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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第三章・「転」 必然という名の運命

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蒼穹の旅人


「わあ、エサルエスのお城って大きいんだね!!」


 エサルエスの王城に向かう広い道を一台の二頭立ての馬車が走っていく。その小さな窓から一人の少年が顔を覗き込む。


「…危ない、ゲイヴリエラ。窓から顔を出すと落ちてしまう。」

「だあいじょうぶだよー!ミカエラ。」


「大丈夫じゃないですから!!!ミカエラ様に何かあったらお父上に私が殺されます!!」


 馬丁(グルーム)が必死に御するも、ものともせずに少年は笑った。その様子を横目で見ながら、隣に座る長い髪のミカエラがため息をつく。


「…どうしてこれで私たちは双子なんだろう。顔だちはそっくりなのに性格が全く理解できない…。どうしてそんなにがさつなの…?」

「そういうことまともな顔で言わないでよ。それより、エサルエスにはボクたちと年齢の近い王子サマがいるんだろ?…どんな奴かなっ?!」


 大きな目をキラキラさせるゲイブリエラとは対照的に、ミカエラは目じりをしおしおと下げてしまう。

「ううう…もう帰りたい…早く帰ってお城で本でも読んでいたい…」

「はいはい、わかったーって。」


 向かいに座る女中のエナは肩をたたいて慰めあう双子をほほえましく思いつつも、心配そうに見守る。


「…あの、本当にお二人とも大丈夫ですか?」

「心配しすぎ、()()()()()()()()()()()。たった十日くらいの滞在だし。…それよりも、与えらえれた任務を達成しないと。ね、ミカ。…ぜったい成功させようね」

「大丈夫、ゲイヴ。二人一緒ならなんだってできるよ。…蒼穹の風に誓って」


 くるくるの巻き毛に大きな青い目。天使のような容貌の二人は互いの手と額をくっつけて微笑みあった。


 ***


 建国式典は役七日間の日程で行われる。他国からの来賓はもちろん、エサルエス国内に在籍する貴族はこぞって参加をして過ごすいわばお祭りのようなものだった。

 その中でも一日目の王侯貴族のみが出席する式典は最も重要な行事の一つである。特にこの日を境に勇退される国王陛下が次の王位継承を宣言する儀式は最も重要で、それに伴い他の王家の兄妹にも新たな義務が継承される。

 都全体もいろいろな屋台や露店が立ち並び、この時ばかりは遠方の地方からも大量の出店があるため、希少なモノも人も大量に押し寄せ、連日連夜人でごった返す。治安を維持するものや警備にあたる者は大忙しである。

 それは軍事にわずかでも携わる者は同様で、シスリーもまたその怒涛の忙しさに加えて自らの王族としての業務もこなさなければならない為、毎日お疲れのご様子だった。

 初日の式典に続き、二日目、三日目、四日目と粛々と行われた慣例や儀式を終わらせて、ようやく五日目を終えると、六日目は王家主催の晩餐会が行われることになっている。これさえ終えれば七日目は王国全体が休日となり、最終日の閉会宣言に備えるのみとなる。


 六日目の晩餐会は準備やら何やらで午前中のわずかな時間は何もない休み時間となり、本当にしばらくぶりに堂々と休める貴重な時間だった。


 怒涛の七日間の中の少ない休み時間を終え、晩餐会が開かれる王城の大広間にいくと、決められた席に決められたネームプレートが置いてあった。各テーブルには輝かんばかりに磨かれたおそらくこの世に存在する全ての種類がそろっているであろうカトラリーセット、各種グラスがきっちり並べられていた。


 私、シャンイ・アルヴェールはいつも以上に緊張しまくっている。場慣れという言葉があるように、ある程度そういう場に赴く機会があれば、物事の流れと順番とを予測し、対応できる能力が身につくようになる。ここ数か月、シスと一緒になってからというもの、小から大までなる規模のパーティーには一通り参加でき、それこそ場慣れることができたかもしれない。

 しかし、だ。それはあくまで舞踏会やら主に立食パーティーでの場合に限定されている。

(…うう。立食ならなんとなく誤魔化しもできるのにぃ。でも頑張れ私!シュナイゼルさんと死ぬほど訓練したはずよ!!)

