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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第三章・「転」 必然という名の運命

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思わぬ再会


王立図書館――

エサルエスの歴史から宗教、俗書まで一通りそろう、エサルエスで一番大きい図書館である。


「わあ…!初めて来たけどひろーい……」


このエサルエスという国は、シャンイにすればどれも規模が大きい。

この図書館だって、三階建ての平屋で、所狭しと二メートル近い大きな棚たちが聳え立つ。各階それぞれ高い天井で吹き抜けになっているため、さほど圧迫感は感じないものの、一つ一つの棚の収納量は相当だった。

全フロアは部門ごと区切られていて、場所によっては一月以上人が足を踏み入れることのないような場所でもあるんじゃなかろうかと思えるほど広く、うっすらほこりをかぶっている所でさえもある。


「そういえば、以前シスが言っていたわね。図書館は絶好の隠れ場所だって」


過去、いわれのない迷信のせいで常に他人から白い目で見られていたシスリーは、この図書館に隠れて一日中誰とも会わず本だけを見ていた時期があったらしい。


「で、何をお探しですか?」

「……ええと」


護衛とはそういうものかもしれないが、ジャネットは常についてくる。

それがどうこうということもないし、後ろめたいことあるわけでもないのだが…今回のシャンイの目的は「自分について調べること」である。

自身が持つ前世の記憶と照らし合わせて確認したいことがあった。シュナイゼルから借りている歴史書のひとつ、菱についての記述に気になることを見つけたのだ。

菱の歴史は長い。国の名を変え形を変え、多くの興亡が繰り返されている。


(魔術と円環、呪いについて、なんて言えない…)


今からさかのぼること100年ほど前までは、【魔術】という呪いの一種で菱の皇帝が暗殺されるような出来事が頻発していたようである。その時期にもしかして自分が関わっているのではないかと考えたのだ。


(うう、いっそのこと全部話す?でもそういうわけにはいかない)

「ジャネット……。いい?私はこれから男性にはとても言えないような本を探そうとしているの!」

「はあ?…それ、逆にすごい興味があるんですけど」


そりゃあそうよね。なんてことは死んでも口にはできないが、シャンイは自身の浅はかさに少し後悔した。もっとまともな言い訳はなかったものだろうか。


「…その、だって、まだシスとは結婚前だし…えと、あの」

「ああ、そういうことですか。それこそその辺のご令嬢に聞けばいいのでは?」

「聞けるわけがないでしょ!!!!と・に・か・く!!!何かあったら呼ぶから!!!少し一人にさせて!!!」

(そういうことってどういうことよ?!!あああもうーーー)


シャンイの顔は赤い。内容がどうこうではなく自分の行動すべてが一言で言うと羞恥そのものだ。案の定、ジャネットはにやりと嫌なほほえみを浮かべている。


「ははあー…本当なら俺自身がご協力を‥といいたいところですけど、そんなことしたら俺の方が殺されます。仕方ありません、何かあったら大声で叫ぶようにお願いしますね」

「わかった!わかりましたから!!早くあっち行ってよ!!!」


しっしっと手を払うと、ジャネットは片手をひらひらと上げて居なくなった。

完全に姿を見えなくなるのを確認し、シャンイは深いため息をついた。


(嘘ついてごめん、ジャネット。シスに話したら、あなたにも話すから)

妙な誤解はあとで必ず解こうと心に誓うのであった。


エサルエスには【魔法】というものは存在していない。

あったとしても、それは相当過去のことである。しかしそこかしこでその系統を受け継ぐものは数多く存在している。例えばエサルエスに伝わる「3」の数字の概念や、時節ごとに起こる祭事や宗教の存在。もしかしたらそれらはすべて魔術という概念から巧妙に目をそらすように作られた一種の目くらましなのかもしれない。


(魔術…呪い……あった、この辺だ)


三階の隅にある棚にびっしりとほこりがかぶって並んでいる個所を見つけた。

中身を確認すると、どれも俗っぽいような内容で要領は得ない。


(私自身、転生なのか入れ替わりなのかわからないけど、今ここに居るのが人間業ではないことは承知している。以前見た夢が全て本当だとしたら、私はサファイアの悪魔(ディアトル)に既に出会ってしまっている)


