2校トーナメント戦⑥
自分に自信を持て。そうすれば、自ずと結果は付いてくる。
メイから言われてきた言葉だ。
もし今日、メイの仕事がなかったら俺の試合をどこかで見てくれているはずだ。絶対に恥じはかけない。
だが、
「では、これより校内代表の部2回戦。国上、佐和弘毅 対 羽愞、古谷楓守の2校トーナメント戦最終試合を始めます。準備は良いですか?」
俺の眼前には、あの日シズとショッピングモールに行ったときに出会った、国上中等特別教育学校。高等部3年の、大男が立っていた。
あの時より、圧力感がすごく大きい。
肩に理不尽な重力がかかって、地面に伏せさせようとしてきているみたいだ。
圧迫感を感じて、息が詰まる。
「では、始めます。3・2・1始め!!」
佐和が、まるで牛を思わせるかのような突進で、こちらに迫ってくる。
受け止めるか、避けるか。2択だ、どうする。
俺は。
「受ける!」
全身活性化を使い、後退しながらも勢いを殺す。
俺が受け止める方を選んだ理由は、相手の力を確かめるためだ。
まだ俺は、佐和の力量を把握していない。その時点で、攻撃を避けて反撃するのは、リスクがあると考えたからだ。
しかし、俺がとった方法も愚策だったようだ。
今の感じだと、まだ相手は能力を使っていない。まさに、バケモノだ。
佐和は、突進を止めて後ろに下がる。
「お前、確か山口の奴と一緒に居た弱そうなガキだよな。よく校内代表の部に出られたな。この雰囲気知りたさに、賄賂でも使ったのか?」
「実力ですよ。そんな甘い舞台じゃないってことは、知ってますよね」
いちいち言い方が腹立つ。賄賂とかする訳ないし! マジで腹立つわ。
「生意気な野郎だ。観客には申し訳ないが、羽愞に勝利はなさそうだな。終わらせる。全身進化!!」
佐和から黄色い覇気が溢れ出す。
何だよあれ、もう人間じゃない・・・・!
佐和の筋肉はさらに膨張して、パンッパンに張る。制服のボタンが1、2個外れる。
「ウォォォー!! 行けぇぇ!!」
国上側のオーディエンスは、これを待っていたのか、一斉に沸く。
会場的にも、アウェイ状態か・・・・。
「楓守ー!!」「楓守君ー!!」「ふうま~」
えっ? みんなの声?
声のした方向に顔を向けると、そのには観客席を乗り出すような恰好をしている仲間の姿があった。
みんな・・・・!
「楓守には、他の能力があるでしょ!!」
!!
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。誰かに脳を搔き乱されている。
俺はどうなるんだ?
無慈悲に俺の脳は、誰かに搔き乱される。
「ここはどこだ?」
先ほどまで見ていた視界が180度一変したかのように、変化する。
眼の前に広がってるのは、ただただ先の見えない白い空間。見る者によっては、虚空を感じるだろう。
俺は無意識に、手を伸ばしてしまう。
「真の力を汝は欲するか?」
「誰だ!?」
真後ろから、不意に声が聞こえたので、身体が勝手に反応する。
素早く振り返った先には、神を想像させる大きな女性が浮いていた。
髪は薄い青で、眼は濃い青色をしている。一言で表すと、美人だ。
「妾の名はルデア。汝を支配する神だ」
ルデア? 何かどこかで聞いたことがあるような・・・・・あっ!
国上との合同訓練の時に、シズが言ってた。有名な神話に出てくるルデア様に似てるって。
けど、けどだ。まだ信じることはできない。
「証明することはできるのか?」
「愚問だ。今まさに、この世界を構築したのは妾だ。それでも信じられぬか?」
確かに、世界を構築するって言ったら、神にしかできないよな・・・。
あと、空中に浮遊してるしな・・・。
「分かった、信じる。それで、俺をどうするつもりなんだ」
「妾は、汝に真の力を与えるだけだ」
「真の力?」
何を言っているんだ、この神は?
まったく話の先が見えない。
「真の力、それは能力の『コピー』だ」
「えぇ!? そんなのがあっていいのか?」
能力のコピーとかチートじゃん。理不尽すぎる。
「それが汝の真の能力だ。存分に使ってくれ」
「えっ!? ちょっと待って───」
視界が反転する。
ここは、2校トーナメント戦の会場。
「今まで汝が見てきた能力の名前を言ってみろ。さすれば、能力が発動するだろう」
ルデアの声が、かすかに聞こえる。
本当に発動するのか?
「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!!」
ヤバい!
佐和が跳躍して、こっちに向かってる。
何を使えばいい?
・・・・・・これで行こう!
「ハイド!」
半信半疑だが、能力の名前を叫んでみる。
すると、佐和は相手を見失ったかのように、周りをきょろきょろし始めた。
これは、発動しているってことだよな。
これで、形勢逆転だ!
(届いたんだね。良かった。楓守、頑張れ!)
「鬼人化!」
ハイドが解除される。
佐和の背後をとって、鬼人化の蹴りをお見舞いする。
もしかしたらって思ってたけど、能力の多重発動は無理みたいだな。
国上側のオーディエンスが、唖然とする。
それを見た羽愞のオーディエンスは、大声で応援を始めた。
「楓守!!楓守!!楓守!!楓守!!」
応援の仕方に癖がありすぎだろ。
何時しか、羽愞側の全員が楓守コールを始めた。
「まだまだこれからだ!!」
鬼人化の蹴りのダメージを喰らっても、まだ佐和は動けるようだ。
さすがは校内代表の部に選ばれるほどの実力者だ。
だけど、
「天走!」
勝ちは絶対に譲れない。
メイの能力である『天走』を発動して、一瞬にして背後に回り込む。
「ここで終わらせてもらいます」
右手の拳に、活性化を集中してかけて、空中に振り上げる。。
「やめろぉ! ギブだ!ギブアップだ!!」
「・・・・・・・・ウォォォォォォーーー!!!」
少しの沈黙の後、羽愞オーディエンスが雄叫びや、喜びの声を上げる。
勝ったのか・・・・・。
はぁー。ルデア、ありがとう。
(それが汝の真の能力だ。今後は、しっかりと使ってくれ)
ルデアは命の恩人だな。
「第37回、2校トーナメント戦! 羽愞の勝利です!!」
肩の荷が下りたのか、身体がとてもだるい。
「古谷ーー!!!」
なっ、何だこの声は!?
嫌な予感しかしないんだが・・・・。
ゆっくりと首を90度右に回すと、そこには猛スピードで両手を広げて、こちらに走ってくるミク先生の姿があった。
「誰か助けてーー!!」
俺はメイの『天走』を使って、猛ダッシュで逃げた。
せめて感動のシーンは、チームの仲間と一緒が良かったな。
「古谷ーーー!」
「きゃーー!! 誰かーー!! 誰でもいいから!!」
そんな、担任の先生が自分の生徒を走って追う図を、チーム『フォアフロント』の女子4人は、笑いながら高みの見物をしていた。




