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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第二章・「承」 円環

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王国の縮図

 

 私の目の前に立っていたのは、私の頭一つ分くらい大きい背丈にまっすぐな赤い髪が印象的な迫力のある女性だった。輝く瞳には、私に対しての興味と好奇心がらんらんと映っているように思える。


「初めまして!私の名前はキリエ・ジルニード。お兄様からあなたの話を聞いていて、ずっとお会いしてみたいと思ってましたの!」


キリエ嬢の勢いに圧倒されていると、後ろから同じくすらりと背の高い男性が現れた。…フランシス公子である。


「こらこら、キリエ。もう少し淑やかにしないと、全員ドン引きじゃないか。」

「あら、お兄様。私ったらつい取り乱してしまったわ。…シャンイ様、シスリー様、この度はご婚約おめでとうございます」


 にっこりと笑みを浮かべてそう告げられて、一気に顔が火照ってしまう。


(…そういえばこんな風に言われたの初めてだわ。は、恥ずかしい…)


 シス様は私の腰にそっと手を添え、満面の笑みで応える。


「ありがとう、キリエ嬢。ジルニード公も、お久しぶりです。」

「うふふ、お目にかかるのは何年ぶりでしょう?シスリー様。…女性の見る目が確かのようで、何よりですわ。」


 それにしても…すらりと背の高いキリエ嬢と、元々背の高いシス様二人が並ぶとなんという迫力だろう。とてもお似合いで、私は自分の背の小ささを少し恨んだ。


(ううっ、まだ16だし、これからもう少し伸びるしむ、胸だって大きくなるはずだわ…、うん!)


「大丈夫ですよ、アルヴェール嬢。」そんな私の様子を知ってか知らずか、フランシス公子は私にそっと耳打ちした。


「うちの妹は何というか、無駄美人という奴ですから。発育も将来性も私の見る限りでは貴女もじゅうぶ…」

「フ・ラ・ン・シ・ス?」ぽん、と叩くシス様の姿を私はフランシス公子越しに見る。…絶対零度の営業スマイルだった…。


「そろそろ俺だけでなく、兄上にも挨拶しに行ったらどうだろう?」

「いやいや、まあそうなんですけどね?‥心狭いなあ」ぶつぶつと言いながら私からそっと離れると、そのままくるりと振り返り、こちらへ向き直る。


「シャンイ様。この夜会を見て感じることはありませんか?」


 そういわれて、ぐるりと見渡してみる。なんとなくだけど、シス様の似たような年齢の参加者が多いような。


「全体的に年齢の若い方が多いように思えます。」

「ご明察、彼は若い次世代の層に特に人気です。なんでも彼の主催する夜会は趣向を凝らしたものが多く、しかも完全招待制とあって人気も高く、招待を受けるだけでもステイタス(格付け)になるようですよ」

ステイタス(格付け)…。」


そういうものなのかと思い、もう一度見てみるが、どうも友好的な雰囲気ではないように思える。どちらかというと冷ややかだった。


「‥夜会なんてのは、まさにエサルエスの勢力の縮図のようなものです。招待する側もされる側も、確実な理由があるわけですから。」


フランシス公子はそういうと、ディアトル達の方をちらりと見やる。


「わざわざ、今日の夜会にアストレイ兄上も呼ぶ当たり、感じが悪い。この場にいる連中のほとんどはディアトルを支持している連中だろう。…身内の主催の夜会なんて断れるものじゃない。」


シス様がため息をつくと、その言葉を受けるようにキリエ嬢が付け足した。


「若くて将来性のありそうな殿方が数多くいらっしゃるようだけど、浮いた話も同じくらいありそう。いやよねえ、コネしか能のない男って。」


 もしかしなくても、周囲に聞こえるように言ってるのだろう。すると、その中の一組のカップルが聞えよがしに呟いた。


「―― 呪われた王子が。」

「ああいやだ、よく公衆の面前にこれたものだわ」


「…っ!!」異を唱えようと振り向いた私をシス様は制した。そのまま彼らの前に進み出る。

「…言いたいことがあるならこちらを見てはっきりと言え。」


 彼が冷やかにそう言って立ちはだかると、陰口をたたいた連中ははじかれたようにその場から逃げ出してしまった。


「貴女があんな連中に思い煩うことはない。…弱いものほどよく吠える」


その様子を呆然と見ていると、彼は不敵に笑った。


「ここにいるのはディアトルの支持派だ。遠慮も配慮もいらないだろう。」


 


