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こうして私は名目上婚約者となりました。~3という厄介な病気(?)~

登場人物

私(シャンイ嬢)→元の私ってどんなのかしら。陰謀策略大好物

シスリー王子→呪われた王子(仮称)もとい、人生投げやり王子



3は、発展の数字。発展には破壊と混乱がつきものでもあるといわれている。

時にこの3という数字は、エサルエスにとって縁起が良くない。その理由は、この国独特の考え方と歴史にある。


一度生を終えると、3度死を迎え、3回生まれなおしてにもう一度この地に戻ってくるという言い伝えから由来している。12月あるうちの3月は「静寂の月」と呼ばれていて、亡くなった人々を弔う月でもあるのだ。


しかし、理由はそれだけでは決してなかった。

  

国が呈を成してから78年。13、23と3の数字がある時に変事が起きているのだ。73年の丁度5年前には現在の国王ヴァンデール2世の正妃が病に倒れ、命を落としてしまった。

 

エサルエス王国は北にある山と緑の囲まれた国と、砂漠を挟んで向こうにある東の国の間にある。この国は海に面していて、多数の船を有する巨大な港がある。

ありとあらゆる名品珍品が毎日のように運ばれており、種類も豊富だ。

商いが盛んであるからこそ、三国は絶妙なバランスを保っているといっても過言ではない。


今から20年前には東の国と一切交流もなかった。

東の国というのはおとぎ話とも言われているほど遠く、見聞や口上でしか伝わっていなかったが、63年の頃、幻といわれていた東の国からの使者がやって来てから、事態は一変した。

その僅か一年後には砂漠を超えて大軍勢がやってき、大規模な戦争がおきてしまった。


結局、山の国との共同戦線により辛くも勝利し、以後、三国不可侵条約を締結、今に至るというわけである。その戦いは3年3カ月と終結まで長い時間をかけてしまった。最近でこそ平和と呼べれられる程度までには落ち着いているが、それはここ10年の間の話である。


その他エサルエスと呼ばれる前にかつてあった国の滅亡が3月だったから等々、3に纏わるものは不吉という考え方が根付いている。


夜の帳が落ちた部屋には燭台の灯と淡い月の光だけが揺らめいていた。月影に映し出されえたエメラルドの瞳は真っすぐに私を見つめている。…冗談ではないことがうかがえた。


「3は不完全で不吉な数字といわれているのは知っているか?」


「はい。でも、…ただの言い伝えでは?」


「どうやら違うようだ。ここ数十年、三番目に生まれた王族関係者は、理由は様々だが齢22歳で命を落としている。」


「22歳…もしかして、シスリー様も」

「俺は今年で19歳、つまりこのままいけば22歳で死ぬんだろう」


 私は黙って続きを聞いた。否定する原因も、肯定する原因も見当たらないから。けれども。


「それは、なってみないと分からないのでは?…それともどこか悪い病でも…?」


先ほどの会場でも、淑女たちはそろいもそろってシスリー王子様は病弱で儚げだと聞いていた。

他にも一般論として聞いたことがあるような気もする。でもそれは私ではなく、この体の記憶という方が正しいか。すると彼は大きく肩をすくめた。


「噂なんて国に都合のいいように流されているもの。残念ながら、俺はいたって健康だ。…まあ、俺一人がいないところで誰も悲しまない。」


椅子に深く腰かけ、燭台の灯を見詰めてそう言った。

その様子がどこかもどかしくて、少なからず彼に違和感を感じてしまう。彼から感じる孤独ここからくるものなんだろうか。自分には未来がないから、と。

 

(…まるで自分自身を諦めているみたい)

 

「ならば私など選ばなくとも。私はアルヴェール商会の娘です。もっと名のある貴族の後ろ盾を考えるなり、他国と縁を結ぶなり、ご自分にご都合の良い方を選べばいいものを。」

 

