【Episode1 証を持つ者】 妖精演舞(フェアリーダンス)⑥
【ウンディーネ城】
「・・・・・」
見慣れない天井。
朦朧とする意識の中で腕に違和感を覚え、近づけて見る。
何かジェル状のものでも塗られている感触の上から包帯が巻かれていたヤケドのあった右手。左手にも湿布が貼られている。
全身に痛みは残っているもの、動かす時に少し痛みが走るくらい。
あれだけの戦闘でこの程度の傷で済んでいるなら幸運な部類だろう。
「起きた?」
「マリア」
額に巻かれた包帯。ところどころに湿布が貼られた状態のマリア=ステファニーがそこにいた。
「傷はどう?」
「まぁ動かせるだけ何とかな。マリアはどうだ?」
「私も似たような感じかな」
「・・・俺達、勝ったんだよな」
「うん、《雷霆の魔王》に勝ったんだよ」
言葉を受けても、まだ実感が湧かない。
何故なら、彼は勝った自覚がない。
(あれだけ色んなことをして、色んな人が力を合わせても、結局は運よくクリスタが来たおかげで勝てたんだ)
どれだけ戦略を積み重ねたとしても、勝てたのは《魔王》が偶然槍を刺したのが左胸で、偶然そこに『お守り』が入っていただけのこと。
「交渉はどうなった?」
「いまクリスタ様が交渉の引き継ぎをしてるよ。《魔王》の魔晶石が出てきたから所有権について話し合うって言ってた」
「どうするか言ってたか?」
「えっと、『聖水の都』に渡すって」
「妥当だな。勝ったとしても被害は少ないわけじゃない。復興のための素材としては十分だ。それに恩も売れるだろうし、協定の材料としても良い。この外交はまとまったも同然だろ」
「ねぇ、紫苑の右手って本当に何なの?《魔王》の攻撃を打ち消してるだけでも凄いけど、あれだけの破壊力と両立なんて聞いたことないし」
望月自身も、その右手の力は理解できていない。
だからこそ、言葉を濁せるだけの材料すら用意もない。
「分からん」
はぐらかされたと思ったマリア=ステファニーだが、表情から本当に分からないのだろうと悟った彼女は
それ以上の言及はしなかった。
「お前ら、起きてすぐで悪いがレミリア城に来てもらうぞ」
【レミリア城】
アリス=スカーレットの転移で一時的に『翠宝の森』に戻ってきた愛澤達は、その足でクリスタの玉座のある一室へと移動した彼らは妙な緊張感に包まれていた。
傷が癒えないままの愛澤は、同じく傷だらけのマリア=ステファニーと肩を貸し合いながら達、玉座のクリスタの左右でアリス=スカーレットと『白麗騎士団』の最後の1人クーナ=グレイスが立っていた。
「んで、話ってなんだ?」
「重要な話だ」
クリスタはコホンッ!と小さく咳払いし、
「望月、お前を妾の騎士から脱退することを任ずる」
Episode2・魔王な少女と紅蓮の王(Believe me) に続く