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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第二章・「承」 円環

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シャンイとシスリー

カルロについては、序の「俺の事情と彼女の事情」部分を読んでいただければと思います。

ある日の朝のこと。

ここ数日、まるで何かに取りつかれたように執務室で仕事に邁進していたシスが、突然私の部屋にやってきた。

バタン!!と、派手に部屋の扉が開くと、久しく見たことのないような満面の笑みがそこにあった。


「し、シス…?!お仕事は…」

「終わった!…やっと終わったんだ!!‥‥そういうわけだから、出かけないか?」

「え?」


 今は午前中。もしかしなくてもこの方は寝ていないのではなかろうか。

(このまま休んだ方が…なんて言える雰囲気じゃないみたいだわ)



街に行くと、街灯も道の壁もどのお店も装飾されていてお祝いムード一色だった。


「わあ、すごい!みんな楽しそう」


 壁や看板にも三角形の旗飾りが飾られれていて、屋台には色とりどりの果物に花車。道行く人々もみんなどこかうきうきしているようで、見ているこっちが楽しくなってくる。


今回の建国記念は例年より華やかな様相だった。

なんといっても国王陛下が新しく変わるなど、そう頻繁に起きるものではないし、誰もがその瞬間に立ち会えるわけではないのだ。新しい時代を迎える準備に街も人も皆大忙しだった。

 本日はお供はなし、なラフな傭兵カルロスタイルと、私は町娘スタイルだった。


「ここはやはりカルロさんて呼んだ方がいいんでしょうか?」

「うーーん、まあこれで最後になるだろうし。…それも悪くない」


 そう言いながら、どこかぎこちなく笑った。


「…意外と、寂しいものだ」


 街で再会したときのことを思い出す。二人とも、互いの姿を見て固まって…思い返してみればそのあたりから、少しづつ距離が縮まった気がする。


「…初めてカルロさんを見たときは驚きました。この人は何枚仮面を持ってるんだろうって。でも今は、なんていうか…自然体って感じです」

「そうか?…だとしたら貴女が傍にいるからだろう。」


 そういわれて、どこかふわふわしたような気持のまま、彼の後に続いた。すっと差し出される手をそっと握り返すと、私たちは歩き出す。


(うう…はたから見ると、こ、恋人同士ね…)


 別に嫌なわけでもないし、今だに自分の気持ちがよくわからないのだった。先日のあの夜の一件で、忘れ去りたい記憶というか(あれは黒歴史というんじゃなかろうか)なんとも大胆なことを口にしたものだ、とか色々考えると頭がパンクしそうだった。


(だめ!集中!!余計なこと考えると楽しめない!今日はサポート!せっかくのお休みだし!!)


「今日は俺の行くところに付き合ってもらえるだろうか?そのために死ぬ気で仕事を終わらせたわけだし。とりあえず何か食べようか」

「!!はいっ!!」


 力強く返事をしてから、ふと、周りを見る。


「シャンイ」になってからというもの、じっくりと街を散策する余裕はなかったかもしれない。どこか心許なくて、不安で…、今でもその思いは少なくはないんだけど、隣に彼がいるというだけでもどこか不安が薄れていくような気がする。 


 (そういえば、こうやってただ街を散策するなんて初めてかも。)


隣のシスの瞳はどこまでも穏やかで優しくて…それだけで嬉しくなってしまう。

その時、ふわっと香ばしいたれの匂いと、焼けた肉の美味しそうな香りが鼻をくすぐる。

この辺りは食べ物を扱う屋台が所狭しと並んでいて、食べ比べもできるのだが…美味しい鶏肉の店はリサーチ済みだ。


「あ!串鳥があります!あの屋台、ララがすごいおいしいって!」

「親父、売り上げは順調か?」

「お、カルロじゃないか!焼きたてほやほやだよ!たれ付きと塩コショウ…どっちにする?!」

「じゃあ両方で。」

「はいよ!今は式典の三日前だし!いろんな国の連中も来る。売り上げも絶好調よ!」


(そういえば、前に食事処で一瞬働いた時もカルロは有名だった…)

 すると、今度は別の店からも声がかかった。


「お!!カルロー、ちょっと寄ってけよ!鳥肉ときたらパンだろ?!」

「それもいいな。シャンイ、パンの間に挟んで食べるとこれが絶品なんだ」


 店主のおじさんがパンに切り込みを入れて渡してくれたものに、甘いたれのかかった鶏肉を挟んでみる。ちょっと固めのパンにソースがしみ込むと、ちょうどいい固さになる。それを思い切りほおばってみると…じゅわっと広がる肉汁にソースがマッチして、絶妙な風味になる。


「!!!美味しいっ」

「だろう?…自警団の仲間に教わった。」


そのあとも、スイーツからお酒から果物まで…それこそアウロスの名物をすべて網羅できたかもしれない。そろそろ満腹を迎えた頃、今度は飲食店エリアから雑貨屋台エリアまで移動した。


 こちらも同様で、歩くたびにいろんな人が「カルロ」に声をかける。


(うわあ、本当に大人気だなぁ)


