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【完結】翡翠と翆玉~九死の姫は岩乗の王に嫁ぐことになりました~  作者: いづか あい
第二章・「承」 円環

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貴族の嗜み


エサルエス王国、東の離城、通称「ウォール・ガーデンハウス」


その名の通り、二重積みの煉瓦の高い壁に囲まれた庭のある館で、四季折々の花々の花壇が様々な姿が見ることができる。

だが館自体のつくりは古く、王都よりも程遠い場所にある。先代の王と妃が晩年をす過ごした場所で、静寂に包まれた森に囲まれていて一種独特の雰囲気がある。

その執務室にて、シスリーは机の上に並んだ招待状をうんざりとした気持ちで見ていた。


「ラドラトリー家はパス、ツェルヴェン家は…まあ考える余地あり」


一通ずつ選別し、かつ振り分けていく。最近は婚約の件も相まって明らかに招待の件数が増えており、読むのも一苦労だった。


「絶対に断れないのは二月後の王国生誕パーティと、その前のディアトル主催の夜会…か。」


なるべくなら避けて通る道を模索したいところだが、そういうわけにはいかないのが身内主催の会である。


「シス様はあまりこういった会に出席されないのは理由があるんですか?」 

「ああ、元々病弱で薄幸な王子様像が基本だったから、大抵のことはかわしていたのだが。というか、元々こういう会合は嫌でも目立つから好きじゃない。」


ましてや経緯はどうあれ、独身の王国第三王子なんて言うのは、是が非でもお近づきになりたいスペックである。縁があってどうしても参加しなければならないパーティーを出席した日には、ありとあらゆる手段を用いて近づいてくる連中が数多く存在していて、命の危機すら感じたこともある。


「すみません、私が百戦錬磨の社交界令嬢なら、色々な面でもお役に立てたのに‥‥」

「大丈夫ですよ、シャンイ様!シスリー様もなんだかんだ言いながらああいう場は苦手なんです。毎回毎回大変な目に遭っていらっしゃいましたからねえ…」


 しみじみとつぶやくアイルをにらみつけると、執事のシュナイゼルが口をはさんだ。


「シスリー様、あの時と現在では状況も異なります。ここはお二人そろって夜会の経験値を上げるのもよろしいかと思いますよ。」

  

この館にいる使用人の数は最低限で、多くはない。

無論俺の境遇からか、古くからの使用人以外入れ替わりも少ないまま今に至る。庭丁長ともう一人の庭丁、メイドは今回シャンイが連れてきたララファも含め6人、侍従のアイルに執事のシュナゼル、フットマンのジャネット。先代の王の頃から現在までの料理長とクックメンバー4人。通いの侍女も含めざっと20人ほど。

 特に執事のシュナイゼルは俺が子供の頃から仕えてくれている。


「夜会の経験値ねえ。…正式な婚約者としての初参加はやはり、ディアトルの夜会か…」

「あの、シス様。もし私を案じてくださるなら、心配無用です。それとも…夜会をためらう理由があるのでしょうか?」


「どうもディアトルとは相性というか、何というか…」

言い淀んでいると、隣でアイルがため息を付いて呟いた。


「…好き嫌いでえり好みしてたら、足元をすくわれますよ。ましてやあのディアトル様でしたら猶更です。」

こいつは本当に何でもはっきり言うやつだと思う。

「ディアトル様は…どのような方でしょうか?私は直接お会いしたことはないので。姉や父とは面識もあるようですが」

「俺と仲が悪い。できれば関わりたくないということは言っておこう」


俺の言葉に、シャンイは多少不満げだった。

個人的には兄とシャンイはなるべく会わせたくないと思う。と、言うのも例のパーティの次の日の朝、俺と話すのは年に数えるほどの癖に、ディアトルはシャンイに興味を示していた。


彼女の後ろのアルヴェールを警戒してるのかも知れないが、もしそうだとしたら理由がわからない。どちらにせよ本能的に嫌な予感がしなくもないので関わらせたくないというのが本音だ。


「わかりました。…そこまでおっしゃるのならあなたには聞きません。他の方から伺います!」

「え?!」

「ねえ、アイル。ディアトル様ってどんな方ですか?シュナイゼルさんにもぜひお伺いしたいです」


シャンイがそう言うと、アイルとシュナイゼルは物凄い勢いで目をそらした。…こっち見るな。


「いや…ここは話しておいた方が後々よろしいのでは?」ひっそりとシュナイゼルが耳打ちをしてくる。別に教えたくないわけでもないのだが。


「…ディアトルは現在の王妃の息子で、俺とは異母兄弟。王家に関する外交一切を取り仕切っている。あいつには妻がいるが、夜会には頻繁に顔を出すし、浮名も多い。いかんせんやることは派手だし目立つが、それが問題になることはない。」


