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無冠の王と幻想の魔王  作者: アクイラ(°Д°)
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【Episode1 証を持つ者】 妖精演舞(フェアリーダンス)④

   【アビスの森】



 辺りには葉がこすれ合う音だけが響いていた。

 即席のログハウスの中にはランタンがいくつも点在し、室内を照らしているなか、望月とマリア=ステファニーはソファに向かい合い、地図を広げていた。


「今日はあんまり進めなかったから、明日は早くから動くよ。クリスタ様からもらった簡易住居もあと1個しかない。だから最悪1日は焚き火で過ごすことになるね」

「あぁ。んで、情けないけどこれからはマリアに頑張ってもらうことになる。俺も1匹くらいなら何とかなるけどそれ以上になると厳しい。やっぱり魔力を使った闘い方を覚えなくちゃいけないと思うんだよ」

「でも、紫苑は魔力を使わなくても狼を3匹も倒してたじゃん。快挙だよ」

「ん?」


 望月は首を傾げて、制服の胸ポケットから魔水晶を取り出す。


「よ、4匹も倒したの?魔力使ってないんだよね」

「あぁ。何とかな」

「もう魔力いらないんじゃない?魔力抜きでこれだけ闘えるなら」

「《魔王》相手には足らないだろ。俺は1人ででも《魔王》と闘えるだけの力が欲しいんだ」

「そういえば紫苑が闘ってるところって見たことないな。『双女神』使ったの?」

「ただ斬るだけだったよ。あとはハッタリと小技で乗り切っただけだ」

「何はともあれ、お疲れ様だよ。魔力に関してはその内分かって来るよ」


 そこからは望月が休憩を取ることになる。

 対して、マリア=ステファニーは『魔剣スピカ』を取り出し、ログハウスを出た。

 月光に照らされる魔剣。

 それを何もない虚空に突き立て、


「誰?」

「・・・ねむい」

「アリス?」

「・・・マリア。ねかせて」


 そう言うなり、ログハウスに上がり込む少女。

 そのまま眠たそうに望月のいるベッドまでたどり着き・・・力尽きた。

 ボフッとベッドに顔面からダイブしたアリスは望月と並んで眠り始めた。


「・・・・ま、いっか」


(それにしてもどうしてアリスがここに?クリスタ様のところで・・・クーナ困ってるだろうな)


 『魔剣スピカ』を収め、辺りを一度見渡して気配がないことを確認し、ログハウス内に戻る。

 そしてベッドで眠る望月とアリスと呼ばれる少女。


「これが《魔王》を3度も倒した魔女、アリス=スカーレットだなんて誰も思わないわよね」


 桃色の短いツインテールを揺らし、呼吸で身体を弾ませる少女。

 当代最強の魔女の1人として『十傑』とされる英傑。


「アリス、もしかして私のところに来てくれたのかな?」


 彼女の寝顔に微笑み、彼女もベッドに入った。





(どうしてこうなった)


 眠りから覚めた望月は自分の腹部で抱き枕代わりにしている桃髪の少女、そして隣で自分の腕を枕にして寝ているマリアがいる。


(マリアは分かるけど、この子誰だ?ってか見張りのマリアが寝てるってどういう)


「・・・望月、」

「誰だ?」

「・・・ありす。マリアのともだち」

「もしかしてクリスタに言われて来てくれたのか?」

「ちがう。かってにきた」

「・・・・・」


(たしか、クリスタが言ってた『白麗騎士団』の1人だよな。勝手に行動していいのか?それともそういう役割なのか?)


 短い会話で情報を引っ張りだそうとするがどうにも要領を得ない。

 何かを隠しているというよりかは、眠たくて会話になっていない感じだ。


(この子もマリアと同等の力を持っているってのが信じられないよな)


「とりあえず起きてくれ。ちょっと聞きたいことがある」

「・・・なに?」


 眠たそうな目を擦り、ベッドから逃げる気が見られないが話は聞いてくれるようだ。


「魔力と《魔王》について教えてほしい。まず俺に魔力はあるか?」

「・・・???」


 望月の質問の意味が分からないとでもいうように小首を傾げるアリス=スカーレット。

 彼女は何かを閃いたようにピコン!と目を開き、そして大きく口を開き。

 ―――望月の首筋に噛みついた。


「いっ、」


 あまりに唐突の出来事に対して、反応が遅れた望月。

 ほんの数秒。

 噛みつかれた痛みに眉根を寄せ、彼女の顔がもう一度見えた時、艶めかしく首筋と彼女の口元に唾液の端が架かっていた。

 アリス=スカーレットはそれをゴスロリ風の服の袖で拭き、


「・・・まりょくはあるよ。・・・シオンって《ゆうしゃ》?《まおう》?」

「どういうことだ?」

「アリスは魔力を食べられるの」


 振り向くと、体を起こして目を擦るマリア=ステファニー。


「魔力を食べる?」

「そう。さっきも言ったけど、魔力は呼吸で取り入れることが可能なの。で、アリスはその貯蓄量が尋常じゃなくてね。超高火力の魔術を扱える最強の魔女の1人で、アスタリスクで最強に位置づけられる『十傑』よ」

「もしかしてクリスタより強いのか?」

「そこは優劣つけられないね。『十傑』には『六星の聖者』以外にもアリスのように4人の実力者がいるの。その中でもアリスは『アスタリスク』でも貴族の純血の『吸血鬼(ヴァンパイア)』」

「『吸血鬼』か。お伽噺の産物だと思ってたけどな」

「『翠宝の森』に残ってるクーナは『妖精族』、私は『戦乙女(ヴァルキリア)』。クリスタ様に至っては『天使』の血統なんだよ」

「人類種ってのはいないのか?」

「いるけど、ほとんどが《魔王》に囚われているか、殺されたの。『アスタリスク』には何を逃れた人達もいるけど、それでもあまり多いとは言えない。そう言った人達を解放する意味でも、」

「待てよ。そんな奴隷みたいな待遇を受けている奴がいるのに、どうして『アスタリスク』全体で『ユグドラシル』の攻略をしないんだよ。いくら《魔王》の存在が大きいからって全体で攻撃すれば『オーブ』の破壊だって出来るだろ」

「・・・それができないからクリスタが困ってる。・・・他の都市は自分の都市だけ守れればいいやっていう保守的な考えの人が多いから。・・・ありす達みたいなのが少数なの。・・・でもこのままじゃいつまで経っても平和にはならないし、仮初の平和じゃ意味がない。・・・ありす達はそのために闘うの」

「私達『白麗騎士団』は他都市に対する一種の防波堤。どこの都市も自分達が《魔王》に対しての絶対的な戦力が欲しい。だから他の都市の協力、というよりかは屈服させて傘下に治めようとしているところも少なくないのよ。『紅玉の城』なんかは典型的なそれ。《灼炎の王》が民を守るっていうことを条件に移住する者も少なくないの」


 これだけ多種多様の種族が入り混じる『アスタリスク』。

 その絶対的な存在。


(《魔王》ってのが都市を上げてでも倒さなければならない相手なのは重々分かるが、それでも倒しきれない相手か)


 望月の中ではまだ思考がまとまらない。

 彼は頭が切れるわけでも、優れた身体能力があるわけでもない。

 思考を放棄しないこと。

 それだけが彼の取り柄とも言える。

 彼は間違うことなく人間だ。

 ―――ただ生まれつきおかしな一点を除いて。


「そういえば、マリア。見張りはどうした」

「アリスがいるでしょ???」


(・・・あれ?ここって日本語でよかったよな?)


