表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/101

彼女(私)の名前はシャンイ嬢

現在の登場人物

主人公シャンイー・アルヴェール、侍女ミレイア、金髪演技派青年ハヴェル、冒頭登場シスリー、侍従アイル


その日は月もなく、藍色の空に無数の星が瞬いていた。テラスに腰掛け、何をするでもなく見つめていると、星が一つ線を描くように流れていった。


「シスリー様、そろそろお時間です。」

「…はいはい。準備はできてるよ。まったく、父上のおせっかいにはうんざりする」

「ご心配されているんですよ、陛下は」

「は 心配?手元にあるのが不安なだけだろ。」


そういって、侍従のアイルは銀の刺繍が施された白い外套を渡した。着ている礼服も白が基調なので、まるで死に装束のようだ。…白は好きじゃない。


「またそういうことを言う。今日は有力貴族のご令嬢も多く参加されます。これを機に、本格的にお妃選びもお考えになりませんか?」

「冗談。アイル…お前子供の頃から見ているくせに、俺に結婚なんざ向いてると思うか?」

「向いてないと思うのなら、ぜひ試してはいかがですか?」


ああ言えばこう言う。こいつの頑固さは昔から変わらない。従者の困り顔に一瞥くれてやり、馬車に乗り込んだ。


「ま、本当に向いてないことを証明するためにも、一人くらいそういうのがいてもいいかもな」


今日も変わらない晩餐会。貴族のご令嬢どもはこぞって自分を着飾り、少しでも自分がお目にかなうように媚を売る。そして他者を蹴落とし万に一つでも自分が選ばれるように策を練る…まるで戦場だ。

(さて今日は、どんな茶番が繰り広げられるかな。)


 ***

    

 

「はっ!!」


何かに急かされるように、私は飛び起きた。

きらきらと輝くガラス細工の照明が、まるで瞬く星のように煌めいている。


 (眩しい…)


ふかふかの寝台は居心地よくて、油断したら眠ってしまいそう。

見慣れない天井を確認して、視線をさまよう。すると、心配そうにのぞき込む金髪の女性…おそらく侍女であろう彼女の姿を見た。


(ああ、やっぱり夢ではないのね)

 

落胆とも安堵とも言えない複雑な気持ちで重たい体を起こすが、頭がずきずきする。


「痛…ッ」


確か馬車の中で、色んな事に驚きすぎて天井に強打したのだ。


「よ、よかった。大事ないですか?シャンイ様…。」

「ああ、うん。心配かけたわね。」


そう。少し眠ったせいか、このシャンイ嬢について少し思い出した。


(シャンイ・アルヴェール…)


彼女はこの国一番の大きい商会の娘だ。

銀色に翡翠の瞳という儚げな印象とは裏腹に、ものすごくわがままで自分勝手…のようだ。


今回の舞踏会参加というのも、玉の輿に乗りたいという浅はかな願望から始まった。

致命的なほどにファッションセンスが皆無で(お父様とお姉さまにその服装だけは、やめてほしいと止められていた。)性格に難あり…の16歳というのまでは思い出した。


 ただもう一つ朧気な、こことは全く違う場所での記憶もあるにはあるのだが、その詳細は思い出せない。シャンイ嬢の取りまく環境までは思い出せても、どんな人といたのか、どういう風に過ごしていたのかまでは思い出せない。…情報を集める必要がありそう。

いっそミレイアに話すべきだろうか?


「…あの、実は…」


そう言いかけた瞬間、ばぁんと激しい音をたて、入り口の扉が開かれた。


「ああ、僕のシャンイ、倒れたって聞いたけど大丈夫かい?!」


現れたのは、これまた金色の髪の青年。ふわりと揺れる前髪と、肩までかかった金髪は後ろで束ねている。整った顔立ちと青く垂れ下がった瞳が印象的だ。


「……だれ。」だっけと言いかけて、やめた。


「心配したんだよぉ?!君に何かあったら僕の心は嘆き悲しみ、深く底のない涙の海に沈んでしまう…!!胸が張り裂けそうだ!!!」


大げさなくらいの身振り手振りでいかに自分が悲しいかを延々と表現している。…なんなのこいつ、病気?本当に涙の海とやらがあるなら沈めばいいのに。


「あー、ごめんなさい、私は…」

「ミレイア、そんな冷た…」

「い・い・か・ら!!もう時間がありませんお嬢様!」


ミレイア、強い。力強く背中を押されてあっけなく強制退出させられた。けれども私は、ミレイアの手から何かの紙切れが彼の手渡ったのを見てしまった。


「…?」

「とにかくお嬢様!!本当にもう時間がありません。早くご支度を」


さっきの紙切れについて問い詰めてやりたい所なのに。せっつかれるように鏡と向き合い、鏡の中の少女を改めて見つめる。


(うーーむ、美少女だ。自分とは思えない…。)

私と入れ替わったんだか、はたまたもともとの自分だったのか、どちらだろう。もし入れ替わったのなら、あの夢の先に、シャンイ嬢がいるのだろうか?

