桜柄の栞ー記憶に挟めた私達の栞ー
開いてもらいありがとうございます。
ゆっくりしていってください。
私は教師の声を聞き流していた。
らしくもない頬杖を机にかき、教室から曇りない空に舞う桜を眺め、思いふける。
2年生になって転校してきた男子が気になっていた。
昔……私が小学生の頃に出会ったことがあった男の子と似ていたから。
その子の名前も聞けなかったから正確には分からない。
それでも何処か心の中で、あの時の男の子であってほしいと思った。
「……よし、それじゃ部活の無い奴は気をつけて帰れよ〜」
そんな事を考えていたらホームルームが終わった。
みんなは教師の言葉を聞き、それぞれ雑談と共に教室を後にした。
人が減って行く中、私は本を取り出してその本の最初のページに挟んでいた物を抜き取った。
それは一枚のピンク色の桜が書かれた栞。
(本当にあの時の、男の子なのかな……)
口には出さず、心の中で呟いた。
そして私は小さな溜息を吐きながら、栞を気持ちの裏と表を何度も確認するように指を動かし、それをボンヤリと眺めた。
あの時の気持ち、今の気持ち……そんな複雑な心境のまま。
私は何も考えず栞を置いて立ち上がって、バッグと本を持って教室を後にする。
(聞きたい……けど、違かったら……)
教室を出て、肩にかけたバッグが重く感じる様な気持ちで下を向き1人廊下を歩く。
そんな私を気にしないかのように、周りから色々な声が聞こえてくる。
部活やこれから何処に行くなどの話。
ふと、今日は私が図書室の受付する日だということを思い出した。
行っていつもの様に本を読んで過ごそう――
今思えば昔、彼と出会えた事自体が奇跡なんだと思う。
私は今と変わらない暗い性格。
友達も出来ず、1人孤立していた。
イジメは男女問わず私に向かってきた。
――いつもくらいし、キモい
一部ではあるけれど、罵倒には違いない。
私は3年生になる頃には……。
学校が嫌いになった。
行くだけでも周りから遠ざかれ、すれ違えば隠す気もない陰口を言われた。
私は嫌気を指してある日、学校をサボった。
誰もいない近くの公園でブランコに座ってた。
私は独りがいいのに、独りじゃ嫌なのに……。
冷たい風の様に寂しくて――
泣いた。
周りには誰もいないのに、助けを求めるように私は声を出して泣いた。
空は青く、光が私を照らしていたのに……凄く冷たかった。
――だいじょうぶ?
そんな私に話かけてくれる子がいた。
男の子は心配そうな声で、暖かい声で……私にそう聞いた。
それでも私は泣き止めなかった。
どうせ私の事を知ったら遠ざかれると思ったから。
その時、頭に暖かな何かが乗った。
それは、手だった……私じゃない、その男の子の手だった。
――こうするとね、安心するんだって
男の子はそう言って私の頭を撫でてくれた。
私はその温もりに甘えた。
それがその男の子との最初の出会いだった。
あの時の記憶は鮮明に覚えてる。
今も使っている栞は、男の子から貰ったもの。
どういう理由かは分からないけどーー
(また出会える様に、だったらいいな……)
私は次の日探したけど、その男の子は見つからなかった。
最初は裏切られたなんて思ったけど。
男の子にまた会いたい思いで、今まで頑張ることができた。
思いふけっていると、歩く足はあっという間に図書室へついてしまった。
私のこの気持ちは今はまだよく分からないけど。
転校生の彼を見た時に起きた。
この胸の高まりは……一緒だった。
(運命なんて信じないけど……それでも嬉しいな)
胸に手を当て、心の中でそう呟いて。
図書館の扉を開けた。
開けた瞬間誰かが飛び出してくる。
それを避けると、その人は勢いのまま床に倒れ込んだ。
「……何してるの?」
私は倒れている人に声をかける。
でも私は誰なのか知っている……友達の衣里だ。
衣里は何事も無かったように立ち上がり、私に抗議するように頬を膨らませた。
「避けるなんて酷い! でも、今日は遅いね」
「……私じゃなかったらどうしてたの?」
首を傾げて私に問うけれど、それ以前に他の人ぶつかったら大変。
「大丈夫、気配で分かるから」
何故そこまで誇らしげなのか、満面の笑みで私に言ってきた。
中学生からの付き合いで、同じ高校志望だったため今まで仲良くしてる。
衣里は私の方を見て訝しげに見てきた。
どうしたんだろう?