 話が噛みあっていないことに気づいたマリア=ステファニーは、わたわたと手を動かし、


「えっとアリスは鏡の世界を行き来できるんだ。鏡を自由に出現させてその中を移動できるの。そうだなぁ。説明が難しいんだよ」

「・・・ありすの魔術は『位相』って言えば分かる?」

「えっと別の空間を作ったり、位相で反転させるってのは分かった」

「・・・シオン、頭いい。・・・まりあは頭良くないから助かふぁる」


 マリア=ステファニーに頬を引っ張られ、顔が鏡餅みたいになるアリス=スカーレット。


「アリスは一緒に来てくれるのか?」

「・・・ううん。・・・まりあの調子を見に来ただけ。・・・ありすはまだ小さいから魔術を長時間使うだけの力がないの」

「燃費がよくないのか?」

「・・・うん」


 『位相』。

 それは空間という概念そのもの。それを魔術で歪め、反転させ、乖離させ、接続させる。


 いわば時空を超越した代物だ。


(これが『十傑』って枠組みなら、クリスタや《灼炎の王》も同等の『何か』を持っているはずだ)


「それでも《魔王》は怖いのか」


 望月の口から、ふとそんな事が漏れた。

 今の彼の中では、自分が苦戦した狼や猪やそれらを圧倒したマリア=ステファニー、更にその上をいく『十傑』というピラミッドが形成されていた。

 そしてその更に上に《魔王》という存在がいる。

 自分では、どんな補正がかかったとしても勝てないだろう。そして相手は容赦などしない。人口の7割を消滅させたことからも分かるように。特撮ヒーローのように一度負けて、強くなって再戦のようなご都合主義など本来はありえない。闘いにおいてこの『アスタリスク』は和平も交渉も降伏ない。

 ただ生者と死者がいるだけ。

 生きていれば勝利、負ければ死という分かりやすいものだ。

 その分かりやすさが、より死を明確にする。

 狼を切り裂いた剣から伝わった感触。魔水晶になったとしても、その感触は消えなかった。自分自身の手で命を強制的に終わらせたのだ。気持ちを殺す殺戮兵器に成り下がれば、人間として終わる。

 心を殺すのは、心を無くす行為ではなく隠す行為。

 そう思いたくないという現実逃避。


「・・・ありすの『位相』ととっておきを使えば《魔王》に対抗できる。・・・クリスタの槍も含めて勝てるかもしれない要因はいっぱいあるけどそれでも《魔王》に100%の勝率はありえない。・・・《魔王》には個体差がある。・・・力が強いのもいれば弱いのもいるんだ。・・・どんなに弱くても特異な魔術は持ってるけど、ありすが倒せたのはそれほど強い《魔王》じゃなかった。・・・クリスタでも十分間に合った」

「魔術無しで勝てる見込みは」

「・・・0%」


 絶望的な現実。

 頭を使えばどうにかできる限界を突きつけれた。

 望月は所詮、この世界に老いては部外者でしかない。魔力が流れていることに関しては収穫があったが、使い道がない。


「魔術っていうのは発現するのか?それとも引き起こすのか?」

「『アスタリスク』において魔術は願いの結晶っていう見方が多いの。だから前者かな?」

「どうやって発現する」

「・・・魔術は人の欲望を形にしたものだから、いつでも使える。・・・そこにあってそこにないもの。・・・それが魔術。・・・シオンが本当に魔術を必要とした時、それは発現すると思う。・・・そしてそれがもし《魔王》に対する切り札になるとすればそれでいい。・・・でももしダメだった場合はすぐに逃げないと死んじゃう。・・・シオンは何を望む?」

「俺は・・・」


 問いに対して明確な答えは出せなかった。

 着た直後の望月なら、すぐに『元の世界』に戻るための『魔術』を欲した。

 だが彼は『アスタリスク』の現状を知った。

 頬に伝う痛みを知った。

 マリア=ステファニーの涙を知った。

 クリスタの苦悩を知った。

 別に英傑を気取って世界を救いたいと思っているわけではない。

 ただどうしても。

 彼女達の涙の理由を取り払ってやりたい、そう思った。


「俺には異世界から来たっていうだけで特別な力なんてない。でも俺はあいつの騎士になるって決めたんだ。だったらそれくらいはしてやる。たとえ魔術が使えなくても俺には拳がある。知恵がある。死ぬのは怖い。でもそれは皆同じことだ。だから俺はそんな『アスタリスク』を終わらせるために『オーブ』を破壊する」

「・・・そう。・・・ねぇ、シオンは人の死を見た事ある?」

「何だ。これから辛い事があるって言いたいのか。それだったら」

「・・・分かってない。・・・あれは覚悟して慣れちゃいけないものだから。・・・背負って生きちゃいけないものだから。・・・シオンは闘いに向かない。・・・『双女神』を持っていたとしてもそれは変わらない。・・・ありすが知ってる最強の英傑は最も優しくて最も傷つきやすい。・・・《雷帝》の名を冠する女性でさえ死の恐怖を捨てられない。・・・それでも彼女は頂に立って人を守る位置に君臨している」

「『十傑』の《雷帝》オルカ=スカーレットはアリスのお姉さんなんだよ。そして『アスタリスク』において《魔王》撃退回数は随一。完全無敵の雷使い。おそらく英傑では彼女に勝てる人は片手の数も存在しないと思うよ」


 彼女達の言葉を受け、望月は理解した。

『十傑』は力以上に『アスタリスク』において意味がある。その存在自体が、彼らの心の支え。何があってもまだ『十傑』がいる。そう思えるだけの力を保持することが必要になっているのだ。

そして『十傑』はどこまで行っても『世界を守る』という信念を持って行動している。

まだクリスタとアリス=スカーレットの2名しか出逢っていない望月がそう判断してしまうのは早計なのかもしれない。


「勝てると思うか」

「・・・さっきも言ったけど《魔王》に対して100%の勝率はありえない。・・・でも勝てる勝負ばかりを選べるわけじゃない。・・・私の『鏡』を使ったとしてもそれは変わらない」

「『十傑』が共闘した例は?」

「過去に数度、《幻想の魔王》みたいな超大型が現れた際には複数の『十傑』が共闘した例があるけど今はそんなことはほとんどないわ。それだけ大きいのが来なかったのもあるけどそれは運が良かっただけで、犠牲は出ている。闘いを望まないオルカ様のように闘いを好かない『十傑』もいる。でもそんな思いを踏みにじるほどに《魔王》は脅威の対象なんだよ。一体の例外もなくこの世から排除するべき存在という認識が『アスタリスク』の総意。私も《魔王》を前にしたらどうなるか分からない。きっと誰の制止も聞かずに殺しに行くと思う。私にとって《魔王》はそういう存在なの」


