22:部屋を片付けるのって結構面倒
『その人が信用できるかどうかは、その言葉ではなくそれまでの行動で決まる』
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行きはみんなと一緒だった道を、ユウは一人で戻っていた。
はしごを降り、暗い一本道を抜け、地下水道の中を進んでいく。
(ターニングポイント。それが俺の能力か。)
残り回数は三回。
あと三回死ねばターニングポイントによる死に戻りは無くなり、その次が本当の意味での死となる。
(今までみたいに闇雲行ったらダメだ。死ぬとしても、もっと後につながるようにしないと。)
今までのような安易なリスクは犯せない。
その恐怖がユウに撤退を決意させた。
(ステラ達がゴーストロッドの破壊に成功してくれればそれでよし、ダメなら死ぬ前にできるだけ情報を集めるんだ。)
行動としてはステラ達を見捨てたことになる。
ユウは罪の意識で今来た道を戻りたい衝動に駆られた。
後ろ髪を引かれる思いと言うのはきっとこういうことなのだろう。
「……あれ?」
(どこから降りてきたんだっけ?)
ユウの言葉が地下水道に響く。
所々に上へと続く梯子があるので、地上に出ようと思えば出ることは可能だ。
だが似たような構造がずっと続いていて、来るときにどこから降りてきたのかがわからなかった。
(しょうがない、適当なところから出よう。)
ユウは目に入った梯子に手を掛けると、出来るだけ物音を立てないように昇っていった。
途中で少し休むついでに、手についた汚れを確認する。
(はしごに塵が積もってる……。降りてきたのはここからじゃないな。)
はしごを一番上まで昇ると、マンホールを静かに開いた。
「……ふう。」
穴から外に出て一息つく。
そして顔を上げると目の前に人影があった。
硬直するユウ。
(やべ……、どうしよう。)
暗くてよくわからないが、月明かりに照らされたシルエットから推測するにおそらくは女。
ここで大声でも上げられたら終わりだ。
どうしたらいいものかとその場に佇む。
「あら、こんな時間まで働いてたの? ごくろうさまね」
暗闇の中から聞こえてきた声。
それはユウにも聞き覚えがある声だった。
「……なんだリリィか。」
ユウは拍子抜けして肩を落とした。
女の正体はリリィだった。
この調子なら大声で人を呼ばれる心配は杞憂に終わりそうだ。
「なんだって何よ……。私だったら悪いわけ?」
リリィがジト目でユウを睨む。
「いや、そうじゃないけどさ……。」
ユウは誤魔化すようにしてリリィの抱えていた紙袋に視線を移した。
「……仕事終わりでお腹空いてるわけ? 仕方ないわね……」
視線に気が付いて自分の紙袋を漁り始めた彼女を見ながら、確か彼女に対しては冒険者をしていると名乗っていたはずだとユウは思い出した。
先程の反応を見るに、お金に困って地下水道の掃除の仕事を夜遅くまでやっていたとかそんな感じに誤解されたのだろうと想像する。
「はい、あんたの好きなベーコンサンド。手はちゃんと洗ってから食べなさいよ?」
毎度のことではあるが、言うことが少しお母さんっぽい。
(俺を生んだ時に死んだらしいから母親とかはよく知らんけど。)
ユウは素直にお礼を言って薄紙に包まれたベーコンサンドを受け取った。
ついでにここが王都のどの辺りなのか聞いておこうと思って……、止まった。
「……あれ?」
疑問が頭をよぎる。
「……? どうしたのよ? 」
リリィもそんなユウの反応を見て首を傾げた。
「俺、ベーコンサンドが好きなんて言ったっけ?」
「……はい?」
「言ってない気がするんだけど。」
「何言ってるのよ。ちゃんと言ってたじゃない、アスクで会った時に私のハムサンド食べながら。ベーコンの方がいいって」
「それは言ったさ、確かに覚えてる。でも……、”俺はその後死んだ”はずなんだ。」
ユウはリリィの目を見た。
彼女もユウの言わんとしていることを理解して目を見開く。
しまったと言いそうな表情をしている。
「な、何、意味のわからないこと言ってるのよ? 疲れてるんじゃない?」
リリィは取り繕うも、焦りの色は隠しきれていない。
その様子を見てユウは確信を深めた。
彼女にハムサンドよりベーコンサンドの方がいいと言った後、ユウは死に戻りをしている。
つまり、その会話は無かったことになっているはずだ。
それにも関わらず彼女がそれを覚えているということはつまり――。
「リリィ、もしかして……、時間が戻ってるのを認識できてるのか?」
「……はぁ」
リリィは誤魔化そうとしかけて止めた。
視線を斜め上に向けて諦めの表情を浮かべている。
そして再び溜息をつきながら目を閉じた。
「……そうよ。全部覚えてるわ」
その声はどこか諦めたように投げやりだ。
全部覚えている、つまりこれまでのループを全て認識しているということだ。
思い返してみれば確かにそう思わせるようなやり取りがあった気がする。
「本当かよ……。」
ここにきてまさかの事実発覚に、ユウは言葉を詰まらせた。
同時にリア達によってその存在を否定された時間の巻き戻りの存在が、彼女によって肯定されたことになる。
「でも……、なんでわかるんだよ?」
高難度のはずの傷の完治やリアやステラ達が理論的に不可能と言っていた疲労回復をあっさりやってみせたりと、考えてみれば彼女の魔法の技量は相当に高いと言っていい水準にある。
実は伝説級の魔法使いだったりするのだろうかとユウは想像した。
「なんでって言われても……、わかるものはわかるとしか言えないわ」
「じゃあわかってて毎回同じサンドイッチ食ってたのかよ。どんだけサンドイッチ好きなんだよ、今だってサンドイッチだし。」
「……話がそっちにいくわけ? 別にいいでしょ、私が何食べたって」
ユウは自分が何回ループしたかと考えを巡らせた。
少なくとも十回は超えているはずだ。
その全てで彼女は同じ具のサンドイッチを食べていたというのか。
「……ありえねぇ。」
「うるさいわよ。元を正せばあんたが散々同じところを繰り返すからでしょうが。他に言うことはないわけ?」
「ああ……。サンドと回復ありがとう。」
「ばか」
「そんなー。」
言うことはないのかと言われたのでお礼を言ったのだが、そういうことではなかったらしい。
じゃあどういうことなのかとユウは首を捻った。
「あ、そうだ。困ってるんだ、助けてくれ。」
「軽いわね……。ここで立ち話もなんだし、せめてそこの公園に行きましょ。座るところぐらいはあるから」
そう言ってリリィはユウの背後を指差した。
「そこはリリィの部屋じゃないんだ。」
「なんであんたを私の部屋に入れなきゃならないのよ」
「え、そんなに汚いの?」
「……ちゃんと片付いてるわよ」
答えるまでに少し時間差があったのは気のせいだろうか。