なんだか遠い国から久々に見た親戚のようで、どうしても第三者目線になってしまいそう。

さて、ところで。シャンイ嬢のお気に入りの装飾品を見つめる。


机に並べてあるのはあの黄金の首飾りとごついイヤリングに重たい羽根飾り。これをまた装着するのにはとても抵抗がある。とはいえ、イヤリングくらいはしといたほうがいいかしら。


「ね、ねえミレイア。もういっそ飾り物はなくてもいいじゃない。頭も痛いし、このドレスと銀色の髪だけで十分よ。」


正直に言うと、帰ってしまいたいところだが、そうもいかなさそうだ。


「ま、まさかそんなわけには」

「わ、わかった。でもほんと、飾りはいらないわ。どうしてもっていうなら、そうね。」


私はすぐそばに飾ってある大きな花瓶から薔薇の花数本と茎が柔らかそうな大きめの花を拝借した。それで簡単な即席花飾りを作り、まとめた髪に簪の要領で括り付ける。


「これでどうかしら。」

「…お嬢様。やはり頭を打っていらっしゃる…?!」


まあ実際そうなんだけど。「早く、時間がないんでしょ?さっさと行くわよ」


口をばくばくする侍女を尻目に、先ほど追い出された青年を呼ぼうとした。しかし…廊下にその姿はない。


「どこに行ったのやら。とりあえず会場?に行かないと…。」


って、こういうパーティーは一人で行っても大丈夫なのかしら。大抵同伴者が必要だったりするんじゃないだろうか。


「…エスコートもなくパーティーに出席するのはマナー違反です。パートナーを放っておくわけにも参りませんわ。あの、探してまいります!」


いうが早いが、ミレイアはさっさと退室してしまたった。…もちろん、あの怪しげな手紙の受け渡しを見た以上、黙っているわけにはいかない。

こっそりと、彼女のあとを追った。


  

「おっかっしーなぁ」


そして…案の定迷ってしまった。あれ?私が来たのはどの部屋だったっけ??

あてもなくさ迷うわけにはいかず、来た道を戻ってみる。…が、どこも壮麗な扉が端から端まで等間隔に並んでおり、違いが判らないうえ本格的に迷子になってしまったようだ。

そして更に歩いていくと、これまた巨大な廊下に行きあたってしまった。


「うっわ…ひろい…どうしよう。ここどこ??」


鏡板作りの壁、漆喰の天井、そして長い壁面には床から天井までの大きな張り出し窓がある。その窓からのぞくと、広い中庭が見えた。外には立派な二頭立て馬車が所狭しと並んでいて、それだけでもこのパーティーの規模を表している。


「ううう…もしかしなくても、私って場違いなんじゃ。」


 もうこれまで結構な距離を歩いたと思うのに。誰ともすれ違わないのはなぜだ。


「はっ!!もしかしてここはどっか別の空間で、私しかいないとか?!」


 …いや、それともただの夢で、やっぱりあの暗闇で追い詰められるあっちの方が現実? 


「いやいやいや!それは嫌!あっちだってもう死ぬ寸前かもしれないし!」


本当に夢が覚めて、あの瞬間に戻ったら…と思うとゾッとする。

あ?!そうだ。もうこのまま出口を探して帰ってしまうのはどうかしら?!そうよ、そうすれば、晴れて自由の身よね?!

とかなんとか、思いふけって(妄想)いると突然声をかけられた。

  

「…こんなところで何をしている?」

「きゃあああ!!」


…しまった。うっかり驚き過ぎて腰を抜かしてしまう。

そこには、月の光を受けて白く輝くような衣装に、刺繍が入った腰まであるマントをまとった、薄青色の髪の青年が佇んでいた。 

その容貌があまりにも人外の美しさで、私は本当に心の底から幽霊だと思ったんだ。それは向こうもだったようで。


「ぇ…にん、げん?」

「…お前こそ、人間か?」


あ、もしかして私もそう思われてる?気が合うね!!…なんて言えるはずもなく。

私たちは互いに硬直して見つめあっていた。

 

 **

 

丁度その頃のこと…

ミレイアは、人目を避けて中庭へと向かった。舞踏会が始まる前に合流しなければ。この中庭にわざわざ足を運ぶものそうはいない。


そんなとことよりも何よりも今は心が弾んでいて、すべてがどうでもよい。(ああ、これでやっとあのわがままお嬢様のもとから去ることができる!)


幸い彼女は自分が外した成金丸出しの装飾品には目もくれなかった。ならばこっそり拝借して今後の資金として使うのも悪くはない。


「ミレイア!こっちだよ」 

「ハヴェル様!!!」


お互いの無事を確認しながらしっかりと抱き合う。新しい旅立ちをと決めたのはハヴェルだった。愛しい彼の胸にその身を預けながらぬくもりをしっかりと認識した。

基本使用人と貴族との結婚はご法度。本当に結ばれるためにはあらゆるものを犠牲としなければならないのだ。…今頃お嬢様はひとりでエスコートしてくれるはずのハヴェルと侍女を一人でポツンと待ってるのだらろう。


「さあ、行こう!二人で新しい世界へ!」


二人は手と手を取り合って、文字通り夜の闇に消えていった。…罪悪感は感じない。それよりもこれから起こりうる未来に思いをはせていた。



 

たまに調整します。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