「フランシス公子はこちらに挨拶をするつもりはなさそうね。いいの?」


 深紅のドレスを身にまとったカルメンタは悠然と微笑むディアトルをにらみつけた。


「君は相変わらず視野が狭いね。」


彼がそう言って優雅に左手をかざすと、会場全体の雰囲気を変えるような重厚な音楽が流れだした。


「誰が誰を支持しようが、それは自由だ。重要なのはどう対応するかだろう。」


 そう言いながら、カルメンタの手を引き広間の中心へと誘う。


「あら、お二人が踊るみたい」

「ほお、これは珍しい」


広間を取り巻く雰囲気が一気にカルメンタとフランシスの二人に集中した


 二人は広い会場を存分に使い、高度なステップで広間を魅了する。


カルメンタの真紅のドレスは見映えがよく、まさに花開く薔薇のようだった。その胸に輝く金細工の紅玉の首飾りはシャンデリアの光を吸収し、白い肌によく映えた。


 一曲目が終わって二曲目が始まると、今度は主賓にあたるシスリーとアストレイも加わる。


 その頃、キリエはホールで踊る三組の様子を肉をほおばりながら鑑賞していた。


「うーん、やっぱり私の好みはシャンイ様一択ね。」

横隣では兄がグラスを回しながら上機嫌でワインを飲んでいる。

「いやあ、三者三様でみていて面白いねえ。」


 ディアトルは華やかで見る者を魅了する。アストレイは厳かで型のはまった優等生。そしてシスリーは…未完成ながらも独特の静かで神秘的な雰囲気をまとっている。


「兄さまにとっては、おいしそうな肉料理が三つ、それぞれテーブルにお行儀よく並べられているのを見ているようなものかしら?」

「そうだなあ、個人的には出来上がったメインの肉料理を食べるより、上等な肉を使った素材の良い料理の工程から口出す方が好みかな。」


「まあ、それは私も同感ね。一番目は堅苦しいし、二番目は味が濃厚で胸焼けしそう。特に付け合わせがくどそうで趣味が合わないわ。」


 そういって最後の一皿を平らげると、ちょうど二曲目が終わったようだった。


「キリエも誰かと楽しんできたらどうかな?」

「うーん、そうねえ。お兄様程面白い御仁がいてくれればいいけど。」


 そういって周りをぐるりと見渡すと、ちらほらこちらに熱視線を送ってくる男性がいるようだ。


(あまり気が進まないわねぇ。)好奇心よりも面倒臭さが勝利したキリエは、そのまま様々な種類のデザートが並ぶテーブルへと直行したのだった。


「はあ…。お兄ちゃんはお前の将来が一番心配だよ…」


 **



「はあぁ…夜会の最高の逃げ場所はテラスよね!!テラスサイコー!!」


堅苦しい夜会もある程度の時間が過ぎた頃、私はテラスに足を運んだ。

あのダンスの競演のあと、私とシス様はあっという間に様々な人間に囲まれた。


一人ひとり挨拶に来る人の名前を顔を覚えるべくいたのだが、しまいには全員が同じ名前と顔に思えてしまって、混乱してしまった。 


 疑念から一変、賞讃と計算と駆け引きと…連続する緊張感と人の多さで軽いめまいを生じた所、シス様に少し休むよう促されてしまったのだ。


(ああ、情けない…。これじゃ足を引っ張ってしまうわ。)


情けないやらなにやらで自己嫌悪に陥ってしまった。ある程度の覚悟はしていたはずなのに、やはり周りの空気に飲まれてしまう。


「だめだわ…もっとしっかりしないと」


 今まで、シスリー様はずっとあの世界に身を置き続けていたのだろうか。…たった一人で常に。


「大丈夫ですか?」


 立ち上がろうとすると、背中にひやりとするものを感じた。 


(まずい、この声)

 振り返ると、そこに立っていたのはディアトル殿下だった。


「あ、だいじょうぶ…です。」

「それにしては顔が青い。…応接室まで送りましょうか?アルヴェール嬢」


 冗談じゃない。こんな空恐ろしい人と二人きりなんて御免だわ。その声のせいか、この人が近くにいるだけで悪寒が止まらない。具合が悪くなる一方だ。


「…本当に結構です。少し休めば治りますから」


 後ずさるように後退すると、靴のヒールが引っ掛かり、バランスを崩してしまう。


「!!」


しまったと思った頃には遅く、私の手はしっかりと彼に掴まれてしまった。そのまま抱き寄せられてしまう。


「震えていらっしゃる。…私が恐ろしいのでしょうか?それとも本当に具合が悪い?」

(距離が近い…)


 この人はどういうつもりなんだろう。女性に対して全員この対応なのか?


(シスリ―様でも綺麗な顔だと思ったけど、この人はなんていうか魔性…のような美しさだと思う)

「…恐ろしいなんてとんでもない。…本当に具合が悪いだけですから!…どうぞお構いなく!」


 ありったけの力を込めてその腕を振り払おうとするのだが、なぜかその力を緩めることはしない。どんどん距離が縮んできて、最後には唇が触れるか触れないかのところまできて、彼は信じられない言葉を吐いた。


「その翡翠の瞳は相変わらず美しい。…また、逢えたね」

「‥‥え…?」


 何を言ってるのか理解できず、ふっと力が抜けてしまう。また?また逢えたってどういうこと?目が合った瞬間、彼のサファイアの瞳はとてもうれしそうに光った。


「ディアトル!!」


 その時、ディアトル殿下の肩を強い力が引っ張る。


「…シス…ッ」


 そこに立っていたのは、シスリー様ではなくアストレイ殿下だった。



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