――遠い昔のシャンイフェイの物語は今なお続いている――


以前見た夢の中のあの言葉が本当だとしたら、菱の魔術に調べれば何か見えてくるかもしれない。そう思ったのだが。


「ああ…やっぱりないわよねぇ…他国の魔術なんて…」


ほぼあきらめかけて本棚の一番上を見上げると、ある一冊の本が目に入った。


「菱の魔術と呪い!」


思い切り手を伸ばすが、届くはずはない。何か踏み台を、とも考えたがそれすら見当たらない。ならばと頑張ってジャンプもしてみるのだが…。

「くっもう少し……私って小さいのよ、ね!」どう頑張っても届かなかった。

「この本が見たいのか?」

すると、背後から声がかかると、難なく本を手に取る大きな手があった。

「あっ!!!ありが…いっ~~」


見上げるその姿に思わず叫び声をあげそうになった。辛うじてそれは留めたものの、驚きすぎて背後の棚にしたたか後頭部を強打してしまった。

すらりと高い身長に、シスリーに似たその端整な顔と、アメジストの瞳は驚きと戸惑いに揺れていた。


「あ、あ、ああアストレイ様?!!」

「……シャンイ?!」


二人はしばらく呆然と見つめ合っていた。


「驚いた…こんな場所にまさか人がいるとは。しかもシャンイ、君か。」

「な、なんでここに?!」

「ああ、少々周りが煩くて。ここはめったに人が来ないから、隠れ場所には最適でね」

「まわりって…あ、もしかして、例のご懐妊の…?」

「……そうだな」


知っている人間はおそらくシャンイとアストレイ、それと当のオフェーリア本人であろう。


「共有の秘密があるというのは。中々ありがたいことだな」


何とも複雑な表情のアストレイに胸が苦しくなる。


「……すみません」

「いや、謝ることはない。それより…魔術師にでもなるつもりかい?」

「あ、いえ、ええと、その。りっ菱の歴史で気になる個所を見つけて!」

まじまじと手にとって中をパラパラめくる様子を、シャンイはハラハラしながらみていた。

「へえ?君は菱の歴史に興味があるのか」

「興味というか…まあ、はい」


なんとも歯切れの悪い返事を返してしまうのだが、空気を読んでくれたのかそれ以上聞かれることはなかった。手渡された本を受取ると、後ろの帯には「貸出禁止」の赤い印が押されていた。


(う…貸出禁止)


「そういった本に興味があるのなら、いい場所を教えようか。」

「!いい場所、ですか?」

「ああ。この表に出ている蔵書は全て王立図書館の管轄にあるのだが、裏にある一部の本は王族の直轄のものだから、私の印を使えば問題なく持ち出せるだろう」

「え?!アストレイ様の印ですか?」


王族にはそれぞれ専用の印の文様が刻まれた指輪がある。その内の一つアストレイの翼の「認印」を使用するというのは、同等の権力を行使することになる。


「別に使いどころもないし、君なら構わない。」

そう言いながら自らの指にはめてある【翼】の模様を見せてくれた。

「その代わり、私のお願いを一つ聞いてくれるかな?」

「…お、お願いですか」



王立図書館のエントランスにて。

ジャネットは道行く人々のを見つめていた。


(平和だよなぁ…)


本日は「建国記念週間」を残り数日に控えた祝日である、そのせいもあってか、いつも以上に人が多く感じる。

すると、入り口から本がいくつか入ってるであろう鞄を持った主が向こうからやってきた。


「あ、シャンイさ…」


声をかけてふと、立ち止まる。彼女は一人ではなく、もう一人…隣にはどこかの令息だろうか、仕立ての良いジャケットに眼鏡をかけたすらりと背の高い金髪の青年が一緒だった。


(誰だ?)


身長に関しては、自分も低い方ではないが、隣の男性は相当に高い。シスリーと肩を並べるくらいだろう。見れば肝心のシャンイはなぜか顔色が真っ青だった。


「ジャ、ジャネット……」


となりの眼鏡はこちらを見るとニコリと微笑む。


「君がジャネット?」

「どちら様でしょうか」


(なぜ名前を?)何が起こっても大丈夫なように臨戦態勢をとる。

男は目の前に来ると、少しだけ眼鏡をずらして見せた。と、アメジストの瞳がきらりと光る。


「…え」

「うん、さすがシスの従者だな。信頼できそうだ」


すっと眼鏡を取ると、途端にすさまじいオーラが放たれる。が、眼鏡を戻すとそのオーラは一瞬にして消えてしまうものの、その洗練された動きと仕草は品があって見るからに常人ではないことが伺える。と、言うか、この国においてシスリーのことを「シス」と呼べるの人物は限られている。


「ちょ、ちょっとお嬢?!どー言うことですかこれ?」

「ど、どうといわれても。殿下立ってのご希望です…」

「すまないな、二人とも。今日は一日私に付き合ってくれるかい?」


アストレイがシャンイに出した条件…それは、「一日アウロスお忍び視察」の同行だったのだった。



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