それは「カルロ」も同じく、一人ひとりの名前と顔をきっちり覚えていて、それぞれちゃんと対応している。…どこか別れを惜しむように。


 次に声がかかったのは、菱やヴァルカンクから仕入れたらしく、アウロスではあまり見ない異国のものが並ぶ装飾品のお店だった。


「あらやだカルロじゃないのさ!お連れさんは彼女かい?贈り物の一つでもあげないと!!」

「おばば、今日は何がおすすめ?」

「うーん、そちらの彼女さんにはこれなんかどうだいっ?」


 そう言って見せてくれたのは、木彫りの櫛だった。額面には幾重にも重なった花びらを持つ花が見事な装飾がされていた。薔薇と似ているけれど、少し違う。


「これは…牡丹の花、かしら」 

「ぼたん?」

「あ、えっと昔本で読んだことがあるんです、菱には薔薇に似た牡丹という花があるって。それかな?って。」

「へえ。‥‥そんな花があるのか。じゃあ一ついただけるだろうか。」


 (危ない…変に思われてないよね?牡丹なんてあまり有名じゃない花をどうして知ってるのか、なんて突っ込まないでほしいわ…)


「どうぞ。」

 ぶつぶつ考えていると、あまりにも自然にすっとそれは差し出された。

「‥‥へ?」

 思いもよらぬその行動に、間抜けな顔をしてしまう。するとシスの瞳に悪戯っぽい光が宿った。

「姫君に置かれましては、ご不満かな?」


 三つ編みに束ねた髪にその櫛をすっと差し込む。


「!!!ぃよっ予告してくださいって!!言ってるじゃないですか!!!」

「あはは、…とてもよく似合う。」


 (あ、そういえば…)


 もしかしなくても、シスから何かをプレゼントされるのは、実は初めてかもしれない。

なんだかんだで、ほぼドレスも装飾品もレシアブランドチョイスの為、持ち寄り品で間に合ってしまっているのだ。しかもそれは新作が出るたびに増える一方だ。


「‥‥カルロさんから贈り物なんて初めてですね。」

「…これからはもっと貴女に贈れるものを探すとしよう…」

 私の言葉に、シスはどこかため息交じりにそう告げた。(レシアお姉さまがいる限り…装飾類は難しいかもしれないわ…)


 そんなやり取りをしながら歩いていくと、とある看板に目が行く。


「あ…。あそこ、見てもいいですか?!」生地や布地、裁縫屋だった。中に入ると金銀の生糸や光沢のある布地のもの、高級シルクから綿や麻まで、多種多様な種類の生地やら何やらが整然と並んでいた。


「そういえば、シャンイは刺繍が好きなんだな。」

「はい!!この糸一本であらゆる装飾が施せるんです!どんな難しい花だって模様だって…すごいと思いませんか?!」


 シスから借りたマントを装飾するための糸も、この場所で見つけたことを思い出す。


(あの時はアルバイトの手持ちのお金で買ったものだし、目に毒だと思ってじっくり見なかった!)

 中でもひときわ目立つ、翆玉色に染織された銀糸を手に取る。


「わあ、これなんてシスの瞳とよく似ています!私、大好きなんです!」

「……」

「え?い、色ですよ?」彼の突然の沈黙に、気を悪くしたかと思ったのだけど。

「いや、こ、光栄だ。‥‥うん。良い色だよな。」


 どうしてか、シスの顔が赤い。つられてこちらまで赤くなってしまうのだが、気のせいでなくとも、周りに生暖かい視線を感じる‥。(あれ?!私何か変なこと言った??)


「そ、そうだ。一つお願いをしてもいいだろうか?!」お互いに狼狽えてしまうが、それをうち消すようにパン!と手をたたいた。

「お、お願い??」

「兄上の即位式で、正式に軍務総指揮官として近衛の指揮を執る。その時のために一枚、刺繍入りのハンカチを縫ってもらえないか?」


 そっと小さい声で言うものだから、危うく聞き逃すところだった。


「も、もちろんです。じゃ、じゃあここで糸を購入してもいいでしょうか?」

「好きなのを選ぶといい。‥‥それも一応俺からの贈り物、ということで。」 

「ふふ、わかりました!」

 最後まで小声でお願いするシスがおかしくて、笑ってしまった。



 店を出ると、外はすっかり夕暮れ時を迎えていた。


「あ、もうこんな時間。…そろそろ戻らないと…」そういうと、シスは私の手を取った。

「…最後に一つだけ、付き合ってくれるか?」

「…カルロさんのお仕事がありますもんね。私もいいんですか?」


 すっきりとした笑顔で、彼はああ、と短く答えた。


「‥‥もしかして、緊張してるんですか?」


 握ったその手に力が入る。…私には少し痛いくらい。


「人と正面切って向き合うっていうのは、とても精神力が使うものだと、最近初めて気が付いた。」

 その言葉でなんとなく彼がこれから仲間たちに何を告げようとしているのか、察することができた。いつもは頼もしく感じるのに、今日はどこか違う。


「…大丈夫。みんなわかってくれますよ。…大切な仲間でしょう?」

「…そうだな。本当に」


 手を握ったまま、その広い背中をそっと抱きしめた。


 

途中何度か砂を吐きそうになりながら作成しておりました。鍛錬不足です…。

お気に入り登録していただいた皆さま、誠にありがとうございます!少しでも面白いと感じていただけるように精進します!

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