衣里は何か確信めいた様に、いきなり声をだす。
「郁、恋の感じがするよ!」
(えぇぇ!?)
声には出さなかったけど、恋ってあれだよね? その……本とかにある。
でも、衣里の感はよく当たるけど……恋?
その言葉を聞いた時……仄かに燃えるような熱を感じた。
胸に手を当てて、目を閉じる。
感じる、だけれど分からない……それは初めてで。
(暖かい……)
「ほら、中に入るよ」
じっくり聞かせてもらうからね、と衣里は私の背中を押しながら図書室へ入る。
私は押されながらも、多分恋をするとしたらあの人だと理解する。
それから、受付をしている間も衣里の質問攻めを受けた。
元から人が少ない場所の為、はしゃぐ衣里の声が響いている。
周りはいつもの事なのか、気にせずそれぞれ本を読んでいるか勉強をしている。
「ふーん、それでその男の子があの転校生ね」
(衣里とは別なクラスだから、接点は無いと思うけど……)
すると、図書室の扉が開かれる。
足音はこちらに迷わず歩いてきて、私に何かを見せてきて言う。
「忘れ物、先生が届けてくれって」
「あ……ありが……」
それは私が教室に置いてきた栞だった。
お礼を言おうと顔を見る。
渡しに来てくれた人は、転校生の黒橋凌斗さんだった。
お礼言うのも止めてしまう程、びっくりしたけれど嬉しかった。
この栞は手元に持っていたかったし……届けてくれたから。
すると彼は、笑顔で言う。
「どういたしまして、大切な物みたいだからね」
「その……はい」
答えると同時に、助け舟である衣里の姿を探すと……。
本棚がある少し遠い場所でこっちに手を振っていた。
自分でどうにかしろってこと?
「似たような栞を昔、僕も持っていたけど……あげちゃったんだよね」
(それって……!)
私は声を出そうとしたけれど、出なかった。
それは私の事だと、あの時の私だと。
だけれど、怖かった……答えたい以上に、どう思っているのかを。
そんな人じゃないと思いたい、けど怖い。
結局受け取るだけで、何も言えなかった。
私は誰にも臆病で、嫌われるのがいやだった。
「それじゃ、僕はこれで」
「あ、あの!」
「ん? どうしたの」
今は言えなくても、また出会えたのだから。
この気持ちが違っても、彼が何も思って無くても。
私は彼と話をしたい。
「私、よくここにいます……よかったら来て……ください」
「うん、僕も本は好きだから寄らせてもらうよ」
そう私に向き直って答えた。
椅子に座ってたのに、無意識に立ち上がっていた。
安心と共に胸に手を置いて深呼吸し、椅子に座り直す。
そして彼は「それじゃまた」と言って図書室を後にした。
彼が去った後も心臓のバクバクが収まらなかった。
そんな私を知らず、衣里が小走りにやってきた。
衣里に何か喋りかけられていたけど。
私は彼から受け取った、栞を触れ。
彼とのやり取りを思い出すのに頭がいっぱいだった。
□◆□
明日になって、早めに出てきた登校道中。
少し寄り道をして、昔いた公園に寄った。
ここはあの時と変わっていなくて、今の私には小さすぎる。
でも、思い出は大きかった。
彼どんな理由でいなくなったんだろうか。
「ふぇぇ~!」
子供の泣き声が聞こえてきた。
私は周りを見渡し、子供を探す。
滑り台の影になっている場所で泣いてる女の子がいた。
私は近づいて、子供の目の前でしゃがむ。
「どうしたの?」
「おかあさん~!」
声をかけても子供泣き出してしまう。
状況は違うけれど昔の自分に似ていて、私は女の子の頭を撫でた。
すると女の子は私の存在に気がついた様に、瞳をこちらに向けてきた
その時の私は多分、笑顔だったと思う。
女の子は私を見ながらも、撫でられ続けた。
「私もお母さん探すの手伝うよ」
「おねえちゃん……」
お姉ちゃんなんて言われたの、初めて……。
私は立ち上がって、女の子の手を引こうとするが動こうとしない。
こんな時間にここにいるって言うことは、何かあったのかな?
私はしゃがみ、女の子の目を見て聞く。
「何かあったの?」
「おかあさんにひどいこと、いったの……だいきらいって」
それで外に出てきたんだ……戻ろうとしても、嫌われてるとか思ったのかな。
私は……また、優しく女の子の頭を撫でた。
そして私は、優しく呟く。
「なら、謝らないと……私も手伝うから、お母さんだって分かってくれる」
「でも……」
すると、遠くから女性の声が聞こえてきた。
――愛奈~!
