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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
終章・「結」 翡翠の姫と岩乗王

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終章「結」・序文~ディアトル~


 子供の頃から、兄と自分は光と影のようだった。


「お二人はまるで太陽と月のようね」


 そう言ったのは誰だか忘れてしまったが、なぜだかひどく自分が侮辱されたように聞こえた。

太陽は兄として、僕が月?なら一生僕は光の中へ行くことは許されないということか?


 アストレイは子供の頃から優秀で人当りも良くて、世継ぎとして申し分のない存在だった。それは誇らしくもあったし、同時にひどく憎らしく思えた。

跡継ぎとその予備(スペア)では待遇も何もかもが違う。しかも僕の母親は身分が低く、所詮都の踊り子に過ぎない。もし曲がり間違って僕が王政に関わるようなことになったら、ほうぼうから反発は必至だろう。


 だから、影なら陰でいい。光に当たらずとも、月は常に空に浮かんでいるものだから。


 だが、そんな想いはたった一瞬で壊れてしまう。側室の三人目の懐妊の報だった。

 しかも側室のフロラ様は自分の母親よりも身分は格上で、その美しさに足元にも及ばない。こうなると、完全に僕は用無しだった。…だが、僕よりも焦ってたのは紛れもなく自分の母親だった。

 母はその美貌を活用して国王を誘惑した。そこに来てアストレイの母親、つまりは正妃が病で身罷られてしまったのだ。

王妃の死は、さまざまな憶測と揶揄が飛び交った。

その真実はいまだに隠されていて、誰も知ることはできない。……知っているであろう者たちも、みんなみんな、どこぞへいなくなってしまったのだから。そして同時にもう一つ新たな噂が流れだしたのだ。


この国において三番目に生まれた王子は、若くして死にゆく運命なのだと。


その噂は瞬く間に広まり、これから生まれてくる三番目の王子は「呪われた王子」と称されるようになった。そして僕の母親は力づくで正妃の地位を奪取し、フロラ様を離れへと追いやった。 その経緯もあってか、フロラ様は体調をくずしてしまう。シスリーが生まれてから床に伏しがちになり、ついには五年後この世を去った。 


哀れな王子。呪われた王子。孤独のまま死んでいくのが約束された王子…。

その呪縛は王国全体に及び、ついには誰もシスリーに見向きもしなくなった。


だが、あいつはどこか違った。

存在感?その容姿の美しさ?母君の血統故かその容姿は美しく、瞳は父と同じあの不思議な色。

どんなに省かれようとあいつはいつも目についた。

それに、自らの運命を受け入れているからだろうか、あいつは幼い頃から静かで、取りまく雰囲気が無視できなくて、それがひどく僕をイラつかせた。


アストレイも嫌いだ。

シスリーも嫌いだ。


けれども、僕には力もなく、生まれながらにして高価な宝石のような二人にはかなうはずもない。

…8歳になる頃から、僕は自分の中に内なる自分がいることに気が付いた。


内なる自分は、とても賢く、世の中のすべてを知っていて、僕はあこがれた。

だからこそ、【彼】の誘いはとても魅力的だった。


【ディアトル、君は賢い。だが私が力を貸すことでもっと賢く強く、輝きを増すだろう。だから私が君になって、君が私になればいいと思わないか?】


それが全ての始まりだ。僕が僕ではなく、【彼】になった。

僕はどんどん消えていくことに気が付いた頃には、もう【彼】は僕になっていた。



(今、この腹部の痛みを感じているのは、誰だ?)


灼けつく様な痛みで気を失いそうだ。

何か鋭い物が僕の身体を貫いていて、目の前には、アストレイが哀し気に微笑んでいる。後ろではシスリーが必死の形相で何かを叫んでいるようだった。

僕の手には銃器が握られていて、どうやら引金を引いた後のようだ。


(撃ったのは、僕?)


信じたくない。信じられない。


「アストレイ!アストレイ……っ……ぁああ……っあぁぁああーーー!!!!」


僕の手は血まみれだ。

しかも、口の中に錆びた血の味がいっぱいに広がっていて、耐えきれず吐き出してしまった。

目の前のアストレイも苦しそうに顔をゆがめている。誰が兄を傷つけた?まさか僕が?

ゆっくりと崩れ落ちていく。僕もアストレイも。


「‥すまない、ディア トル…お前の変化に、気がつけ なくて」

「あに…うえ。兄上!僕は……僕は!……なんてことを」

「もう、いい。もどって こい!」


苦しいだろうに、つらいだろうに、兄は僕の身体を抱きしめてくれた。

それが嬉しくて、同時に申し訳なくて、僕は涙を流した。


「ごめん…なさい、兄う え、ごめん…ごめん!!」


意識が薄れていく。今度こそ、僕は消えるのか?

きっと、僕は消えてもアストレイと同じ場所には行けないかもしれない。

ありがとうって伝えたかった。


【……よく頑張った。もう君は自由だよ、ディアトル。永遠に休むといい】


【彼】がささやく。

僕はまるで深い眠りに落ちるように瞳を閉じようとした。

けれども―――

遠ざかっていく意識の中、はっきりと聞こえてしまった。


「これで私を縛るものはいなくなった。後は私の夢をかなえるだけ」


それは確かに自分の声なはずなのに、悪魔のような笑い声だった。


念のため、R15歳指定つけることにしました。




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