 《魔王》の脅威が人に殺意を宿す。

 それほどまでに人の心につけた傷跡が深かったのあろう。殺意はそう簡単に抱けるものではない。心に付けられた傷が深いほど、それを埋めようと仮初の『復讐』が宛がわれる。それは決して埋める材料にはならない。自己満足ではなく、後の自己嫌悪を引き起こすからだ。


「《魔王》ってのは本当に殺さなくちゃいけないのか?」


 その言葉にマリア=ステファニーは口をつぐんだ。

 彼女にしてみれば、何も知らない望月に口を出されたくない領域を土足で踏み荒らされているようなもの。怒りを通り越して呆れが来ているほどだ。それは彼女が歩んできた未道の壮絶さが、絶対の覚悟が揺るぎない信念として彼女の中にあるからだ。


「俺は《魔王》の脅威はまるで知らない。門外漢どころか、1+1も習っていないような素人だ。でもお前の何分かの1には力になれる。それが億か兆かそれ以上化は分からないけど、それでも力になれるはずだ」

「思い上がらないで!」


 金髪の髪が大きく揺れる。


「紫苑が私の力になる。思い上がりもいいところよ!あなたは《魔王》を知らない。あれがどれだけ危険な存在なのかも、どれだけ人を不安に陥れるかも。あいつらはこの世から滅ぼさなくちゃいけないの。どんなお題目を並べられたところで、私は復讐に生きる。この世から1人残らず《魔王》を殲滅する。そのための力をつけたんだから。紫苑は今回、外交を有利に進めることだけ考えて。戦闘面は私に任せてもらう」


 マリア=ステファニーはそれだけ言ってログハウスから早々に出ていく。

 その場に残されたのは、ただの人間と純血の吸血鬼。


「・・・まりあも言い過ぎたところはあるけどシオンが煽ったのが悪い」

「俺だって自覚はあるさ。でも俺はこういうやり方しかできないんだ」

「・・・まりあの防波堤になるつもり?・・・シオンっていう自分とは違う意見をぶつけて頭の片隅に植え付けて《魔王》への復讐を少しでも霞ませようとしているの?」

「無駄になるっていうのは分かっている。無意味にならないことを祈ってるだけだ。傍から見れば俺の行動なんて『爆笑乙』って言われると思う。ただマリアのトラウマを掻き乱しただけだからな。それを都合のいいように解釈しているって思ってくれて構わない。でも俺には好かれようが嫌われようが誰かの心に居座らなきゃいけない。マリアは根はやさしい奴だから、俺の消息が絶たれたら嫌っていたとしても駆けつけてくれる奴だと思うし」

「・・・シオン、最低」

「何とでも言え。俺は『アスタリスク』で生きるための『命綱』がなけりゃ無理だ。マリア=ステファニーを信頼してると思ってくれ。いざとなったら俺の拳で助けてやるって」


 そう言って握り拳を見せる望月。

 その望月が後ろを向き、マリア=ステファニーを追いかけようとしている彼に対して、空気を固めた魔力の塊が飛ぶ。


「舐めてんのか」


 望月はあろうことか、その魔力の塊を振り向きざまに左手で殴った。

 殴られた魔力はそのまま拳の威力を受け、飛散した。


「・・・やっぱり普通の人間じゃないね」

「やっぱりってことは気づいてたのか。さっきの噛みついて血を吸ったのは血液検査でもしてたのかよ。さっき《勇者》や《魔王》って言っていたのはそういうことだろ。俺には計れない『何か』がある。生まれ持ったこの気持ち悪い右手はここでは素敵アイテムってわけだ」

「・・・魔法弾を素手で殴り飛ばすなんて本来ありえない。・・・自分で言うのもなんだけど『十傑』クラスの魔法弾を手加減したとはいえ。・・・もしかして英傑の血統なの?」

「俺は普通の人間だよ。変な右手を持ってるけど」

「・・・右手単体だけなら《幻想の魔王》と同じ性質を持ってる。・・・あいつはほとんどの攻撃を素手で破壊したの。・・・最知の英傑《詩人》だけがアイツに攻撃を当てられたことをきっかけに何とか対抗できたけど、それでも勝てなかった。・・・当時の『十傑』が持ってるアーティファクトだけでは勝てなかったんだ。・・・いくら《魔王》といってもレベルが違った。・・・でもこうして生きているんだから勝利したのと一緒。・・・《魔王》に対しては打倒よりも生存が優先されるから」


 勝負以前に生存が優先される。

 《魔王》の脅威がそれほどまでに大きいのは分かるが。

(『十傑』というからには10人の猛者がいるはずだ。それが徒党を組んでも打倒できなかった《魔王》は10人に匹敵するだけの魔術を持っている。アリスの口振りだとそれから力を付けた奴だっているし、新しい英傑だって現れているはずだ。それでも『ユグドラシル』に攻め込むことをしないのはおそらく《魔王》が単体で行動せず拠点から迎撃態勢を取っているから)


「・・・シオンは頭の回転は速いけど、それだけじゃ勝てない。・・・その『右手』がどれだけ特別でも『右手』単体なら防げる範囲は限られてる」

「この右手は1日に3回まで使える。回数制限を含めても隠し玉としては、手加減をした『十傑』の魔法弾?ってやつを殴って飛散させるだけの威力はあるんだ。それだけでもいいだろ」

「・・・力があるのはいいけど、だからって1人で《魔王》打倒はありえない」

「まぁ注意はしておくさ。俺は別に戦闘経験はさっきの狼が初めてだ。猪に関してはマリアに持ってかれたからな。英傑がどんなものかは知らないが少なくともこの『右手』は武器になる。『双女神』はあくまで鎧だ。素手で対処しきれないものを捌く。この剣が能力を開花できればそれはそれでラッキーだ」

「・・・ありすはまりあの友達だから、もし危険な目に合わせようとするなら容赦はしない。・・・ありすの『位相結界』を使ってでも止める」

「アリスはこれからどうするんだ?」

「・・・まりあのことはシオンが悪い。・・・だからシオンがケリをつけて、クリスタの依頼もこなす。・・・これは最低限やってもらう。・・・ありすは『翠宝の森』を守るために一度戻る。・・・任せた」


 そう言って空間を切り裂いてアリス=スカーレットはその場から消えた。

 望月も自分で蒔いた種。

 マリア=ステファニーが向かった方角へ足を進めた。




   【???】



「さて、そろそろ始めますか」




    【アビスの森】



 頭の中にあった大まかな地図の形を頼りに森の中を進む望月。

 双剣を両手に掴み、警戒しながら着実に『聖水の都』に向かう。

 かといって、望月には進む行路は分かっていても退路はない。

 今は森の中腹辺り。

 どこへ進んでも距離はさほど変わらない。ならば目的地に向かおうというのが望月の考えだ。走っていたとはいえば、マリア=ステファニーをここまで追いつけないことがあることに驚いていた。

