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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第三章・「転」 必然という名の運命

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128個の夢と願い


意気揚々と客間に向かうと、大きなテーブルの上には数々の小さい部品が並んでいた。それをその場にいた全員が真剣な面持ちで眺めている。


「…?!」


あまりにも真剣な様子なため声をかけるのもためらったので、後ろからそうっとのぞいてみた。


「…銃を全て分解すると、約128個のねじや金具の部品でできています。」

「一つでも部品をなくすと動けなくなってしまうのか…相当な技術と知識が必要だな。」

「実際銃を組み立てるには技術が勿論いるけど、キチンと習えば僕らでも分解できるし、組み立てたりすることもできる。僕は分解はできるけど、組み立てるのはミカエラの方が得意かな。」

「これは全て名称があるのかい?私も分解したものを見るのは初めてたが‥こんなにも精巧な作りでできているとは」


触れば見逃してしまうような小さいねじや複雑な留め具、あまりのも細かい部品の数々に、シャンイはただ唖然としてしまった。


「銃…これが」


シャンイが見たことあるのは猟銃と呼ばれる長く大きいもの。だが目の前にあるのは女性の手でも持てるような小さな大きさのものだった。後ろに控えていたジャネットも興味深そうに見ている。


「あの~…」

「?!シャンイ!!」


びくっと肩を震わせ驚くシスリ―だった。しどろもどろとか、そわそわとかいった単語がよく似合いそうな態度だった。そういえばいつだったか、シスを動揺させてやりたい、慌てさせたいと思っていたことがあったのを思いだした。

 

「……本当に仕事の関係だったんですね」

「あ、いや、も、もちろん!!」


とはいえ、何故こうも挙動不審なのか。不審に思ってみていると、向かい側の席から髪の長い姫君がこちを見、ぱあっと晴れやかな笑顔を向けて歩いてきた。


「あ、あの!!この刺繍を作ったのはあなたですか?」

すっと突き出されたのはシャンイがシスの紋章をあつらえた例のハンカチだった。

「え、ええ。そうですけど…」

「すっごく素敵な刺繍ですね!!!ぜひ私にも教えてくれませんか?!」


なんとも、予想外だった。

目の前の姫君は背も大きく、おそらくキリエにも負けないくらい。シャンイの背では見上げないと目を合わすことすらできない。その外見にも驚いたが、何より刺繍をほめられたことの嬉しさの方が上回った。


「え、ええと私でよければ」しっかりと手を握られているのだが、その力強さにも驚いた。


(北国の方は女性も大きいものなの??!)


「ちょっとミカ。銃をばらすのはいいけど、きっちり組み立ててくれないと。僕は君ほど技術力は持ち合わせてないんだから。…ごめんね、婚約者さん。そのハンカチ、うちのミカが第三王子から無理やり強奪したものだから。」


「ご、強奪。それならそうといってくれればいいのに。妙な誤解をしてしまいました」

シャンイの言葉にシスリーはどこかしら嬉しそうに目をそらした。

「誤解…」

「まったく、不器用な婿殿だな」

そらした視線の先にいたロレンスがにやりと笑った。

「……ごほん、わかってくれてよかった。」


「よしよーし!お互い誤解が解けた所で、改めまして。僕はゲイヴリル、ヴァルカンクの王子だよ!」


ぱん、と手をたたいて場を取り仕切ったのはゲイヴリルだった。


「姉のミカエラです。刺繍を教えてくださる約束、忘れないでくださいね」


と、はにかみながら微笑むのはミカエラ。

二人の肌は透き通るほど白く、どこかしら儚さを引き立つ金色の髪は北国ならではなのだろうと思う。それにしても…二人並ぶと大きいミカエラと小さいゲイヴリルと、なんとも不思議な光景だった。


(どこかしら違和感を感じるのは身長の差のせいかしら???)


「し、シャンイ・アルヴェールと申します。お茶とお菓子がご準備できましたので、お持ちしてもよろしいですか?」


部品が並べてあるテーブルをちらりと見やると、その視線を察してミカエラが128個の部品を組み立てだした。


「この部品は機械を介してではあるけれど、組み立てるのは人間なんだ。128個一つ一つに組み立てた人の思いや技術が組み込まれている。その思いが報われればいいと、本当に心から願うよ」


繊細な細い指が一つ一つの部品を丁寧に救い上げ、はめ込んでいく。

小さなねじ一つでもあるべき場所に収まっていき、一つの形を成していく。その様子をじっとシャンイは見つめていた。


(小さな思いでも、ちゃんとあるべき場所にいきあるべき姿にと変わるのね…)


なんとなくその光景を不思議な気持ちで見ていた。

ふと、先日見た夢のことを思い出す。

出会ったのは昔の自分の姿。彼女もまた、色々な思いと情報を魂に刻まれて私の中にある。

そして彼女の口からも、『彼』の口からも告げられたその言葉――


(必然…)


必然とはあるべきものがあるべき姿の戻るように働く見えない力のこと。

今の私はそのあるべき必然に逆らっている存在なんだろうか?

