行動すべてがエサルエス王国の総意となるのですから、慎重に行動してください」

「‥‥ま、まあそうなんだけど」


なんとも気まずそうにする兄を見て、私はため息をついた。

(変なところで行動的過ぎるのだから)


「…偉そうなことを言える立場ではないけれど、俺はシスリーとは対等でいたい。ラジエル総督の同意を得てから改めてシスリーの助力を請いたいと思う」

「‥わかった。確かに、俺が出る幕ではなさそうだ。ミュリエル、大丈夫か?」

「愚問ですわ、陛下」

「あの、なら私も同行してよろしいでしょうか」


そう言って進言してきたのは、ミカエラ王子本人だった。


「ミカエラ?」

「はい。‥‥菱のロウアンには良質の塩が取れると聞いております。ヴァルカンクは山岳部ですが、岩塩は捻出できず、海とも離れています。塩はなかなか庶民では手が届かない代物ですので、できれば直接取引して安価に市場に持ち込みができないかと考えております。‥ロウアンは交易の街でしょう?」

「‥ロウアンにとっても、それは悪い話ではなさそうだ」


港に向かって走り去る船を心細く見送りながら、シスリーはため息をついた。


「心配ですか?」

「…ジャネット」


隣に立つ侍従はいつものように余裕のある笑みで答えた。


「貴方が心配したところで状況が変わるわけでもなし。…王様なんてのは、部下たちをコマのように扱い、後ろで指示を出してふんぞり返るものでしょう?」

「…彼らを駒などと思ったことはない」


憮然としたまま告げた主を見て、ジャネットは思わず声を出して笑ってしまった。


「だーから、真面目過ぎなんですよ!…まったく難儀な方だ。貴方の兄君もだけど、血筋なんですかねえ」

「…なぜそこに兄上が出てくる」

「これでもアストレイ様とは一晩中酒を酌み交わした仲です。どうです、羨ましいでしょう」


え、と驚いたようにシスリーがこちらを振り返るが、構わずつづけた。


「まあ、そんな貴方ですから、みんな何とか力になれるように頑張るわけで…もう少し周りの力を信じてみませんか?」

「周りを信じる・・か。」

「そうですよ、ミュリエル様だって、ミカエラ殿下が付いていますし、大丈夫ですよ。しかもライ様にとってもここは正念場。ぬかりなく事を進ませるはずです」




船が着岸すると、そこには白髪で、笑顔がにこやかな穏和な雰囲気の男性が出迎えてくれた。


「遠いところようこそお越しくださいました。エサルエスのミュリエル殿下、ヴァルカンクのミカエラ殿下。わたくしは総督補佐のショーンと申します。我が主より、客人として丁重にお迎えせよとの仰せでございます。どうぞこちらへ」


そう言って案内された先には、車輪が朱色に染められた天蓋付きの馬車と、明らかに一台目と比べると造りが質素な二台の馬車が待機していた。


「我が主は女性を重んじる方‥(レディ・ファースト)。姫君はこちらの天蓋付きの軒車へどうぞ」

「・・・相変わらず、わかりやすい格差だ」


ため息交じりにライ皇子が呟くと、ショーンはにっこりと微笑んだ。


「ようこそ戻られた、龍の眼の王子(カリフロンギアヌ)。…ラジエル総督が貴方の帰りを首を長くしてお待ちしておりましたよ」


思っていた以上に揺れる感覚に軽い眩暈を感じた頃。ほどなくして馬車は止まった。

ショーンの手を借りながらよろよろと馬車を降りると、降りた先には真っすぐに伸びた朱色の絨毯が引かれていた。


(しゃんとしないと)


できるだけ平静を装いながら、少し縮こまった背中を伸ばすと、目の前にすっと褐色の大きな手が差し出された。


「初めまして、ミュリエル殿下。ようこそ、我がロウアン領へ。こちらを統括しております、領主のラジエルでございます。…歓迎いたしますぞ」

「…ロウアンのラジエル総督殿ですね。此度は私達エサルエスからの急なお申し出に応じてくださり、誠にありがとうございます」

「ああ、これはお美しい。今だ笑み割れず頑なに閉ざしたつぼみがまさに開く瞬間に立ち会えて至上の喜びでございます、姫君」

「‥‥!…は、はい」

「それに、ヴァルカンクのミカエラ王子、それと‥‥」


そう言うと、総督はライ皇子の方を向いて不敵に笑った。一瞬二人の視線が交わるが、そのまま何も告げずくるりと振り返った。


「さあ、どうぞこちらへ。皆様方」


ショーンの先導で、長い廊下を超えると広い部屋に案内された。

海を一望できる広い窓からふわりと潮の香りを乗せた風が通り抜ける。玻璃でできたテーブルには茶菓子が置いてあり、白磁の茶器が備えつけてあった。


「書簡を拝見いたしました。…人道支援、結構。今現在北部の地は多くの民が飢えと病に苦しんでいるという。その中に飛び込まれるというその犠牲的献身精神には頭が下がる思いです。早速菱都への関所を開きましょう」


「…総督自ら、直接北部に支援を、とは考えなかったのでしょうか」


その問いには答えず、総督は薄く笑った。


「ミュリエル殿下、貴女にこの菱の何がわかるというのですか?かつて南部地方は何もない無法地帯だった。ほとんどが海からやってきた移住民だったため、法律も秩序も身分も何もない…我々は北部の人間からすれば下風に立つ低劣な人間以下の生物。そのような扱いをした彼らをなぜ今更我々が手を差し伸べなくてはならない?」


先ほどまでの穏やかな気配は影を潜め、みるみる総督の気配が険しくなってゆく。


「我が南部の民は皆、何代もかけてやっと今のような豊かさを手に入れたのです。関所の扉は開きますが、貴女方が偽善的精神で命を落とそうとも、我々は一切責任を取りません。…それでよろしいですか」


「‥私たちは」

「そこまで。ミュリエル王女、貴女の役割はこの国への上陸許可をとること。‥目的は果たしだだろう。次は私が彼らに伝えるべきを伝える番だ。あなた方が想像する以上に北と南の事情は複雑だから」

「それは…」


(これ以上は私が口に出せる問題ではないかもしれない…けれど)


なおも言葉を紡ごうと必死に頭を巡らせるが、その答えを見つけるよりも早く、ライ皇子が言葉をつづけた。


「ラジエル総督、単刀直入に申し上げる。私と共に新しい時代を築き上げるのに、どうかご助力を貸していただけないだろうか」







あけましておめでとうございます。

あと5話で終わらせるように頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