 自分の気持ちが100%相手に伝わるとは思わない。それが理解できるのは同じ思考を持った者か、よっぽど人の感情を理解しているモノだけだ。


(そういった意味だとアリスは凄いな)


 望月の考えにピッタリと反応し、熟慮し、考慮してくれた。

 そして明確な答えを『自らで見いだせ』と言ってくれた。

 いま望月が最も優先しなければならないことは、マリア=ステファニーに謝ること。

利害を一切抜いた、本当の意味で手を取り合うための仲直り。


「魔水晶は換金できるんだよなぁ。アリスにどれくらい価値があるか聞いておけば良かった」


 相場どころか単価すら知らない望月。

 胸ポケットにある4つの魔水晶に手を当てながら、そんなことを考える。目的地まではマリア=ステファニーの概算上、今日を含め2日。ログハウスという安全な居住スペースがない以上、野宿できる場所を決めつつだと到着まで遅くなる。寝ずに行けば狼や猪に突進されただけでゲームオーバー。

 セーブもコンテニューも出来ないリアル。最終的な目的(ゴール)も分からないまま歩いている状態。

 手探りもいいところだが、それでも中間地点は用意してある。

 『聖水の都』。当面の目的はそこになる。

 交渉をして『翠宝の森』との協力関係を結び、来たるべき《魔王》討伐、その先の『オーブ』の破壊。最終的な目標は見えないまでもそこに至るまでの過程は大まかにできている。

 『オーブ』の破壊をとりあえずの目標として設定し、そこに至るまでの過程を逆算すればいい。その第一歩がこの外交。


(ちょっとからかってみるか)


 望月は双剣をその場に放り捨て、素手で森の中を駆け巡る。


「アリスのおかげであと2発か」


 自身の右手を見ながら全力で駆けだす。素手の望月が用いる唯一の武器。

 殴るという単調な手段でありながら、必殺の拳を持つ望月は必要最低限の装備を身に着けているのと同義。望月が双剣という安全装置を手放したのにはわけがある。

 そんな彼の思惑通り周囲に魔獣がやってくる。

 拳を握る。

 近づいてきた狼型を履いていたスニーカーを蹴り飛ばし、怯んだところでかわす。

 右手は使わない。

 望月が望んでいるのは窮地。

 それが今まさにやってくる。

 複数の狼が同時に飛びかかる。

 このままでいれば望月は間違いなく死ぬ。突然力が目覚めるとか、神の声が聞こえて『強くなりたいか?』などと対話できるわけがない。そんなご都合主義では力は手に入らない。


(やっぱりな)


 望月は確信していた。

 目を奪われたその景色が“もう一度”見れることを。

「お前はそういう奴だと思ったよ、マリア」

 迫りくる狼を瞬く間に一陣の風が薙ぎ払う。

 何人の侵入も妨げる風の壁が狼達を弾き飛ばし、剣閃が1体、また1体と魔水晶へと変えていく。

 人の死を感じ、たとえケンカをした相手だったとしても絶対に見逃すことの出来ない優しい少女。


「何てことしてるの!『双女神』を手放したと思ったらいきなり素手で魔獣に立ち向かって。死んだらどうするつもり」

「その言い方だと双剣を手放した時を見てたってことだろ?」


 意地悪な物言いの望月に対して、はっ!と口が滑ったことを隠すように口元を抑えるマリア=ステファニー。だが今回の事に関して望月は自分のせいだと理解している。


「悪かった。仲直りだ」


 差し伸べた手。

 彼女も素直に謝るとは思っていなかったのか、少々面をくらいながらもその手を握る。


「私も言い過ぎたわ。ごめんなさい。でも私が来なかったらどうするつもりだったの?」

「お前が来ると信じてなきゃ、こんなことしてないって」

「双剣も拾っておいたから」

「サンキュ」


 受け取った双剣を消す。


「そういえばマリアは剣をずっと帯刀してるのか?」

「私の剣って他のと比べて幾分軽いから。刺突剣だと紫苑の双剣みたいに斬るっていうよりも突き刺すのが主な闘い方になるでしょ?だから貫く腕力は必要になるけど、重さはさしていらないのよ。だからずっと出してるの。でも双剣みたいな武器だといつまでも出してると腕に負担が来るでしょ?」

「魔力で身体能力のアシストはできないのか?」

「魔力って言っても万能じゃないからね。私の『風』、アリスは『雷』みたいに生まれ持っているモノによってはできない魔術がある。『水』で『火』が起きないようにね。身体強化は魔力で多少はできるけど、50m10秒の人が9,5秒になるような少しの差だよ」


0,5秒縮まるだけでも、と望月は若干気圧される。

彼らにとっては僅かな変化でも望月にとっては大きな前進だ。魔力による身体的なアシストは可能。あとは魔力を意識して使えるかどうかだ。


「行こう紫苑。『聖水の都』へ」

「あぁ」


 双剣を腰の鞘に✕の形でしまい、全速力で森を走る。




   【翠宝の森】



「あら、アリス」

「・・・眠い」

「ゴォォォォォルゥァァァァァアア!この忙しい時にどこに行ってゴㇷゥ!」


 怒りを露わにして詰め寄ろうとしていたクリスタの頭を鷲掴みにしてその場で宙づりにするクーナ=グレイス。


「2人は平気でした?」

「・・・ケンカしてたけど大丈夫だと思う。・・・クリスタ、シオンって何者?」

「あれは妾の騎士だ。特にあの頭脳と『右手』は使える」

「・・・気づいてたんだ」

「あれだけ大きな存在を隠していないのだ。気づかないほうがおかしい。あの『右手』は魔力を垂れ流しにしているからお前と一緒で燃費が悪いんだろう。望月自身も魔力を意識していないらしいから、ふざけた威力を持った『右手』くらいにしか思ってないんじゃないか?」

「・・・そうだった。・・・シオンは『右手』が武器になることを分かってたよ。・・・シオンが行ってたのは『右手』は3発だけ使えるって言ってたよ」


 クリスタは顎に握った拳を当てて考える。


(望月自身が『3発』と明言した以上、根拠があるはずだ。魔力を意識していないなら4発目を使ったことがあるのだろう。もしくは3発目までで何かが分かったんだろう。あれだけ頭の回る奴がそれを明言したからには本当に3発しか撃てないのだろう)


 クリスタは手元の資料のいくつかを手に取り、


「クーナ、至急これらの案件を片付けてくれるか。望月には『お守り』を渡してあるから何とかなるが、それでも何かあった際には妾が動けるようにはしておきたい。アリスとクーナには悪いが、少しの間ここを任せることになるかもしれないから、そのつもりでいてくれ」

「分かりました。では半日以内には報告しましょう。アリスもいいですか?」

「・・・分かった」

「いざとなれば槍だって使う」


 その言葉に覚悟を感じたのか、クーナ=グレイスとアリス=スカーレットは何も言わずに笑顔を見せ、宮殿を後にした。

 広い宮殿で1人残ったクリスタ。

 重たい息を吐きながら玉座に背を預けて、天を仰ぐ。

 《幻想の魔王》。最凶の《魔王》の代名詞とされる存在の脅威を常に視野に置きながらも、他の《魔王》に対しても目を向けなければならないという緊張感を抱かされている彼女の重圧は計り知れない。