その声は切羽詰ったように、心配で叫んでいる様だった。
私は女の子に向かって「さ、行こう?」と言うと。
女の子は涙を拭いて、うん……と頷いた。
私達は外に出ると、そこには走り回っている女性の姿があった。
「おかあさん~!」
「愛奈!」
女の子は小さい体で私の手を引きながら、お母さんの方へと走っていく。
それに私は付いていく。
お母さんと呼ばれた人は、私に向かって一礼した。
女の子はその人に向かって凄く、怖がった表情をして言い出せずにいた。
それを私は背中を押すように女の子を撫でる。
「がんばろ?」
「おねえちゃん……うん」
女の子は罰の悪そうにしつつも、お母さんに向かって言う。
ごめんなさい、それだけを言うために。
親子はその後、互いに謝って仲直りしたようで。
私に女の子は笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
お母さんの方も私にお礼を言い、女の子と一緒に家に帰っていった。
親子を見送り、ハッとなって携帯の時間を確認する。
登校時間には余裕があってホッとする。
(昔の私も……)
そんな事を考えつつも、私は学校へと歩いていく。
学校に着いて、靴箱で上履きにはき替えていると。
私の隣に誰かがやってくる。
「おはよう」
「あ……おは、よう……」
隣に上履きにはき替えながら、挨拶してきたのは凌斗さんだった。
突然の出来事に私は困惑しつつも、挨拶を返す。
教室に向かって歩く間、無言だった。
何を話していいかも分からず、彼の横で一緒に歩くだけ。
チラチラと彼を見ていると、こちらに振り向いて。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「え、あ……私の名前は郁です……高花郁」
いい名前だね、そう言って私に笑い正面に向き直った。
上にあがる階段を登りながら、彼は話だす。
「昔、君に似たような子にあった気がする」
その子は今はどうしているか分からないけどね、と呟いて。
私はその言葉を聞き、心臓が飛び跳ねる程、ドキドキした。
何故そんな話をしたのか分からない。
でも今はそんな事は関係ない。
彼の方を見ると少し寂しそうな顔をしていて、再び語るように呟く。
「その子は、泣いてたんだ……」
「……」
最後には泣き止んでくれたけれど……僕は後悔してる事があるんだ、と言う。
私は彼の言葉を黙って聞く。
それは自分の事をどう思っているのか、何故後悔しているのか。
勇気の無い私にとっては、声をかける事も出来ない。
「最後にまたね……と言ったのに」
途中まで言って、彼は言葉を切った。
そして私の方を向くと「教室に着いたよ」と言って、逃げる様に彼は先に入っていった。
私もそれに続き、次に言おうとした言葉が気になってしまった。
それでも、私の事を覚えていてくれた事が嬉しかった。
席に座ると、教師が来るまで時間があるを携帯で確認する。
すると、放課後と同じように栞を挟んだ本を取り出した。
授業が身に入らなかった。
時間があっという間に過ぎて、昼休みになっていた。
私は立ち上がって周りを見渡すと……彼は一足先に教室を出ていた。
誰かと昼食を取りにいったのだろうか。
すると、私の周りにクラスの女子生徒がこちらに集まってくる。
(どうしたんだろう……凄く怖い表情をしてるけど)
そう私に近づいてきた3人の女子生徒は睨みつけるように私を見ていた。
何故か私を囲み、何かを喋りかけてくるけれど理解が出来ない。
私にかけてくる言葉は、酷い罵倒だった。
貴女じゃ彼と釣り合わない、近寄るな、キモいなどの言葉。
その言葉はまるで小学生の頃に戻されたよう脳内に響き渡る。
私は必死に手で耳を塞いでしまう。
(怖い……怖いよ……)
「郁~お昼行こう……て、何やってるの!」
衣里が私をお昼に誘おうとしてやってきた。
私の状況を見た瞬間に、3人の中に入ってきた。
3人は舌打ちをして、離れていく。
衣里は私の方を見て、溜息を付いて言う。
「面倒な人達に目を付けられちゃったね……大丈夫?」
「う、うん……」
小学生の頃、体験した事と似たような出来事。
もし、衣里が来てくれなかったら……あの時と同じ様に……。
そんな私に笑顔向けてくれる衣里は私のカバンと腕を掴んで歩きだす。
図書室のテーブルは飲食が許されているので、そこで食べる事にしている。
本を読みながらは禁止されてるけどね。
「ねぇ郁」
「ど、どうしたの……?」
私は食事をする時も、手が震えていた。
今まで乗り切れたというのに、無意識に震えてしまっていた。
そんな私を見て、衣里がこちらに優しい声で名前を呼ぶ。
そして、衣里は私の震える手を握って「大丈夫、私に任せて」と笑顔でそう言った。
私はそれだけで……震えが止まった。
あの時欲しかった、温もり……彼と同じ様な声で。
「ありがとう」
私はそう言った。
衣里は続けて、いたずらの笑みを浮かべて。
「報酬は彼に自分の気持ち伝えてからもらうね」
(えぇぇ~!)