「どういうことですか?」


「頭が相当いい。やることなすこと用意周到で無駄がなく、自らが窮地に立ったという話は聞いたことがない。常に噂の中心でもあるが、絶対に問題の中心にはならない。…あいつが所持する夜会で得た情報は相当量で、それを活用して自分に害が及ばない立振る舞いを徹底しているということだろう。」

 

 外交を掌握するには新鮮な情報と国内外の動向が必須だ。ディアトルはそれを知っているから、下手に関わるなら相応の準備が必要だと思う。

 

「…なるほど。まさにシス様の天敵、というわけですね。ならば私は来る戦のために備えて準備をしておくことといたしましょう。」


そう言うと意気揚々と笑った。心なしか楽しそうにしているのは、気のせいではないと思う。本当に、頼もしい限りだとしみじみ思った。


 **

 

このウォールガーデンハウスに来たばかりの頃、王子様の婚約者というのは一体何をして過ごすのか考えていた。

 

とりあえず、シスリー様の未来を考える前に私が隣に立っても遜色ないようにしないとならないわ。ただでさえ侯爵でも伯爵でもない、貴族の家名のない庶民の出だもの。そんな娘が王家に嫁入りなんて、恰好の餌食よね)


無論、アルヴェール家がどうこうというのではない。

私が思うに、貴族の連中というのは基本的に自分の家名ありきの存在というのを自負しているように見える。そこを起点に優劣をつけたがるのだろう。

 

実はここ最近、前の人生(?)について思い出すことがしばしばある。


今の私はシャンイ・アルヴェールであって、元のシャンイ嬢と合体したような存在だと思っている。ところどころ私以外の感情や思いが沸きあがることもあるけど、基本的に言動も考えも彼女との総意ではないだろうか?どうしてそうなったのかわからないが、こういうのは神の悪戯というのではないかと思った。


 私は前世で、おそらく高名な家に仕えていたらしい。刺繍や書物、言葉は恐らくここではない異国。もしかしたら「菱」かもしれない。貴族の在り方はあちらも同様のようで、特に私はその家名に振り回されていたらしい。はっきりとは思い出せないけど、不快な感情やぬぐい切れない嫌悪感のようなものが心の底に常にある。今のところわかるのはその程度で、他はさっぱりだ。


「難しいお顔をしてらっしゃいますね。」

ふわりと華やかな香りが広がる。ララファがお茶を用意してくれた。


「ありがと、ちょっとね。王子様の婚約者って基本的に何したらいいのかなと思って。」

「うーん、そうですねぇ。やはり一番は旦那様が寛げる環境を作る、とかが良さそうですけど」


ララファは考えながら、丁寧に言葉を選んでくれる。


「特にシスリー様はご自身の身分もありますし、王家のご執務も相当量あると思いますよ。」


シスリー様は週に4日~5日は城に出て日が暮れるまで執務をしている。帰ってきても、自身の執務室に閉じこもることも少なくないので、色々とやることが多いのだろう。


「国王陛下は軍務一切、アストレイ殿下が財政、通貨などの統括、ディアトル殿下は外交と治安の統括、で、シス様が医術や後方支援全般統括…」


傭兵版カルロの時はカーセイド公の館で仕事を片付けていたらしい。息抜きもしつつ、新たな人材を見つける有意義な仕事だったと言っていたわね。


「うーん、そうよね、とりあえず私がすべきことは、私と一緒にいても恥ずかしい思いをさせないために、自身のスペックの向上よね!」

「さっすがシャンイ様!でも具体的にはどうされるのですか?」

「さしあたって苦手分野の克服よね。シュナイゼルさんにお願いしてみようかしら。」


前世の記憶があるからと言って、あちらにはダンスもナイフもフォークもある訳じゃない。所作や立ち振舞いなんかはそれなりに見えるんだけど、ボロが出てしまうようでは話にならない。

(あとは社交の経験と慣れよね。準備はしっかりしておかないと)


などと考えていると、遠慮がちにララファが尋ねた。

「シャンイ様って」

「なあに?」

「その、向上心の源と言うか、最終的に何を目指しているんですか??」


そんな事初めて言われた。私は驚いて変な顔をしたかもしれない。

(目指すものなんて、考えたこともない。あら?でも目標はあった方がいいのかしら。)


「えーと、安定した生活と、平穏な日常…と、シス様が長生きすることかしら?」


自分で言ってなんだか微妙な気分になってしまった。いや、実際それ以外考えてなかったのだけど。


「はー、愛情が深いのですねぇ」ララはそういうと、目をキラキラ輝かせてため息をついた。なんだか納得してくれたようだが、私自身は自分に疑問を感じてしまった。


 私は結局、なぜこの時代のこの時間にやってきてのだろう?それはもしかしたら神様じゃなくて、悪魔の差し金という可能性だってある。そう考えると、急に寒気がしてきた。


(だめだ…やっぱり、何があっても対処できるようにしないと。もう二度と、殺されたりなんかするものか!)


 



 

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