 『十傑』に名を連ねるという重圧が重なればそれは1人ではとても背負い切れるものではない。

 それでも彼女はここに座り、この都市を守っている。現存する中では最古参の英傑として『アスタリスク』を守り抜いてきた。


「槍を使ったとしても100%ではないが、それでも何とかなるか。あとはマリアと望月次第だな」


 どうか死ぬなよ、と小さく言って山積みの書類を片付け始めた。


  


   【アビスの森】



 双剣や刺突剣が森を駆ける。

 闘い方にもだいぶ慣れたのか、望月も2匹までなら何とか倒せるくらいには経験値を積んでいた。望月が対処しきれなかった魔獣はマリア=ステファニーが的確に撃退している。

 ある程度の数を片付けて一息ついた望月達はその場に座り休息を取っていた。


「魔水晶の単価ってどれくらいなんだ?」

「紫苑が倒した4匹の狼型の1匹が少し大きかったからね。今日紫苑が集めた分だと4日は贅沢できるくらいかな」

「あれだけ頑張って・・・いや4日も贅沢できるなら十分か。でも都市を賄うための資金はどうする?俺が言うのもなんだけど、これだけの数を倒して1人が4日贅沢出来たとしても都市を維持するならこの何億倍は必要だろ。クリスタやアリスが頑張ったとしても無理だろ」

「私達が都市を維持出来ているのはやっぱり『オーブ』から流れている魔力のおかげなんだよ。そして今もなお、都市を支えているのは《魔王》。その《魔王》を討伐した際に現れる魔水晶。その価値は魔獣とは比べ物にならない。それ1つあれば都市が半世紀は保てるくらいには魔力があるの」

「ってことは『アスタリスク』建設以降、最低でも6体の《魔王》を討伐したのか」

「そうだよ。中でも《灼炎の王》とクリスタ様、あとは『十傑』のアリスとナジェンダ様は複数の《魔王》を討伐した経歴を持った正真正銘の英傑だよ」


 それでも100%の勝率はありえないとアリス=スカーレットは言った。

 何度も《魔王》を討伐している彼らがそういうのはおそらく、《魔王》の実力差には個体差があるのだろう。


「《魔王》を倒すには何か条件が必要なのか?」

「うん。《魔王》は自分の力を存分に出すために『儀式場』を展開しなくちゃいけないの。私達はその『儀式場』を破壊して《魔王》の力を減退させるか、実力を持って《魔王》を討伐するかの2択があるの」

「その言い方だと『儀式場』も簡単に壊せないんだろ」

「そうなんだよ。《魔王》は力ずくで何とかなるけど『儀式場』は特定の条件をクリアしないといけないの。アリスがこういうの得意なんだけど私は全然でさ。《魔王》には討伐と撃退の2種類が存在するの。言わずもがな討伐は戦闘による打倒、撃退は『儀式場』を破壊することね。《魔王》と闘うには知力、武力、運が必要になってくる」


 《魔王》が絶大な力を持つことは分かった。その対処法も。

 だが知っているのと出来るのは別問題。

 たとえ望月の『右手』がどれだけ優れていようとも、効果範囲はその手だけ。

 『アスタリスク』に求められているのは、おそらく。


「そうか。だからクリスタは俺の事を騎士として迎え入れたんだな。《魔王》討伐ではなく、撃退要員の頭脳の1つとして」

「そうかもね。クリスタ様が騎士として迎え入れたんだから見初められるだけの何かを証明したんでしょ。自分を言い任せられるくらいの人じゃなきゃこんな風に外交を任せたりしないでしょ」


(そうだ。アイツは素性の知れない俺を保護し、任せて、生きる役割を与えてくれた)


 だったら。

 それなら。

 そして。

 望月は決めた。

 ―――せめてアイツの味方ではあろうと。

 たとえどれだけクリスタが世間から罵声を浴び、汚名を受け、濡れ衣を着せられ、悪役として非難されたとしても。

 望月は彼女の力になりたいと、心の底から思った。


「俺は多分、《魔王》に対してどれだけ力になれるか分からない。でもアイツとお前に救われたこの命を無駄には散らさない。今はまだ情けないかもしれない。でもいずれお前らを背中で守れるくらいにはなってやる。約束するよ。俺は『アスタリスク』で英傑の地位を手に入れ、お前らを絶対に守る」

「期待してるよ。紫苑」


 『アビスの森』をほどなく進むと、森を乗り越えるような高さの噴水の頭部分が見えてくる。

 頭から湧き出て下に落ちる水。


「見えたよ、あれが『聖水の都』だよ」


 森にも微かな湿気を感じる。おそらく噴水によって巻き上げられた水蒸気がここまで届いているのだろう。

 生きていく上で重要な水源。

 それをあれだけの建造物から組み上げ、そして流している技術。森による庇護だけの『翠宝の森』と比べるといくらか発展の差を感じざるをえない状態の望月。


「マリア、止まってくれ」

「何?」


 望月の制止を受け、森に腰を落として話す姿勢を取る。


「あっちの戦力を確認したいんだけど、領主以外に『十傑』クラスはいるか?」

「うーん。『十傑』はいなし、コミュニティは聞いたことないけど見張りはかなりの実力じゃないと危険だし。どの都市も《魔王》から生き残れるくらいの力は持ってるし、『聖水の都』は自給率なら『アスタリスク』でも群を抜いてる。クリス

タ様もこの水源があれば生活がかなり変わるって言ってたなぁ」

「たしかに」

「私達の『翠宝の森』みたいなのが珍しいんだけどね。他の都市ではいくつかのコミュニティが存在するの。その中で戦力が最も高いのが言わずもがな『紅玉の城』。『プロミネンス』、『インフェルノ』、『紅蓮隊』、『魔王討伐部隊』。屈指の戦闘力を誇る存在を多数抱え、《灼炎の王》という絶対的な領主がいる。『聖水の都』はコミュニティの数ほど少ないけど、戦闘力は結構ある方だと思うよ」

「ここの領主とクリスタとどっちが強い?」

「《雀泡の巫女》フローゼ様と《修羅姫》クリスタ様が闘ったことあれば優劣は決められるんだろうけど、」

「お前の意見でいい」

「そうだねぇ。うーん。長期戦にならなければクリスタ様かな。フローゼ様の準備が整えば勝負は分からないかもね」


 ということは、《雀泡の巫女》率いる戦力は持久力に優れている可能性が出てくる。そうでなければ長期戦という単語は出てこないだろう。


「俺達は時間稼ぎに回ったほうがいいのか?」

「私は《魔王》討伐に向かうよ。そのほうが楽そうだし、頭脳労働は紫苑の仕事。言ったでしょ。私は《魔王》への復讐のために生きてるって」

「・・・・・」


(どっか危ういな)