その一言で、私は握られていない片方の手の箸を落としてしまった。
昼休みを終えて、授業を何時もの様にこなして放課後。
集中はできなかったけど、大丈夫……だと思う。
私はさっきの人達が怖くない訳じゃない、けど。
それでも、衣里が応援してくれているから。
自分の気持ちに素直になってみたいから。
(彼と話して、その上で気持ちを伝えたい)
私は立ち上がって彼に近づこうと思った。
周りから視線が飛んでくる。
すぐに動かせずにいると、誰かがこちらに近づいてくる。
私はその人に声をかける。
「そ、その……」
「高花さん、昨日の事だけど読みたい本探すの手伝ってもらっていいかな?」
「え? あ、はい……私でよろしければ」
少し声を出した私に話かけてきたのは彼で、用事は昨日の事。
私は戸惑ったが、名前を覚えてもらった事と頼ってくれるのが嬉しかった。
周りの視線はなくならない、けれど。
衣里、私は頑張るよ……。
カバンを持って私はそう決意を込めて、教室を凌斗さんと一緒に図書室へと並んで歩いて行く。
途中は彼と言葉少なく話をしていた。
話しをしてくれる事が嬉しくて、終始ドキドキをしていた。
図書室に着いたのも気づかないくらいに、彼のバカやった事などの話。
それに私は、笑ったりした。
オススメの本を探したり、一緒にどういう本が気に入ったとかを話をした。
□◆◆
あれから数日。
彼と友達同士の様な距離で話すようになって。
今日もどんな話をしようかと、早めに出た日。
朝少し浮かれた気分の私は靴箱を見て、驚愕した。
それは、嫌がらせ。
靴箱に上履きは入っている……ただ、それはボロボロになったもの。
上履きはズタズタに切られ、キレイな所は落書きがびっしり書いてあった。
こうなる事は知っていた。
昔にも似たような経験をした、私は自分に言い聞かせるように深呼吸と共に心のなかに呟く。
(大丈夫……大丈夫だから)
どうしようか考えていると、奥から衣里が走ってくる。
周りの生徒も何事かと見るほどの勢いで。
「郁~今日は早……」
木の板がある小さな段差につまずいて転んじゃったけど、私に何か用事があるのは確か……かな?
顔から木の板に叩きつけられた状態。
そして何事も無かったように立ち上がる。
衣里は自分のカバンをあさって、中から袋を取り出した。
「はい、昨日の内に入れ替えておいて正解だったよ」
その中に入っていたのは、私の上履きだった。
私は衣里に聞こうとしたけれど、何かを誤魔化すように「ほらほら、先行って」と背中を押されてしまった。
クラスは違うけど、何時もだったら途中まで行くのに。
そんな疑問を残しつつ私は、教室へ歩いて行く。
教室に着いた私は、先に来ていた凌斗さんに挨拶をする。
すると「おはよう」と返事が帰ってきた。
席に着いて私は、机の中に1つの手紙を見つける。
何があるかも気にせず手紙を開く……そこには。
『昼休み、屋上へ来い』
誰かは分からないけど、行かないといけないと思った。
午前の授業が終わり、昼休みに入る時……ふと思ったことがあった。
何時も来ている衣里が、数日ここに来てない事に。
それと、何か関係あるのだろうか。
(もしかして、少し前も……)
何時もいた衣里の姿が見えなかった事が多かった。
気になって、私はカバンを持って教室を飛び出す。
普段は出ることが禁止されている屋上。
そこに1人の男子生徒……それは凌斗さんだった。
こっちに気づくと、何時もの優しい笑顔では無く。
何かを見極めようとする様な鋭い目つきになっていた。
(私は……)
何を知らないというの?