エサルエスには5つの民衆階級というものが存在する。


知識階級(司祭や聖職者)、貴族階級(王侯貴族)、兵士階級、市民(農耕民、労働者)、浮民と呼ばれる者たち(どの階級にも属さない)。とりわけ市民の中には、商売を生業とし、貴族以上の財力と権威を持つ者が存在する。「アルヴェール商会」は最たるもので、市民階級上のトップともいえよう。財力だけなら、下手をすれば王家のそれよりもあるかもしれない。


ただ、それだけに古参の爵位を授かる家柄の人間にはあまりよく思われてはいない。金だけでのし上がった田舎者、というところかしら。だからこそ猶更だ。


「貴族でもないただの成り上がり市民の娘との結婚なんて、貴方の評判にも関わります」


私は本当にそう思うから真剣に答える。


「いや、シャンイ嬢。貴女は本当にそこらの貴族の令嬢とはどこか違う。言葉に虚飾や嘘が感じられない。しかも、さっき会ったばかりの俺をそこまで心配してくれるとは。」


彼は目を細めて軽く微笑んだ。


「まあ、旧時代を生きる老害どもからしたら、成り上がりの家の娘を嫁に、なんて前代未聞だな。むしろ売国奴といわれかねない。」

それから鷹揚に言い放つ。


…はっきり老害って言ったわ、この人。


「いや、それ私には何のメリットもありませんけど。というか、それはあなたもでしょう?なぜ自らそんな選択をなさるのですか、と聞いているんです」

「…別に俺に後ろ盾とかは必要ないんだ。むしろそういうのは、兄に迷惑がかかる。」


なんとなく、この人は自分の評価よりも別に大事にしているものがあるんだろうな、と感じていはいたけど…意外だった。

 

「兄というのは…。どちらの方でしょうか。」

「俺には二人、兄がいる。正妃の御子にして第一位継承権をもつアストレイと、父上の寵愛を受ける側室の子、第二王子ディアトル。その他、母をディアトルと同じくする妹がいる。…俺は、アストレイを王にしたい。その為に、権力とは無縁の出自の人間を形だけでも妻にしなければならないんだ。」


 黙って聞いてはいるけれど…、こうもはっきり言われるとそれはそれで複雑だわ。

そりゃ、別に何か期待していたわけでもないけど、形だけでも妻ですか。はいはい。あーそーですか。


ただ、私の感情はどうこうとして、この人からは嘘偽りを感じない。本当にお兄さんを大切に思っているんだろう。


「順当にいけばアストレイが王となるわけだけだが、玉座が空になるのを待っている連中は数知れず存在している。だがもし兄に何かがあれば、俺とディアトル望む望まないにかかわらず、争いが起きてしまう。…そんなのは冗談じゃない。」

 

現実問題、もしそんなことが起こりようものなら、渦中の本人達の背景と後ろ盾が重要になってくる。それが本当に起こってしまったとき、シスリー王子はどうするつもりなんだろう?

確信もない曖昧な未来をすんなり受け入れて、そのまま破滅を選ぶということ?

  

「あなたは例えば三年後、何もなかった時のことを考えていないんですか?本当に、お二人が権威を争う事態になった時、どうするおつもりですか?」


彼は私の問いに答えなかった。ただ、曖昧な笑みを浮かべて、瞳を閉じた。

  

「俺の命なんてどうでもいいんだよ。元々三番目に生まれた者の宿命だ。…ならばその命、好きに使ってしまえばいい。」


宿命ですって?私は耳を疑った。

あまりに渦中にいすぎると、肝心なことを忘れてしまうものなの?!

この時、私の中で静かに何かが爆発した。

 


長かったので、分割手直ししました。



エサルエス王国→建国78年

山の国→エサルエスと同盟関係にある北の山国

東の国→砂漠を挟んだ遠くの都、過去エサルエスに信仰してきたこともある。現在は同盟中


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