 人が安定を求める上で重要なのは心の安らぎ。

 環境がその要因で最も重要視される部分だろう。

 周囲の人、住む環境。

 人類みな平等などというのはありえない。

 多種多様、それこそ男女というだけでも平等ということはありえない。極端な話をすれば女性専用車両、レディーファースト、レディースデイなど女性を優先する言葉はあれど、男性を優先する言葉はなかなかない。

 利き手に関してもそうだ。右利きのほうが多いという理由だけで公共施設などの多くは右利きを優先で考えられている。駅の改札などを例にとれば想像がつくだろう。

 シェルショックという言葉がある。

 弾丸を引いた時の反動、そのブローバックで起きた衝撃のように心が壊れてしまう症状のことだ。今のマリア=ステファニーはそれに近い。ギリギリで彼女の心を繋ぎとめているのは『クリスタの恩義』。心の大半を占める『《魔王》への復讐心』が彼女の心を壊さないでいるのは本当に危ういバランスの上に成り立つ優しさ。例えどれだけ悪態をつかれた相手だったとしても見捨てられず助けてしまうほどの優しさが彼女の心の根底にあるからこそ、まだ壊れないでいる。彼女がいった『マリアの迷惑』がこういうことだ。

 彼女という精神的な柱が消える要因、それはおそらく《魔王》からの殺害。もし仮にそんな事態に陥ってしまえば本当に彼女は支えを失い、ただ復讐に駆られる化け物になる。

 それを見抜いていたからこそ、望月は彼女を挑発し、仲直りをすることで彼女にとってわずかにでも心に残る存在になった、

 ほんの少しでも彼女の心を繋ぎとめられる存在になるために。


「行くぞ」


 いまはまだこれでいい。

 さきほど治った関係の傷口を、再び開く必要はない。開くとしてもまだ時間を置いたほうがいいだろう。

 望月は自身の『右手』の限界を確かめながら森を抜けた。

 眼前に広がるのは巨大な塀。

 都市全体を覆っているであろうこの塀の大きさは60メートル程。


「―――危ないっ!」


『アビスの森』から抜けた望月達を阻むように聳え立っている塀の一角が四角く切り取られ、そこから矢が飛んでくる。

一瞬早く望月が気づき、マリア=ステファニーと共に前に倒れ、それをかわす。


(手荒い歓迎だな)


 切り取られた一角から狙撃手を確認した望月はマリア=ステファニーが驚いている状態でもお構いなく大木の影へと身を潜める。


「おい、クリスタから連絡が行ってるんじゃないのかよ」

「そのはずだけど、」


 連絡が届いていないとなれば、外交どころの話ではない。

 話の席につく前に、命を落とす可能性が出てくる。

 望月は塀に向かって大声を飛ばす。


「俺達は『翠宝の森』領主、クリスタからの使者だ。『聖水の都』領主、《雀泡の巫女》フローゼ様と外交の話をしに来た。どうか塀を開けてくれないか」

「名を名乗れ!」

「《麗翼》マリア=ステファニーと望月紫苑だ」


 望月達の名前を聞き、反応が消える。

 おそらくアポイントメントがあるかどうかの確認だろう。


(矢を放つ前にして来いよ)


 憤りを隠せない望月は反応が出るまでマリア=ステファニーを抱き寄せ、大木に身を隠す。


「多分、すぐに反応が返ってこないのはマリアの知名度があったからだ。マリアの名前がクリスタの側近である以上ここで殺したりでもしたらクリスタの反感をくう。『十傑』を2人も抱える都市にケンカを売るようなものだからな、迂闊には手を出せない。ネックがあるとすれば知名度のない俺のほうだ」


 今の望月がどれだけ優れた策略を巡らせようが、交渉の場に立てなければ意味がない。素性の知れない相手を受け入れるほど『聖水の都』も馬鹿ではない。《魔王》を警戒している以上、素性が知れない相手は不安要素でしかない。門前払いされても文句は言えない立場だ。


「マリア、下手するとお前1人で外交することになるかもしれない。だからその時は知恵を渡しておく」

「う、うん」

「どうした顔赤いぞ」

「そりゃそうだよ。男の子にこんな近くにいられたことないもん」

「あ、」


 我に返り、咄嗟に抱きしめていた手を開く。

 そんなラブコメの波動を発しているとさきほどの一角から声が返ってくる。


「入れ」


 短い言葉と共に塀の一部分の色が変わる。迷彩色で隠していたように門が出現し、重厚な音と響かせながら開く。

 重たい扉が開かれた瞬間、顔に飛びかかるように湿った空気が体を叩く。

 そして。


「「うわぉぉぉぉぉ!」」


 思わず感嘆の声が出てしまうほど、そこには目を奪われてしまった。都市の中心に構える巨大な噴水。そこから町に流れる水の線路。


(イギリスみたいだな)


 望月の指摘通り、水の線路にはゴンドラが流れ、橋が架かっている。

 建物は煉瓦を基調としたもの。


「マリア、領主がいるのは?」

「えっと、あの噴水の下くらいに『ウンディーネ城』があるはずだよ。ここはいわば城下町だからね。あの噴水は《魔王》討伐の戦利品、その魔力が水だったらか水源として活用できてるってわけ。もちろん雷属性の《魔王》を倒せばその恩恵の魔力を活用できるの。実際『紫雲の社』はそれで電気工学方面に発展してるからね。あそこの電化製品は10年は使えるって保証書がついてるくらいだし」

「それを戦闘に活かしたりはできないのか?《魔王》の魔力なんてアイテムがあれば」

「紫苑、それはダメだよ。たしかに魅力的だけど《魔王》の力を取り込むのは危険すぎる。魔水晶の彫金師が完全に安全に加工してようやく活用できる。・・・たしかに『十傑』でそれを行える方はいるけど、あれは本当に稀な例。オルカ様と『鳴守(なるかみ)』、《灼炎の王》と『双女神』みたいに《魔王》の力を取り込んだ人はいるよ。でも最終的な手段としてしか使えない。何でか分かる?」

「・・・・・」

「《魔王》の魔力を完全に制御できないからだよ。たしかに『十傑』は強い。でも単体で《魔王》に対抗するためには何かしらの手を講じなきゃいけない。それこそ命を削った闘い方も。それを繰り返していたら」

「《魔王》の魔力を完全に掌握できればいいんだな」


 あくまでも可能性の話。

 望月の脳裏にはいくつかの仮定の内容が浮かんでいた。魔力の器。それがもし人でなければ?たとえばアーティファクトに押し込む。だがこれはおそらくクリスタやアリスあたりが思いつく。

 これは銃のマガジンに弾を押し込む行為。

 これはドライヤーに必要以上に電気を注ぎ込む行為。

 大が小を兼ねる行為ではなく、大が小を押しつぶす。

 だとすれば人の身でそれを押しとどめるしかない。

 その人物が現れなかった。そして今からそれを行うには遅すぎ、そして『失ってもいい人物』などいないという博愛主義者の絆の賜物だろう。

 だとしたら。


(やめとくか。ここで俺がやるなんて言ったらマリアに引っ叩かれそうだし)