凌斗さんは近くに腰を下ろすと、溜息を付いて何時もの表情に戻った。
私はそれを確認すると、その横に腰を下ろす。
「ごめん、怖かった?」
「う、ううん……」
それを彼は確認して、小さく謝った。
彼は本題の事に付いて語りだす。
「急に呼び出したのは、君の隣にいた彼女の事」
それは私が聞きたかった事だった。
私は静かに続きを待つ。
「君のイジメを必死に隠している、姿を見てしまったんだ」
見るつもりは無かった……けど、クラスで知らないのは君だけかもしれない、と呟く。
今日が初めてじゃないの? と聞きたかった。
私は驚きで声が出なかった。
「やっぱり、知らなかったんだ」
「うん……」
「彼女は君に傷ついてほしくないのかもね」
私は叫びたかった。
それだけじゃない、もう1つの理由があって私に協力してくれている事を。
でも、怖い……この場で喋ってしまって、拒否されることが。
私は首を振る……。
今言わないで、何時言うんだという風に。
「それだけじゃない……」
「それは……?」
恋なんて物は分からない……だけれど、この気持ちは。
2人で話して確信に変わったんだ。
衣里が頑張って繋げていてくれたこの、時間。
私は……。
「んっ」
私は彼に向かってキスをしていた。
彼は驚いた表情でこちらを見ていた。
そして私は唇を離して……言う。
「凌斗さん……貴方の事が好きです……あの栞をもらったあの時から」
衣里が繋げたくれた時間。
私は精一杯の勇気で、彼に告白をした。
目を強く閉じて、この後どんな返事でも受け入れようと思った。
彼は笑った様な声を出して……。
私の体を抱きしめて、キスをしてくれた。
私はそれに驚いて、目を開けた。
「あの子だったのは驚いた……けど、僕は一緒に過ごしていく内に」
唇を離して、触れ合いそうな距離。
私の目を見ながら彼は呟く。
「あの子であったらいいなと思うようになった」
後悔もあったけど……それでも君に会いたかった。
そう彼は言った。
昼休みは、2人照れあいながらも……食事をした。
内容は昔の事やどんな所に言ったのかという話。
そして放課後。
私達はある場所へ向かった。
そう衣里の教室へ。
「イジメに関しても終止符を打たないとね」
「うん……で、でも出来るかな……」
大丈夫だよ、と彼は言って衣里の教室へ入っていく。
そこには独りで、今にも倒れてしまいそうな衣里の姿があった。
周りは私を見てヒソヒソ話を始めたり、何かを言いたそうに見てくる。
それでも私は、衣里が座っている席に近づいて行く。
そして、私は笑顔で言うんだ――
「衣里、私自分の気持ちを言えたよ」
その声は衣里に届いてこちらを見てくる。
何時もの様な、明るい顔ではなかったけれど。
嬉しそうに笑ってくれた。
そして彼は言った。
「知っていたなら言ってくれたっていいじゃないか、エリ」
「……こういうのは、私からより互いにね」
「え? え?」
親しげな2人の会話に私は困惑した。
オロオロとするような様子を見てか、2人は笑って。
「「私(俺)達、これでも親戚だからね」」
(えぇぇ~!)
人生3度目の心の中で叫んだ。
な、なんで言ってくれなかったの!?
言いたいことはいっぱいあったけど、あまりの驚きに声が出なかった。
衣里は先程までの力付きそうな顔じゃなく。
イキイキとした表情になっていた。
「それじゃ、エリ……」
「リョウ」
2人は悪い表情になって言った。
「「今までの仕返しを」」
凌斗さんもノリノリな所見ると、私の知らない一面かな?
とそんな能天気な考えしか出来なかった。
◆◆◆
あれから、3人で過ごすことが多くなった。
とある学校の休みの日、雑貨店に3人で来ていた。
馴染みのある雑貨店らしく、私がもらった栞もここの商品だとか。
「おばちゃん! お久しぶり!」
「あんた変わらないね! さっさと出ていき!」
キツイやり取りの様に見えるが、衣里にとってはジャレあっているだけ。
お婆ちゃんは抱きつかれながらも満更でも無い様な笑み。
私と凌斗さんの方を見る。
「彼女さんかい、リョウ……わかってるね」
「うん」
その日、買った物は――
長方形のシンプルな桜柄の栞。
3人お揃いで買った。
その後、3人で仲良く帰り。
途中で衣里と別れて、準備も出来ない内に凌斗さんの家に招かれた。
家に上がった時に、見たことのある親子が見たと思ったら。
公園で泣いていた女の子とそのお母さんだった。
4度目の心の中で叫ぶ事になったのは言うまでも無いけどね。
お読みいただいてありがとうございます。
どんな感想を抱きましたか?