間章~兄と弟~
第2~3部の補完です。
時間を戻し…これは、舞踏会の夜のこと。
鬱々とした気持ちで王城にやってきた俺を出迎えてくれたのは、他でもないこの国の第一王子にして、我が兄上アストレイだった。
こちらに爽やかな笑顔を向ける姿に、俺も笑顔で応える。
「やあ、待っていたよ。我が弟、シスリー!」
「兄上、お久しぶりです。」
国旗と同じ赤と緑の礼服は、この国の第一位王位継承者が着ることが許されている。アストレイにこそふさわしい色だと思う。
「体の調子はどうだい?シス。最近は天気が良い日も続いている。過ごしやすい季節だね」
気遣ってくれるその心意気がうれしい。
「まあぼちぼちです。」俺は軽く肩をすくめた。
一般的に俺は『病弱』扱いとなっているが、正直どこも不調もないければ病がちでも何でもない。いたって健康そのものだ。
しかし、俺はそういう設定でなければならない理由がある。だからこそ、人が寄り付かないような郊外の地に別邸を構えているわけなのだが。
今日は形式上俺とアストレイの為の舞踏会となる。第一王子の結婚相手ともなると、一般子女から選ばれることはほとんどない。自然と有力貴族やら権力のある人間との婚姻になるのは明白だ。
「本日は素敵なご婦人とお会いできるといいですね。」
「…そうだね。」
無駄に豪華で受け口が広い大げさな舞踏会なんて、ただただ民衆にその権威を見せびらかすためだけの小細工に過ぎず、とんだ見世物だ。俺は気が進まないが、兄はそうもいかない。
そんなこと百も承知で、アストレイも俺も主賓としてでなければならないのだ。
この国は大きい。度重なる戦争も領土争いも現国王、わが父の偉業である。たとえ頻発する戦いのせいで国庫が危機に瀕していても、それを決して、民衆に悟らせるわけにはいかない。
「シスも、生涯のただ一人と会えるといい。きっと、お前の力になってくれるだろう」
「ご冗談を。俺の未来にそいう人は不要です。…それよりも兄上こそ。」
「また君はそうやって…、ただの迷信だと言ってるだろう。」
いずれこの国を継ぐべき我が兄上はいかんせん優しすぎる。
子供の頃から、いつも俺に力を与えてくれていた。唯一、俺の未来を案じてくれている。だからこそ本当に頼りになる妃を見つけてくれればいいと思う。
順当にいけばアストレイが王となるわけだけだが、その次以降は不透明だ。
兄に御子でもできれば簡単だが、現状すぐにというわけにはいかない。それ以外となると、母親の身分が低い第二王子ディアトルと、俺のどちらか。
王家にとっては呪いともいえる三番目の王子は無駄に血統がよく扱いが困る。大臣をはじめ重鎮の連中どもにしてみれば頭が痛いだろう。万が一のこともあるためおざなりにはできないのが現状だ。
事実、後釜を狙う輩は数知れず存在していて、そのせいもあって長男の正妃が中々決まらなかった。
「そういえば、今日はディアトルの姿をみていません。欠席されているんでしょうか?」
「ああ、彼にはもう愛すべき奥方がいるからね。あくまで私とお前のために開催されたものだよ」
「…まあ彼と俺が会ったところで何も変わりませんし。」
関わらないで済むのならそれが一番だと心から思うのだが、そんな俺の様子をアストレイは心配しているようだ。
「…シス。君とディアトルの関係は分かっているつもりだけど、変事のときは皆で力を合わせなくてはならない。もういい大人なんだ。少しは…」
「努力はしますよ。…そろそろ準備をしなくては。」
幼い頃、母が他界した。
もともと他と関わりの少なかった側室の子という上に、『第三王子』という特殊な存在故に俺は孤立していき、あることがきっかけでディアトルと埋められない程の溝ができてしまった。それを今更悔いることもしないが、改めようとも思わない。それに加えて次男のディアトルは俺とはもともと不仲で、互いに関わることはほぼないに等しい。
「兄上、兄上はご自身のことを第一にお考え下さい。できる限り、全力で支えます。…俺は大丈夫ですから。」
「……そうだね。ありがとう、シス」
俺に抗えない運命が待っているというなら、その命は兄のためだけに使おうと決めていた。だから、本当に俺など捨て置いてくれていいのだ。
夜風が頬を撫でる。今はちょうど春、この時期には東から柔らかい風が吹く。
「あと三回、この季節が廻ったその時は…」
俺は前を見据えて、歩き出した。




