転 序文
「全く。時空を越えたストーカーっていうの?迷惑な話しだわ。...本当に。もっとしっかりしてもらわないと」
…??
ここはどこだろう。なんだか以前もこんな場所に来たことがあるような。
視界は真っ白で霧のような煙しかない。目の前のテーブルにはティーセットそろっていた。ティーカップにそっとお茶が注がれると、なんともほっとするような香りが立つ。
(あ、ローズティーだ。)
「ほら、しっかりして。シャンイ。」
「えっ??」真向かいに座る黒髪の女性…はなんとも見慣れたというか、すごく見たことある。
「あ?!私?!!」
「…もう少し危機感をもってもらわないと。」
その姿…それはかつての自分であり今の自分になる直前の自分の姿。翡翠の瞳に黒く長い髪、あの暗い場所で儚く散ったあの日の自分だった。
というか、これはどういう状況なのだろう?!
「‥‥ゆ、夢よね…うん、夢に違いない」
「…まあそうね。それにしてもまさかあんな簡単にあの男に見つかってしまうなんて。」
「あの男って…もしかしなくても」
「サファイアの悪魔」
やはり、ディアトル王子のことだろう。
「…気づいているでしょう?私を殺したあの男よ。…なんとしても今回で逃げ切らないと、もう二度と私たちはこの円環から逃れられない。」
ぞっと身体の内側から冷えていくように、あの中庭での出来事を思い出す。また逢えた…なんて、それは前の人生でのことなのかもしれない。
「‥‥円環て?」
「繰り返し、繰り返し生まれては彼によって殺される必然の運命。彼を心から愛さない限り、それは続いていて…そのうち呪いが成就してしまう」
静かにただはっきりと、そう告げられた。…この作業は自分自身と対話しているのによく似ている。
「呪いの成就…?」
「今で9回目、10回目を迎えると…この必然からは逃れられなくなる。どの世界でも彼は私を探し続け、私は逃げ続けなければならない。」
9回…頭がおかしくなりそう。それをこれからも永遠に繰り返すってこと?そりゃあ、あの方を見るなり恐怖に震えるのは至極当然のことかもしれない。
「何のために…」
「…遠い昔、魔術師によって作られたシャンイフェイの物語は、今なお続いているのよ」
「シャンイフェイ…って、もしかして菱にあるっていう、岩乗王と香妃の物語のこと?!」
以前ライが話していた物語。実はあの後その原典を探しては見たものの、エサルエスには存在しなかった。…想い合っているのに決して、結ばれない二人の恋人たち。具体的な内容は分からないものの、その結末だけはライが教えてくれた。それがどうして関係あるのだろうか?
「…私が告げられるのはここまで。それが役割だから。…私たちは死を迎える間際にその記憶を魂に刻んでいく。次はあなたに私の物語を託します。だから、どうか今世こそあいつから逃げて逃げて、絶対にあいつに命を奪わせず、生き抜いてね。」
…次の瞬間、私は眩しいくらいの光に包まれて…目を開いていられいられない。
「待って、まだ聞かないとならないことが‥!」
伸ばしたその手の先は空をつかみ、私は意識の奥底に沈んでいった。そして同時に流れ込んでくる、もう一人の私の記憶の欠片たち。
そう、私は確かに菱にいたことがある。おぼろげだったものがどんどん形を成していき…すとん、と私の中に落ちていった。