それとも、いずれそれは彼らの言う『必然』へと姿を変えて、また繰り返すのだろうか。


「シャンイ?大丈夫か?」

ふと、隣を見るとシスリーが心配そうに顔を覗き込んでいる。

「大丈夫です。もう!こういう事情ならそう言ってくださればいいのに!」

わざとらしくそっぽを向いて、自分の思考も一緒に誤魔化した。

(もっと調べる必要があるかもしれない。彼らの言う必然というもの)

思考に耽るシャンイをロレンスはじっと見つめていた。



「ところで、ねえそこの君」


運ばれたお茶とお菓子を食べながら談笑していると、突然ゲイヴリルがシャンイの後ろに控えるジャネットを指さした。


「俺ですか?」

「きみ、もしかして銃に興味あるのかな?」

「そりゃあ、ありますとも。そんな小型の銃はこっちではなかなかお目にかかれないし、私は一介の従者なんで」

「一介の、ねえ。使ってみる?確かロレンス殿も銃を教えてほしいとおっしゃっていたよね」

「おや、ゲイヴリル殿。銃の腕の秘訣を教えてくれるのかな?」

「ええ、もちろん。特に従者の君、動きが隙がないし、なんか強そうだよね」


ゲイヴリルはどこか挑戦的な眼差しでジャネットを見ていた。その視線を受け流しながら、余裕の微笑みを返す。


「いやいや。私なんぞとてもとても。でも教えていただけるのなら、願ってもないですけど。我が主、どうですか?」

「は?!はいぃ?!」


そう言ってシャンイの許可を仰ぐ。

シャンイからすればまだ「主」呼ばわりが慣れていない為、反応が遅くなってしまった。


「いいんじゃないか、ジャネット。俺より射撃がうまくなったら教示願おうか」

冗談じみてシスリーが言うと、ジャネットは不敵に笑った。

「では、許可もいただいたことですし、よろしくお願いいたします。少し離れますが、邸から出ないでくださいよ、シャンイ様」


「じゃあゲイヴは皆さんと、私はシャンイ様に刺繍を教えていただきたいと思います。」

「あ?は、はい、かしこまりました。」


ミカエラ王女は何かしら得も言われぬ圧力?のようなものでもあるのだろうか。シャンイはまるで濁流にのまれるかの如く、刺繍を教える羽目になったのだった。


遠くで聞こえる銃声を聞きながら、シャンイは思わず耳を塞いでしまった。


「すごい音ですね…!」

「はい、銃というものの欠点はそこにあると思います。」


ミカエラと並びながら歩いているのだが、どうにも身長の高低差がありすぎて気後れしてしまう。


「あ ごめんなさい。本当に私は背が大きくて…いつも皆様を下に見下ろす感じになってしまうんです。」

「いいえ!こちらこそ。私の友人もミカエラ様程ではありませんが、背の高い女性がいます。だから気にはなりませんが、ちょっとうらやましいです。私はどんなに高いヒールを履いても小さくなってしまうので…」


シャンイの身長はおよそ平均的な女性の身長よりもやや少し小さい。高めのヒールを履いても動きが制限されてしまう為、最近は諦めて自らの未来の成長に期待することにしたのである。


「そんなことありません!!小さい女性はとっても魅力的で可愛いと思います!守られるくらいの方がおしとやかで素敵ですよ!!!」

「え?ええっと、ありがとう、ございます?」

「…いいなあ、そういう女性、憧れます…」


しょんぼりとうなだれるミカエラ王女がなんとなく可愛らしく見えてしまう。自分にはこういう可愛げはないのかもしれない、とも思うのも事実だった。


「ミカエラ様は私の刺繍を気にってくださったんですよね。何か好きな柄はありますか?」

「!本当ですか?私は鷹が好きなんです!!」

「た、鷹?ですか…。意外というかなんというか、あ!ヴァルカンクの紋章は鷹でしたね!」

「いいえ、あれは隼です。」

「ご、ごめんなさい」


(マイペースというのかしら、つかみどころがないというか…)

シャンイ自身実は同年代の女性と話す機会はあまりなかった。他国の姫君となると、立っている世界だけでなく失礼のないようにしなければ、などと考えてしまう。


最近はキリエ嬢などと話すことは出来るものの、彼女も「普通の」貴族令嬢とはいいがたい。

それはとても魅力的だと思うし、自分にとっては憧れの対象ではあるのだが。


「私は本当に不器用なので、こんなに素敵な刺繍が縫えるなんて、いいなあ」

「…刺繍は糸一つで色々な世界や物語が紡げるんです。ミカエラ様の世界はどんな世界になるんでしょうか、楽しみですね」


けれども、ただ一つはっきりしているのは、彼女は自分の刺繍を好んでくれている。なによりそれがとても嬉しかったのだった。



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