 こういうとき、前世の記憶を持ってきたなら似たような世界にして欲しかった、などと思う。かといってそれはそれでつまらないのかもしれないけれど。


「シャンイ、とりあえず外側から、食事の順番を並べられた通り使っておけば大丈夫だから‥」


 隣の私の緊張を察してか、シスがそっと教えてくれた。


「は、はいっ!」

「…そんな睨みつけても、疲れるだけだ。色々な来賓もいる。挨拶回りに行かないか?」

「あいさつまわり…あ、そういえば、本日はレシア姉さまとロレンス兄さまも来ると伺っています」

「…ロレンス?…まさか」


 忘れていたというか、それどころじゃなかったというか。

 ロレンス・エイル・アルヴェール。一応アルヴェール家の長男であり、のちのアルヴェール商会の看板を背負うことになるわけだけど、シャンイの記憶によれば最後に彼と会ったのはもう三年も前のことになると思う。


「そ、それはどんな方か…」

 シスが私に聞こうとすると、同時に私の体はふわりと宙に浮いてしまう。私は驚き、シスはさっと顔色が変わる。

「シャン…」

「おっと。まあそれなりに大きくなったようだけど、まだまだ軽いな?」


 私を抱き上げているのはたくましい腕、白い歯が眩しい褐色の肌、そのシャンパンゴールドの眉毛は父を思い出す。そっと床に降ろされると改めてその大きな体を見上げた。…兄だった。


「ロレンス兄さま!!‥わあ、お久しぶりです!」


 実はちょっとだけ自信がなかったのだが、なんとか顔は覚えていたようだった。ふつふつと蘇るシャンイの記憶だと、彼女はロレンスにとてもよく懐いていたのだろう。


「うんうん、ララったら私の意向をよく読み取って着付けしてくれているわね。シス王子もこの度は正式なご婚約、おめでとうございます。」


 そう言ってただならぬプレッシャーをまとい、現れたのはレシア姉さまだった。うーーん、ロレンス兄さま、レシア姉さまが二人並んでいるだけでこの周辺だけ別の次元のように空気が違うわ。現に周りの貴族や来賓の皆さんは遠巻きに見ている。…どうやらシスもその一人のようだ。固まっている…。


「…初めまして、ロレンス殿私は…っ?!」シスが言い終えるより前にロレンスはシスの肩をバンバンと二回ほど叩いた。

「ふむ、失礼殿下。思ったよりも鍛えていらっしゃるようで安心しました。こちらこそ初めまして、ロレンス・エイル・アルヴェールと申します。…いつも妹たちが世話になっているようですね」

「あ…ああ、はい。」

「…別に私は世話になっている覚えはありませんけど。」

 つん、と姉さまが答える。お兄様といるときだけはどうしても「妹」になるのがなんとなく面白い。


「‥と、すまんな。まだ陛下にご挨拶をしていない。また後でな。」

 そう言って去っていく後姿を見送ると、隣のシスはなんだか随分難しい顔をしていた。

「…?兄さまがどうかなさいましたか?」

「いや。…あの方は随分と場慣れているというか、こういう場での動き方を心得ているというか。」

「それはそうでしょう。ロレンスは…曲がりなりにも先代の辺境警備隊の副官だったもの。」

「!…なるほど道理で」

 見れば、ロレンスの周りに人が集まってきている。その様子を、私は不思議な気持ちで見ていた。



「ロレンス・アルヴェール!!久しぶりだな!」

「陛下、この度はご招待誠にありがとうございます。…お元気そうで安心いたしました。」


 一度倒れてからというもの、王はあまり表に出ることは少なくなった。今日の晩餐会もほぼアストレイに任せ、自らは退いてこうして応接間にやってくる者にのみ対応をしている。懐かしいもの、古きもの。多くの者が彼の勇退を名残惜しんでいた。


「いいや、寄る年波には敵わなくてな。其方も元気そうで何より。…どうだ、世界は周りきったか?」

「いいえ、陛下。世界というものは広く、私ごときではその全てを識るには広すぎます」

「はは、また謙遜を。…ではしばらく滞在されるか?」

「そうですね。…そのつもりではありますが、まあ我が心と神のみぞ知るところでしょうか」

「…では、儂の最後の頼みを聞いてはくれぬか?」


 突然空気が変わる。こういう難しい交渉事場を支配下に置くのはこの方の得意分野とするところ。なんとなく身構えるロレンスに、ふっと陛下はわらった。


「この先の軍務の権限を全てシスリーに譲った。…あ奴を頼まれてくれるか?」

「…それはまた。なんというか…」

「あ奴は儂によく似ている。しかし儂と違い腹芸や謀はできぬほど真っすぐで、廉潔で…無欲だ。本当にあの実直さは儂には眩しすぎる。幸い、其方の妹君とも縁戚関係となるし、お前の言うことならば聞くだろう」

「‥‥」

「無理にとは言わない。…お前が見極めるに値するかどうか、じっくり見分するといい」



「まさか、あのようにおっしゃるとは。」

 ロレンスにすれば、意外…としか言いようがなかった。

(同族嫌悪…というやつか?まあこの場合照れ隠しのようなものに近いような気が…)

「ロレンス卿」

「!シスリー殿下。」

 噂をすればなんとやら…というところか。

「貴殿にお話があります。‥お時間をいただけるだろうか?」

 やれやれ、本当にこの親子は…思わず苦笑してしまった。




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