「ま、もしもの話だ」


 そう言って誤魔化す。

 所詮、望月は“ただの”人間。

 『天使』、『妖精』、『戦乙女』、『吸血鬼』などお伽噺の産物が犇めく中では、そんな存在は霞む。たとえどれだけ優れた『右手』を持っていたとしても、それは変わらない。たとえどれだけ努力を重ねたところでマリア=ステファニーのような速度と力が手に入るわけではない。

 自分の身の丈にあった行動を取るのが一番だ。


「クリスタからのアポが取ってあるか不安になってきたから、フローゼに一番近い奴を探そう。抱えてる騎士団とかはないのか?」

「気難しい人だからね。あまり側近がいる噂は聞かないけど、1人で都市を支えられないから参謀役を務める人がいるはず」


 都市を運営する上で重要な要素。

 人口。

 土地。

 資源。

 おおよそこの3つが大きな要素だろう。

 それを回すのは1人では到底不可能。気丈に振る舞っているクリスタでさえ、3人の騎士を側近に置き、なんとかやりくりしている状態だ。どれだけ優れた英傑であってもそれは変わらない。


「とりあえず城に向かってアポが取れてれば良し、もし届いてないなら届くまで観光でもしようぜ。俺は異世界なんてそうそう見れないところに来てんだ。色々見てみたい」

「随分と逞しいね。でもそうだね。一応は『六星の聖者』の支配下にいるからね。『アビスの森』なんかよりは数段腰を落とせると思うよ。私達の都市が木造建築物を主軸にした居住区を売りにしているように、ここは水源を活かしたものが名産品になってる。水は生きていく上で必需品だからね。水があれば当然だけど食料の生産率も高くなる」

「農業大国って感じか」


 望月が周囲を見渡すと、煉瓦の町並みには不釣り合いな田畑がチラホラと見受けられ、土やビニールハウス、スプリンクラーなどが目につく。


「『翠宝の森』と『聖水の都』は比較的に近い距離にあるけど、他の都市まではこの何十倍の距離があるからね。最初の遠征にここを選んだのは私としてもありがたいよ」

「俺もあれ以上だとマジで眠れなかったかもしれないし」

「アリスの結界があったから寝れたけど、あの子は放浪癖あるから」


(だからあの時、呑気にマリアも寝てたのか)


 否応なく心をときめかせる異世界。

 望月は今まで感じたことにない高揚感に胸を高鳴らせ、都市を散策する。


「宿探しと領主挨拶と観光どれからする?」

「観光って言いたいけど、挨拶が先だろ。心象くらい良くしとかないと外交であんまり良い方向に持っていけないかもだし。ちなみにマリアはどれくらいお金持ってる?」

「クリスタ様から資金は頂いてるから、観光くらいはできると思うよ」

「クリスタからの猶予とかあるか?」

「なるべく早く」


 外交の期間というのには、それこそピンキリ。

 題目、開催地、相手の都合、お互いの身分、賭けるモノの大きさ。

 その他多くのモノで牽制しあい、自分の利を多くすることを目指す。時に自損覚悟のモノもあるがそんなものは賄賂に等しく、敗戦国のやることだ。こちらから出向いたということは必然的に相手側の多少の有利な関係にはなるが、『十傑』2人を抱える『翠宝の森』

が戦力的には上。一応の対等が計れている今でしかこの交渉はありえない。

 あくまで協定という形を結ぶためだ。

 これはどちらかの力が上でも下でも成り立たない。

 足を引っ張る関係も、頭を下げるような関係でもあってはいけない。

 対等というスタンスでなければいけない。《魔王》という共通の認識を持っている以上、お互いに協力し合える関係でなくてはいけない。たとえそれが利害関係であったとしても、お互いを利用しあう関係だったとしても、そこだけでは違えてはならない。


「そんな綺麗事で話が進めばいいけどな」


 小さくため息を漏らす。

 所詮は絵空事。人が己の意志を持つのだから、食い違う意見、思想、理念がぶつかり合うのを覚悟しなくてはいけない。自分にとっての利益が相手にとっての損失になることなど五万とある。

 その中で妥協点を見つけ、わずか1%でも利益があればいい。

 それを相互にもたらそうとするのが外交には求められている。

 それに無事に外交が終わるとは限らない。

 最悪の場合を常に意識していなければならない。それが生きるための力になることを望月は知っている。


(普通は手土産でも持参するもんだけど、そういう文化はないみたいだし)


「城に行こうぜ。俺だけだと門前払いっぽいし、マリアの知名度がないと話すら厳しい」

「そうかもね。紫苑はまだ付き添いが必要だし、戦闘面でもまだまだ怖いからねぇ」

「俺は確かに心もとないかもしれないけど、いずれは追いつくさ」


 城に向かいながら観光がてら辺りを見る。

 様々な色の液体が入った小瓶を売っている出店。

 魔水晶をウォーターカッターで加工している彫金師。

 大道芸を見せるピエロ。

 栄えているというよりかは賑わっているという感じだ。


「やっぱり水関係はここが一番だね。ポーションの種類だってかなりの数あるし、水質管理も徹底してるから効力が高いんだよ。私もいくつか買ってこうかな」


 出店に目を爛々とさせながら品定めするマリア=ステファニー。

 様々な色の液体。おそらくそれによって効力は違うのだろうが、望月にはさっぱり分からない。

 どれも1000Gという値札が掛かっている。これが相場だろうか?


「おろ?」


 出店の端、そこには赤透明の液体が入った小瓶があり、そこには100万Gという一際高そうな値札が掛けられていた。


「不死鳥の涙?」

「あぁ、それは最近入ったレアアイテムでね。幻獣種のフェニックスの羽から生成されるポーションなんだが、ウチの領主様が寝ぼけて倒したらしくてな。それが回ってきたんだよ」

「そんなのもいるのか」

「幻獣種、神獣種、龍族種みたいな超強いモンスターが『アスタリスク』にはいてね。その鱗とか羽はかなりレアな武具の素材になったりするの。中でも『不死鳥の涙』は回復アイテムの中でもかなりの効果があるんだよ。アーティファクトが天然の武器だとしたら、アイテムが加工を前提とした武器ってところかな。昨日まで使ってたログハウスはここの木々の成長を促すポーションを使って『翠宝の森』の木をあらかじめ組んで乾燥。それを水で戻して大きくしたんだ」


 インスタントラーメンみたいな仕組みだったのか、あのログハウス。

 望月の知識と多少似通った部分はあるものの、魔力を基盤にした生活というのはやはり魅力的な部分がある。

 石油の枯渇からサトウキビなどに手を出していた望月の世界とは全く別の切り口を出し、第2の資源として活用できている魔力。だがそれは同時に人を《魔王》という脅威にさらす行為。生きるために《魔王》と闘うことが不可避な状態。


(そんな状態だからクリスタが動いてるんだよな)


