【Episode1 証を持つ者】 妖精演舞(フェアリーダンス)①
「どうしてこうなった?」
最後に記憶にあるのは封筒を開けた瞬間だった。
瞬き一つ。
それを終えると望月紫苑の目の前の景色は変わっていた。
辺りを流れる澄んだ川。
青々と生い茂る木々。
そして、そんな美しい森に似つかわしくない獣。口元からだらしなく涎を垂らし、目を血走らせ間違いなく自分に狙いを定めている。
身の危険を即座に感じ取った望月は震える足に活を入れその場から走り去る。
しかしそれがマズかったのかもしれない。
得たいの知れない獣は逃げる者を追いかける習性でも持っているのか、逃げる望月を追いかける。まるで数日餌を与えられず、ようやく見つけた獲物を追いかけるように。
みるみると距離は縮まり、最初に稼いだアドバンテージも底を尽きかけている。
「やるしかないか」
望月は逃げるという選択肢を捨て、獣に向き合う。
獣は肥大化した猪に、見事な一本角が生えた容姿。このまま突撃されれば角に貫かれることほ必至。
手近に落ちていた砂利を掴み、投げつける。
この程度ではただの目眩まし。突進の速度を遅らせたりできるわけではない。だが視界をわずかでも遮ったということは相手に自分の位置を捉えさせないのと同じ。視界的優位にたった望月は持っていた砂利を獣の着地しようとしている足元に投げつける。一瞬よろめく獣。そこに間髪いれず足払いを入れて体勢を崩し、横転させた。
稼げる数秒間の間に望月は一心不乱に走り出す。
少しでも距離を空け、考えを練るだめだ。
そこで望月の顔から焦りが吹き出す。
獣一体に気をとられていたせいか、近づいてくる数十体に気づかなかった。
(殴り合いなんかしてたらやられるな。下手に動けば蜂の巣だし)
あえて隙を作り、同士討ちでも狙うか?と考える望月の目の前にふわりと少女が降りた。
「大丈夫?」
「あ、あぁ」
「よかった。・・・見ない顔ね」
「俺も聞きたいことがあるけど、ここを抜けた後にしないか」
「それもそうね」
少女は腰に挿していた刺突剣のを抜き、獣に向き直る。
そして。
「行くよ」
彼女の背中に4枚の羽が生えたと思った瞬間、獣が望月と少女を中心に弾き飛ばされた。
その光景に呆然としている望月の腕を少女が強引につれさった。