第二章・承 序文
起承転結、承の部分です。
(ここはどこだろう)
シャンイが目覚めたのは、何もない真っ白な世界だった。
(これは夢だろうか?もしかして、あの夢の続き?)
自分が死ぬあの戦慄の瞬間を思い出し、身震いをしてしまう。自分は生きているのだろうか?はたまた死んでいるのだろうか?わからないまま、ただふわふわと空中を漂っていた。
だが、自分が行きたい方向には動けず、何度ももがきながら進んでいく。
よく見ると、細かく赤い糸が全身を覆っている。
(なにこれ?絡まってるの?)
すると、何か見えない力に突然引っ張られ物凄い光の中に呑まれていく。
(!眩しくて見えない…っ)
光に呑まれる瞬間、自分の腕を掴んだものがいた。
「ふー、危ない危ない!これに巻き込まれたらもう二度と出られなくなっちゃう!」
どこかで聞いたことあるような、聞き慣れた声がシャンイを呼び止めた。
目の前にいるのは、同じ年頃の銀色の髪で翡翠色の瞳をしていた。
(あれ?!この姿は…)
彼女がにっこりと笑うと、赤い糸はぱらぱらとほどけていった。
「今回が最初で最後のチャンスよ!さあ、一緒に必然なんて覆しちゃおう!」
「あ、あなたは!その姿…!」
シャンイが手を伸ばすと、彼女もまた手を伸ばした。二人の手は重なる。
「今度こそ、変えよう。私はあなた。あなたは私でしょう?さあ、起きて。シャンイ・アルヴェール!」
そう、彼女は私で、私はあの子。それを確かめるように、私は瞳を閉じた。
**
彼はゆっくりと瞳を開いた。遠い記憶は色鮮やかに蘇る。
始まりは唐突で、ただの偶然に過ぎなかった。たまたま彼女の姿が目に止まり、その瞬間から恋に落ちてしまった。
風はゆるやかに流れ、色彩鮮やかな花々は四季折々にその姿を変えてゆく。それさえも彼女の前では霞んでしまうほどだった。
けれども、彼女の心は冴え冴えと冷え切っていて、その瞳は自分を写すことはない。いつも自分以外の誰かを捉えていた。
「…貴女は何を望んでいる?私は何でも持っている。煌びやかな装飾品でも、豪華な美術品でも、そなたが望むものは全て与えよう。」
彼がそう言うと、翡翠の瞳は初めて自分を見てこう言った。
「私が欲しいのはただ一つだけ。…けれどもそれは、貴方の心ではありません。」
ただ、笑ってほしいだけなのに、彼女の心だけが手に入れられない。
なぜだろう?どうすれば手に入るのだろう?そうだ、今世で結ばれないのなら、来世はどうだろう?その次は?
彼が思いあぐねていると、とある術者がささやいた。
「ならば彼女の魂を捉えてしまえばいい。」
血のような深紅のローブを着た術者は、彼に一振りの剣を手渡した。
「それを使えば、彼女の魂を捉えられる。何があっても、どんな場所でも必ず巡り合い、貴方は彼女の元へたどり着く。しかし再び円環に戻るには、彼女の最後を貴方が見届けなくてはならない」
そう、それは永遠の約束。彼は何度も愛して、何度も追いかけた。
けれども、何度巡り合っても、彼女はま別の誰かを愛してしまうのだ。だから彼女に与える「終焉」は、罰ではなく、新しい円環の始まりだった。
そして、その旅の果てで、何度も彼女をこの手にかけなければならなかった。
だってどの世界でも自分を愛してくれないから。こうでもしないと、来世で巡り合えない。
だから彼はまた繰り返した。
「そう、今度こそ。…今度こそ、この手に。それが必然なのだから。」
そしてついに10回目の目覚めがきた。今度の新しい世界は、海が見える西の国だった。