 どちらの意見が正しいのかは分からない。

 だが死ぬかもしれない脅威に常に晒されながら生きていくことなどあってはいけない。


「交渉が上手くいけばお互いの発展になる。それを狙って行こう」

「自分が不利になる条件を飲む人なんていないもんね」


(マリアも馬鹿じゃないから下手なことは口走らないだろ)


 交渉ではたった一言が首を絞めることになる。口を滑らせ、それを上書きすることは許されない。それは上書きという嘘に嘘を被せることと一緒で突かれたら何もかも終わる。積木の一番下を抜かれるようなものだ。

 ほどなくして城の前に立つ。


「「・・・デッカ!」」


 近くで見上げた城。

 白塗りの煉瓦を纏ったその城は威圧感すら思わせる風貌。

 その外周を囲むコンクリートの壁。門すら見当たらない。


「また切り抜くパターンか?」

「それだけ用心深いってことでしょ。門番がいれば・・・いた」


 マリア=ステファニーがある地点を指差す。

 巨大な噴水の頂点。

 そこに確かに人影がある。足をブラブラと揺らし、空を眺めて寝転がっている影。


「あれが門番か?」


 言外で門番の意味分かってるのか?と呆れ顔を向ける望月。


「ううん。あの方がフローゼ様だよ」

「・・・うん?」


 反応が遅れた望月。

 いかに領主といえどもあそこまで自由でいいのか?という疑問と、何であんなところに?という疑問と、その他諸々の疑問が頭を巡る。


「・・・?」


 望月達の視線を感じ取ったのか、上空の人影に頭らしきものが重なる。


「―――ッ!」


 そしてそれを感じ取った瞬間、上空から巨大な水塊が落ちてくる。

 望月は咄嗟に左足を後ろに下げ、拳を構える。


「マリア、ちょっと下がってろ」

「え?」


 望月の拳が微かに光る。

 その『右手』を振りかぶった勢いを使ってアッパーの要領で水塊に叩きつける。

 水圧、重力。

 この2つが合わさった重さは普通に考えても、拳なんて突きだしたら骨が砕ける。

 だが望月の『右手』は水塊に触れた瞬間、水塊を飴細工のように霧に変えた。


「紫苑、それなに?」

「とっておきの交渉材料だよ。アリスの魔法弾を壊せたこの『右手』を証明できればかなり有利になる」


 訝しげな表情を見せるマリア=ステファニー。

 それを気にし、望月が声を掛けようとした瞬間、彼らの間に1人の幼女が現れた。


「あなた誰?」

「望月紫苑だ。お初にお目にかかるぜフローゼ様」

「わたしのオモチャになる人?」


(・・・おっと、突然何を言い始めたこの幼女)


 水色の髪をツインテールで垂らすフローゼ。

 着物を着ているクリスタとは対照的に、フローゼが纏っているのはアオザイ。太腿あたりかスリットが入ったもの。機動面を重視した衣服として用いられることもある立派な戦闘服だ。


「単刀直入に言う。『翠宝の森』と『聖水の都』で同盟を組みたい」

「良いよ」

「交渉の場を設け・・・ん?」

「だから良いよ」


 呆気ない展開だった。

 いくつもの手順や交渉材料、相手の都市に対する抜け目、負い目。交渉に使えるモノを少ないながら効果的に提示する順番まで考えていた望月にとっては、それは嬉しい提案であった。

 だが。


「でも、フーちゃんの都市が1番ね」


 都市を統括する領主の攻略がそんなに簡単なわけがなかった。

 望月は微かに笑み、そしてこう告げた。


「あぁ。その案でもいい。でもな、ただで一番をやるつもりはない。だからちょっと『遊び(しょうぶ)』をしようぜ」

「良いね、そうこなくっちゃ。2人ともおいで」


 フローゼもその言葉に口角を上げる。




   【ウンディーネ城】



「ちょっと!何やってるのよ」


 フローゼが外交の場を用意している間に設けられた客間。

 そこには飲み物を啜りながらクッキーを摘まむ望月を言及するマリア=ステファニ―がいた。


「せっかく交渉しなくても収まりそうだったのに、わざわざ」

「馬鹿言ってんな。フローゼって奴、ああ見えてヤバいぞ」

「え?」

「クリスタが言ってたろ。フローゼは『妾を含めた9人の顔しか覚えていない』と。これを聞いてどう思った?」

「あれだけ幼い『十傑』だから人を覚えるのが苦手なのかもしれないって思ったけど」

「そこじゃない。あいつの言った『9人』って誰だと思う?」

「・・・もしかして『十傑』?」

「そうだ。多分フローゼは『十傑』以外を覚えていない。だから最初に俺達に名を訪ねたんだよ。すると、おかしな点があるだろ」

「おかしな点?」

「フローゼは『十傑』以外を覚えらえていないのだとしたら、俺の名前を聞いただけじゃ納得いかないだろ。俺は『翠宝の森』と関係があるとも、クリスタの騎士とも言っていない。そして何より―――お前の名前を尋ねてないのに城に招いている」


 《魔王》の脅威に晒されているなかで『正体不明』の人物を領主の拠点に招くなどありえない。それは先日のクリスタとの質疑応答でも分かる。

 だからこそ、フローゼの認知の外、『十傑』以外の人物の安全を確かめずに2人も『正体不明』を招いたことになる。


「クリスタとフローゼの力の差は長期戦になればフローゼに軍配が上がるかもしれないんだろ?相手の力量も分からず、能力も分からない相手にスロースターターじゃ話にならない。どう考えても快楽の次元を超えてる。何かあるぞ」


 マリア=ステファニーは思わず言葉を詰まらせた。

 自分と同じくらいの歳の少年の着眼点が異常であることに。

 自分が主とするクリスタが認めたその頭脳。それがあれば確かに外交を上手く進めることが出来るかもしれない。そしてその少年が異常なのは頭脳だけではない。先程の水塊を霧散させた特異な『右手』。マリア=ステファニーが知る中で魔術を飛散させるアーティファクトは存在しない。この少年は自分達とは違う『何か』であることは間違いないという確信を得た。


「あいつが俺に名前を尋ねたってことは、少なからず興味は持たれてる。交渉の場に立てるだけでもラッキーだ。それにこの外交。力比べはほぼない」

「どういうこと?」

「あいつが興味を向けた部分は俺があいつの『水塊を霧散させた』ことだ。それがどういう方法で行われたのかは分かっていない。そもそも『右手』で行ったかすら分かっていない。それでも水塊を撃った。つまりいま現在、『聖水の都』では何かが起こってる。それもかなり困窮な問題だ」

「でも『十傑』が本気を出せば」

「じゃあどうして出さなかった?」


 望月の問い。

 それはこの交渉において鍵になる部分。


「それをこれから解き明かす。俺の推測が正しければ、かなりヤバい状況だ」

「え?」


 問題が解決せず、呆気に取られているマリア=ステファニー。

 しかし無情にもドアが開けられ、そこには満面の笑みを浮かべたフローゼがいた。


「さぁ、遊びましょ。望月紫苑。都市を賭けた交渉を」

「あぁ、遊ぼうぜ」


 運命の歯車は回りだす。



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